逃避の先で   作:横電池

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桃毛獣の縄張り

「―――撒けた、か?」

 

「――――――みたいだニャ」

 

 

 あたりにあの強烈な臭気はない。

 

 どうやらなんとかあの台座コンガを撒けたようだ。

 

 頭の悪いモンスターで助かった。やつの身体にはきつそうな狭い隙間を通って逃げればやつも同じルートを選んできたのだ。巨体の癖にそんな場所を通ろうとして、つっかえてくれたり、頭をぶつけていたりしてくれた。

 

 おかげでなんとか撤退できたけども。

 

「ってかなんだったんだよお前の変顔」

「変顔とは失礼だニャ! ボクは至って真面目にしてたニャ!」

 

 あれで真面目と申すか。

 

「まぁとにかく今は喋れるみたいだな。とりあえず作戦会議だ変顔ネコ太郎」

「ボクだって好きで黙ってたわけじゃないニャ……ただ何故か喋れなかっただけニャ」

 

 麻痺成分の息でも吸ってしまったのだろうか。

 いや、ただの趣味だきっと。料理長加入時の変顔と同じだったし。

 

「とりあえず、だ。やつを倒すための秘密兵器その4を使おうと思う」

「1から3はどこいったのニャ」

「……察して。というわけで秘密兵器その4がこれなんだ」

 

 背中に括り付けていた特性罠肉をネコ太郎に見せる。

 アロイメイルの背中部分が脂でギトギトになってそうだ。

 

「……随分と変な形のお肉だニャ」

「おうよ。力作だ」

 

 これをギルドの船に乗ってる間ずっと作っていたのだ。おかげで船の上では手が脂でギトギトだったのだ。そんな状態で、目がかゆくなったときの辛さはまるで精神力の修行になった。目が痛かった。

 

 ネコ太郎は秘密兵器4を見て、そしてそれ以上のリアクションをせず俺を見た。

 

「こういうのいいから、本当の秘密兵器を早く出してほしいニャ」

 

 なんてオトモだ。

 ハンターさんの言葉を信じれないなんて、なんてオトモだ。

 

「シビレ罠とか実は持ってきてたりしないニャ? 罠にかかってる隙に竜撃砲を撃てばかなりの深手を期待できると思うニャ」

「シビレ罠は今回持ってきてないな。けど次からそうしよ……」

 

 竜人商人なら用意してそうだ。ハンターご用達アイテムだもの。

 罠肉よりよっぽど確実だわ。

 

「まぁとにかく、今回はこの特性罠肉だ!」

「罠肉ニャ?」

 

 少しは興味を持ったようだ。そうでなくては困る。なんせ力作なのだ。

 

「ただの罠肉じゃない。やつがこれを食べたら最後、即効性がありで致命傷を与える恐ろしい兵器だ。だからこれをやつに食べさせる。まぁ今は怒りモードだったし、やつの巣にでも置いて、長丁場になるけどこっそり食うのを見届けるか」

「じゃあまずは巣を探すってことでいいニャ?」

「おうともさ」

 

 巣の場所はだいたい目星がついている。ゲーム知識でだけど、寝る場所だろうきっと。

 ノラアイルーたちを待たせてしまうが、まぁこの作戦が終わるまでくらいはもうちょっと我慢してもらおう。あそこにいればきっと襲われないだろうから、別にいいだろう。

 

「えっと確か……こっちのはず。行くぞネコ太郎」

「ボクの名前はネコ太郎ではなく静かなる―――」

「一応静かにしていくか。他の小型モンスターに見つかるのも嫌だし、ババコンガの怒りが収まる前に見つかったら面倒だしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲の気配を探りながら遺跡平原を歩く。

 

 思えばこうもゆっくりとこの平原を歩くのは初めてだ。心は全然ゆったりしてないけど。

 もっと平和な世界観なら観光でも楽しめたのに、遺跡とか心躍るわ絶対。

 

 ジャギィたちが途中見られたので、何度か遠回りしたり隠れながら進んだりとしたが、どうにか牙獣種の寝る場所、ゲームでは蔦が張られて二重床構造になっていたエリアと思しき場所についた。

 

 たぶん、ここであってるはずだ。

 エリア間の景色とかわからないしなぁ。ここまで通ってきた道がきっとエリア間の道のはずだ。

 

 そしてこの景色もあってるはずだ。

 遺跡に張られた蔦が、蜘蛛の巣のように反対側の絶壁まで張り巡らされている。この上歩けると、思う。

 絶対足場不安定だろうから乗りたくないけど。

 

 蔦の下には遺跡の硬い床ではなく、土だ。つまり地面だ。

 そして奥へ進むと漂いだした強烈な臭気。

 

 

 だがババコンガは見当たらない―――

 

 

「ネコ太郎、あのゴリラが周囲にいないか警戒しといてくれ。巣に罠肉を置いてくる」

「ボ、ボク、少し離れるニャ……また喋れなくなりそうニャ……」

「変顔またしたくなったのかよ。緊張感なさすぎじゃね?」

 

 ネコ太郎は少し油断しすぎだ。

 ここはババコンガが寝床にしている場所なのだ。緊張感をもって挑まねばならない。そんな場所で変顔をしたくなるなんて危険すぎる。

 息を殺して行動せねばならないところなのだ。注意したいところだが、ババコンガが見当たらないこのチャンスを無駄にしたくはない。それに静かに行動しないとだしな。

 

 とはいえ、見当たらないが臭いのだ。きっと近くにいるはずだ。

 隠れて周囲の様子を伺うということも考えたが、あえて行動だ。なんだっけ。善は急げ? そんなニュアンスでいくのだ。

 

 

 進めば進むほど臭気がひどい。

 

 まるで本当についさっきまでここにいて、オナラをしてどこかへいったかのごとくの臭いの強さだ。

 あたりにピンクなゴリラはいないし、さっさと肉を置いてネコ太郎の元まで戻ろう。

 

 

 ぐにゅ

 

 

 そんな感じの感触が、靴裏、アロイグリーヴの裏から伝わってきた。

 

 

 ――――――何かを踏んだ

 

 

 恐る恐る、足をあげる。

 

 

 

 ――――――――――――うんこ踏んだ

 

 

 

「くそがぁぁぁあああああああ!!!!」

 

「だ、旦那さん静かにするニャー!」

 

 

 離れた場所からネコ太郎の声が聞こえるが、嫌悪感が半端なく溢れる。

 足に力を込めて土に靴裏を擦りつける。何度も何度も擦り付ける。擦り落ちてくれないだろうか。

 

 なんでこんなところにうんこあるんだよ。

 よく見たらそこら中にうんこがある。

 なにここ? うんこパラダイス? うんこうんこって考え過ぎじゃない俺?

 

 ババコンガはトイレとか知らないの? そこらじゅうにうんこだらけじゃねーか。

 

 

 あ、なわばりのフンか。

 

 

 ということはここがやつの巣で間違いはないようだ。

 

 こんな地雷だらけな場所に長居などしたくない。さっさと肉を置いて離れるが吉だ。くそっ、臭いが防具に染みつきそう。

 巣の中心まで置きに行かなくていいや。もうここでいいや。これ以上進めるほど俺の鼻は強くない。

 

 

 肉を置き、ネコ太郎のいる場所まで戻る。

 

 

「旦那さん、ちょっぴり臭いが染みついてるニャ……大丈夫ニャ?」

「精神的なダメージが大きいこと以外は大丈夫……」

「なら良かったニャ。それよりさっきの大声でもしかしたらアイツが来るかもしれないニャ。あまり音は立てないようにしないといけないニャ」

「全然よくないんですけど……精神的ダメージは辛いものなんですけど……」

 

 

 何気に心配しているフリしてあまり心配してくれないよねネコ太郎って。

 

 少し抗議をしようと思ったがやめた。

 

 地面が揺れたかと思うような地響きが起きたからだ。

 

 音の発生源を見れば、ババコンガがそこにいた。そういやリーダーの象徴ってトサカなんだよな。その象徴がなくなったあいつはババコンガというよりコンガ? いや、部位破壊されただけのババコンガ?

 

 まぁどっちでもいい。今はあのゴリラが特性肉を食べればすべて解決だ。

 

 そしてすぐに肉に気づいたようだ。

 嬉しそうに肉に駆け寄る姿が実に間抜けである。それが罠だと疑うことを知らないとは悲しいものだ。

 

 

「旦那さん、結局あの罠肉はいったいなんなのニャ? 強力な毒肉なのかニャ?」

 

 

 ネコ太郎が小声で聞いてきた。音を立てるなと言いだしたやつから音を立てるとは。まぁいいか。あのゴリラは肉に夢中だし。

 

 

「ふふん、あの不自然な形の肉はな。中に、爆弾が入っている―――!」

「爆弾ニャ……?」

「ああ、って言っても小タル爆弾だけどな。無理やり詰め込んだんだ。結構苦労したんだぞ」

「……それだけニャ?」

「ん? まぁそうだなぁ。中にいれやすいように肉の内側をそぎ落とすのが大変だったな。あとやっぱり脂がなー。ギトギトでなー」

「いや、そうじゃニャくて、あの罠肉は小タルが入ってるだけニャ? 特別な小タル爆弾とかではニャく?」

 

 

 特別な小タル爆弾? あれか、小タルGか。そんなものはない。

 

 あ、わかった。こいつ小タル爆弾を馬鹿にしているな。

 そりゃ威力は小タルと言うだけあってしょぼいけども。それを食べる肉に忍ばせているのだ。つまり爆発は口の中、もしくは顔面の至近距離。

 

 つまりそのきれーな顔を吹っ飛ばしてやるぜってなもんだ。

 即死トラップと言ってもいい。

 

 

「お前、小タル爆弾を馬鹿にしてるな? 小タルの威力だからって体内で爆発してみろ。どんな生き物もさすがに死んじゃうだろ?」

「……ちなみに旦那さん」

「なんだよ。小タル爆弾じゃなくてただの樽を入れたとかいうベタなドジはしてないぞ」

 

 

 ネコ太郎は首をふるふると振った。

 

 

「起爆はどうするんだニャ……?」

「……起爆?」

 

 

 起爆? ようするに爆発のさせ方?

 

 

「噛んだ衝撃とかで、爆発しない……?」

 

 

 大タル爆弾は攻撃の衝撃で爆発するし、同じように爆発するんでないの? 小タルだって。

 

「小タル爆弾は衝撃じゃ爆発しないニャ……」

「………………え?」

 

 じゃあ何で爆発するって言うのだ。

 

「小タルの中身は、火薬草だニャ……あれは火に触れないと爆発しないニャ……。だから爆発させるには、導火線に火をつけないとダメだニャ……」

 

 ババコンガを見る。

 もうすぐ特性罠肉を完食する状況だ。

 

 小タル爆弾普通にかじられてる。爆発してない。

 

 中から出てきた粉、火薬草をすりつぶした粉末だろうか。それが顔にかかってむせている様子が見える。だが爆発などはしていない。

 

 

「……秘密兵器その4はダメみたいだニャ」

 

 

 この世界は残酷だ。

 

 

「それじゃあ、どうするニャ?」

 

 ネコ太郎が行動方針を尋ねてくる。どうするか、現在ある選択肢を考える。

 

 1.ババコンガを正攻法で倒す。つまり小細工なしの真正面からのぶつかり合いだ。成功確率は、不明。悪くはないが良くもない、と思う。最初の攻防をした感じでは五分五分じゃないだろうか。

 

 2.一度撤退する。街に戻り、シビレ罠など有効なアイテムを準備して再度挑むという考えだ。確実性は高いような気がするが、ノラアイルーたちをさらに待たせることになる。もうすぐババコンガがいなくなると思っているアイルーたちを一時的にだがぬか喜びにさせてしまう方法だ。

 

 3.ノラアイルーたちと合流。彼らと街まで撤退。

 

 

 3一択じゃないかこれ?

 

 そもそも俺の今回の目的はノラアイルーがぽかぽか島に向かおうとして、ババコンガに邪魔されてるから助けるって目的だった、と思う。

 だから無理に倒さなくてもいいのでは? いや、でもギルドでは狩猟として通ってるんだっけ。ダメだそういう難しい話はぼへーっと聞き流していたからわからない。

 

 

 まぁ目的が狩猟だとしても、3を選ぶのがいいだろう。

 ノラアイルーを街へ、そして街に戻ったついでにシビレ罠を用意してリベンジ。

 

 これならアイルーたちもハッピー。ギルドもハッピー。ってなもんだ。

 

 

「よし、寄り合い所に行ってアイルーたちと合流だ。まずはあいつらを街まで逃がそう」

「了解だニャ」

 

 

 そのためにも移動をしないとだが、この場所から離れるには、蔦をよじ登らないといけない。

 

 ババコンガはまだ巣にいる。とはいえ、よじ登っている最中は身を隠すなどできない。そのため巣から丸見えになるだろう。

 果たしてその時あのゴリラは俺たちを見逃すか、おそらくは見逃さない。髪の毛の恨みは深く、恐ろしいのだ。

 

 

 ……少し考えたが、ここはかっこよくいこう。

 

「……ネコ太郎。俺があいつを引き付けるから、その間に寄り合い所に行ってアイルーたちと合流してBCまで案内してやれ。それが済んだらここまで迎えに来て」

「わかったニャ」

「止めても無駄だ。これが一番確実な方法なん―――えぇ……? あっさりすぎない? 一回くらい心配して『やめるんだニャ危険だニャー』とか言って止めない? 何? ドライな心の持ち主なの?」

 

 お約束の展開やろうよ。茶番でも大事なんだぞ。こういうので友情を確認できると思ってるんだけど。

 

 いや、これも一種のお約束か? そう思うとありかこの扱い? いや、でも旦那さんと呼ばれるものとしての威厳がこう、落ちていく感じがするし……

 

 

「早くいくニャ。できるだけ急ぐから頑張って耐えるんだニャ」

 

「お、おお。別にあいつを倒してしまってもかまわんのだろう?」

 

 

 言ってみたかった台詞を言ってしまった。死亡フラグのひとつらしいけど、死亡フラグはあえて立てることにより、逆になくなる説だってあるからこれは逆に生存フラグ。なんかちょっと混乱してきた。

 

 

 ババコンガに向かって走りだす。ネタ台詞をついつい言ってしまったが、結構真面目に倒すつもりだ。

 

 どんどん距離を詰めていく。

 

 ババコンガがこちらに気づいた。

 

 そして思う。

 

 ――――――やめときゃよかった。

 

 

 

 また靴裏から、何か踏んだ感触がした――――――

 

 

 

 

 ここ、うんこだらけだったわ――――

 

 

 

 

「この糞がぁぁあああ!!」

 

 

 

 

 

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