逃避の先で   作:横電池

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そこにいたのは

 眠っている間に、ゴア・マガラの討伐が終わってしまっていた。

 

「今からゴアの死骸確認しに戻らない!?」

「え、なんで?」

「ほら、ちゃんと死んでるか確認しとかねぇと!!」

「大丈夫大丈夫! ピクリとも動かなくなってたし、剥ぎ取りまで出来たんだしちゃんと仕留めたよ!」

 

 それにまたあそこ行くの嫌だよ、あそこ臭かったし、とアカリは続けた。

 

 不味い。いや、不味くはないのか? ただゲーム通りの流れになっただけで、問題はない? 狂竜化がゲームとどう違う状況になるか不安になって考え過ぎただけかもしれないし、大丈夫、か?

 ダメだ考えても頭が痛くなりそうだ。意味もなくガシガシと頭を掻いて、何か悩み中ですオーラを出してみた。

 

「クライさん、大丈夫ニャ?」

「いや……ああ。大、丈夫」

 

 この際流れ通りでいいかもしれない。狂竜化の話はギルドマスターから聞いたが、ゲームと違う要素はたぶんあんまりない。なら被害が想定以上に、なんてこともないだろう。

 それに、狂竜ウイルスの被害にあうのは、ティガレックスと、ババコンガだっけ……。あとジンオウガ? ストーリー上だとこれだけだったはず。それらを確実に狩猟すればいい、か?

 

「まだ体調悪いんじゃない? ウイルスにやられてるかもしれないんだし、しっかり休んどきなよ?」

 

 なんだかんだでゴア・マガラ相手に結構やれたんだ。今あげた三頭ともやれるはずだ。それに今度はアカリもいるだろうし、考えれば考えるほど今回の件は問題なかったかもしれない。

 

 だんだん気が楽になってきた。寝坊でミスとか、と自己嫌悪がひどかったが挽回可能だ。余裕が出てくると別のことに考えを回せるようになってくる。

 

 そういや次の目的地どうなるんだろう。

 

 未だにシナト村のシの字も出てない状況だ。

 なのにチコ村のアカムトルムは終わった状況である。

 

 次どこ行くことになるんだかもうさっぱりだ。順番滅茶苦茶で次は裏ボスのテオに、とかなってもおかしくない気がしてくる。

 

「次の目的地ってどこか知ってたりする?」

「ん? 目的地?」

「団の目的地。バルバレにまだ滞在予定かなーって」

 

 俺がポポ車に潜んで寝ている間に話とかしてないかな。正直期待はしてないけど。ゴア騒動中だし。

 

「あー、団長の持ってた白い鱗について情報がちょっとわかったらしくて、まぁなんか曰く付きの素材っぽい。それで、その情報場所がすごい遠いみたいだからその前にナグリ村に行くことになってるよ!」

「ほへー」

 

 そういや一度ナグリ村行って船が飛ぶようになるんだったか。

 

 忘れてたけども滅茶苦茶な順番になったわけじゃなさそうだ。とにかくナグリ村で確か、グラビモス倒して船作りだっけ。燃石炭が欲しいから邪魔するグラビ倒してーって流れで。

 

「飛行船を作るのにナグリ村の協力がいるんだって! そのための材料の燃石炭はもう取ってきたし、村に着けばすぐ工事に入れると思うって!」

「待って」

 

 やっぱり順番おかしいわ。

 

「ん、どしたの?」

「いや、燃石炭もうあるん? え? なんで?」

「飛行船作ろうって話が出て、溶岩島に取りに行ったんだけど……あ、その話出た時クライいなかったね!」

 

 え、燃石炭のためにグラビ狩りじゃなくてアカム狩りしてきたのこの人?

 順番どころかもう何かと色々おかしいわ。

 

 そしてそんな動機で倒されたアカムが可哀想だわ。ニコもそんなんで良かったのか。まぁ本人が良いならいいけども……

 

「でも今回もクライは寝てたほうがいいのかなぁ。例の感染症がどうなってるかわからないし、念には念をとって。ていうか前も寝てたし中々タイミングがいいのか悪いのか……」

「前は仮病じゃないから、そして今回も仮病じゃないから、実感ないけども。でも念には念をとって船作りは休みますはい」

「―――最近狩りに関しては熱意出てきてたけど、それ以外はやっぱりだらける気満々だねぇ……」

 

 狩りに関しても熱意というわけではないけども。

 

「それじゃナグリ村で飛行船が出来たらいよいよシナト村か……」

 

 なんだかんだで大きな流れは変わってない。うん。そのはずだ。

 我らの団ハンターが二人いるというイレギュラーからちょっと流れが変になっただけだ。いや、本来はイレギュラーでもなんでもないかもしれない。異常だと感じる俺の存在が異常であったり……賢いことを考えようとしたけど意味がわからなくなりそうだ。やめだやめ。

 

「ん?」

「……シナト村?」

 

 視界の隅で何か動いた気がして、そちらに目を向ける。

 その際、アカリが何かひっかかるように言った。だけどそのことを気にすることはできなかった。

 

 

 ドスジャギィがいた。

 

 

 アカリもニコも、歩いているポポもまだ気づいていないようだ。

 

 襲ってくる様子もない。満腹状態なのだろうか。そういえばジャギィ達がいない。

 なんにしろ変に刺激をして暴れられるよりは、今は様子を見たほうがいいかもしれない。警戒はするに越したことないが。

 

 ドスジャギィは何もしてこない。近づいてもこない。

 

 

 ―――右目を怪我している?

 

 

 ドスジャギィの右目に何か刺さっていた。

 

 

「クライ?」

「どうしたんだニャ?」

 

 

 アカリとニコが声を掛けてきた。

 

 

「あ、いや。そこにドスジャギィがいて……あれ?」

「え!?」

 

 

 アカリが立ち上がり、示した方向を見たが、そこにはもういなくなっていた。

 

「どっかいったみたいだ」

「うーん……ポポが怖がる前に少しペースあげてバルバレに帰った方がよさげだね!」

 

 なんだったんだろうあのドスジャギィは。

 怪我をしていたのも気になる。右目に刺さっていたのは枝のような、細長い何かに見えた。

 

 一応周囲は警戒しておいた方がよさそうだ。

 

 

 それからバルバレまでの帰り道で、ドスジャギィは出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルバレに戻ると歓迎ムードが待っていた。主にアカリに対して。

 

 そりゃなんたって筆頭ハンターが負けた相手を倒してきたんだし、そうもなるよね。ムービーもあったよね。

 団の皆と筆頭ハンターたちで楽し気な空気のムービーあったよね確か。

 

 

 その横で何故俺は正座を強いられているのでしょうか。

 

 

「どうしてゴア・マガラの討伐についていったんだい」

「いや……あの……」

「答えるニャ」

 

 

 ランサーとネコ太郎の前で正座している我らの団ハンターこと俺と、リーダーやルーキーとハイタッチを交わしている我らの団ハンターことアカリ。この差は一体なんなのか。

 

「なんか臭いッスねアンタ!」

「そぉいっ!!!」

「ウワァアア!!」

 

 あっちはなんて楽しそうなのだろうか。

 ルーキーが腹パンされたことから目をそらせば、とても楽し気な空気である。

 

「ははは。あっちは楽しそうだね」

「そっすね!」

「それで、なんでついていったんだい? 答えてくれるかな?」

「ひぇっ」

 

 穏やかな口調なのに怖い。いや、穏やかな口調だからこそ怖い。

 ネコ太郎もランサーと共に責める気満点だ。ここに味方はいない。

 

「あ、あの、別にゴアと戦ったわけじゃないし、ただ、たまたまポポ車で寝てただけって言うか……」

 

 嘘は言ってない。たまたま寝てしまっていたのだ。嘘ではない。ポポ車にいたのは確信犯だけど。

 

「……」

「…………」

 

 長い沈黙が訪れた。

 

 その一方で、向こうではルーキーがアームロックをかけられている。アニキが「それ以上いけない……」とアカリを止めていた。楽しそうである。

 誰一人こちらに助け船を出さないのは、しっかり怒られておけということだろうか。

 

 だがしかし、怒られる要素はきっとないはずだ。

 だってゴア・マガラと結局戦えてないし、ちゃんと宣言通り寝てただけだし。たまたま場所が悪かっただけに見えるはずだ。

 

 心の中で理論武装をしていると、大きなため息が聞こえた。

 

「……色々と言いたいところだが、一度言いだすと止まらなくなってしまいそうだからやめておこう」

「やった!」

「……」

「いえ、なんでもないです」

 

 正直者は馬鹿を見るとはこのことだろうか。正直なリアクションをしたせいで視線が痛い。

 

「狂竜ウイルスに感染しているかもしれないんだ。無茶せずしっかりと身体を休めるんだ。君はただでさえ、抵抗力が低いようなのだから」

「え? あー、あの時の風邪は色々間が悪かっただけというか……」

「アレを持ってきてくれ」

「了解ニャー」

 

 弁解の言葉を無視してネコ太郎に何か指示を出したランサーである。最近ネコ太郎だけでなく皆俺への扱いひどい気がする。

 

「なにそれ……」

「ウチケシの実をすり潰して作った薬だニャ」

「ウチケシの実の、要素なくない?」

「そうかニャ?」

 

 毒々しい紫色をして、ゴポゴポと音を立てているそれがですか。

 俺の知っているウチケシの実要素が一切ないんですが。せめて青色になっといてほしい。青色もたいがい不味そうな色だけど。

 

「私も樹海で感染していたようだが、ウチケシの実のおかげか発症はしていない。たとえ感染してなくても身体には害がないんだ。何が何でも飲んでもらうよ」

 

 なんという罰ゲームかこれは。真面目なランサーが言うからきっと嫌がらせではないんだろうけど。ネコ太郎だけだったらまず嫌がらせだろうけど。

 ていうかウチケシの実は抑えるだけで治すわけじゃないけど……これ飲まないと解放されない雰囲気である。

 

「……い、いただきま、す……」

 

 色も臭いもなんかキツイ。口に入れるのを思わず拒否してしまう。

 

「ちゃんと飲むニャ」

「くっ……ころ……!!」

 

 鼻をつまみ、目をつぶって一気に喉へ流し込んだ。

 吐きたくなるのを我慢して飲み込む。

 

「うげぇ……」

 

 なんとか飲み干せた……。これでもう大丈夫だ。

 

「あとはちゃんと安静にして休むんだ。いいね?」

「あ、はい」

 

 ようやく解放されそうである。長い正座のおかげか足が若干痺れていて辛い。

 

「痛っ……」

「大丈夫ニャ?」

「だいじょばない……足が痺れて……あと腕もちょっと痛い……」

 

 シビレ罠にかかったモンスターの気持ちってこんな感じだろうか。これは辛いわ。

 そんな馬鹿なことを考えてる間にネコ太郎は俺の足をつんつんとつついてきた。

 

「うぉぉぉ……!」

「これに懲りたらもう無茶はしちゃダメニャ」

 

 そう言ってネコ太郎はアカリたちの元へ、ランサーと共に行ってしまった。

 

 

 

 足の痺れが収まったら、キャラバンで不貞寝してやる……

 

 

 

 楽し気な雰囲気の集会所をひとり寂しく出てキャラバンもといイサナ船へ向かう。

 

 あの激マズ飲み物を飲んでから、腕が痛くなり出したんだけど絶対異常成分だったと思えてしまう。そういえばアロイアームが壊れてしまったんだった。

 アニキに今度何か頼まないといけない。それまで腕はクンチュウアームに変えておこうか。

 

 ベッドまで行き、アロイ防具を外すと結構汚れてしまっていることに気づいた。ところどころ凹んでいたりもする。

 ……これは全身新しくした方がいいかもしれない。今まで何故気づかなかったのだろう。

 新しいのができるか、もしくは修理してもらうまではブレイブシリーズに戻そう。

 

 今まで俺が狩猟したモンスターの素材から何ができるだろうか。

 

 狩ったモンスターを思いだしてみる。

 

 クンチュウ、ドスジャギィ、ケチャワチャ。

 

 うーん、少ない。

 一応ババコンガとゴア・マガラとも戦ったけど、そういやゴアのほうは報酬もらってもいいんじゃないだろうか。いや、でも狩ってないしなぁ。でもなぁ。あんなに頑張ったんだしなぁ。

 

 まぁその辺のことは団長やお嬢、ジィさんの領分だろうし、頼らせてもらおう。

 

 

 

 

 

 ナグリ村に行って、飛行船が出来たらいよいよシナト村だ。

 

 ストーリーの最後の村だ。

 

 まだそこから色々あるだろうけど、もうすぐ終わりなんだなという感覚が来る。

 なんでか憑依なんてしてしまっていて、ここまで随分長く感じた。

 

 もとに戻れる方法は相変わらず見当もつかない。

 ゲームのストーリーラスボスが終わったら戻る、なんて気もしていない。

 

「たいていは原作が終われば何でか戻るって感じかねぇ……。この場合、シナト村の騒動が終わればそれにあたるのかねぇ……」

 

 戻れなければどうしようか。

 このまま団にいていいのだろうか。

 

「あー……憑依物の話も好き嫌いせず、ちゃんとリサーチしとけばよかったなぁ……」

 

 現実逃避で馬鹿馬鹿しいことをしていたあの頃を悔やむ。

 

 憑依物は無個性状態なゲームのキャラのものしか見てなかった。過去を持った人物への憑依は、悪霊のようなものに感じて見ていなかった。しかし今の自分は、クライという人物の身体を乗っ取っている悪霊のようなものだ。ひとりの人生を奪っている。キャラクリされた存在だと思っていたのに、俺の知らない過去の話が出るたびに、罪悪感がどんどんとあふれてくる。

 

 罪悪感など気づかぬふりをして、何食わぬ顔で団に居続けるか、それとも抜けるか。抜けてどうにかなるわけではないけども。今から考えておいたほうがいいかもしれない。

 

 どちらにせよ、その選択までに、クライのなりたがっていた姿に近づいておきたいものだ。

 

 

 

 

 

「結構寝てしまったのに、案外眠気も来るもんだなぁ……」

 

 

 シナト村での狩猟に備えて、眠気に抗わずにぐっすり眠ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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