その商船は航海中、ある島に着きました。何か商売に繋がるものがあってなのか、たまたま流れ着いたのか、理由はわかりません。
その島は火山で形成された島でした。
何か珍しいものはないかと探しましたが、その土地の厳しさ、危険から、すぐに船を出すことになりました。
ですが船に向かう途中、大きな揺れを感じたそうです。
振り向くと、そこには巨大なモンスターがいました。マグマをものともせずに存在し、村長さんたちを見つめる大きなモンスターが。
そのモンスターの名前はアカムトルム。
アカムトルムは立ち上がり、空気を震わす咆哮をあげました。
村長さんの旦那さんは、自分たちが狙われていることに気づきました。
彼は商船を守るハンターでもありました。
アカムトルムから商船を、船員を守らなくてはならない。このまま逃げても追いつかれて皆を危険にさらす。かといって、アカムトルムを討伐できる力はありません。あの竜は古龍に並ぶほどの災害。存在が確認された際には、非常事態宣言が出されるほどの規格外な存在なのです。
そのため、彼は囮を買ってでました。頃合いを見て自分も小舟で後から逃げると告げて。
船の守りは、彼の相棒であるオトモアイルーに頼み、単身アカムトルムに向かっていったのです。
彼が注意を引き付けてくれたおかげで、彼を除いた全員が船に乗り込めました。彼が乗って逃げるための小舟を海岸に置き、船を出しました。
彼は船の上で、風の香りから近くの陸の方角をあてれるほど地形に強い人物です。無事に逃げれば、合流は可能と判断してのことでした。
船を出し、溶岩の島が小さくなってきた時、島の海岸にアカムトルムがいることに気づきました。
そして島から竜巻のような衝撃波を、強力なブレスを吐き、商船を吹き飛ばしたのです。
そして次に気が付くと、見知らぬ島にいました。無残な姿の商船とのびているアイルーたちとともに。
船員は奇跡的に全員無事でした。誰も欠けることなく。
ただし、そこに船を守るため覇竜に挑んだ彼の姿はありません。
ですが彼は強いハンターです。無事に逃げれたはずです。はぐれてしまいましたが、彼の土地勘なら、この島まで迎えに来てくれると信じて待つことにしました。
そうして、島での生活が始まりました。
その島は自然の恵みが豊かで食に困ることはありません。住居に関しては船の残骸が当時の家となりました。
しかし島には危険なモンスターがいます。
船を守るハンターはいません。彼が戻ってくるまでみんなを守る、とオトモさんが奮闘しました。
村長さんたちはみんな、彼が戻ってくると信じて待っていました。
1ヶ月経っても、戻ってきません。
あの覇竜と対峙したのです。きっと怪我を療養しているのでしょう。怪我が治れば迎えに来てくれます。
1年経っても、戻ってきません。
怪我が治っても、船が彼のもとにはないのです。きっと今は船を建造中なのでしょう。船が出来上がれば迎えに来てくれるはずです。
5年経っても、戻ってきません。
彼が地形にいくら強くても、ひとつの島を見つけ出すのは困難でしょう。今はまだ探してる最中なのです。気長に待てば、迎えに来てくれるはずなんです。
何年経っても、戻ってきません。
長い時間の中で、島のアイルーさんたちも世代が変わっていきました。彼らを守るため戦っていたオトモさんにも子供ができました。村長さんと同じ長命な竜人族の彼が戻ってきたら、きっと驚くでしょう。彼らの成長の過程を見ることができなかったことに悔しがるでしょう。その日が楽しみです。そんな日が来ることを夢見ながら、ただ海を見つめる日々となりました。
随分長い時間が経ちました。
もう船員だった彼らはいません。村長さんと、オトモさん以外の当時の船に乗っていたアイルーさんたちは天寿を全うしました。長い年月が、この島を彼らの村に変えたので後悔などはなかったと思います。
オトモさんも、もうすっかり老いてしまいました。きっとオトモさんの残された時間も少ないとわかるほどに。
ある日、オトモさんは旅支度をして村長さんに告げました。
―――村長さんを探している旦那さんを見つけてくる―――
無茶だと思い止めようとしましたが、オトモさんは島を出ました。必ず旦那さんを見つけてこの島のことを教えると言いながら。
数日後、オトモさんが乗っていた小舟の残骸と、旦那さんがかつて使っていた片手剣が島に流れ着きました。
その漂流物を見て、村長さんとオトモさんのお子さんはひどく悲しみました。
このお子さんが、あの白い臆病なアイルーさんです。
白いアイルーさんは、どうして父が島を出たのかわかりません。ただ、もう父とは逢えないのだと悟りました。
村長さんはそれから小さな船を造ってもらい、何度か海に出ようとしたそうです。
ですが船に乗ろうとすると顔色がひどく悪くなり、周囲のアイルーさんたちも止めました。
何度か繰り返し、そしていつしかその船に乗ろうとはしなくなりました。
「聞いてきたお話を、私なりにまとめてみたのが以上です」
お嬢が語ってくれた村の、村長の過去を聞いたアカリは思ったことを口にした。
「……白いアイルーが臆病になった理由、出てきてなくない?」
今の話は悲劇なのだろう。だけどもう、どうしようもないことなのだ。どうしようもないことならば、ただ受け入れるしかない。今いる自分たちが何をしようと過去は変わらないのだ。今この時、臆病なアイルーを勇気づける方法を知りたい。そのため臆病になったきっかけを知りたい。
お嬢から聞いた話では、臆病となった理由はわからないままだ。
「あの白いアイルーさんは外が、モンスターが怖いらしいです」
「父親を奪ったであろうモンスターが怖いって感じかな……」
「外を怖がる理由はきっとそうだと思います……だけどモンスターを怖がる理由は……」
お嬢がどこか口を濁している。モンスターが好きな彼女には受け入れづらい話だったのだろうかとアカリは考えた。
「白いアイルーさんはモンスターに襲われたことはなく、お父さんも襲われたと断言することは難しい状況だと思うんです……でも、あの子は時々大きな黒いモンスターの夢を見て魘されているそうです」
「夢?」
「はい。たまたま通りかかったアイルーさんの証言ですが」
「大きな黒いモンスターって、この流れだとやっぱりアカムトルムかな……」
「そう思うんですが、それだとおかしいですよね……」
「うん……」
もしも魘されている夢がアカムトルムなら、奇妙な点が出てきた。
白いアイルーは、アカムトルムの姿を見ていないはずなのだ。
アカムトルムが船を襲ったのは生まれる前の出来事。アカムトルムの存在を知ることはできない。村のアイルーたちが言い聞かせたとしても、それなら他のアイルーたちも臆病になってもおかしくはない。
つまり誰かが、白いアイルーにだけアカムトルムの恐ろしい姿を吹き込んだのだろう。
船を破壊した存在として、父が海に旅立つ理由の、その原因として。
「……村長さん、だよね。白いのに、アカムトルムのことを教えたのは……」
否定の言葉は上がらない。お嬢も同じ考えを持っていたことを示していた。
「きっと無茶をしてほしくなかったんじゃないでしょうか……。小さな子が危ないことをしないように、怖い話を言い聞かせるのと同じように……それに、誰かと同じ気持ちを持ちたかったのかもしれません」
「その結果、白いのの心の中に、アカムトルムの幻が植え付けられて臆病な性格になった……」
「お父さんのように島を出ることはないでしょう……」
旦那のオトモ、その子供という他のアイルーより近しい存在だからこそ、愛が少し偏ったのかもしれない。その特別扱いが臆病にさせたとしたら
「白いのが臆病を克服できても、また臆病になる可能性は残ってる感じになっちゃうかな……」
「村長さんの心の中の幻も追い出せないと、またそうなってしまうかもしれませんね……」
「……幻の原因であるアカムトルムを倒せば、幻も消えるかな?」
「わかりません。でも少しはましになるかもですけど、アカムトルムを倒すのはどれほど難しいことか知ってますか」
「知らない。けど倒したことはあるよ!」
「え」
覇竜アカムトルム。非常事態宣言の対象である規格外モンスター。通常4人までで狩猟を行うことを推奨しているギルドが、大人数での狩猟を行うことを余儀なくされる存在。
発見された数も少ないというのに、その狩猟経験があると言った目の前の狩人をお嬢は驚きの目で見つめた。
「とはいっても、夢の中でだけどね!」
「……え? 夢、ですか?」
「うん、夢!」
実際に狩猟したことはない。夢で戦ったことはある。夢の中ではどういうわけか、どう考えても当たってるだろうという攻撃も何故か当たってない扱いだったり、即死だろうと思える攻撃も平気だったりとしていて、そんな夢と同一で考えてはいけないだろう。
「アカリさん、なんだか団長と似て突拍子のないことを言いだしますね」
「お嬢もたいがいだからね? でも、依頼は別にアカムトルムの狩猟ってわけじゃないんだよねぇ……危険性を考えると、うーん……」
「元は勇気づけてほしい、ですね。アカムトルムを狩猟するならギルドに要請を送った方がいいでしょうね。さすがに夢の中で狩猟経験があっても、ひとりで挑むのは無謀ですし……ただ、ギルド側が受ければの話ですが。あ、ちなみに夢の中のアカムトルムはどんな動きをしてましたか?」
お嬢がアカムトルムの物まねを求めているのを無視して考え込む。
夢で戦ったアカムトルムは異常な柔らかさだった。頭に振り下ろした剣がはじかれることなく振り切れる。ボウガンで挑めば貫通弾が全身を貫く。何故か死ななかったが。
実際はそんなことないだろう。剣もボウガンも、使えばその甲殻に弾かれる。人が扱う武器で対抗するには、ひどく厳しい相手だ。1人で挑めば勝てるとは正直思えない。
ギルドに要請すれば、大人数による狩猟が行われるだろう。だがそれはお嬢も言ってたように、ギルドが要請を受ければの話である。
この小さな島の、少ない人口を守るために大人数による狩猟作戦。参加者には当然危険が付きまとう。それならいっそこの島の住民に移動してもらった方が確実だ。近くに集落はないので、アカムトルムの被害は広がらない。そもそも、アカムトルムがその火山の島から移動しないのであれば、観察で留まり、狩猟をする理由がない。
よって、ギルドへの要請は望み薄だという考えにたどり着く。
ギルドへの要請なしでアカムトルムに挑むならば。
勝つための案を思いついたが、勝つには協力者が必要だ。その協力者には死地に限りなく近い場所へ一緒に行ってもらうことになってしまうが。
それでも確実に勝てるというわけではない。そして守れるというわけでもない。危険が大きすぎる。自分ひとりの危険ではない。
自分以外の命を背負って、戦う勇気が自分にはあるか。そう考えて、ないなとアカリは自嘲した。
そういえば、白いアイルーに他のモンスターの狩猟を頼まれたとき、勇気を見せてほしいと言われていたと思いだす。
深く考えずに狩猟をしていたが、求めていたのはそういうことだったのだろう。
勇気を奮い立たせ、困難に立ち向かう勇者を見たかったのだ。
「―――使っていいですから、このノート使っていいですからアカムトルムのスケッチだけでも!」
「アカムトルムに勝つ方法、実は思いついたりしたんだけど……」
「絵に自信がなければ私が描きますから! だから……はい? 本当ですか! 夢からヒントを得たんですか!」
「いや、夢は関係なく。ただ……」
「ただ?」
「協力者がいる。それも複数。アカムトルムのいる島まで一緒に行ける存在が……私は守れないから、とんでもなく危険だけど……」
「……」
お嬢は思案気な表情を浮かべる。
他の方法を考えましょうと提案してほしい。別の方法があるならそれにしたい。
今の自分の発言は、不安にさせる発言だった。
「……やっぱり今のなし! アカムトルムを倒せても、実際村長さんたちのトラウマがなくなるかもわからないからね! 挑む理由がないね!」
自分で言って、自分で撤回する。
勇気を出すことは難しかった。これを他者に求めていたことが恥ずかしく思えた。勇者にはなれそうにない。
いや、なれそうにないのではない。自分はなれないのだろう。
システムだと割り切って狩猟を行ってきたのは、命を奪う決断を、責任を、ひとに任せていただけ。勇気などとは程遠い行動を今まで続けていたのだ。
先ほどの発言も、結局は決断をお嬢に委ねようとしていた。
こんな自分が勇者になれるはずがない。
「……アカリさんは、どうしたいですか?」
だから、そんな質問をしないでほしい。
「わからない、かな……」
言葉通り、アカリはわからない。
「勝つ方法は思いついたから、アカムトルムに挑みたい。勝てば村長たちの心を軽くできるかもしれない。ならやってやりたい……だけど失敗が怖い。失敗すれば私だけでなく一緒に来た人も死ぬ。それが怖い……だからアカムトルムに挑みたくない……」
二つの矛盾した考えが頭に巡るせいで、自分がどうしたいかも決めれない。
「悩んでいるなら……俺の頼みごとを聞いてほしい……」
アカリとお嬢だけのはずが、いつの間にかもう1人、そこにいた。
加工屋の竜人、クライからアニキと慕われている加工屋さんだった。
「へ? え? 頼み事?」
「まあ、どうしたんです?」
突然の来訪、そして頼み事。流れが全く見えなく、アカリは少し戸惑ってしまった。
「あの娘とな……話し合って、船を飛ばせるようにしようと言われた……良い考えだと思う……」
「船を飛ばすって、イサナ船ですか? まあ、そんなことができるんですか」
「ああ……ナグリ村にまた手を貸してもらうことになるが……可能だ……」
船作りのための材料を集めてきてほしいということだろうか。
「そのための材料が必要だ……大量に、上質な燃石炭が……この近くに火山で出来た島があるんだろう……俺もついていく……」
「…………え?」
火山で出来た島。
それは先ほどまで話題に出ていた、アカムトルムがいる島のことだ。
「ついでに……何か手伝えるのなら手伝おう……」
迷っている自分の、背中を押してくれているのだろう。いつからか知らないが、聞いていたのだろう。それでもなお、ついていくと、そして手伝うと言ってくれた。
やっぱり、決断はひとに任せていることになってしまう。だけど、もう自分はそういうものなのだ。そう開き直ることにした。
「兄さん……」
「に、兄さん……?」
「兄さん……! ありがとう……。その依頼、受けるよ。手伝ってほしいこともあるから、お願いね?」
「ああ……任せろ……」
「では燃石炭の採集クエストとしてだしておきますね。乱入してきたモンスターは、その場の判断で任せます。私も手伝いますからね!」
燃石炭採集というクエスト名の、アカムトルム討伐クエストとなるだろう。今からやっぱりやめようなんて言う無神経さは持ち合わせていない。
言うことは作戦の準備内容だ。
「どうだろう? 兄さん、いけそう?」
「大丈夫だろう……まだ1回は使えるようだ……」
「じゃあお願い!」
「ああ……だが、海岸までだ……大丈夫か……?」
「うん、アカムトルムの討伐数は50は超えてるから!」
「……そうか」
加工屋は深く考えないことにした。
集中するべきは、アカリから頼まれた物の調整を行う。それだけだ。
「ついでにいっぱいデコっちゃうね!」
「壊れない程度にお願いね!」
デコっちゃうってなんだろうと思いながらもとりあえずアカリは頼みこんだ。
加工専門の二人なら、きっと悪いようにはならない。そう言った信頼もあって、アカリは深く考えないことにした。
「協力者は、集まりそうか……?」
「うん、みんな乗り気!」
話をしていた時は、始めこそ不安な顔を浮かべられてばかりだったが、作戦の内容を聞いた途端に乗り気になっていったことを思いだす。
アイルーたちは種族の特性なのだろうか、やや単純な子が多いとアカリは思えた。
「白い子は嫌がってるけど、管理人さんが連れていくって言ってた!」
「それは大丈夫なのか……?」
確かに不安である。荒療治すぎる気がしないでもない。
だけど、あの子は連れていくべきだとアカリは思った。
今回の作戦、失敗すれば更なるトラウマを植え付ける。島で待ってようが、参加しようが―――
なら参加してもらうのだ。成功したとき、参加してもらった方が、心の幻は取り除きやすいはずだ。
「アカリさん、村長さんが呼んでましたよ」
お嬢がやってきた。
村長からの呼び出し。用件は想像がついている。
だが、村長にも話さないといけないことだ。そのためアカリは村長の元へ向かった。
「ハンターさん、来てくれてありがとねェ」
「私も、村長さんに話があったのでちょうどよかったです!」
クエストに行く前には話に行かないといけないと思っていた。
この島で一番、アカムトルムに怯えている人物に話さなくてはならないことなのだ。
「ねェ、ハンターさんが何をしようとしているか私にはわからないけど、危ないことはしちゃダメよォ」
「ハンターですよ。危ないことが仕事みたいな点もありますよ?」
「そうねェ。私の旦那もハンターだったから、それはよぉくわかるわァ」
だけどねェ、と村長は続ける。
「無茶はよくないわァ。きっとハンターさんは優しいから、色々考えてくれたのよねェ」
「私はただ依頼があるからやるだけですから!」
「……溶岩島に行くのよねェ」
「はい!」
ずっとニコニコしている村長。
過去の話を聞いて、そしてお嬢の推測を聞いて、もうその表情が穏やかな笑顔には感じれない。
「アカムトルムを討伐に行きます! そのため村からも力をお借りします!」
「ハンターさん、私は旦那とはぐれたことを、恨んだりしてないわァ。あのモンスターはね、黒き神って呼ばれるすごぉいモンスターなの。はぐれたことはきっと、神様が決めた運命なのよォ。だから―――」
「アカムトルムです。もしくは覇竜です!」
「ハンターさん?」
「アカムトルムなんです!」
名称にこだわるアカリに、村長はどうしたものかと戸惑う。
「生物です。私たちと同じ生き物です。神なんてものじゃない。ただ覇竜が縄張りに見慣れないものを見て襲いかかった。はぐれたことは運命なんかじゃない……アカムトルムのただの行動の結果です!」
黒き神。たしかにそういう異名もアカムトルムにはある。
だけどそれは、その呼び方は。相手を神格化し、戦う気持ちを折るものだ。神様と戦って負けても、相手が異常なのだと、悔しさを感じさせなくする。諦めのみとなる。
「相手が神様なら諦めがつく。どうしようもないことだから。そんなふうに自分に言い聞かせてるようにしか見えません……心にある幻を消したいのなら、まずはアカムトルムの名前をしっかり言うべきだと思う……」
「……」
村長は答えない。
「私たちはアカムトルムを討伐します。村長さんがかつて、村に流れ着いてから船に何度か乗ろうとしていたと聞きました……」
「……そんなことも、あったわねェ」
「間違っていたら、言ってください。本当は旦那さんを探しに行こうとしてたんじゃないんですか? いつまで経っても迎えに来てくれないのなら、自分が探しに行こうとしてたんじゃないですか?」
「……」
村長は答えない。
答えないのであればと、そのまま続ける。
「なんで船に乗ることができなかったかは、勝手な勘ぐりですけど、アカムトルムの幻が邪魔をしてるんですか?」
「……」
村長は答えない。
なんと言おうか迷っているのか、何も答えない。
そんな状態の村長に、宣言する。
「……私たちはアカムトルムを討伐します。村長さんの心の幻の、その元凶を倒します!」
「私はここで待つと決めたのよォ。だから、そんな無茶しないでいいのよォ」
「旦那さんを本当に待っているんですか?」
「そうよォ」
アカリは村にいる間に村長が言っていた言葉を思いだす。それは世間話のように、何気ない会話だった中の発言だった。
『ねェハンターさん、海に沈んだ船はお魚達のおうちになるのよねェ? じゃあここにある船も、そのうち陸の生き物のおうちになるかしらァ。なってくれるといいわねェ』
人を待っているとは思えない。自分がいなくなった後のことを言っているようだった。
旦那が迎えに来て、その後のいなくなった後のことかもしれない。
待っているのは旦那なのか、それとも、違うものなのか。
今はまだわからない。
「そうですか……でもアカムトルムの討伐は変わりません!」
「ハンターさん」
「村長さんのためではなく、依頼のためですから!」
アカリからの話は、ただの報告に終わる。
アカムトルムの幻を最終的に打ち払うのは自分自身なのだ。周囲がやれることは、選択肢を増やすことだけ。
今夜、