逃避の先で   作:横電池

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チコ村編
見せる勇気は湧くことなく


 天気は快晴。

 空は青く、見える範囲の海もまた、穏やかな波を立てていた。まばゆい景色の中、チコ村の村民であるアイルーたちは明るく生活している。

 その一方で、気分が沈んでいる者がいる。ずっと足元を見つめ、顔はあげず、ため息ばかりのアイルーがいる。

 

 そのアイルーに、我らの団の上位ハンターであるアカリは話しかけた。

 

「それで、見ていて勇気は出た?」

「……出てこないニャ」

「うーん、なんとか出てこないもんかなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 団長とクライがバルバレに出発してから、わりと早くにイサナ船の修理は済んだ。

 船が直ったのならば、と氷海の寄り合い所にいるアイルーたちを救出。そして他にチコ村の村民たちの困り事の解決に我らの団は動き回った。

 

 アカリとしても、お世話になった村への恩返しができる。それに村が直面している困り事の解決は、たいていは狩猟できる腕があれば解決できることばかり。

 どんどん困り事はなくなっていったが、ぽかぽか島の管理人に頼まれた内容に、ずっと苦戦していた。

 

 

 臆病になってしまった白い毛並みのアイルーを勇気づけてほしい

 

 

 アカリの得意なことは狩猟しかない。誰かを勇気づける方法など皆目見当がつかなかった。そのため始めこそ、この頼み事は団の他のメンバーに任せていた。

 だが、強いモンスターに勇気を持って勝つハンターを見れば、勇気が自分にも湧き出るかも と言ったら話が変わる。

 そのため白いアイルーの言う強いモンスターを狩りまわった。

 のだが、結果は冒頭の通りである。

 

「とっても強いハンターさんには、弱いぼくの気持ちなんてわからないニャ……」

「そりゃわかんないけども……何か他に勇気が出てきそうなのない?」

 

 すでに原生林に巣食っていたドスゲネポス、ネルスキュラ、リオレイア、ガララアジャラなどは頼まれて狩った。

 別の地のモンスターでもこの際構わない。イサナ船はもう動ける状態なのだから。

 

 そう思い尋ねてみたが、地面を見つめながら白いアイルーは首をふるふると横に振った。

 

「ハンターさんはとっても強いニャ……強すぎて狩りも一方的にしか見えないニャ……ただの作業だニャ」

 

 その言葉に反論は思い付かなかった。今まで潜り抜けてきた修羅場が今のアカリを形成している。その経験は、そこらのモンスターを脅威に感じなくなるほどだった。脅威に感じない相手など、まさに作業感覚である。

 

 白いアイルーは強すぎないハンターの、勇気ある姿を求めているのだろう。

 

 ここにいたのがクライならば、と思うがないものねだりは無駄である。

 ならば別の方法を探すしかない。

 

「じゃあ他になんかない? 勇気づく方法をさ!」

「そんなの、あるわけないニャ……もう放っておいてほしいニャ……」

 

 そう言ってアカリに背を向けた。

 やはり自分に誰かを奮い立たせるなど難しいようだ。

 

 このままひとり悩んでいても仕方がない。団の人たちやチコ村の方々と相談するのがいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけでジィさんや、勇気づける方法なんかない?」

「ワシは商人やわ。繊細な問題は畑違いだわな」

 

 アカリが真っ先に相談相手に選んだのは竜人商人だった。

 そもそも団員は全員カウンセラーなど専門ではない。ならば、亀の甲より年の功、最年長の商人に頼ったわけだが

 

「やっぱり難しいよねぇ……」

 

 いっそのことドーピングでもしてみようか。アカリの脳裏に野蛮な発想がわき出てくる。

 

 強走薬や鬼人薬を飲ませて興奮状態に持っていけば……

 

 

「あの白いのは昔は臆病じゃなかったって聞いたわな。なら臆病になったきっかけがなんかあるはずやわな。それを知ってから考えた方がええんやないか?」

「え、そうなの?」

 

 なんとか勇気づける、という漠然とした方針が少し鮮明になった。

 

「なんだかなんとかなりそうな気がしてきた! ありがと! やっぱり相談っていいもんだね!」

「アドバイス料は安くしとくわな!」

「あ?」

「じょ、冗談やわな! わ、ワッハッハ!」

 

 冗談には聞こえない。日頃から料理長が商人のカモにされているのを知っているのだ。

 

 

 とにかく方針が決まった。

 今することは、臆病な子の昔を知っている人物を探すことだ。

 幸いこの村は小さい。そのため、アカリはすぐに条件を満たす存在を絞ることができた。

 

「村長さん、か……」

 

 

 

 

 

 

 チコ村の村長について考えると、つい最近、クライと意見が別れたことを思い出す。

 あれから何度か考えてもアカリには、あの村長は心が諦めているようにしか感じれなかった。

 クライは考えすぎだとは言っていたが……

 

 ふと思う。最近のクライがわからない、と。

 いや、ここ最近の、もっと言えば団に入ってからのクライがわからなくなってきた。

 昔から考えがよく似通っていた。意見が別れても、何故クライがそう考えたのか理解できていた。だが、最近のクライはたまにわからないことがある。

 採取専門ハンターになりたいと言い出したことも。村長の話を聞いても楽天的なことも。

 それに、気のせいかも知れないが、避けられている気がする。正確には、過去の話を避けているように思えた。もちろん何度も昔話をするわけではないので、気のせいである可能性は高い。

 

 そういった要因から、まるで別人になってしまったかのように感じることがある。

 

 そこまで考えて、アカリは己の馬鹿馬鹿しい考えに自嘲してしまう。

 娯楽小説に影響を受けすぎかもしれない。それほど愛読家というわけではないが。

 

 娯楽小説のように、中身が違う人物になっているはずがない。クライは変わっただけだろう。変なことを言い出したりするが、悪い変化をしているわけではない。

 

 中身が異なる、人格を乗っ取る。そんなものは、悪霊そのものだ。

 

 馬鹿馬鹿しい考えなどしてないで、今は臆病アイルーの問題解決だ。

 そう考え直し、アカリは村長のもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 村長は相変わらず、ニコニコという擬音がピッタリな表情を浮かべながら海を眺めていた。

 団がこの島に流れ着いた時からずっと、優しげな表情である。

 

「こんちには!」

「あらァ、こんにちはァ。アイルーちゃんたちのお願い聞いてくれてるんだってねェ。ありがとねェ」

 

 海から視線を外し、目を合わせて話し出す。優しく穏やかな人物なのは間違いない。

 ただやはり、その心の底は諦観しているのではないか、そう考えてしまう。

 だがそこまでである。

 何か悩みがあるのであれば、助けを求めるのであれば、手伝いたい。助けたいとは思う。

 しかし抱え込むのであれば、アカリは何もする気はない。今直面している困り事は白いアイルーについて、ということもあるが、アカリのポリシーの問題でもある。

 

 アカリはこれまで多くのモンスターの命を奪ってきた。理由は依頼だったからだ。その依頼の中にはあまりにも自分勝手な理由のものもあった。だがすべてこなしてきた。それは依頼だから、自分はただ依頼を遂行するシステムだと割りきって考えるようにしたからだ。

 そのスタンスをアカリは今後も変える気はない。依頼が、頼み事でないのであれば自主的に動くつもりはないのだ。

 

「まぁ今は解決しにくいお願いに困ってて……それで村長さんの力を借りようかなって思いまして!」

「あらァ、私なんかで役に立てるかしらァ」

「大丈夫大丈夫! 白いアイルーについてなんだけど、臆病になったきっかけとかって知ってます?」

 

 長い年月、この村で過ごしてきた村長が知らなければ、誰もきっと知らないだろうと考える。

 小さな出来事ならともかく、性格が変わるほどの何かがあったはずなのだ。そんな出来事が、こんなに小さな村の村長の耳に届かないとは思えない。

 

「そうねェ……ハンターさんは、あの白いアイルーちゃんの臆病を、なくそうとしてるのかしらァ」

「まあ、そうなりますね。勇気づけてほしいって頼まれましたし!」

「そう、アイルーちゃんたちのお願いかしらァ」

「はい、まぁ……」

 

 質問への答えが返ってこない。

 

「私はねェ、あの白いアイルーちゃんは臆病なままでもいいと思ってるの。無理して勇気を出して、危ない目にあってほしくないのよォ」

「まあ、そうですね……」

 

 勇敢か臆病か、長生きするとしたら臆病な方だろう。危ない目にあわないことを望むなら、今のままの方がいい。

 村のアイルーたちはあの子に臆病を克服して欲しがっている。村長は臆病なままでいて欲しがっている。

 村の中で意見が別れた状態だ。部外者の自分たちがこのまま勝手にしていいとは思えなくなってきた。

 

「もちろん、あのアイルーちゃんが自分の臆病と戦いたいのなら、私はちからいっぱい応援するわァ」

「え……? 臆病なままでいてほしいんじゃ……?」

「そういうわけじゃないのよォ。臆病でも勇敢でも、どんな気持ちになっても、大好きなあの子に変わりはないわァ」

 

 勇敢か臆病か。あのアイルーがなりたいものを決める必要がある。周りが出来ることは、その背中を押すだけ。そう、言われた気がした。

 

「最終的に決断するのはあの子だと思う。決断する前に、選択肢が増やせるなら増やしてあげてもいいと思う……だから、あの子が臆病な選択しかできなくなったきっかけを教えてほしいです……」

 

 だからと言ってアカリは何もしないという選択はしない。その理由は、善意やお節介などではなく、頼まれたからという主体性のないものではあるが。

 

「……あの子の心には幻が住んでいるのかもねェ」

「幻……?」

「そうなのよォ。大きなモンスターの幻……それが何をしようとしても、邪魔しちゃうんじゃないかしらァ」

「大きなモンスターですか……どんなモンスターなんです?」

 

 心にあるモンスターの幻、トラウマとなっている存在がいるということだろうと考え、そのモンスターの特徴を聞いた。狩れば、少しはその幻も消えるのではないかと思ったからだ。

 

「そうねェ……まるで黒い神様みたいな、こわァいモンスターよォ。でも、おかげでこォんな綺麗な島に流れ着いたのよォ。人生どう転がるかわからないわねェ」

 

 黒い神様、と言われてもアカリには全く思いつかなかった。

 ただわかることは、この村にある難破船、その原因となったモンスターだということくらい。

 

 とにかく、船を沈めたモンスターがトラウマなのだろう。モンスターへの愛が凄まじいお嬢に聞けばわかるかもしれない。結局狩猟しか思いつかなかったが、最終的にはあのアイルー次第になるだろうし、やれるだけのことはやるだけである。

 

 

「お話ありがとうございます! とりあえず私にやれることはやってみます!」

 

「ハンターさん……、無茶しちゃダメだからねェ」

 

「? 大丈夫です! ではでは!」

 

 

 村長のもとから離れ、アカリは次に我らの団のお嬢の元へ行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お嬢もお嬢で、勇気づける方法を独自に探していた。もっともその方法は、個人の嗜好がひどく反映されているやり方のため、それ以外の方法を探すように団全員から言われてはいた。その成果を期待はしていないが。

 

 小さな村のため、あっさりと探している人物が見つかった。

 

「アカリさん、白いアイルーさんの勇気の出させ方、何か見つかりましたか」

「んー、微妙なとこかなぁ……村長さんとお話してきたんだけどね、大きなモンスターが原因的なことは聞けたよ。臆病になったきっかけ!」

「村長さんと、ですか……」

 

 思案気な表情を見せるお嬢に、アカリは何か変なことを言ったかと思ったが、思い当たる節がない。

 

「私のほうでも村のアイルーさんたちに色々聞いて回ってみたんです。白いアイルーさんについて、それと村長さんについても」

 

 お嬢の言葉が存外まともで多少の面を食らった。モンスターの巣で三日過ごせば胸の高鳴りに気づいて臆病ではなくなるなどの、強硬派な意見を出していた人物とは思えない。

 

「村長さんについても? まぁ何か有力な話あった?」

「かなり深いところまで話を聞けました。はじめこそ渋っていましたが、マタタビをチラつかせると、それはもう深くまで」

「モノで釣るとは……」

「ただ、重たいお話ですので、周囲に誰もいないとこでお話しませんか」

 

 

 その言葉に賛同し、場所を変える。難破船を挟んで村から反対側の海岸へ移動した。

 周りにはアイルーたちも、団員もいない。

 二人並んで海岸に腰をかける。波は穏やかだった。

 

 

「アカリさんは、村長さんからどんなお話を聞いたんですか?」

「んー。あの白い子は、船を壊したモンスターが心の中に幻として住み着いている的な話を聞いたかな。たぶんトラウマになってるってことだと思うけど……。あと臆病なままでもいいんじゃないか的なことを言われたかなぁ……」

「……船を破壊したモンスターが心の中に」

「あ、一応言うけど恋的なものじゃないからね? お嬢とは違うからね?」

 

 お約束のように「私のことをなんだと思ってるんですか」と言う返しを期待していたが、アカリの発言はスルーされた。

 

「船を破壊したモンスターは、覇竜アカムトルムだそうです」

 

 最初聞いたとき、驚きのあまり興奮してしまいました。と静かにお嬢は続けた。

 

「そこの、難破船は昔、村長さんが乗っていた商船だったそうです。乗組員はアイルーさんたち、村長さん。そして、村長さんの旦那さんと、そのオトモさん」

 

 少し、長いお話ですが、とそのままお嬢は続けた。

 

 

 

 

 

 

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