逃避の先で   作:横電池

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ふてぶてしい桃色の獣

 遺跡平原。

 

 この場所に来るのはもう四度目だ。

 

 正直な所、嫌な思い出しかない。

 

 一回目はクンチュウとかいう糞虫に……糞虫に……

 思いだすだけでもおぞましい―――!

 

 二回目はドスジャギィとアルセルタス。

 釣りを楽しんでいたら必死の逃走劇だった。最後は無我夢中で漁夫の利を得たが。

 

 三回目はケチャワチャの狩猟に。

 アカリは、ハンターはシステムという役割だと割り切れと言っていた。

 だがそれだけではとても武器を使える気がしなくて、必死に自分にもう1つ追加で言い聞かせた。

 

 目の前の生き物は、ゲームでプログラミングされたモノ、システムなのだと。

 そう言い聞かせて最後の片手剣を刺すことができた。

 

 今回もそう自分に言い聞かせよう。

 

「というわけでネコ太郎……」

 

 システムだ。システムなのだ。やつらはプログラムされた存在なのだ。そうなのだ。

 

 

 

「グェェ……ゲェェ……」

 

「今俺、かっこつけてモノローグ考えてるからさ、ゲロるのはもうちょっと離れてやってほしかったんだけど……」

 

 

 平原の風に当たりながらシリアスってたのに途中から風にゲロの香りが混ざるのだ。

 

 スッキリするまでBCにいればいいのに。何故フラフラなまま着いてきてしまったのか。

 

「ボ、ボクは筆頭オトモなのニャ……この程度……、あとボクの名前はネコ太郎ではなくマスク・ザ―――」

「とりあえずノラアイルーの寄り合い所とやらに向かおうか。管理人さんから渡された地図雑すぎて何とも言えないけど、サシミウオが取れる場所って前釣りしにいった場所かな」

 

 へんじがない。ただの乗り物酔いネコのようだ。

 

 これは今回ソロかな。初の完全ソロかな。

 

 ソロデビューがこの武器のデビューでもあるとは。

 

 背中に装備している巨大な武器。心強い反面不安な要素である。

 今回の武器はもちろん片手剣ではない。そして大剣でもない。

 

 槍と大砲の性能を併せ持つロマン武器。ガンランスである。その名も、討伐隊正式銃槍。

 

 まぁ厳密には大砲みたいに砲弾を飛ばすわけじゃないけども。

 火薬の炸裂で爆炎を吹き出すのだけど。やろうと思えば大砲の真似もできるのでは? まぁそんな弾を入れる場所ないけども。

 

 ちなみにバルバレから遺跡平原への出発寸前まで悩んだ。大剣かガンランスかの二択で。

 ハンマーと片手剣はアニキの元、もといイサナ船に残している状態だ。

 

 とにかく討伐隊正式銃槍だ。刃の部分をうまく使って敵を突き、斬り、硬ければ爆炎を、隙があれば特大な爆炎を、だ。

 そして敵の攻撃はこの巨大な盾が防いでくれる。ババコンガの爪も長いのだ。結構長いのだ。

 その爪をこの硬い盾で受け止めれば、ダメージを負うのは奴ではなかろうか。

 

 心の中で今回の武器であるガンランスによる作戦を思い浮かべてみたがこんな感じだ。作戦と言うほどのものではないかもしれないが、その分単純でわかりやすい。そのはずだ。

 

 

「ネコ太郎ー? まだ気分悪いかー?」

 

「ウプ……もうちょっと、ここで風に当たりながら休憩しとくニャ……。すぐに良くなるから、先行っててニャ……」

 

 

 ギルドの船とポポ車の連続は厳しすぎたかこいつには。

 

 まぁ先に行っちゃおう。

 

 そしてネコ太郎が追いつく前に、勝負を決めてやろうではないか。

 

 特性のアイテムが今回はあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノラアイルーの寄り合い所という場所に到着した。

 

 ここに来るまでにババコンガとは遭遇しなかった。アイルーたちともだ。

 

 寄り合い所には謎の猫地蔵がある。だがアイルーたちの姿は見えない。ババコンガもいない。

 

 来るのが遅すぎたのだろうか。ぽかぽか島に矢文が届いてからかなり時間は立っている。

 

「ハ、ハンターかニャ?」

 

 大声で呼びかけをしようとしたら、猫地蔵の上のほうにある窪みからアイルーが3匹、顔をのぞかせてきた。

 

「おうともさ。ババコンガの狩猟に来たんだけど」

「あいつをやっつけれるのニャ?」

「ああ、そのために秘密兵器を用意してきたからな」

 

 秘策を用意してきたのだ。

 っていうかチコ村を守るために募集かけられたオトモアイルーなんだよな君たち。

 ババコンガにやられるってどうなのだろう。あの村の周囲って原生林なんだし、ババコンガ以上にやばいのがいっぱいだと思うんだが。

 

「秘密兵器ニャ!?」「すごいニャ!」「これは期待できるニャ!」

 

 そうとも期待するがいい。

 ちなみにフラグなどになりはせんよ。なんたって保険も掛けてある。二重三重の策があるのだ。

 

 それより一応聞いておこう。優秀なノラアイルーなのかどうか。人違い、もといネコ違いだったらババコンガ狩猟後、遺跡平原を探し回らないといけないかもだから。

 

「ところで君ら、優秀なノラアイルーってことでいいのか?」

「そうだニャ!」

「ババコンガには負ける優秀なノラアイルーとは……」

 

 まぁニャンターとやらではない限り厳しいのかもしれない。そもそもサイズ的に厳しすぎるだろう。

 

「僕らはタクミな連携で戦うノラアイルーなんだニャ……」

「けどあのババコンガには相性が悪かったニャ……」

 

 まさか何か特殊な個体なのだろうか。

 ババコンガの特殊個体なんて話は聞いたことがない。亜種とかだろうか。それか狂竜化した個体なのか。

 

「ワレワレは互いに声を掛け合って連携を取ってたんだニャ……だけどあいつには……」

 

 悔しさを耐えるように震えながら言うアイルーたち。

 しかしその言葉の続きは語られなかった。

 

「は、ハンターさん! うしろ、うしろにいるニャ!」

「ぼ、僕らはここで応援してるニャ!」

「終わったら教えてニャ!」

 

 そう言ってアイルーたちは引っ込んでしまった。

 

 後ろにいるということは―――

 前へ走って距離を取り、Uターンを決めると、そこにはババコンガがいた。特に何か攻撃を仕掛けてきてたわけではないようだ。

 

 

 ババコンガ。

 桃毛獣とか言う呼び名の、牙獣種モンスター。

 桃色の毛並みのゴリラだ。尻尾のあるゴリラだ。そういやゴリラとサルの違いってしっぽの有無って聞いたことがあったような……どっちでもいいか。第一印象大事、つまりゴリラだ。

 

 

「見た感じ普通のババコンガっぽいけど……」

 

 

 だが油断はするまい。

 

 ―――そして情を持つまい。情を抱く前に、仕留めてみせる。

 

 

 即座に片をつける。

 そのための秘密兵器その1を取り出す。

 

 

 明らかに毒々しい色をした肉をババコンガの前に投げる。

 

 

 毒生肉だ。

 

 ゲームでの毒は、時間と共に敵の体力を減らす状態異常だ。そして一定時間経過すると毒はなくなる。

 

 だがこの世界ではそうはいかないのではないか。

 

 だって毒だぞ? 普通毒物なんて摂取したら、解毒しない限り命にかかわるものだろう。

 つまり毒は最恐の兵器。

 ここでは人間が毒を受けても解毒薬を使って治療できるようだが、ババコンガがそんな治療薬を持っているとは思えない。

 

 だからやつがこの肉を食べればもう勝利は確定である。

 あとは食べてもらうだけだ。

 

 ゲームのババコンガは敵が目の前にいても気にせず肉を喰いだすやつだった。だからいけると思いたい。

 

 

 ―――今更だけど、ゴリラに肉ってどうなの? バナナとかじゃないの?

 

 

 食べるかやや不安になったが、特に警戒をせずに普通に食べだすババコンガ。

 やだこいつチョロい。

 

 

 あとは毒が身体に回り切れば俺の勝ちである。

 なんというか、あっけない話だ。

 

 ババコンガはあっという間に毒肉を食べ終わった。お腹を撫ででいる。おっさんくさいなその行動。

 

 しかしこう、毒で苦しんでいるようには見えない。

 

 ゲームと違って毒エフェクトが見えないだけだよな……? ババコンガは毒無効とか効いたことないし大丈夫だよな……?

 

 

 ゴリラが座り込んで、こちらに片手を向ける。手のひらは上向きに、ひょいひょいと動かした。

 

 ―――もっと寄越せ

 

 モンスターの言葉なんてわからないが、そんな感じのモーションだ今の。

 

 

 いいだろう。毒がまだ身体に回り切ってないのか、やせ我慢なのか知らないが、その挑発に乗ってやろうではないか。

 今度は痺れ生肉だ。

 毒とは違ってわかりやすい効果をもつ罠肉だ。身体が痺れて動けなくなったところを、俺のガンランスが火を噴くぜ―――!

 

 

 さっきと同じ要領で見るからに黄色黄色している肉をババコンガの前に投げる。

 

 今度は尻尾を器用に使い、座りながら肉を持って食べだすゴリラ。食べきったら今度は、今度こそは身体に異常をきたすはずだ……

 

 とはいえ、痺れている時間など10秒ほどだっけ。ゲームだと。実際はどんなもんになるかはわからない。

 

 ガンランスを構えてじわじわと近づく。こちらが武器を構えだしたというのに、やつは相変わらずガツガツと肉を食べている。

 

 

 ――――――食べ終わっても平然としてたらどうしよう。

 

 いや、弱気になってはいけない。食べ終わって平然としてたとしても、きっと油断はしているはずだ。

 そこでその綺麗な顔を吹っ飛ばしてやるぜってやればいいのだ。

 

 

 綺麗じゃねぇな別に。

 

 

 撃つより突いた方が、いや、斬ったほうがいいかなこれ。ゲームだと砲撃ってそんな強いイメージないんだけど。いや、肉質無視って強いと思うけども、それに砲撃の爆炎で仕留めきれるのだろうか。表面を炙る程度で終わったりしないだろうか。

 それならいっそ頭部を斬りつけたほうがいい気がする。

 ドスジャギィもケチャも、ざっくりと深く斬れば仕留めれた。

 

 

 もしゃもしゃとまだ食べている。もう砲撃射程範囲内だ。いや、間合い的には斬撃の範囲内だ。

 これ、もう撃ってもよくね? いや、斬ってもいいか?

 

 でももうすぐ食べ終わるしなぁ。最後の晩餐だ。よく味わうがいい。今昼間だけど。それに麻痺で動けなくなってくれたほうが確実性が増す。

 

 

 

 

 食べ終わった。

 

 超平然としている件。歯の間に肉でも詰まったのか、爪を入れてほじっている。おっさんくさいなその行動。

 

 

 だが、食べ終わってなお油断しきっているその姿が命取りよ。

 

 遠慮なく砲撃を、いや、やっぱり斬撃を! ぶち込んでくれるその顔に!

 

 

 重心を前に傾け、足を前へ力強く踏み込みながら、左手のガンランスを持ちあげ、振り下ろす―――

 

 距離は間違えていない。確実に刃部分がやつの頭部に当たる。

 

 ―――大事なのは脇を締めることだ。そして腰だ腰。なんだって腰なのだ。

 

 

 

 

 

 

「……なんかごめん」

 

 思わず出た言葉が謝罪だった。

 

 

 

 当たったといえば当たった。

 

 避けられたといえば避けられた。

 

 

 ババコンガの頭部の大きなトサカ。

 コンガのリーダーの証でもあるやたらと尖ったトサカ、というか毛が、なんらかの樹液か果物の汁で固めていたのであろう毛の塊が、地面に落ちた―――

 

 トサカがあった部分は綺麗な断面を残している。なんか台座みたい。

 

 

 しかし、すげぇダサい髪型にさせてしまった―――

 

 

 台座ヘッドのババコンガも違和感を感じたのか、自分の頭部を両手でぺたぺた触る。

 ちょっとその姿に罪悪感を感じてしまう。

 

 地面に落ちている、固められた毛の塊を見ながら頭部をぺたぺた触る。

 

 

「……まじでごめん」

 

 

 再度謝罪の言葉を述べたが、許してはくれないようだ。

 

 自分の自慢の髪の毛がどういうことになったのか理解したのだろう……理解してしまったのだろう。立ち上がり両手を広げ、大声で鳴きだした。

 ―――威嚇行為、先ほどまでは肉をくれる便利な人だったが、完全に敵と見られたようだ。

 

 

 秘密兵器その1、毒生肉。効果見られず。

 秘密兵器その2、痺れ生肉&攻撃。作戦失敗。

 

 

 まだ秘密兵器その3、眠り生肉。その4、特性罠肉があるが、髪の毛の恨みは恐ろしいだろう。今は食べてくれるとは思えない。

 

 それに眠り生肉も、毒や麻痺がどういうわけか効かなかった以上、期待薄だ。

 

 特性罠肉なら関係ないが……なんにしろ腹が減って、怒りが収まるまでは罠肉作戦は無理だ。

 

 

 つまり正攻法、武器を用いて戦うしかない。

 

 ガンランスの使い方は筆頭ランサーに教わっているのだ。やつの攻撃など、この盾で防いでくれる。鋼鉄の盾だぞ。そんなものに爪で攻撃してみろ。絶対その爪割れるぞ。痛いぞ。

 盾で爪による攻撃を防ぎ、逆にやつが痛がったら今度こそ顔を斬る。いや、やっぱり撃つ。完璧な作戦だ。

 

 

 罠肉作戦を考える前に、想定していたシミュレートを再度頭に浮かべた時、ババコンガは大きくお腹を膨らませた。

 

 

 これは確か―――

 

 

「んんんんっ!!」

 

 

 思いっきりバックステップで下がる。盾で防ぐつもりだったため、重心が前よりだったせいか海老のような飛び跳ね方になってしまった。

 バランスなど考えずに下がったため、勢いのまま後ろに倒れこむ。

 倒れこんだ状態でなお、脚で地面を蹴る。息を止めながら。

 

 

 距離にしてだいたい5mほど。なんとか範囲から逃れられたのだと、思う。先のほうは空気と同化して透明になってるだけとかないよな?

 空中に散っていったよな?

 

 目の前には毒々しい紫色の空気が漂っていた。

 

 ―――毒のブレスだ。

 

 

 

 ババコンガはキノコを食べてスタミナを回復させる。その際食べたキノコの種類によって、さまざまなブレスを吐くようになるのだ。

 

 紫色のブレス、毒ブレスは、毒テングダケを食べた時のもの。改めて考えると毒キノコを食べても毒にならずに、攻撃として使う雑食性には恐れ入る。

 

 ここに来る前に食べていたのだろうか。運が悪いにもほどがある。厄介な能力を―――

 

 

 

 あ。

 

 

 

 毒生肉か。ひょっとして。

 

 

 ひょっとして毒生肉の毒が回らないのは、ゲーム仕様から外れた結果? 痺れ生肉も同じ理由? 胃に入った毒素は無効な感じ?

 

 そうだ。痺れ生肉も食べたんだこいつ。もしや……

 

 よくよく見ると毒々しい紫色に、なんとなく黄色い空気も混じっている気がしないでもない。思い込みでなんとなくそう見えるだけかもしれないが、なんにしろ当たらないに越したことはない。

 

 

 ―――毒&麻痺ブレスってどうよ。糞モンスかよ。

 

 

 眠り生肉を与えないで良かった。もし与えていたら毒と麻痺と眠りが一度に襲う悪夢になってたかもしれない。

 

 

 倒れこんだままではやばい。吐き終わって呼吸を整えたら次がくる。このままでは次がブレスだろうと突進だろうと、回避も防ぎもできない。

 

 幸い起き上がる最中に追撃は来なかった。

 しかし、先ほどまで考えていた作戦が一気に危うくなってしまった。

 

 ブレスというか状態異常を起こしかねない息だ。くさい息だ。

 

 息を盾で防ぐなど不可能だ。

 とはいえ距離を取れば届くわけではないようだし、その距離も長いわけではない。必死こいたステップ後ずさりでなんとか射程外に出れる。

 

 しかし追撃をされたらアウトだろう。

 

 ガンランスの重量がこういう形で裏目に出るとは。

 

 

 やっぱりひとりで戦うのは俺には厳しいのだろうか。弱気になりそうだ。

 

 そんなこと心境などやつには関係ない。その太った身体からは信じられないほどのジャンプをしてきた―――

 

 

 ボディプレス。これも防げない―――

 

 

 上からの攻撃に対して盾で防ぐなど、軽い攻撃なら可能だがこれは無理だ。盾ごと押しつぶされてしまう。

 

 前のめりになりながら今度は前進する。重心が前よりなのだ。前へ前へ進んだ方がいい。それに体制を直しやすい。

 

 

 響く振動。

 

 

 バランスを崩して転ぶなどはしない。このまま逃げっぱなしでは勝てない。なんとかしなくては。

 

 またも大きくお腹を膨らませた。またやばい息が来る―――

 

 なんとか反撃しなくては、という気持ちと、避けなくては、という真逆な考えが頭によぎり、足を止めてしまった。どうすればいいか、わからない―――

 

 

 ババコンガが顔を前に突きだし―――

 

 

「筆頭オトモがお相手いたすニャ!!」

 

 

 ネコ太郎が横からババコンガの顎に突進をかました。

 

 全身の体重をかけた突進だったのだろう。途中で急に口を閉じさせられ、ブフッという空気の抜ける音とともにやばい息が吐きだされる。

 ただし勢いが完全になくなっている状態だった。

 

 

「ね、ネコ太郎―――! 初めてかっこよく見えたぞお前!!」

 

「ボクの名前はネコ太郎にあらず! いい加減にちゃんと呼んでほしいニャ! ボクの名は直系の―――」

 

「やべぇぞ! あのババコンガ、マジギレしてるぞ!」

 

 

 突然の横やりに怒ったのだろう。顔が、というか鼻が真っ赤である。

 もうわかりやすいほど怒っている。そして再び立ち上がり、威嚇のポーズをとりだした。

 

 

 オナラをしながら。

 

 

 そして辺り一面を漂う臭気。

 発生源からは臭そうな空気の色が目視できてしまう。そしてその色がこちらまで届いていないのに、臭気がとんでもなくする。

 

 こやし玉を思いだす香りである。消臭玉これ使ってもすぐ臭いで上書きされるんじゃね? 鼻どころか口で呼吸するのも嫌になる不快感が来る。

 

 まぁだがオナラだ。状態異常の息よりはまだいいかもしれない。たぶん。きっと。

 

 

「ネコ太郎! あいつの息には絶対あたるなよ! 結構やべぇ! 罠肉が原因―――とかじゃなく謎の理由でやばい息だ! まじやべぇ!」

 

 

 オナラのことは置いておいて、やつの息についてネコ太郎に注意しておく。

 息だけじゃなくオナラもやべぇけども。あのオナラ至近距離であたればショック死しそう。

 

 

 あれ?

 

 

 ネコ太郎から返事がない。

 

 

「ネコ太郎!? どうしたネコ太郎!?」

 

 

 まさか先ほどの突進で息にふれてしまったのか。そして麻痺ってしまっているのか。

 

 

「ネコ太―――っ」

 

 

 なんだその表情。

 

 口をあんぐりと開けたまま、完全に表情が固まっているネコ太郎がこっちを振り向いた。

 こっち見んな。笑っちゃう。不意打ちは卑怯だろ。

 

 

 その表情をキープしながらこちらに向かって走ってくる。

 

 やめてほしい。変な笑いがこみ上げてくるからやめてほしい。

 

 

「ネ、ネコ太郎、今ふざけてる場合じゃねーんだよ! 変顔やめろ!」

 

「……! ……!!」

 

 

 なんだこの珍獣は。なぜこの場面で笑いをとりにきたのだこの筆頭オトモは。

 

 

「って! うおぉぅ!?」

 

 

 ババコンガがすぐそばに来ていた。今度は爪による攻撃。盾でなんとかガードをする。受けるタイミングがずれたせいで腕に痺れが走る。だが痛みはなかった。

 

 攻撃のトップスピードに入る前に、盾を迎えるようにあてに行くのが理想だったのに。

 

 だが爪は傷ついたのではないだろうか。こう、黒板をひっかいてダメージを受けるがごとく。あれは精神的なものだろうか。まぁ似たような感じのダメージはないだろうか。

 

 盾と当たった爪を抑えだしたのを見るに、向こうは痛かったのだろう。

 その隙に少し距離を取る。台座頭のババコンガから漂う臭いが本当にきついのだ。我慢できないこれ。

 

 

「―――!」

 

 

 変顔のままネコ太郎が俺を引っ張る。いったいなんだ。変顔の感想を求めてるなら後にしてほしい。ていうかその変顔、以前見たわ。料理長加入時に見たわ。

 

 ひょっとして移動をしたいのだろうか。ここは狭い。臭いが篭る。もっと開けた場所に行きたいのかもしれない。というか俺が行きたい。

 

 だがそれならそうと口で言えばいいのに。

 

 まぁ移動は賛成だ。

 

 

 再びガンランスを振り上げ、そして振り下ろす。というか叩き付ける。

 

 正面からの大振り、後ろに下がって回避された。

 攻撃はやつの身体にかすりもせずに地面に当たる。

 

 そしてすぐさま砲撃を炸裂させる。奮発大サービス、フルバーストだ。火薬の量的に連発はできないが、目くらましにもなるし、あわよくば当たって仕留めれないかと思って使った。

 まぁ回避されたが突然の爆炎に多少は驚くはずだ。

 

 反応を見る前に武器を背中に戻す。ごつすぎて色々大変なのだこれ。

 

 

 しかしうまくいかない。

 

 何かにひっかかる。背中に何か余計なものが……ええい、気にせず無理やり収めてやる。

 

 背中にあった余計なものはその拍子に落ちた。

 

 

 あ、眠り生肉だ。

 罠肉がポーチに入り切らずに、紐で背中に結んでいたのだった。

 

 眠り生肉はこの際置いていこう。特性罠肉はまだ背中になんとか引っ付いてる。これが残ってるならいい。

 

 今は撤退優先だ。だってババコンガ、こっちに向かって走り始めたし。

 

 開けた場所にいくのだ。あとネコ太郎と作戦会議もしなくては。連携ができなくては厳しそうだ。

 

 口をパカりと開けたまま、唖然とした表情をキープしたネコ太郎と一緒に台座頭のババコンガから逃走した。

 

 

 

 こいつ、いつまで変顔してんの?

 

 

 

 

 

 

 


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