逃避の先で   作:横電池

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黒蝕竜編
救出と共闘と


 平原を走り回る。

 

 遺跡の跡地を踏み、時に跳躍し、時に蔦にしがみ付き、あちこちを動き回る。

 

「旦那さーん、いたかニャー?」

「ダメだー! また逃げられたー!!」

 

 ネコ太郎の問いかけに答えた通りである。ハゲコンガ捜索は難航していた。

 

 

 縄張りのフンは相変わらず生産されているのだ。だから遺跡平原から離れたわけではない。それに今回は姿も見た。相変わらずのハゲっぷりを見たが、向こうもこちらに気づいて即座に逃亡を開始したのだ。

 

「それにしても旦那さんも随分動けるようになったニャ」

「秘められた力が開花したと言ってくれ」

「ハッ。ごめんニャ。つい鼻で笑っちゃったニャ」

「前から思ってたけど旦那さんへの扱いひどくない?」

 

 ネコ太郎が言ってる通り、最近は随分と動けるようになった。まぁ体力がついてきたのだろう。あと遺跡平原に慣れてきたのもあるけど。

 今なら遺跡平原の王者を名乗れそうだ。蔦をも利用して、三次元的な動きも可能だ。ドスジャギィなんてちょちょいのちょいよきっと。

 

「今日はもうバルバレに戻らないかニャ?」

「ん? まだ早くないか?」

「そうだけど、なんとなく戻った方がいい気がするんだニャ……筆頭オトモとしての勘なんだニャ」

 

 なんだそれは。

 まぁでもたまにはいいか。ここのところ連日遺跡平原を走り回ってばっかりだ。

 昨日、団長からアカリたちがアカムトルム討伐に向かったと聞いていたし、今日には戻ってくるのかもしれない。その際の出迎え準備をしてたほうがいいかもしれない。ハゲコンガを逃がしてしまったと知られては怒られるだろうし、少しでも機嫌を取ってダメージを減らす方がいい。そういう勘が働いたのだきっと。

 

「それじゃ戻るとするか! 機嫌とりのためにも!」

「何の話だニャ……でも戻るニャー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルバレに戻ると、どこかピリピリとした空気だった。

 嫌な空気と言うか、不安げな雰囲気というか、なんだか変な感じだ。それにつられてネコ太郎も落ち着かなくそわそわしている。

 

「戻ったかクライ! 大変だ!!」

 

 団長がこちらに気づき声をあげる。何か悪いことが起きたのか。まさかとは思うが、アカリがアカムトルムに負けたのでは、という考えが一瞬よぎる。

 

「団長、どうした!」

「大変だ! あいつらが……あいつらが、筆頭ハンター達が、ゴア・マガラの討伐の任務に失敗した!」

 

 その言葉を聞き、ゲーム通りの進行に安堵と、安堵したことへの自己嫌悪を覚える。

 

「傷を負って集会所に帰還したらしい! だが……二人しか戻っていない……残り二人は行方不明となっている……!」

 

 二人が行方不明。きっとその二人は、ルーキーとランサー。

 

「とにかく集会所に行くぞ! あいつらは俺たちと無関係じゃない!」

「わ、わかった!」

 

 団長に引っ張られ、集会所まで走りだした。

 引っ張られながら思う。今回の流れは、行方不明の2人を助けに行く流れだ。ゲームでもあった。そしてそこで、ゴア・マガラと二度目の対峙をするのだ。

 この場合、対峙するのは誰か。アカリはバルバレにいない。ならば、俺しかいない。

 

 出来るだろうか。海上でのゴアの動きを、見てるだけの立場でも、反応できなかった自分が。

 

 出来るだろうか、ではないか。今はもうやらねばならない。

 

 引っ張られながら覚悟を固める。

 覚悟と言うよりは、ただの言い聞かせるだけではあるが。

 

 そうしている間に、集会所にたどり着いた。

 

 

 集会所には、困憊状態の筆頭リーダーとガンナーがいた。

 

「書記官殿……、申し訳ないです……」

「リーダー! 大丈夫か!?」

「我々は、ゴア・マガラを樹海に追い詰めました……しかし……」

 

 以前見た厳しそうな表情と同一人物とは思えないほどに、その表情は悔しさがにじみ出ていた。

 リーダーの言葉を引き継ぐように、ガンナーが言葉をつづける。

 

「ゴア・マガラの姿が禍々しく変化したの……そして辺り一帯に鱗粉が広がったわ……それから格段と強くなったの……」

「他の二人は、無事なのか……?」

「わかりません……我々は、ゴア・マガラの翼脚に薙ぎ払われ、吹き飛ばされた先の崖から転がり落ちました……運良く無事でしたが、二人がどうなったか……」

「そう、か……」

「すみません……すぐに助けに行きます……!」

 

 無理やり立ち上がろうとするリーダーを、バルバレのギルドマスターが止めた。

 

「冷静になりなさい。焦りは悲劇を生む。今はまず傷を癒すんだ。わかるね?」

「ですが……!」

「団長さん、ひとまずこの二人の心配はいらないよ。残りの二人も、ギルドが総力をあげて捜索するさ」

 

「ギルドマスター……! どうか、どうかよろしく頼む! よし、俺たちはひとまずキャラバンと合流してこのことを伝えるぞ!」

「……あ、ああ」

 

 助けに行かなくていいのだろうか。このときに樹海に行ってゴア・マガラと対峙のはずなのに、何も言われない。流れがあやふやに記憶しているせいでどう動けばいいかわからない。

 

 頭の中がぐるぐるとしている状態でふと、視界の端に毛むくじゃらがどこかへ行こうとしていることに気づいた。ネコ太郎だ。

 

「ネコ太郎?」

 

 咄嗟に声をかける。

 そしてしまったと思い直した。筆頭たちを助けにネコ太郎が向かって、その助けにプレイヤーハンターが行くのだった。ここでネコ太郎を引き留めるのはダメだった。

 

「ニャ……ボク、助けに行ってくるニャ!」

「なっ! おいネコ太郎! 気持ちはわかるがそりゃ無茶だ!!」

 

 ネコ太郎の言葉に団長が反対する。

 その様子を見ながら深く深呼吸する。吸って、吐いて、また吸って、そして吸って―――

 

「それでもじっとなんてしてられないニャ! ボクの師が危険なら、助けに行くのが筆頭オトモたるものニャ!」

「ダメだ! 残酷だがお前さん一人行ったところでどうにもならない!」

「そんなことわからな―――」

 

「俺も行く!!!!」

 

「な、何を言ってるんだクライ!?」「旦那さん!?」

 

 全力で大声を出した。今の発声なら俺も角笛を壊せるんじゃないだろうか。いや、無理だな。あれは化け物の特権だ。まぁもしかしたら、あの時は本当にぼろっちい角笛だったのかもしれないけど。

 そんなどうでもいいことを考えれる余裕が自分にあることに安心する。

 大丈夫。自棄になったわけじゃない。

 

「ランサーは俺にとっても先生みたいなもんだし、ルーキーはアカリ以外の唯一の狩友だ! だから俺も行く! ネコ太郎だけじゃないならどうにかなるだろ?」

「旦那さん……」

 

 団長は頭をガジガジと掻いて悩んでいる。

 この状況を横で見ていたギルドマスターが口を出してきた。

 

「友人を思うことはいいことだよ。だけどギルドを信じて待っていてはくれないかい? 相手はゴア・マガラ。未知なるモンスターなんだ」

「黒蝕竜ゴア・マガラ。黒いブレスでブレスは二種類。その場で爆発するタイプと相手にぶつけるタイプ。変身すれば触覚が生えて畳まれていた翼脚を使って六本足で動く!」

 

 頭に咄嗟に思いだせた情報を語った。

 その話を聞いたリーダーとガンナーが目を見開く。

 

「ど、どうしてそこまで……!」

「色々あってな! とにかく今はそんなことどうでもいいだろ! 俺も助けに行く!」

「驚いた。だけど危険な―――」

 

「あーあーあーーー!」

 

 突然の団長の奇声。

 ちょっとびっくりした。いきなり叫び出すとは思わなかったんだ。仕方ない。

 

「行って来い! 我らの団ハンター! お前さんたちはどうせここで止めても、勝手に行きそうだしな! 俺も同じ立場ならそうしてるだろうよ! はっは!」

「さっすが団長! 今度酒代一杯くらいは奢るよ! 安酒な!」

「ケチくさいな!!」

 

 ギルドマスターがあっけにとられている間に、ネコ太郎を連れて集会所を飛び出す。そばにあったポポ車に乗って走りだした。

 

 行先は樹海。

 

 ――――――ところでどうやってポポ車の手綱操るのこれ。それと

 

「ネコ太郎、前行った未知の樹海ってどう行けばいいかわかるか。あとポポの動かし方がわからん。鞭でも打てばいいのかこれ。可哀想なんだけど」

「……ボクが手綱を握るニャ……」

「頼んます」

 

 人には得手不得手というものがあるのだ。こればっかりはしょうがないことなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未知の樹海。

 以前調査に来たとき以来だ。あの時は団長やアカリがいた。今回は俺とネコ太郎のみだ。

 未知と呼ばれて未だに調査中のこの樹海から、二人を見つけだすのは難しいことなのではと思っていたが、その心配は無用なようだ。

 三本の狼煙が立ち上っていた。相手はゴア。目や鼻を使わないモンスターだからこそ、堂々狼煙をあげれたのだろう。

 

「ネコ太郎。今回の目的は救出、無理に戦う必要はないからな。仇討ちだとか言って暴れんなよ」

「わかってるニャ!」

 

 そうは言ったが、戦わざるを得ないだろうなと思う。

 今回の武器は大剣、アイアンソード改。ガンランスは素人が水洗いしたため、火薬が湿気ってしまったのだ。深く反省している。けど洗わないと臭かったのだ。しょうがない。

 以前ゴア対策に用意していたウチケシの実は、ずっとポーチに詰まったままだ。消費期限とかないよな?

 

 自身の装備を確認してから、立ち上っている狼煙を目指して走り出した。

 

 

 

 狼煙の元に辿り着いたが、周囲には誰もいなかった。

 

「あれを見るニャ!」

 

 ネコ太郎が示した場所には見覚えのある物が落ちている。白い鱗、団長の持ってたアイテムだ。

 そのアイテムの周りには不自然に草が積まれていた。

 

「……罠? 落とし穴、か?」

「みたいだニャ」

 

 あのアイテムがゴア・マガラを引き寄せるという推論から、罠の囮に使っているのだろうか。

 なら付近に隠れているのでは。罠にかかった形跡がないのだし。

 

 辺りを見渡すと狭い洞穴がある。そこくらいしか隠れられそうな場所はない。

 近づくと向こうから声がかかった。

 

「ア、アンタ! どうしてここに来たんスか!」

 

 要救助者、発見である。

 

「救急隊気分だからだよ。……ランサーは?」

「センパイもいるッス。けど気絶してるッス……」

「気絶?」

 

 ゲーム中では意識はあった気がするが、勘違いだったろうか。肩を借りての移動はしてたと思うが。

 

「さっきまでフラフラでも意識はあったんだけど、急に倒れこんだんだ……。でもアンタが来てくれて助かるッス。ひとりでセンパイを担ぐのはキツイッスから」

「あ、ああ」

 

 勘違いではない。確実に知らない展開だ。

 

 でもなんでだ。突然倒れた? 白い鱗を持ってたから執拗に狙われたため、とかだろうか。それとも別の何か?

 いくら考えてもわからない。

 

「ネコ太郎、周囲の警戒頼む」

「任せるニャ!」

 

 洞穴の奥で倒れているランサーを、二人で担ごうとした時だった。

 

「あの黒いのが来たニャ!」

「―――っ! ネコ太郎も隠れろ!!」

 

 声は大丈夫なはず。やつは耳頼りに動いていない。たぶん、だけども。

 ネコ太郎、ルーキーとともに洞穴に隠れ、ゴアを見る。大丈夫、あいつはあのアイテムに引き寄せられただけなはず。なら罠にかかる。

 あいつは鱗粉で、白い鱗のような自分の体に関係するもので、周囲の感知をしているのだ。

 今なら鱗粉に触れさえしなければ……

 

「うぅ……ぐ……」

 

 ランサーの呻き声が聞こえる。

 

 何故だろう。

 

 ゴア・マガラが、洞穴を見ているのは。

 降り立ってから数秒程度しかしてないが、こちらを見ているのだ。

 

 鱗粉はまだここまで広がっていない。

 白い鱗ではなく、こちらをずっと見ている。

 

 ランサーの呻き声に反応した? いや、その前からずっと見ていた。何か別の物に?

 だけど白い鱗以外、あいつに関係するものなんて……

 

 

『さっきまでフラフラでも意識はあったんだけど、急に倒れこんだんだ……』

 

 

 唐突にルーキーの言葉を思い出した。

 体力の限界が来たから、そう思っていた。だけど、ゲーム中にも突然眠るような動きがあるのを思い出した。

 狂竜症。

 ゴア・マガラのウイルス。

 それに感染しているとしたら。

 

 そして、そのウイルスの基は、ゴア・マガラの鱗粉。

 

「ま、マズイッス!!」

「最悪だ!!」

 

 ゴアが俺達に向かってブレスを飛ばしてきた。地を這う黒い物質。鱗粉と同じ、ウイルスの塊。

 

 とにかく大剣でガード姿勢をとる。避ければランサーに当たってしまう。

 

「ってぇ!!」

 

 大剣ごしの衝撃。当たったら爆発するウイルスの塊ってなんなんだ。改めて訳わかんねぇ。

 

 なんにしろ、今はランサーが狙われている。そして今のブレスでウイルスがこの洞穴に漂いだした。漂うウイルスは時間とともになくなるとは思うが、ゴアの気をひかないといけない。

 

「やっぱりやるしかないか……」

「……自分も手伝うッスよ」

 

 意識のないランサーをひとりで運ぶのが辛いからか、ルーキーも参戦するようだ。

 かといって、さすがにランサーをそのままにはできない。狂竜症がゲームと違ってどう影響するかわからない。

 

「ネコ太郎、これランサーに無理やり食わせといてくれ。抑える効果があるはずだし」

「……ウチケシの実ニャ? わかったニャ!」

「あ、じゃあ自分からはこれ、活力剤ッス」

 

 なんでプレゼント交換みたいなノリになったんだ。

 ふざけているような言葉だが、ルーキーも俺も、ゴア・マガラから目を離してはいない。あの竜は自身の感知範囲を広げるためか、鱗粉を撒いている。ある程度広がったら襲いかかってくるだろう。

 

 ルーキーにもウチケシの実をある程度渡す。無駄に詰め込みまくったおかげで、未だにポーチの中にはウチケシの実が10ほどある。それ以外入ってないが。

 

「んじゃいくか」

「そうっすね。アルセルタス以来ッスね。一緒に狩りすんの」

「ドスジャギィ以来だろ」

 

 というより、ルーキーと同じモンスターを相手にするのは初めてかもしれない。ドスジャギィとアルセルタスは結局別々だったし。

 

「ま、あの時はある意味別々だった、か!」

 

 言いながらゴアに走りよる。もう少しのんびり緊張をほぐしたいが、これ以上はいつ動きだしてもおかしくないからだ。

 

「じゃあ初めての共同作業っすね!」

「変な意味に聞こえる言い方やめろ!!」

 

 最後にツッコミ所ある言葉が飛んできたせいで、いい感じに緊張もほぐれた気がした。

 

 

 

 

 そして、鱗粉漂う範囲内に足を踏み入れた―――

 

 

 

 

 

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