バアルと僕は薔薇庭園に来た。薔薇庭園にポツンと置かれているベンチに腰をかけた。僕は頭を悩ませていた。鍵は使用人室から持ち出されていないのに当主部屋に入ることが出来て、その上5人を鮮やかに殺して見せた。当主部屋に5人が居た時には使用人を含む全員が眠っていた。犯行を行える人間はたくさんいる。その誰もが犯行が不可能。これではいつまで経ってもこの謎を解けない。
「バアル、君はこの謎が解けているのかい?」
「クロノエル様がいつも言っていることを考慮すれば簡単に解けましたよ。」
「クロノエルがいつも言っていることっていうのを教えくれないかい?僕では見当もつかない。」
「それは感情を大切にしなさいです。クロノエル様は黒月と白金と感情の3つの魔女の称号を持っています。」
「感情を大切にしなさい」確かに優妃はよく言っていた。感情を読み取れれば人の行動が分かる。そんなことも言っていた。
「待てよ。感情を考慮して考えるなら、お祖父様が心を許すような人が犯人ってことになるんじゃ無いか。」
「源蔵さんが心を許すのは孫とカラスを身にまとった使用人だけです。これだけでもトリックのヒントは出てますよ。」
「分かった。これなら当主部屋に入ることが出来る。バアル、ヒントをくれてありがとう。」
「どういたしまして、お一つ言いたいことがあるのですがよろしいですか?」
「好きに言うといいよ。」
僕がそう言うとバアルは頭を下げて言った。
「私と契約していただきありがとうございます。あなたはこのゲームに勝つ意思が弱いので今からあなたが本気で戦えるように目的を与えます。」
「その目的って何だい?」
「うふふ。『私はあなたのことが好きです』悪魔であり、使用人の1人である私があなたを好きになってはいけませんか?」
突然の告白に僕は戸惑った。彼女の気持ちには答えてあげたい。でも、一体使用人のどの子なのだろうか?
「君は一体使用人の誰なんだい?」
「薫様は質問ばかりですね。私は使用人の美紅利です。使用人の中には最初から優妃様に仕えている者もいます。」
あぁ、なるほどそういうことか。だから彼女は僕をよく見つめていたのか。それなら納得できる。
「そうかい。美紅利、いやバアルとしての君に言いたい。僕は君を頼りにしていた。でも、君は片想いの人を助けるつもりで僕に手を貸していたんだよね。それなら、僕の一目惚れの初恋を君に捧げよう。美紅利の君も、バアルの君もどちらも愛する。だから一緒にクロノエルを倒そう。」
僕が彼女の告白に答えると、彼女は少し涙を浮かべながら笑顔で言った。
「ありがとうございます。2人の目的として一緒に帰りましょう。そして、ここから帰れたのなら一緒に暮らしましょう。」
「あぁ、約束するよ。絶対に僕達の幸せのために勝とう。」
その頃、魔女の喫茶室では。
「バアルと薫さんを一緒にしたのは間違いだったかな。」
「クロノエル様、そんなことはありませんよ。」
「クロノエル様に間違いなどあるはずがありません。」
私を手助けしてくれる莉亜と芽琉は、バアルより頭はキレる。密室を得意とする私と違って、莉亜はアリバイトリックを得意とし、芽琉は時間操作トリックを得意としている。3つを合わせればかなりの物になるが、穴だらけになるかもしれないという弱みもある。
「あっははは!大魔女がこのざまかよ!同じ黒月が3人揃ってこれ!マジでダメダメじゃねえかよ!」
私達は入り口を振り返った。そこには南野芽亜里が立っていた。
「何の用ですか。芽亜里、あなたは傍観者のはずですよ。口を出さないでください。」
「冷たいことを言うなよ。」
芽亜里の姿が変わり始めた。変身後の姿は魔女そのものだった。
「白月の魔女ホワイペルンである私が手を出しても問題ないでしょう。」
芽亜里が黒月の魔女と対になる白月の魔女を名乗った。白月の魔女は満月の夜に全力を出せる者である。あまりに目に魔力が溜まるせいで普段から目を閉じている。
「なんと、ホワイペルン卿であらせますか。先ほどまでの無礼を謝らせていただきたい。」
「謝る必要などありませんよ。それに私は確かに傍観者ですが、黒月と対になる白月ですので少し手助けをしたかっただけです。」
私はメアリ・ホワイペルンを疑った。彼女はここまで観ているだけで何もしてこなかった。それなのに突然手を貸すと言ってきた。どう考えても怪しい。
「使える一手でしたら使いますが、使いにくいものだったら使いません。それでもいいなら言ってください。」
「えぇ、言わせてもらうわ。あの2人はくっつけましょう。完全にくっつけば薫はバアルの言うことに従います。バアルはこちらの手を知っているのだから、知らない手を使えば2人とも混乱して撃沈します。」
「つまり、手駒の一つをわざと相手に取らせてそこから崩していく作戦ですね。」
「私達のやらない方法ですね。ホワイペルン卿はよくそんな方法を思いつきますね。」
確かにこのやり方は謎を大量に配置して特攻していくタイプの私達ならやらない一手だ。
「双子の優秀な魔女見習いにそこまで言っていただけて恐縮です。」
「使い時を間違えなければいい一手ですね。白月の魔女ホワイペルン卿、感謝いたします。」
「うふふ。傍観者として楽しませてもらいますね。」
これが通用すれば大きなダメージを2人に与えられる。私の手を知っているバアルに一泡吹かせることが出来るかもしれない。
「きゃふふふ。上手く倒してやるわ。待っていなさい、バアル、薫。魔女を退屈させないでよね。」
突然結ばれたバアルと薫。2人を引き裂こうと考えていたクロノエルがやり方を変える。これに対応して薫は勝利できるのだろうか?