キャラバンのベッドに寝転がる。毛布はかぶらない。ナグリ村の次の場所に行くまでは風邪粘り大作戦だ。
しかしランサーの言葉、ハンターは風邪を引いてもすぐ治るってやべーなーって思ったけど。ゲーム中だと毒状態でもなんでも、状態異常はBCでちょっと眠れば完治してたなと思いだす。それが反映されたから、たいてい1日で治るって言ったのだろう。
なんというかこの世界の人は、いや、ハンターってのは病気知らずなのだろうか。
そして一応俺もハンターである。クライ君はハンターである。
そんなクライ君の風邪の理由は、匂いをとるための行水、からの寒空の下の睡眠。そして風邪のひき初めでしんどさを感じてるところに樹海探索。その後ケチャワチャに鼻水まみれ、からの行水。
そりゃ治らないわ。
抵抗力弱いというより重なりすぎだわ。
きっと今日このまま寝れば治る気がする。もちろん今は治す気はないが。
「あー……、働きたくないでござる……」
こう、ゴロゴロしながらこの言葉を言うと、胸がすぅっとするのは俺だけだろうか。
しかし何もせずに寝転がっていると、やっぱりだんだん眠くなってくる。
風邪の影響もあるだろうけど、訓練の影響もあるのだろう。よし、このまま意識を夢の世界へ飛ばすぞぅ。
そう決め込んだ時、キャラバンに誰かが入ってきた。
「クライ、大丈夫ー?」
アカリだ。
寝るぞと決めたタイミングで来るとは、間の悪いやつである。
寝たフリしとこうか、それとも返事を元気よく返すべきか。
少し悩んだがここは返事をしよう。ゲリョス狩りのことも団長から言われてるだろうが俺からも言っておいたほうがいいだろうし。
「だいじょうばないー」
「大丈夫じゃないならちゃんと寝なさい!」
じゃあ何故声をかけたし。
理不尽な言いようだと思うんだけど。この脳筋にも通じるような理路整然とした文句を考えていたら毛布をかけられた。
「なんで毛布も使わず寝てるのさ……」
「あー、テヘペロ」
やだこのひとこわい。ちょっとかわい子ぶってみたら握りこぶし作りだしたんですけど。
「はぁ……聞いたよ。しばらく身体を休めないとって……」
「風邪が長引いてな……。いやー残念だなー! 本当に残念だなー! ゲリョスをぼっこぼこにする姿見せたかったなあー!」
「昔から身体弱かったからねクライって……それなのにハンターになって英雄目指すとか宣言しちゃってて!」
―――ツッコミ期待して調子に乗った発言をしてみたのにスルーだと……?
あ、っていうかヤバイ。
この流れはダメだ―――
「普段はそうでもないのに、ストレスを感じたりしたらすぐ体調崩してたよね。変なところで繊細なのは変わってない感じ? 初めて村を出た時も―――」
「ア、アカリ……」
「なになに? 黒歴史は恥ずかしい?」
「オゲェォオロロロ……」
「うひゃあ!?」
「ウェッ……ウゲェ……」
キャラバン内でアカリの叫びと俺の嘔吐の音が発生。あと異臭も発生である。異臭問題である。ちょっと頭痛がする程度の風邪だと思ってたけどまさか嘔吐までいくとは。
これはゲリョスどころじゃないわ。俺がゲロスになってるんだもの。ふふ。しょうもな―――
「お水とってくる! あ、まだ戻しそうならこれ使って! 掃除とかいいから! 楽にしてて!」
エチケットな袋を渡し、キャラバンの外へ走っていった。たぶんもう出ないと思う。すごい今、楽だし。
それにしてもまさか盛大にゲロっちゃうとは。自分のメンタルの弱さを新発見だ。
っていうか俺の状況やばくね? キャラバンでこやしの臭い漂わせた次はゲロの臭いとか。また外で寝ることにならね? これ。
とりあえず臭い消せないかな……あ、消臭玉あるやん。こやしの時もそれ使えばよかったのでは……。後悔先に立たず、いや、今回は気づけただけよしだ。
あ、でも臭いの発生源たる嘔吐物掃除してからか。掃除しなくていいと言われてもなぁ……。雑巾さがそ。
「旦那、大丈夫ニャルか? お腹に優しいトクベツメニューを作ったニャルけど食べれるニャルか?」
料理長がおかゆを作ってきてくれた。
「大丈夫大丈夫。普通に全然食欲ありまくり。ゲーゲーしちゃったのはちょっとした不幸の重なりだから」
あれから掃除、というかベッドのシーツ交換してもらい、消臭玉を叩き付けまくったので臭いはもう大丈夫、なはず。ずっとここにいるからわからん。
それにしても料理長っておかゆとかも作れるんだ。なんか喋り方的に中華専門だと勝手に思ってたわ。
今度ステーキとか……いや、お寿司とか味噌汁とか作れないか聞いてみよかな。
「早く元気になるニャルよ。団長もそわそわするくらい心配してるニャル。オモテには出したりしないニャルが」
「まかせろぃ。ゲーゲーして悪い思考を追いだした気分なんだ。ちゃんと身体休めてさっさと超健康体になってハンター活動バンバンこなしたいからな」
「お、おぉ……旦那、やっぱり熱がきっとひどいニャル。小声で『働きたくないでござる』といつも呟いてた旦那がハンター活動を頑張るだニャんて……」
なんとひどい評価であろうか。
概ね正しい評価ではあるがひどいと思うのだ。
まぁ確かにきっと熱がひどいのかもしれない。気の迷いからこんなこと言っちゃっただけなのかもしれない。
でも少しはハンターとして活躍しなくては、と今は思ってしまう。
その理由はひどく後ろ向きだけど―――
「まぁいつだって心は働きたくないでござるだけども」
「あ、いつもの旦那ニャル。とにかく今は身体を治すことに専念するニャルよ」
「らじゃー。とりあえず元気になりそうなメニュー今度お願いしちゃう」
「任せるニャル。私は団の肝っ玉かあちゃんニャルからね」
随分と毛深いかあちゃんだわ。
下手したら俺よりはるかに剛毛かあちゃんだわ。
「そういやアカリはもうゲリョス狩りに行ったん?」
「そうニャルね。いつになく気合を入れて出発したニャルよ。早く終わらせて旦那の看病をきっとしたがってるニャル」
「そうかぁ……」
ゲリョス狩りに行ったのか。
今回のゲリョス狩りに行けないのはちょっと残念かもしれない。段階を踏んでハンターとして活躍しないと、命を落としちゃダメだ。
英雄には程遠くてもせめて少しはハンターとして名前をあげないと。たとえそれが自己満足だとしても、せめて―――
「―――那? 旦那? 飯が冷めるニャルよ? やっぱり食欲がないニャルか?」
「んえ、あ、ああ。大丈夫。ちょーっと考え事してただけ」
「ニャにか悩みがあるのなら聞くニャルよ。私は口が堅いニャルからね」
悩み相談ですか。しかし俺の悩みを料理長が、いや、毛深いかあちゃんに解決できるだろうか。
まぁ打ち明けてみるか。
「ん。実は俺、野菜嫌いなんだけど野菜嫌いな大人ってどう思う?」
「子供っぽいニャル」
「いや、でも俺コーヒー好きなんだよ。コーヒー好きって大人っぽくない? あ、ミルク入ってるやつね」
「子供っぽいニャル」
嘘でもいいから大人っぽいって言ってほしかった。
ちなみにおかゆはこう……優しい味がしました。
食レポで優しい味ってたいていは苦い味って意味に感じるのは俺だけだろうか。ニラっぽいのやら入ってたもの。お肉を所望してます。
とにかく食べて、そして今度はちゃんと毛布をかぶり横になった。
ハンターとして少しは活躍しなくちゃという思いが、気の迷いなのかどうかわからないけど。とりあえず風邪は治そう、治す努力をしよう。
てーれれれてーれれー
ドラクエの宿屋の音楽を頭の中で再生して身体を起こす。
意外にこれ結構目覚めにいいと思う。こう、しょうもねーって気分になってついつい、ふふってなるのだ。
「うん、だいぶ楽になった気がする!」
「旦那さん起きたニャ? 一番最初に寝て一番最後に起きたニャ」
「じゃあ結構寝ちゃった感じか。まぁおかげで身体がだいぶ楽だわ」
起きたら隣にネコ太郎である。
それにしても、ネコ太郎だけじゃなくアカリとか、他のハンターもだけど。
なんで狩場じゃなくても防具がっちし着こんでるんだろう。
寝にくくないのかね。俺はブレイブ装備脱いでます。もちろんクンチュウアームもな!
「もう体調は大丈夫ニャのかニャ?」
「んー、昨日よりははるかに、かなあ。もう今日は狩りに出れちゃいそうだわいっそ何か行こうかなクエストあればだけど」
「ほぉ! もう元気になったか! 心配したぞ我らの団ハンターよ!」
急に大声出しながら入るのやめてくれない団長?
「随分とやる気なのは構わんが、スマンが今日もクエストは休みだ」
「ニャ!? 珍しく旦那さんがやる気なのにもったいないニャ……」
「なぁに、明日からはクエストをしてもらうことになるさ! まァまだ明日の予定はわからんがな! はっは!」
「旦那さんのやる気が明日まで続くわけないニャ……」
団の中で俺のイメージって結構やる気なしな姿で広まってるんすね。正しいけど、なんかこう、気づきたくなかったなぁ……。
「これはネコ太郎の信頼にこたえて明日はやる気なくなりそう」
「責任転嫁だニャ……あとボクの名前はネコ太郎でなく、白昼の―――」
「でもクエストないって珍しい気がするんすけど、もうこの村の問題解決しちゃった感じ?」
アカリさんまだ2回しかここでクエスト出てなくない? こんなあっさりだっけ。
「アカリが戻ってきたらきっと解決だ。地底洞窟にネルスキュラがいてな、その狩猟に今行ってるぞ」
「あれ? ゲリョスは?」
「お前さんが寝てる間に終わらせてきたぞ! もう船の材料もそろった。だからアカリが戻ってきたらみんなで組み立て作業の手伝いだ!」
「あ、俺、風邪完治目指すため寝ますね」
「いつもの旦那さんだニャ……」
しゃーない。ハンターっぽいことしようと心機一転したら船大工求めてます状態だとこうなるよ。
「まァ今回はそうした方がよさそうだな! 無茶させるわけにもいかないからな!」
まあまあ。まあまあ。とか言われるかと思ったらオッケーだと。
「ていうか船作るってことはもうナグリ村出発する感じですよね」
「あァ。船旅のための食料もちゃんと用意してあるぞ。やはり商人がいると仕入れが楽で助かるな! 専用の配達システムもあるようだぞ!」
「あー、あと、筆頭ハンターたちってまだ村に残ってます?」
「いや? お前さんが寝てる間に出発したよ。あいつらは今特殊任務中だからなァ。次会う時は、あいつらの任務も終わっているかなァ」
あー、うん。
船の上でゴア戦が近づいてきたか。
ゲームのころと変わらなければ、ナグリ村を船で出発したら、海上でゴアに襲われる。ゴア・マガラとそこから直接因縁が始まるのだ。戦闘終了後、ゴア・マガラは飛んでどっかいくんだよな。ゲームじゃ大事なイベントだが―――
船の上で逃がさず仕留めれないだろうか。
仕留めたら村ストーリー終わっちゃうじゃんって話だけども、我らの団ハンターが何故か二人いる状況だ。それくらいのイレギュラーがあってもいいだろう。
っていうかすでにイレギュラーだらけだし。絶対ゲーム中のキークエ全部やってないよ。改造データだよこれ。
まぁとにかく、俺は新人へっぽこハンターだけど、アカリという上位廃人ハンターがいるなら船の上で仕留めれるはずだきっと。
ゴア・マガラのギルクエだってひたすらやったからな。ハメは苦手なのでガチばかりだ。
だからアカリのゴア狩猟数は軽く3桁行くはずだ。
あ、でもどうなんだろう。ゴアってこの段階じゃ未知のモンスターなんだよな。なのに狩猟数3桁っておかしくね? お話し的にゴア狩猟数0じゃね?
あー、まぁ0でもアカリに頼るのが今回は一番だろうし、やることは変わらない、か?
邪魔にならないように、サポートできればいいんだけど……うーむ。
とりあえずウチケシの実はしっかり用意しとこ。
「おっと、忘れるとこだった。お前さんが起きてたら呼んできてほしいと言われていたんだった」
「んえ? なんすか?」
「用件までは聞いてなかったなァ。まぁ行けばわかるんじゃないか? 相棒のとこへ行ってやれ」
「あ、はい」
相棒ってことはアニキのとこか。
アニキにもし船作り手伝ってくれって言われたら断れないなぁ。アニキだしなぁ。
でもアニキが病み上がりに船作りの手伝いを頼むイメージがない。やさしさと男気があふれるアニキだもの。
「体調は……大丈夫か……?」
「大丈夫……もう元気……」
アカリ、団長、お嬢、商人等のうるさい系と比べてアニキとの空気は落ち着きがあっていいものだ。落ち着き過ぎてもうトーンダウンしまくりだけど。
「そうか……よかった……」
「何か用があるって……聞いたんだけど……」
「ああ……。お前の装備……そろそろ新しいのにした方がいいと思ってな……作ってみた……プレゼントだ……」
アニキ……
アニキィ……!
「いいんすか……アニキ……」
「ああ……気にいらなかったら……使わなくてもいいぞ……」
「大事に使います……使いますとも……!」
我らの団の最大の良心だよアニキ……もはやごつい天使だよ……
アニキが見繕ってくれた装備を受け取る。とうとうブレイブシリーズ&クンチュウアームとおさらばだ。心もとない防御力とおさらばだ。
「これは……」
ふむ。
見てもわからん。
特徴的な防具しか見た目なんて覚えてないわ。序盤装備だろうけど、なんだろこれ。鉱石系のやつだと思うけど。
「アロイシリーズだ……本当はもっといいものを作ってやりたかったが……素材がな……」
「充分ありがたいですアニキィ!」
「武器のほうは……作れなかった……わるいな……」
「気にしないでくだせぇアニキ……!!」
ゴア戦前にこれは嬉しい。
アニキは最高だ。俺がTSしてたらアニキに惚れてるところだったわ。危ない危ない。
おそらくもう使うことはないだろうブレイブシリーズ&クンチュウアームは保管しておくことにした。
ブレイブシリーズは歴代我らの団ハンターの装備らしいし、クンチュウアームはアニキに作ってもらった最初のプレゼントだしね。大事にとっておきたい。クンチュウで作っているとはいえ、だ。
アロイ装備を身に纏う。鉱石素材から作られただけあってブレイブより重いがあまり気にならない。
そして星紋の剣盾を装備する。
よし、ますます気合が入った。海上ゴア戦、何とかなる気がする。
あとは出発まで英気を養うのみ。
まぁつまり寝てくるんです。