逃避の先で   作:横電池

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空飛ぶ勇魚

「空を自由に飛びたいなーって理由での狩猟って結構アレじゃね?」

「行き過ぎない範囲に収まってたらセーフだニャ。ダメだったらギルドから止められてるニャ」

 

 なんだかんだで地底火山。

 ズワロポスの狩猟である。

 

 草食種のズワロポスである。グラビモスではない。

 

 冒頭の言葉通り、飛行船のためにズワロポス狩りに来たのだ。

 ナグリ村に着いて工事を頼んだが、飛ぶための燃石炭はあれど、飛行船の気球部分の素材がなかったのだ。柔軟かつ丈夫で防水性もあるズワロポスの皮が素材として必要らしい。

 そして工事費の代わりについでにグラビモスの狩猟を頼まれた。そっちはアカリとニコが向かっている。

 

 ズワロポス相手なら無茶もしないとだろうということで、皮集めが任された状況だ。

 

「今ごろ村じゃ船の大改造中かぁ」

「戻るころには気球部分の骨組みもきっとできてるニャ」

 

 仕留めたズワロポスの皮を剥ぎ取るのも結構苦労する。地味に固い、重い、ヌメヌメするの三拍子だ。

 

「一度BCに置きに戻るか。そろそろ背負っていけそうにない」

「そうだニャ」

 

 すごい、こう、平和だ。

 探索以外でここまで平和なことは今まであっただろうか。いいや、ない。

 大型モンスターと戦ってばかりのイメージあったけど、こういうのが本来の姿なのではないだろうか。まぁ一時の状況かもだけど。

 

「これ、四往復くらいしないとかなぁ……」

「運べる量的にも、そういうことになるニャ……」

「うへぇ……なんでBCをあんな高い場所に設立したのか……」

「モンスターに襲われないために決まってるニャ。いいから登るニャ」

「このオトモさんったら安静にさせる気なーい」

 

 だらだらしながら蔦をよじ登りだす。

 大型モンスターの狩猟より、素材採取系のクエストのほうが面倒な気がしてきた。ゲームでも、今この瞬間でも。

 

「しかし、こんだけ運んで、皮が有り余ったらなんか、いやだな」

 

 登りながらぼやく。余ったら余ったで、保管しておくか商人が捌くだろうけど。

 

「余ったら、素材から新しい武具でも、作ってもらったら、どうかニャ」

 

 新しい武具……ズワロポスの素材での武具ってなんかあったっけ。

 

「合羽しかないじゃないか」

 

 思いだせたのは合羽しかなかった。

 実際それくらいしかなかったはずだ。防具というより完全に生活具である。

 

「でも、この皮から出来る合羽なら頑丈だろうし、防具にはなる、か……やっと頂上っと」

「一往復で、これはしんどいニャ……」

「だな……」

 

 採取系クエストはBCの場所によっては本当にひどいものだわこれ。採取専門ハンターを目指していたあの時に、この状況を知ったらどうしていたことか。

 

「垂皮油もちゃんと取ってるかニャ?」

「あたぼーよ。無駄には出来ない」

 

 薬にもなるから取っておいて欲しいと言われている。肉も油も皮も無駄にはしまい。

 

「さて……………………降りるか」

「降りるニャ……」

 

 飛び降りるなんて馬鹿なことはできない。蔦にしがみ付き、少しずつ降りるのだ。これもまたしんどい。

 

 

 地底火山での採取クエは地雷クエストだ。そう確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからも何事も異変なく、往復を終えて採取は終了した。

 飛行船づくりの手伝いはさすがにしなくていいそうで、村でゆっくり休むことにした。

 

 それから、うとうととしていたらアカリに引っ張られた。

 

「飛行船ができたみたいだし見に行くよ!」

「んぁ……もうできたのかぁ」

「前みたいに本当に出発寸前とか嫌でしょ。ほら、シャキっと!」

「うぅーい」

 

 前といえば、すでに船に運ばれていたあの時か。

 さすがに今回もそれはなんとも恰好がつかないし、起こされたことはよかったかもしれない。

 

 そのままずるずると引っ張られるのは恥ずかしいので手を離してもらい、別々で飛行船を見に行った。

 広場には結構人がいた。団の人たちだけでなく、村人、たまたまいただけっぽい旅人など。

 

 とりあえずこういう時はまずは団長のもとへ行ってみよう。

 

「やったぞ……! ついに、飛行船が完成したぞ……! おお、クライ! 見てくれ、イサナ船が空を飛べるようになったぞ!」

「私がデザインしたんだっ! どこまでも勇ましく飛べるようなデザインにしてみたんだけど、どうかな!」

 

 団長と娘っ子の、団の中で大声トップスリーのうちの二人の畳みかけるラッシュである。

 ちなみにもう一人は上位ハンターさんである。

 

「空飛ぶクジラって、ファンタジー色ありありで大好きだなぁ」

「勇魚だよ! クジラだけど勇魚だよーっ!」

「違いがわからん」

「オッショサーン! クライさんがー!」

「アニキにチクる要素あった!?」

 

 このロアルドロスの化身め。

 正直な感想を言っただけだというのにアニキに泣きつくとは。

 

「いいデザインだと、思うぞ……」

 

 アニキって何でも褒めそうな雰囲気あるよね。勝手なイメージだけど。

 

「いよいよ……じいさんの故郷に行くのか……俺のじいさんが見た景色が……俺にも見えるだろうか」

「アニキのじいさんの故郷?」

「ああ……団長のアイテムについて載っていた資料が……俺のじいさんの故郷に関して書いてあった……まさかこの旅で、帰郷するとはな……」

 

 シナト村ってアニキの故郷でもあったっけ。

 あ、でも全員竜人族の村だし、そうあってもおかしくないか。商人のジィさんだけじゃなくアニキも竜人だし。

 

「お前はあの時、不貞寝すると言っていなかったからな……その故郷の名前は……シナト村という村だ……もっとも、俺もあまり知らないが……」

「ほへー」

 

 まぁいなかったけど知っていたとも。

 ゲームの流れとズレてたらわからなかったけど。

 

「シナト村は標高に位置する村だそうです。その村のそばには天空山というすごいお山があるそうですよ。そこにはどんなモンスターがいるのか……ああ、もうじっとしてられませんね!」

 

 そばにやってきたお嬢は平常運転だ。前半は受付嬢たるに相応しい姿だったのに、後半からハッスルしすぎだ。

 

「天空山自体は珍しいだろうけど、モンスターはほかと変わらないんじゃね?」

「何を言ってるんですか! 環境が変われば同種でも異なる姿を見せてくる、自然の中で生きるモンスターはそういうものもいるんですよ! わかりやすいのであれば保護色であったり、食性が異なることによる体表の変化であったり……そうです! 亜種なども出現するかもしれません! ああ、ひょっとして、夢の村なのでは……?」

「なるほど意味がわからん」

「クライさんならわかるはずです! なんせクンチュウのお腹に顔をつっこむほどのモンスター愛を持って―――」

「あーあーあーーー!!! そんなの知らなーい!!」

 

 ダメだ、お嬢のそばは精神をゴリゴリ削られていく。謎の呪文を唱えてくるのだこの人は。

 

「ワッハッハ! 飛行船ができたのにモンスターの話で盛り上がることがあるかいな! 面白い人らやわな!」

「俺とこの変人一緒にしないでくれない?」

「クライさんひどくないですか?」

 

 団の中で大声四天王の一角、竜人ジィさんがお嬢との会話に混ざってくる。これを機に押し付けなくては。

 

「お嬢、せっかくだしジィさんにお嬢のモンスター愛を教えてやるんだ! ジィさんがその愛に感化されたらひょっとしたらモンスターの素材をいっぱい仕入れてくれるかもしれない!」

「なるほど! モンスター愛の伝道師を私、頑張ります!」

「モンスターの素材はハンターに頼むもんやと思うわな……」

 

 飛行船ができたおかげか皆テンションまたも高いな。この分だと肝っ玉かあちゃんも飛行船に興奮して……あれ?

 なんでか離れて村人と何か喋っている。

 気になるしちょっと見てこよ。

 

「ありがたいニャル……このことはヒミツにしておいてほしいニャルよ……」

「俺っちもこういうのは初めて作ったから楽しかったぜ。まぁ、あんまり悪用しないようにな」

「任せるニャル。いつも私をカモにする商人相手の時だけしか使わないニャル」

 

 何か村人からかあちゃんが受け取っていた。

 盗み見ると、サイコロだ。

 

「かあちゃん、それ何?」

「これはグラサイっていう特殊なサイコロニャル。ピンが出やすいこれなら、負けることはもう……」

「イカサマじゃん」

「だ、旦那!? 今見たことはヒミツにしてほしいニャル!」

 

 飛行船より別のことに夢中な方がお嬢以外にもいるとは。

 しかもイカサマ準備とは。

 

「別にいいけど、それ使って勝っても負けても高級なタダ飯食わせてくれるなら」

「口止め料ニャルね……いいニャル。商人から搾り取って、高級食材をタンマリ使ってやるニャルよ」

「負けても高級食材な」

「大丈夫ニャル。負けることなんてないニャルよ」

 

 自信満々なかあちゃんであるが、ぶっちゃけ負けるイメージしかないから念押ししておく。

 

 たぶんあれでしょ。丼からサイコロが出ちゃって負けるパターンでしょこれ。

 

「負けても高級食材な!」

「わかったニャルよ。だから少し声を落としてほしいニャル」

 

 言質はとれた。高級料理が楽しみである。

 なんだかんだであまり高い飯は出ないのだ。栄養が大事だとか、さすがかあちゃんである。まぁ食材の仕入れなどの問題もあるのだろう。高い食材を何度も仕入れるのは難しいだろうし、しょうがない。

 

 そういやいつ頃出発するのだろうか。

 団長のもとへ戻ろうとしたら毛むくじゃら二匹が何やら話している。ネコ太郎とニコだ。新人いびりの可能性もある。なにやらネコ太郎はニコに嫉妬してるっぽいし。

 もしも新人いびりであるなら、旦那さんと呼ばれている俺が止めなくてはいけない。

 

「この際言っておくニャ! ボクの名前はネコ太―――」

「ネコ太郎!」

 

 何かネコ太郎が強い口調だったのでつい大声になってしまった。本当にいびりっぽく見えちゃったのだ。

 

「ネコ太さんニャ?」

「違うニャ! 旦那さん急になんだニャ!」

 

「いやつい、ごめんごめん。ネコ太郎がニコと何話してるか気になってな」

 

 やっぱりネコ太郎さんなんだニャーとニコは言った。どうやら改めて自己紹介をしていただけのようだ。

 

「だから違―――」

「そういやニコ、グラビモスの狩猟どうだった? アカリに吹っ飛ばされたりしなかった?」

 

 ターゲットとられると頭狙いにくい、という理由からオトモを連れてこなかったゲームスタイル。それの影響で、オトモと狩りをしている姿なんて見たことがないから不安なのだ。ニコが角笛とか吹きだしたとたんに吹っ飛ばしたりしてそうで。

 

「吹っ飛ばしはしてなかったニャ。転ばせて甲殻を無理やり剥がしたりはしてたニャ」

「あ、グラビモスさんが転ばされたのね」

 

 そしてさすがにグラビモスを吹っ飛ばしたりは出来なかったのね。良かった。まだギリギリ人間だ。

 

 この分だとニコを吹っ飛ばしたりはしていないようだ。それもよかったよかった。

 

「クライさんは、アカリさんと昔から一緒だったって聞いたニャ」

「んー……」

「アカリさんはどうやって、あんなに強くなれたか知ってるかニャ? 僕もとっても強くなりたいんだニャ」

「……んー、たくさんモンスターと戦えば強くなるんじゃないか? 俺はよく知らない」

「クライさんも知らないんだニャ」

 

 でも正直、アカリの強さは別格すぎて目指せるものじゃないと思うよ。

 さっきの話の、無理やり甲殻剥がすとか、ちょっと意味わからなすぎるし。

 

 その場面を想像してみたけど、俺の好きなジンオウ一式装備がゴリライメージに侵食されてしまう気がして途中でやめた。

 

「ところでボクの名前言っていいかニャ? ボクの名は」

「あ、団長さんが呼んでるニャ」

「お、ほんとだ。そろそろ出発かな」

 

「なんかもう、こういう流れになる気がしてたニャ」

 

 何か言ってるが、まぁ大事なことではないだろう。とりあえず団長の元へ向かう。

 

 

「団長、もうすぐ出発?」

「ああ、そうだ。いよいよ海の向こうへ、それどころか空の向こうへ行くことが出来る!」

 

 テンション高ーい。だけどもそうもなるか。

 言ってしまえば自分の家の車が空を飛ぶようになったみたいなもんだし。いや、なんか違うか? まぁテンション上がるよな。飛行船って。

 

「不思議なもんだな……」

「不思議? 空の向こうへ行けることが?」

「今までこのアイテムについてずっと旅してたが、お前さんたちと出会ってから、すべて事が廻り出した気がするんだ。きっともうすぐ、この旅も終わりを迎えてしまう……そんな気がしてな……」

 

 確かに、団長から見たら変化は大きいものだ。

 ずっと旅してきたのに今までは手掛かりひとつなくて、それなのに新しいハンターが来てから手掛かりは掴む、キャラバンは飛行船になる、と大きな変化しまくりだ。

 

「まあ、まだ終わったわけじゃないし、旅の目的が終わっても旅自体は団長続けそうだなぁ」

「はっは! そうだな! このアイテムだけでなく、世界は未知で満ちているからな!」

「未知で満ちている。ふふ、しょうもな―――ぢぃっ!?」

「その未知を暴くためにも、お前さんにはまだまだ頑張ってもらおうかな! はっは!!」

 

 急に肩組まれたせいで舌を噛んだんですが。

 

「頼りにしてるぞ! 我らの団ハンターよ!」

 

 大きく揺らしてくる団長はとても楽しそうである。

 耳元でこんな楽し気に大声を出されてはどう返せばいいものやら。

 

「揺らすな! 揺らすな!! あとちょっと酒と加齢臭する!!」

「はっは!」

 

 肩を組む力がより強くなった。

 

 

「ちょっと痛い! 痛い! どんどん力強めてない!?」

「はっは!!」

 

 

 

 

 

 結局出発まで、ハイテンション団長の謎の攻撃を受けていた。

 

 

 

 

 

 

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