逃避の先で   作:横電池

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迷子の村編
4人目の筆頭ハンターと


 嵐の海を超えると、そこは南国だった。

 まあ流されてついた場所、ゲームでの3つ目の村だけど。

 

 海錨とか言うので嵐を耐えようとしていたところ、ゴア襲撃、からのゴアと別船の激突、そのはずみで海錨のついてた部分が吹き飛んだだとか。

 そして沈まないように別船と、まぁ筆頭ハンターたちの船とてんやわんやと協力してこの島にたどり着いたのだ。偶然あった島、まぁゲームを知っている身としては予定通りの島である。

 

「ネコ太郎、ほれ、料理長特製の気付け薬」

「ニャ、ニャァ……」

 

 あの揺れには相当参ったのだろう。俺は未だにブルーなネコ太郎の介助をしていた。

 

「しばらくこの船動けそうにないってよ。良かったな!」

「少しだけ、安心だニャ……でもそれはそれでどうかと思うニャ……」

 

 まぁ強制的にこの島に滞在となる。つまり旅は一時中断だ。

 

「旦那さんは大丈夫ニャ……?」

「俺? 俺は乗り物酔いとかはないからなぁ」

「それもあるけど、風邪はもう大丈夫ニャ? 雨の中モンスターが襲ってきて、対応してたみたいだし心配なんだニャ……」

「あー。それがどういうわけか今はすごい元気。完治したっぽい」

 

 本当に今は全然元気である。

 全くしんどくない。むしろハイテンションになっちゃいそう。こう、今すぐにでも狩りにでたい、という気持ちが沸いているのだ。これはクライ君ハンター生活始まったわ。

 もう気持ちがすごい上昇志向だわ。

 

「あとでなんかいい感じのクエストあったら一緒に行くか!」

「旦那さん熱でまたまた変になっちゃったのニャ……」

 

 よーし待ってろ。今からイカダでも作ってお前を乗せて苦しめてやる。

 

 

 

 

 

 

「クライ……団長が呼んでたぞ……」

 

 ネコ太郎への嫌がらせのためのイカダ造りを頑張ろうと思った矢先にアニキに呼び止められた。

 

 団長が呼んでるとな。しかしなんだか行きたくない。団長の所に今筆頭ハンターのリーダーさんいるからだ。

 こちらのことを嫌ってそうな相手のいる場所へ気軽に行けるほど図太くはなかなか成れない。

 

 というか俺を呼ぶ理由がわからん。俺行っても意味ないのでは?

 ボイコットしたい気持ちが沸き出てくるけど、そうしたら伝言をしたアニキに悪いからなぁ。

 

 よし、行くか。

 

 

 

 

 

「おぉ! ネコ太郎は大丈夫そうだったか? モンスターより乗り物酔いでやられるとは愉快なやつだよな! はっは!」

 

 気まずい場所では団長の元気溌剌な声に助けられるようだ。

 

「たぶんあとちょっとで完全復帰じゃないかなぁと。それより俺を呼んでたって聞いたんだけど、なんかあったの?」

「あァ、話があるそうだ」

 

 話があるって、つまりやっぱり筆頭さん方からですか。説教コースだろうか。

 

「まずは無事でなにより……。本題に入ろう。君が使っていた片手剣、こちらで預からせてほしい」

「ほぁ? 片手剣? なんでまた」

「……黒蝕竜ゴア・アガラ。それが船を襲ったモンスターの名だ。現在ギルドが総力をあげて調査中の危険な存在だ。君の片手剣には交戦のためか、やつの血や鱗粉が多く付着している状態だ。やつの出す鱗粉の調査のためにも、研究所で調べたいのだ」

「なるほどなるほど。別にいいっすよ」

「……いいのか? 使い慣れた武器ではないのか? それをそうも簡単に手放すなど……いや、すまない。協力に感謝する」

 

 何故一瞬怒られる空気になったのでしょうか。

 もうやだ。眉間にしわを寄せてる人やだ。

 

「しかしなんだって俺を襲ってきたんだろうなァ。謎のモンスターに狙われるとは、俺もまだまだ捨てたもんじゃないか? はっは!」

「書記官殿、やつは見境なく暴れ回ります。書記官殿だけを狙うというのは考えにくいことかと」

 

「いや、あいつ団長を執拗に狙ってたよ?」

 

 団長とリーダーの会話にアカリが混ざりだした。

 

「近くにいたからとかではないのか? やつは今まで無差別に暴れ回っていたのだ」

「何度も何度も団長を狙ってたよ? 私やクライには目もくれずに!」

「……書記官殿、何かやつに狙われるような心当たりなどありませんか」

 

 団長が狙われる心当たり、あのアイテムだけども黙っておく。

 あれは天空山に行くための大事なアイテムでもあるんだ。旅の手掛かりだ。シャガルマガラが天空山に来た時に、この団が同じく天空山にいる状態にするためには必要な手がかりだ。

 

「生憎思いつかんな……赤い服を見ると興奮するとかだったりしてな!」

「やつは目が見えないので、それはないと思われます」

「目が見えてない? そうなのか?」

「はい。やつに視覚や聴覚、嗅覚で相手の位置を探っているわけではないのです」

「それは本当なのか? かなり正確に位置を把握していたように見えたぞ?」

 

 筆頭ハンターの情報は団長には訝しげな話らしい。そりゃああれほど執拗に狙われて、目や耳などを頼らず襲ってきているだなんて信じがたいだろう。

 

「黒い鱗粉のようなもので相手の位置を把握しているんだと思われます」

「黒い鱗粉? 確かに船に乗りこんできたとき、黒い煙のようなものが漂ってたが、あれがそうなのか……」

 

 鱗粉で把握してるって今考えると結構とんでもない気がする。つまりゴアには死角からの奇襲なんてバレてしまうということになるのだ。正確に言えば死角がないのだ。

 ゴアとはまた何度か戦うことになる。死角のない強敵―――

 

 あ、大丈夫か。

 

 船の上でのアカリの活躍を見てる限り、大丈夫だわ。

 序盤の片手剣、しかも盾なしで無傷攻略だもの。廃人ですわ。そんな人がいるから大丈夫ですわ。

 

「黒い鱗粉を周囲に流し、鱗粉に触れてしまった相手を感知し襲う。おそらく書記官殿は鱗粉に―――」

「いやいや、待て待て。船に乗りこまれたときは確かに鱗粉が漂っていたが、その前は鱗粉なんてなかったぞ?」

「……鱗粉が漂っているところに船が入ってしまったというのは?」

「嵐になってから海錨をおろした。移動はせずにいたが、おろした場所では鱗粉らしきものはなかったぞ」

 

 リーダーが黙り込む。

 

「初撃から団長を明確に狙ってたよ。鱗粉を撒いてからじゃなかった……」

「……書記官殿、申し訳ないですが、襲われたときの服装や持ち物を再現してもらえませんか。何かがわかるというわけではありませんが」

 

 その言葉を聞いて団長は指笛を吹きだした。鳥くんが飛んできて団長の肩に乗る。

 

 お利口さんですね。可愛い。

 

「これで再現終了だ!」

 

 お手軽ぅ!

 

「まさか本当に赤色……? いや、やつに視力はない……持ち物を見せてもらっても?」

「あァ! いいぞ!」

 

 そういって団長は荷物を地面に広げる。

 望遠鏡、財布、おやつ、保存食っぽいやつ、鳥のおやつ、羽ペン、羊皮紙、バッジ、いろいろと出てくる出てくる。さすがに酒はなかった。あると思ったのに。

 

「ゴア・マガラが反応するものでもあるかと思いましたが、どれも違いそうですね……」

「あっと、あとコレだなコレ」

 

 団長が帽子からあのアイテムを取り出す。

 

 だからなんで帽子に収納してるんだろうか。もしゴアの襲撃が防げなかったらお前さん首から上を奪われてたかもしれないんだぞう。想像したらグロかった。こわ。

 

「白い、鱗ですか?」

「あァ、俺たちの旅の目的だ。狙われる理由がありそうなのは正直これくらいしか思いつかんが……この鱗の持ち主はやつの天敵か何かなのかなァ」

「見たことのない鱗ですね……すみませんが、こちらも預からせてもらってもいいでしょうか」

 

 え? そんな流れあったっけ。団長の手元からその鱗が手放されるのって村終わってからじゃないっけ。あれ?

 

「ウゥム……調べ終わったら返してくれよ? あと何かわかれば俺たちにも教えてほしい。それが条件だ」

「わかりました。必ずお伝えします」

 

 あれ? なんか知らない展開だ。え、これ天空山行けるの?

 

「我々は一度バルバレギルドへ戻ります。書記官殿はどうされますか? その船では今はまだ、出航は無理でしょうし一緒にバルバレまで戻りますか?」

「いや、俺たちはこの島でしばらく滞在しよう。しばらくしてから一度バルバレかナグリ村へ行こうと思う」

「わかりました。もし再びゴア・マガラと遭遇しても手を出さないようにお願いします。あれは我々の獲物です」

「はっは! 降りかかる火の粉は払わないといかんからなんとも言えんな!」

 

 まーじで白い鱗渡しちゃったよ。

 まぁこれでゲームにはなかったゴアに襲われるというアクシデントの可能性は減ったけど。

 

 とりあえず話は終わりだろう。ルーキーやランサーがいるし、そっちと軽く会話しに行こうかなと思っていたらリーダーが俺のほうへ近づいた。

 やだ、まだ眉間にしわが寄ってるこの人。

 

「今後もキャラバンの皆と、書記官殿をお守りするんだ。しっかりしないと、私が許さん!」

 

 君もだからな、とアカリのほうに向きなおりながら言っちゃうリーダー。

 今後『も』なあたり、今回ちゃんと守れたとみなしてくれたのだろうか。これが噂に聞くツンデレ枠か。地味な認めっぷりである。

 

 そしてリーダーは、ランサーとルーキーの元へ行った。

 

 

 うーん、今ランサーたちのもとに行くのってすごい気まずいよなぁ。

 

 そういえば、筆頭ハンターは4人組だ。あとひとり、つまりガンナーの彼女とまだ話したことがない。

 この機会に話してみようか。まぁ話すことなんて思いつかないけど。

 

「なんていうか、気難しそうな人だよね……眉間にしわ寄りまくりだし……」

「そうだなー。怒りっぽい雰囲気がこうなー」

 

 アカリの言葉に相槌を打ちつつ、お目当てのガンナーを探す。どっかに居ると思うんだけどなぁ。

 

「誰か探してるの?」

「おー、露出の激しい筆頭女ハンターをちょっと―――」

「ズェア!!」

「はくぅ!?」

 

 額痛い……。めちゃ痛い……。

 額にチョップしてきたこの人こわい。掛け声が強化されてるんだけど、怖い。

 

「何考えてんだか!」

「ただ特徴をあげただけだし!? 別にやらしーこと考えてたわけじゃねーから!?」

 

 他に特徴思いつかないんだよあの人。ガンナー、筆頭ハンター。あとは? って聞かれたらもう露出ある人ってしか出てこないんだよ俺は!

 

「じゃあなんで探してたのさ!」

「なんとなくだよ! 強いて言うなら意味深なことを連呼しそうだからちょっと話してみたいって思っただけだよ! 露出激しくて意味深発言過多だぞ!? キャラ強そうなのに影薄い露出の人だぞ!? 探したくなるだろ!?」

「ただ露出している人を見たいだけなんじゃないの!?」

 

 

 

「あの……そんなにこの格好、露出ひどいかしら……」

 

 言い争っている最中に第三者の声が聞こえ、二人そちらの方を向くと

 

「脇ー!」「太ももー!」

 

 あとお腹を露出させてるハンターがいた。

 

 うん、言うほど露出してないわ。けど露出してるわ。脇ってか肩と腹と太ももだわ。

 うん、あと俺とアカリが意味不明な叫びをあげて本当にごめんね? だから一歩後ろに下がるとかいうリアクションやめてね?

 

「あ、初めましてクライです。こっちの太もも発言のやべーやつはアカリって言います」

「あ?」

「ごめんなさい」

 

 凄みがあって怖いよアカリさん。

 

「よ、よろしくね」

 

 なんだか筆頭ガンナーから俺たちは変人認定を受けた。そう確信してしまうリアクションである。

 

「……」

「……」

「……」

 

 うむ、気まずい。

 

 会話が始まらない。話題が見つからない。こうなったら何か変なこと言って、相手からツッコミを引きだしてみるか。そこから始まる会話劇があるかもしれない。

 

「お腹とか肩だしはともかく、太もも出すのはいいと思う」

 

 おおっと。

 

 

 今の発言アカリさんです。こいつとんでもねーな。

 あとちょっと遅かったら俺がその発言してたわ。客観的に見てその発言はねーわ。

 

 

「あ、ありがとう……?」

 

 

 再び戻る沈黙の間。

 おいどうすんだよこの空気……

 

 

「あ、あなたたちはこの村に残るみたいね。この辺のモンスターは少し手強いかもしれないから、注意するのよ……?」

 

 と言うわけで話はおしまいだから、私はここから離れるからね。というような声も聞こえた気がした。

 

 実際そんなニュアンスだったのだろう。足早に離れていった。

 

 

「アカリ、あの発言はねーわ」

「うっさい……」

 

 

 

 

 そして、筆頭ハンターたちはこの村、チコ村から出発した。

 

 団長の持っていた白い鱗と、ゴア・マガラの血液と鱗粉がついた片手剣を持って。

 

 ガンナーの彼女の中の俺たちは変人だという誤解を解けないまま―――

 

 

 彼らを見送った後、唐突にしんどくなった。

 変人認定を、この身体はいやがっているのだろうか。俺も嫌だよ。

 

 

「あ、そうだ。この村の村長さんに挨拶しにいこう!」

「そうだなー。さっきのことは忘れて挨拶しに行こうか」

「おー!」

 

 

 変人認定は忘れよう。

 

 そう思ったとたん、身体がまた元気になった。なにこの身体、単純すぎない?

 

 

 

 

 


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