逃避の先で   作:横電池

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バルバレ編
こことは違う場所へ


 異世界転生、異世界転移。

 

 字面は似ているけどもこの二つは明確に違う。

 

 転生は死後、異世界へ生まれ変わること。

 

 転移は死なず、異世界へ移動すること。

 

 まあ、どちらも異世界へ行くことには変わりはない。

 

 正直どちらであろうと憧れである。異世界だもの。現実より夢溢れるもの。

 

 しかし、どれだけ憧れようと、実際には異世界へ行けるわけじゃない。夢を見てトラックに轢かれるなんてオレにはできない。怖いし。絶対無理だし。いや、ものすごく少ない可能性で異世界いきになるかもだけど。リスク大きすぎるし怖い。

 

 だが、準備だけはしておきたい。万が一でも異世界へ行けた時、思う存分活躍できるように。

 

 転生は今のオレが完全リセットのようなものだ。だが転移は違う。

 なので、いつ転移してもいいように、筋トレだけは欠かさずにやることにした。

 1日腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワットを各10回だ。

 これくらいで限界なのだ。これ以上やると絶対続かない。

 

 もちろん情報収集も欠かさない。

 

 いつだって異世界ものの小説を読んで、異世界での行動をシミュレートする。

 

 ここで注意しておきたいのは、なんでも鵜呑みにしないということだ。

 数多の異世界情報があるが、その何割かは嘘八百のはずだ。なので情報の見極めも大事だ。

 

 オレのにらみでは、異世界に行ってハーレムな話は嘘だ。転生でハーレムならあり得るが、転移でハーレムはない。万が一、実際あったとしても、オレでは無理だろう。ハーレムできるなら今だってラブラブな彼女がいるわ。異世界行きの準備なんてしねぇわ。

 

 なのでハーレムは除外検索である。

 

 しかし目ぼしいのは粗方読み終えてしまった。

 個人的には赤髪のヒロインが好きだ。登場キャラ全員赤髪ヒロインならハーレムものも読んでみたい。

 

 今回の異世界情報収集もいい収穫はなかった。

 

 普通ならもう異世界行きの想いは断念するだろう。だがオレは違う。

 

 異世界転生、転移以外にももう一つジャンルがあるのだ。

 

 

 

 憑依、だ。

 

 

 原作キャラに憑依するお話があるのだ。ぶっちゃけ悪霊だよねこれ、と思う。

 

 漫画や小説のキャラとはいえ、そこに人格があるのだから、それを乗っ取るのは罪悪感にまみれる。そんな正義の味方、善人な考えの持ち主。それがオレだ。

 

 そして憑依も転生と同じで今のオレリセットのようなものだ。準備できることは少ない。しかし、漫画や小説だけではない。憑依は。

 

 ゲームのキャラに憑依するお話だってあるのだ。

 

 この場合の定番なのはMMOとかの自分のプレイヤーキャラである。

 

 自分のキャラなら元の人格を乗っ取る、なんてことはないだろう。チャットで喋るのオレだし、NPCとは『はい』『いいえ』しか喋らない無個性状態だし。

 

 なのでゲームキャラへの憑依の準備もオレはするのだ。

 

 ここで準備なく初期レベルのキャラに憑依なんてしてみろ。死ぬわ。

 

 というわけで、好きな世界観のゲームの自キャラを全力で強化する。モンスターがいる世界だろうと、レベルを上げ、所持金を稼いでる状態なら、そうそう死ぬことはなくなるだろう。憑依したら高レベル狩場なんて行こうと思わないし。

 

 ちなみにイケメンキャラと美女キャラである。ネタキャラなど作らない。男女どっちも作ったのはまああれだ。TSもいいよね。百合っていいよね。

 

 まぁこの準備も今じゃ粗方やりつくした。すでにPC画面のキャラのレベルはカンストだ。所持金稼ぎのためだけに今はちょこちょこクエストをこなしているだけだ。

 

 

 ぶっちゃけこのゲームに飽き気味でもある。

 

 今日の憑依準備もここまでにしよう。

 

 

 最後に携帯ゲーム機で遊ぼう。情報収集ばかりで脳がつかれた。たまには純粋にゲームを楽しみたい。

 

 3DSにはモンハン4が入っている。4Gは極限化もだけど徹底的な隙潰しについていけなくなった。なのでオレの中では4が最後のモンハンだ。今はXXやワールドなんて出てるみたいだけど、いましばらくは4で満足だ。

 

 とはいえ、未だに4をやってる奴はかなり少数だろう。当時のフレンドもほとんどやめたか、XXやワールドに夢中だ。

 野良を探す気にもなれない。

 

 メインキャラでほしい素材はもうほぼないし、初心に帰って新キャラでも作ってみようかな。

 

 キャラクタースロットは3つあるけど2つは空きのままだ。セカンドキャラを作って新鮮さを味わうのもいいかもしれない。

 

 セカンドキャラはメインとは違う性別を選ぶ。

 メインキャラは女キャラだ。

 だってほら、装備とか可愛いじゃないか。上位のジンオウ装備とか最高じゃないか。犬耳だよ。

 

 そういえば4Gに挫折した理由にG級ジンオウ装備のデザインに失望したという気持ちが大きかったことを思いだす。あのデザインは許さんぞ。

 

 とにかくセカンドキャラだ。男キャラだ。

 

 顔つきも肌の色もボイスも直感というか、なんとなくの好みで決めれるが、名前は結構悩む。

 

 おそらく滅多に野良はしないだろうし、思い切ってネタネームでもいこうか。ゲーム中でも名前を呼ばれることは滅多にないし。

 ちなみにメインの子は『アカリ』という名前だ。可愛さを追求したかった。

 

 ここは真逆なネームにしよう。

 

 アカリの反対……暗い。

 

 『クライ』にしよう。

 

 意外にいい感じの名前じゃないだろうか。ちょっとかっこよすぎたかもしれない。自分のセンスにほれぼれしてしまう。

 

 そのまま他の項目も選んでいく。インナーとかぶっちゃけどうでもよくね? と思わなくもない。

 

 しかし眠い。

 

 このキャラ作成後のダレン・モーランイベント終わったらもう寝よう。

 

 ローディング画面を見ながら眠気と戦う。

 

 今のオレ、敵の催眠術に抵抗してる感じだな。これも異世界行きの訓練だ。そう思うとまだまだやれそうだ。

 

 でも3DSの蓋は閉じよう。戦うのに邪魔だ。ダレンイベントも今度でいいや。電気も消そう。戦いは闇の中で行うのだ。布団あったかい。

 

 戦いの結末も闇の中なのだ。

 

 クライを作ったから暗い闇の中でだ。ふふ。

 しょうもな―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外がうるさい。

 

 気づけば寝ていたようだ。何してたっけ俺。

 

 目を閉じながら思いだす。ああ、そうだ。催眠術を使う敵と戦う訓練をしていたのだ。精神力を鍛えるために。

 

 これはあれだな。引き分けという結果だな。

 

 とりあえず起きるとするか。また今日も普通な一日が始まる。いつになれば異世界転移できるのだろうか。

 

「……どこだここ」

 

 赤系統のカーペットにたくさんのハンモック、そして俺の寝ていた大きなベッド。やたら盛り上がってる隣の毛布。謎の宝箱。ドラクエとかの馬車の荷車っぽい天井。

 

 これはまさか―――

 

 

 

「ねんがんの てんい ができたぞー!!」

「うるさい!!!!」

 

 

 喜びの雄たけびをあげたとたんに隣から怒声と衝撃が襲った。

 

 その勢いでベッドから落とされる。超痛い。痛いということは夢じゃないようだ。

 痛いのに嬉しいぞおい。

 

「突然大声だしてどうしたのさ? 寝惚けてるの?」

 

 俺をベッドから落としたやつが聞いてきた。

 

 いかんいかん。嬉しさで頭の中真っ白になっていた。落ち着いて行動だ。今までのシミュレートを無駄にしないためにも。

 

 第一異世界人との邂逅なのだ。

 第一印象はバッチリ決めたい。

 

 まず自己紹介だ。自分の名前と、ここがどこかを聞くのだ。この辺は考えずに動いていいだろう。定番のパターンとしては、おそらくここは旅人の馬車の中で、俺は倒れてるところを拾われたってパターンだろう。もしくはなんか召喚してたら俺が出てきたとか。

 

 どちらのパターンであっても正直に話す。考えるべきはその後、今後の身の振り方である。

 

 いくら筋トレしてきたとはいえ、どこまで通用するかわからない。この世界の危険度によっては隅っこの方でじっとするのもやむなしだ。まあ、相手から見たら俺は行き倒れの人間、もしくは召喚に巻き込まれた被害者、という立場だろう。危険な場へ連れていくとかはないはずだ。

 

「おーい、聞いてる? 聞こえてますかー!」

 

 あれ?

 

 なんか俺の腕、太くね? なんか違和感。

 筋トレの成果が一気に出たのだろうか。それとも転移と思ったが実は転生だった? だとしたら赤ちゃんスタートじゃないの? 転移だけども、謎パワーで太くなった?

 

 それともひょっとして―――

 

「憑―――」

「そぉい!」

「いったぁ!?」

「あ、ごめん。急に顔をあげるとは思わなくて。まさか鼻に当たるとは……」

 

 女が何か言っているけど超痛い。何今の。めっちゃ痛いんだけど。っていうかこの女の恰好なに。なんだよその手。爪やっば。青というか緑というか、その色の服もなんだよ。ファンタジーすぎるだろ。しかも犬耳もついてるじゃないか。

 

「デコピンでそんな痛がらなくても……」

 

 その爪でデコピンとか完全に凶器だからやめろ。刺さりかねないからやめろ。

 

 っていうかこの女の姿、ひょっとして―――

 

「で、目覚めた? クライ?」

「え……」

 

 今クライって言った? 暗い? 喰らい? クライ?

 名前だとしたら―――

 

「あ、アカリ……?」

 

「そうだけど、まだ寝惚けてる?」

 

 

 その返事に確信する。

 憑依先が準備していたゲームでなく、遊びでやってたゲームで、さらにメインキャラでなく新キャラだった。

 

 

「なんで!! クライなんだよぉぉぉおあああああああああ!!!」

 

「はい!?」

 

「せめてアカリだろぉぉおおおおおおおおお!!!」

 

「な、なにが!?」

 

 

 

 思わず叫んでしまったが、冷静になるのだ俺。

 つまりこれは憑依。モンハン4の憑依。そして作りたてホヤホヤのキャラへの憑依だ。

 

 いや、なんでだよ。今まで準備してきたMMOゲームだろ普通。最低でもメインキャラだろ普通。

 

 モンハンということはここはキャラバンか。我らの団のキャラバンか。そう思うと確かにそうだ。ということは俺が我らの団のハンターか。

 

 ん? なんでアカリいるの?

 

 普通1キャラだけだろ。あれ? なんで?

 

「アカリ」

「な、なに?」

「なんでいるの?」

「あぁ!?」

 

 考えなしに尋ねてしまった。

 

 お腹が痛い。腹パン超痛い。

 

「いつまでも寝惚け過ぎ! 起きたのならさっさと顔を洗ってこい!」

 

 そう言い残して、アカリはキャラバンの外へ行った。

 後姿もやっぱりあれだ。どう見てもジンオウ防具だ。やっぱりモンハン4だ。

 

 自分の姿を見る。インナー姿である。防具つけてない。

 

「インナーピッチピチすぎない……?」

 

 そばにある宝箱はおそらくアイテムBOXなのだろう。装備も入ってるのだろう。

 そこから装備を取り出す、か?

 

 いや、あの中にはアカリの防具しかないのではないだろうか。

 

 仕方ない。インナーのまま外に出よう。防具なしなんて普通だろうきっと。

 

 

 キャラバンの外に出る。

 

 見える景色はバルバレだ。なんだかお祭りみたいな感じの飾りがいっぱいだ。

 

 まさかの準備不足キャラとはいえ、携帯ゲーム機とはいえ、異世界っちゃ異世界だ。歩く人の姿も見慣れぬ服装。ポポだろうか。やたらでかい動物。あれはアイルーだな。二足歩行の猫。

 見える景色の新鮮さで胸躍る。

 ゲームでは見慣れていても実際で見るのはやはり違うものだ。

 

 さて

 

 

 

 

 何したらいいんだ?

 

 

 

 

 

 我らの団ハンターはアカリいるじゃないか。俺なんでいるの? 俺の立ち位置なんなの?

 しかもアカリの防具普通に上位ジンオウだよ。確実にクリア後だよ。俺なんでいるの?

 モンハン4のストーリーも終わってるんじゃないの? 俺どうしたらいいの?

 

 いや、クリア後なのはいい。むしろ万歳だ。新キャラである俺が戦えるかと言われると怪しい。

 クリア後のクエストもアカリがいるならアカリがやるだろう。っていうかアカリはこの場合NPCになるの? いやプレイヤーキャラだよね? んんんん? 謎だ。

 

 いや、待てよ。

 

 アカリの中身も俺なのではないだろうか。

 

 こう、人格コピーで貼り付け的な。あんまりこういうパターンは読んでないから詳しくはないが、そういうのもあるって知っている。

 

 しかしどうやって確認しよう。

 俺にしかわからない質問をするか。んー。何があるかなあ。

 

「難しい顔してどうしたんだ? また痴話喧嘩でもしたのかァ?」

 

 悩んでいたら我らの団の団長さんが声をかけてきた。赤い帽子にダンディな顔つき。間違いない。っていうか痴話喧嘩って何。クライって新キャラなのにモテ設定でもあるの? 爆発案件?

 

「あー、いや。ちょっと寝惚けてて」

「ハッハッハ! それだけぐっすり眠れたってことか! 我らの団のキャラバンの寝心地を気にいったようだなァ!」

 

 団長に聞いてみようか。我らの団ハンターって誰だっけ、って。寝惚けているって体で聞いてみよう。

 

「ちょっとまだ頭が夢とごっちゃになってるんですけど、聞いていいです?」

「おぅ! なんだ? 二日酔いに効く民間療法とかなら俺が知りたいぞ?」

「いや、えっと……我らの団のハンターって誰、でしたっけ……?」

「んん?」

 

 何を言ってるんだこいつ、と言わんばかりの目だ。

 

「何を言ってるんだお前さん。我らの団ハンターは―――」

 

 願わくば俺、クライじゃありませんように。

 

「お前さんとアカリだろう?」

「二人とも、ですか」

「あァ、二人とも昨日に入団試験をクリアしたじゃないか。忘れるほど寝るとは大物になれるぞ! ハッハッハ!」

 

 昨日入団試験クリア?

 あるぇ? アカリいるのなら、ストーリークリア後じゃないの?

 

「アカリが上位ハンターだからといって、お前さんをおまけのようには考えてないぞ。お前さんも立派な我らの団ハンターだ!」

「あ、はい」

「ネコ太郎もお前さんを気にいってるみたいだしな! 自信を持て! お前さんならできるできる!」

 

 激励してもらったけども、微妙な気持ちだ。

 

「えと、次の目的地ってどこです?」

 

 なんとか今ストーリーのどのあたりなのか知りたい。クリア後なのか前なのか。

 

「そう慌てるな。このバルバレであと仲間を二人見つけるまで出発は先だ。行先は、そうだなァ。秘密だ! ハッハッハ!」

 

 仲間を二人?

 コックと商人、だろうか。

 

 え、序盤じゃん。マジで序盤じゃないかこれ。

 

 いや、でも上位ハンターのアカリがいるなら大丈夫か。だけどその場合俺ニートだ。我らの団ニートハンターだ。肩身狭すぎてヤバイ。

 

 じゃあ俺もクエストに出るか。行けるか?

 しかしさっきのアカリのデコピンや腹パンは超痛かった。ゲーム中ならプレイヤーからの攻撃ってダメージないのに絶対あれはダメージあった。

 3乙でクエスト失敗とかじゃなくて1乙で死亡、という可能性がある。しかもオワタ式だよ。

 

 じゃあ我らの団から抜ける、か? 頼るあてもなく生きていける気がしない。今までのシミュレートでこんな展開はあまり覚えてないぞ。

 

 危険度の高いクエストをアカリに任せて俺は危険度の低いクエストを、しかないのではないか。っていうかそれが普通なはずだ。ちょっと、いや、かなり恰好つかないが。

 

「団長」

「おォ? まだ何か質問か?」

 

 先に宣言しておこう。上位ハンターと新人だし、言うまでもないかもしれないけど、一応念のため。

 

 

 

 

 

「俺、採取クエ専門のハンターでお願いします」

 

 

 採取しかしないハンターって狩人としてどうなんだろうね?

 

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