逃避の先で   作:横電池

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流れを変えられず

 樹海でのゴア戦でついた傷は結構ひどかったらしい。

 

 らしい、というのは実感がイマイチわかないからだ。確かに凄く痛かった時もあったが、今じゃ痛くないし、戦いに夢中だったときも痛くなかったからだ。

 とはいえ手当てを拒否する理由もない。それにランサーはやっぱりしんどそうだった。

 そのため手当てのあと、少し休憩してからポポ車の元まで戻ることにした。もちろん団長の大事なアイテムの回収は忘れない。

 

 戻ったらギルドの迎えの人たちが来ていた。

 見たことないハンターの人たちも一緒だ。もう少しで捜索に出るところだったらしい。樹海にぽつんと残されたポポを見てそれほど慌ててはなかったとのこと。

 ポポさんの図太さが事態を大きくしなかったことに感動を覚えちゃう。

 

 

 とにかく、樹海の救出は無事に終えてバルバレに戻れることとなった。

 

 

 戻る道中、ひたすらルーキーがうるさかった。そして逆に、ランサーはひたすら静かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、無事で何より……! クライもよくやってくれた!」

 

 バルバレの集会所について真っ先に駆け寄ってきたのは団長だった。

 考えたら今回の行動って結構偉業に近いのではないだろうか。筆頭と呼ばれるハンターたちを返り討ちにしたモンスターを撤退まで追い込み、なおかつ危険な状況だった筆頭のうちの二人を救出。

 まぁ俺ひとりの力じゃなかったけど。けど結構貢献はしたと思う。だからギルドからのクライへの評価が上がったのではないだろうか。

 

 とにかく団長に、無駄にドヤ顔を見せてみた。

 

「はっは! 今回ばかりはその表情が正しいかもな! 普段からその表情をやってたらアレだがな! でもやってそうだなお前さん……」

「おおっと? どんどん褒める流れが消えそうだぞ?」

 

 ネコ太郎といい団長といい、英雄凱旋って流れにしてくれないのはなぜなのか。

 

 団長と気の抜けるやり取りをしていると、青い服の人もとい筆頭のリーダーがやってきて深々と頭を下げてきた。

 

「ありがとう、感謝する! そして、すまない……! 君のおかげで二人とも無事だった……!」

 

 ここまで感謝されるとは思わなかった。どこかリーダーはゲームの時より俺のこと嫌ってそうな気がしてたから。こういう時はどう返すべきなのだろう。さっきと同じようにドヤ顔? いや、それは絶対ないな。

 

 ふざけた空気の後にこんな真面目な人の対応なんてどうすればいいのだ。どういたしまして? なんか違う気がする。気にするな? あらやだキザっぽい。

 

「は、はぁ……」

 

 絞りだした言葉がこれである。

 

 だってしょうがないじゃないか。苦手意識あった人にいきなりこんな感謝されたらこうなるわ。

 もうキザっぽくてもいいや、気にするなって言おう。それにさらにカッコいい言葉もつけてやる。こんなチャンスは滅多にないのだ。

 

「気にする―――」

「クライ無事!?!?」

 

 俺のキザセリフが乱入者の咆哮でかき消された瞬間であった。そしてその乱入者の存在によって、我らの団がバルバレに到着したことを悟る。

 

「ハンターさん落ち着くんだニャ……」

「なんだか団に新入りが増えてるニャ?」

 

 一緒に入ってきた白いアイルーの存在に、ネコ太郎が目ざとく気づいたようだ。新入りいびりでもする気なのだろうか。というかそのアイルー……やっぱりアカムトルム関係であの臆病アイルーか。

 

 アカムって村クリア後の裏ボス的な位置やん、とか思ってたけどマジで裏ボスアカム倒してきたのか。順番滅茶苦茶だなこいつ。

 

「そこな新入りオトモ、ボクは筆頭オトモ、その名はマスク・ザ―――」

「あの黒いのと戦ったって聞いたよ! 怪我してない!?」

「まぁ怪我はしたけど大丈夫大丈夫。な、ネコ太郎、アカリになんとか言ってやってくれ。間近でこの大声結構耳に来るわ。いつもの三割増しだわ」

 

 ネコ太郎の自己紹介を受けてか、臆病アイルーが自己紹介をしだす。

 

「ネコ太郎さん、よろしくニャ。ぼくの名前はニコっていうニャ」

「ボクはネコ太郎じゃなくて―――」

「って結構大きい怪我じゃん!! ていうか腕防具は!? まさか壊された!?」

 

 臆病アイルーの名前はそういやニコだったか。っていうかつまりニコはアカリのオトモになったってことでいいのかな。サブオトモとかじゃなくて。

 

「アカリたちもバルバレに戻ったか! 見ないうちに新しい団員が増えたのか? どんどん賑やかになるな! ニコだったか、俺は我らの団の団長をやってるものだ。よろしく頼むぞ!」

「あ、俺は一応アカリと同じく我らの団のハンターのクライ、よろしくニコ」

 

 何故かネコ太郎が信じられないものを見るかのような表情でこちらを見ている。新入りが気にいらないのだろうか。そんな陰険な性格だとは思わなかったが。

 

「な、なんで普通に名前呼んでるニャ……それならボクの名前も……」

「クライさん! 聞きましたよ聞きましたよ! ギルドが追っていた謎のモンスターであるあの黒い竜、ゴア・マガラと再び対峙したって! それを知ったとき思わず叫んでしまいましたよ! それでどうでした!? どんな感じのモンスターでした!? 船の上とはまた違ったことしましたか!? ちょっと再現してほしいんです!!」

 

 お嬢までいつもよりはるかに大きい声で詰め寄ってきた。

 ネコ太郎が何か言ってた気がするけどまぁいいや。

 

 久々に会ったためか皆何割か増しで勢いが強い。

 そんな最中、ギルドマスターが咳ばらいをして注目を集めた。

 

「再会の喜びを割って入ってすまないね。いやはや、君のおかげで間一髪の所を助かったそうだね。それに、君がもたらしてくれた情報が見事に一致したことに驚いたというのに、二重の驚きだよ。あのゴア・マガラと対峙して戻ったハンターがいようとは。ほっほほ」

 

 そういえば、後先考えずにゴア情報を言ったんだっけ。やばい、どう言い訳しよう。

 ゲーム知識です。とか意味不明だろうし、未来予知ですとか言っちゃおうか。痛々しいけどある程度は未来わかっているようなもんだし。でも結構ズレてる部分が多いんだよなぁ……ニコが今すでにいる点とか。

 

 どう言おうか悩んでいると、筆頭リーダーが口を開いた。

 

「………ギルドマスター、お願いがあります」

「ふうむ、なにかな?」

「この者に、私達の果たせなかったゴア・マガラの討伐の任を託したいのです。この者なら、きっとやってくれます! どうか、お願いいたします!」

 

 未来予知範囲内のやり取りが行われ出した。

 まぁ細かい流れは覚えていなかったけど、これで我らの団ハンターがゴア・マガラの討伐に行くのだ。そして討伐して、しばらくして討伐できたと思ったら実は死んだふり的な感じとかなんとか。

 

 まぁ討伐できたけど実はまだ生きているって展開。それを今回、俺はわかっている状態となる。なら見逃すことはまずないだろう。

 

 少しだけ、ゲーム通りにして、起きた事件を解決して英雄に、という流れも考えたがマッチポンプすぎる。それにゲームと違った脅威が起きかねない。狂竜症で出たらめに暴れられたりして村に被害が、なんてなっては大変だ。

 なので、ゲーム通りの展開にする気はない。

 

 そう考えていたら、思わぬ意見が飛び出てきた。

 

 

 

「リーダーには悪いが、私は反対だ」

 

 

 

 ――――――え?

 

 筆頭ランサーが、厳しい表情を浮かべてそう言った。

 

 あれ? こんな展開あったっけ。いや、なかった気が。あれ? いきなり予知範囲ズレてる? ていうかランサーの表情がまるでリーダーのごとくだ。ひょっとして入れ替わり、とかふざけたいようなふざけたくないような。ダメだ、テンパってしまった。

 

 

「先輩、確かに本来は私達の任です……彼に託すのは間違っているとはわかっています」

 

「彼は私が不甲斐ないせいで、怪我を負ってしまったんだ。そんな状態の彼に任せるのは避けたほうがいい」

 

 

 俺の身を案じての反対のようだ。だけどそれなら大丈夫だ。普通に動けるし、平気だし。

 そのことをランサーに伝えれば、知っている流れになるだろう。

 

 

「見た目は派手だけどあまり痛くないし、結構普段通り動けるから大丈夫だって。それに今度こそきっちり倒し切りたいし、任され―――」

「駄目だ。認めるわけにはいかない」

 

 

 にべもなく却下された。なんでかかなりピリピリしている。本当に中身入れ替わってるんじゃねって疑惑が膨れ上がってしまう。

 

「センパイ、どうしたんスか。あの時、最後までピンピンしてたから、自分も大丈夫だと思うッスよ」

 

 ルーキーの援護射撃が来た。どんどん援護してくれぃ。今回のゴア狩猟は特に俺が行かないとダメなのだ。死んだふりもどきをするとわかっている俺が行かないとダメなのだ。

 

 

「彼はゴア・マガラに噛まれています。その直後、やつのブレスを浴びました……狂竜ウイルスに侵されているかもしれません。安静にさせるべきです」

 

「それは本当かね……?」

 

「そうだな?」

 

 

 ギルドマスターがランサーに、そしてランサーがルーキーに確認をとる。それに対してルーキーは激しく首を上下した。援護射撃が裏切りに変わった瞬間である。この流れだとマジで俺行けないじゃないか。

 

「あの……狂竜ウイルスってなんですか?」

 

 アカリが挙手して尋ねた。そういえば旅中はその単語は出なかったから初耳になるのか。

 その疑問にギルドマスターが答える。

 

「……ゴア・マガラが各地で振りまいているウイルスを、我々はそう呼称しているのだよ」

「ウイルス……侵されたらどうなるんですか?」

「実のところ、未だに完全に解明はできていないんだ。ただわかっていることは、抵抗力が低いものがウイルスに感染すると、ある症状が出るようでね……」

 

 ゲームだと、ハンターが感染したら一定時間内に一定数攻撃するとクリティカル率が上がるバフである。時間内に一定数攻撃できなかった場合は、受けるダメージ増加と自然治癒がなくなるだっけ。

 モンスターが感染した場合は狂竜化で、なんか眠りモーション後強くなる摩訶不思議。

 

 

「今のところ人が発症した報告例がないんだよ。モンスターが発症した場合、ひどく狂暴化し、そして幻覚でも見ているのか何もないところに攻撃をし出す。などといった症状が見られる。そして何よりも、発症した者の体液が他の生き物の体内に入ると、ゴア・マガラを介さずにその生き物にもウイルスが感染していく。もっとも、まだわからないことだらけだから他にも何かがあるかもだけどね」

 

「彼はゴア・マガラとの戦闘中、明らかに様子がおかしかったのです。怪我を忘れたかのように、捨て身のような攻撃ばかりでした」

 

 

 なんだか狂竜症に発症している扱いになりそうだこれは。そりゃブレスに当たったけど発症していない。むしろそれなら狙われていたランサーの方が発症疑惑があるわ。唐突に意識を失ったらしいし。

 

「高揚というか興奮というか、そういうので脳汁が溢れて派手に動いただけで……とにかく狂竜症を発症してないことを主張します!」

 

 このまま黙っていてはゴア討伐がなしになってしまう。発症してない主張をする。

 

「それにさっきの話だと、発症してるなら幻覚症状も出てるはず!」

「まだそこまで進行してないだけかもしれない。いずれにしろ、感染の疑いがあるなら安静にするべきだ。身体をしっかり休めて抵抗力を高めれば発症はしない」

 

 どうしても行かせたくないようだ。だかそれだと

 

「ならゴア討伐は誰がするんすか」

「じゃあ私がやるよ! クライとは他人というわけじゃないし、代わりにやるから休んでて!」

 

 空気が読めるか怪しい感じのアカリが言った。

 なんだかどんどん味方が減っている。

 

「そのゴア・マガラとは船の上で戦ったし、ウイルスとかよくわかんないけどとりあえず攻撃を受けなければいいんだよね?」

 

 しれっと言うこの人はやっぱり化け物だわ。

 

「空気中の鱗粉も吸い込みすぎないことも大事だ。ゴア・マガラの討伐、お願いできるだろうか」

「了解です!」

「リーダー、勝手に話を進めてすまない」

 

 俺もリーダーと同じく話に少し置いてけぼり感あるよ。

 

「いえ、先輩が決めたことなら大丈夫です。それに、最終的にはギルドマスターが決めることですから」

 

 リーダーはあっさり俺への推薦をやめた。知ってた。

 

 もはや完全にアカリがいく流れになってしまった。

 その結論を裏付けるように、ギルドマスターもアカリがゴア・マガラ討伐にいくことを許可した。

 

 こうなっては仕方ない。アカリに、確実にトドメをさすように、と伝えておこうか。

 いや、そう言われたからといって、倒れた相手に執拗に攻撃するタイプではない。

 確実にやるにはやはり俺自身が行くべきだ。だが、この分だと周りは許してくれそうにない。

 

 

 なら、こっそりついていこう。遺跡平原でやることは知っているのだ。遺跡平原へのポポ車に先に乗って隠れておくか、それか先回りするか、だ。

 

 遺跡平原についてしまえばあとは見つかっても大丈夫だろう。そこまで来て帰れとはならないはずだ。

 

「じゃあ俺はちょっと市場で安眠グッズでも買って寝てくるよ。ふて寝してやんよ!」

「はっは! そういじけるな! ゆっくり休め、我らの団ハンターよ!」

 

 いじけた振りをして集会所から出る。中ではゴア・マガラ討伐のために色々話し合いがまだ続くようだ。

 それにゴアの場所がわかるまでにまだ時間が掛かるはず。今のうちに遺跡平原行きのポポ車の中で身を隠せるような、大きな布か何かを買って準備するのだ。

 それが買えたらポポ車で隠れて待機。完璧な作戦だ。

 

 

 

 無事に布を手に入れてポポ車に乗り込む。ここまで幸い、団の人たちに見られることはなかった。

 布をかぶさり隠れるのはなんだか童心に帰った気分になれる。布が掛けられているからと言って、中をわざわざ覗くタイプではないだろうから、ここまで来たらもう大丈夫だ。

 

 あとは出発まで待つのみだ。

 

 しかし、透けたりしないよう分厚めの布にしたせいで、遮光性抜群だ。

 

 何が言いたいかというとあれだ。

 

 ――――――眠い。

 

 ダメだ、これは少し眠ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――目を覚ますと、揺れを感じた。地震などではない。荷車による揺れだ。

 すっかり眠ってしまっていたようだ。しかし、揺れているということはポポ車で進行中ということか。

 

 揺れと共に、頬に当たる風も相まって意識が覚醒してくる。

 

 あれ? いつの間にか顔が出ている?

 

「あ、目覚めた?」

「んぁ、あれ?」

 

 寝ている間に見つかっていたようだ。そばにはアカリがいた。見つかり方が間抜けというか、予想外だが降ろされているわけではないことに安堵。

 完璧な作戦だ。とか考えておいて失敗とか恥ずかしいしな。

 

「クライさん、とってもよく眠ってたニャ」

「だねぇ……」

 

 ニコもいた。ネコ太郎はいないようだ。

 

「随分辺りが暗くなってない? ひょっとしてかなり寝てた俺?」

「もう熟睡だったよ。移動中に気づいたから引き返さずそのままにしてたけど……」

 

 なんだかんだで作戦通りっぽい。やっぱり完璧な作戦だったようだ。

 

「それじゃ着いてきちゃったことだし、ゴア討伐俺もやるよ。どうしても見届けたいことがあるしな」

 

 見つかったのなら堂々宣言する。今更バルバレまで戻ることもないだろう。もし見つからずに遺跡平原についていたら、こっそりと、最後のトドメを狙うつもりだったが。

 

「え?」

「今更引き返すのもあれだろ? 大丈夫、邪魔はする気ないから」

 

 反応的にBCで待機してもらう予定だったのだろうか。だがここはごり押しでいく。俺と同じくこいつも押しに弱いはずだ。BCで待機しててと言われても強引についていく方向へ持ってい―――く?

 

 アカリに迫って力説しようとしたところで気づいた。

 

 

「―――アカリ、なんかお前臭くね?」

「そぉい!!」

「へどばっ!?」

 

 

 思ったことをそのまま言ったら強烈な頭突きが襲ってきた。でもしょうがないじゃないか。なんか臭いし。

 

「ゴア・マガラが逃げた先がなんか臭かったから匂いが移ったのかなぁ……最悪……」

「なんていうか、うんこ的な香りが少しする……って、へ? 逃げた先?」

 

 アカリから漂う臭いも気になるが、それ以上に気になるワードが出てきた。

 

 

「あ、うん。もうゴア・マガラの討伐、終わったよ?」

「今からバルバレに戻るんだニャ」

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 完璧な作戦の崩壊理由は、寝坊だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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