風鳴りの村
ちょっと前まで海を航海していた船が、今は空を飛んでいる。
「なんというか、とんでもない改造だよなぁ」
しかも空を飛ぶようになりつつも、航海機能も砂上船としての機能も残っているそうだ。気球部分だけでなく甲板部分も改造が施されたイサナ船。一介のキャラバンが持つには高性能船すぎないだろうか。
ひとり呟いたら団長が隣にやってきた。
「全くだな! ムスメっ子の発想には目から鱗だ。これも若さゆえの発想力かなァ」
「……加齢臭がするって言ったこと結構気にしてる?」
「はっは!」
気にしてるわこれ。絶対気にしてるわ。何も言わずに笑い声だけ出すのこわいわ。
「しっかしあれだな。こんなでかいのが空を飛んで、リオレウスとかが襲ってくるんじゃって思ったりしたけど……」
「あァ、そりゃあ、イサナ船のほうが上空のほうを飛んでいるからな。気づいてないんじゃないか?」
「あ、そういう理由か」
さっき下を見たらリオレウスが飛んでいて、やべぇカプコン製飛行船ピンチ! とか思っちゃったわ。
空の王者と言えど、自分より上の位置は死角なのだろうか。
「シナト村に着いたら、まずは村人達から色々と話を聞かないとな」
「あのアイテムについて?」
「あァ。シナト村の伝承に関わっているアイテムの可能性が高いそうだ。伝承についても、研究所のほうにはちゃんとした資料がなくてな。現地で調べるしかないわけだ」
「ほへー」
伝承。なんだっけな。まぁシャガルマガラ関連で、しかも不吉系だったはずだ。
「しばらくシナト村に滞在することになるだろう。世話になりっぱなしというわけにもいかない。何か力を貸せることがあればどんどん貸していこう」
「任せろぃ」
「はっは! すっかりやる気だな!」
クライが英雄に近づく最後のチャンスでもあるかもしれないのだ。やる気にならねばならないのだ。
まぁ、シャガルマガラ戦ももしかしたらアカリが行くことになるかもしれないが。
「まァ、まだ村に着くまで時間がある。空からの景色を楽しむのもいいが、身体を休めるのも大事だからな」
「りょーかーい」
休めと言われた気がするが、正直この景色はテンションが上がるのだ。風を浴びながら空高く飛んでいるのだから仕方ない。
もうしばらく見てから休むことにしよう。
雲を突き抜けてようやく見えてくるシナト村。とんでもない標高にあるものだ。
そしてその周囲に見える、これまた雲を突き抜けて浮かんでいるように見える山々。その中でも一際大きい山がある。あれが天空山なのだろう。
村の大きさは小さい。チコ村といい勝負ではないだろうか。チコ村と違うのは、住んでいる住民が竜人族ばかりでアイルーはいないこと。それと風車や旗がいっぱいであることだ。
一歩間違えたら真っ逆さまに落ちてしまいそうな立地だなぁ。
近づいてくるイサナ船に村人たちも気づいたようだ。物珍し気に皆見上げている。
注目を集めながら、村の門の横に船を着けて降り立った。
「お騒がせしてすまない! 俺たちは我らの団という一介のキャラバンだ!」
団長が挨拶をした。しかし――――――
「スッゲー! くじらデッケー! くじらスッゲー! くじらって飛ぶんだ! スッゲー!!」
「おおお、わしが持っていた本にはくじらは飛ばぬと書いてあったが、あれは嘘だったんじゃな! 新たな発見をこの歳になっても出来るとは……うぅ……なんだか涙が」
「くじらは海を泳ぐものだと思ってたんだけど、空も泳ぐんだなあ」
「なあなあ! あんたたち、くじらに乗ってきたんだよな! スッゲー! くじらってほんとスッゲー!」
「マカフシギですね~」
「かめへんかめへん、くじらだって風に乗って飛びたくなるんじゃ」
「すいすい空を泳いでよう来たな。じいさん、寝るなら店戻り」
「まあ。我らのイサナ船は大人気ですね。団長が霞んで見えちゃうほどに」
お嬢の言葉の通りだ。イサナ船へのインパクトが、団長の言葉を聞こえなくさせているようだ。そして、くじらへの誤解が広まっている。
「ここが……じいさんの故郷、シナト村か……」
「いろいろべんきょうするぞーっ!」
加工屋師弟はイサナ船が村へ誤解を与えたことは気にしてないようだ。まぁくじらと遭遇することもないだろうし、このままでいいか。
「あー……。まァそうだな。イサナ船の勇ましさは目をひくものがあるからなァ! はっは!」
ダメだ……あの笑い声が、今回ばかりは負け惜しみの笑い声にしか聞こえない……。
「なあなあ! 帽子のおじちゃん! そのくじら、イサナ船って言うのか!」
「おォ! そうだとも! 勇ましくてカッコいいだろう?」
「カッケー!」
「そうだろう!」
村の少年と意気投合し始めた。正直カッコよさはわからないけど、きっとカッコいいのだイサナ船は。
「ところで坊主、この村で一番の物知りが誰か教えてくれないか?」
「それなら長老のせっかちじいちゃんは色々知ってるぜ!」
少年の元気いっぱいな答え。その声から自分のことを示していると気づいた老人が前に出てきた。
「旅の方かね? こんな場所までよう来なすった」
長老っぽさを出しているが、さっきまでくじらの姿に泣いていた老人である。その姿を見ていたから、威厳とかが感じれない。
「こんにちはジイさん! ここはシナト村で間違いないだろうか!」
「さよう、ここはシナト村。風鳴りの村とも呼ばれていてな。天吹く風が常に村を駆け抜けておるのじゃ」
「ほお! 天吹く風か。それで村中に風車があるわけか」
団長って何気に聞き上手だなぁと思える。話してて嬉しいリアクションとか結構してくれるし、あの明るさだ。打ち解ける早さも凄まじい。
「風の話を聞くためのかざぐるまじゃ。その昔、山に悪しき風が吹き荒れたとき、勢いよく回って知らせてくれたという話が残っておってな。健気なかざぐるまじゃろう」
「健気かはわからんが、気持ちのいい風車だな!」
「うむうむ。何を求めてきたか知らぬが、ご覧の通り、竜人とかざぐるまばかりじゃ。まあ、ゆっくりしていくがよい」
あっという間に滞在許可をもらったようなものである。
代表同士の話し合いの間は手持ち無沙汰だ。カッケー連呼少年がイサナ船に乗り込んで走り回っている。なんという我が道を行く少年なのだろう。にこやかな青年が穏やかにたしなめている。
そんな光景をしり目に団長と長老の話は進んでいく。
「そいつはありがたい! 世話になろう!」
「とはいえ旅の方がこれほどの人数で来ることは滅多になくての。使ってない家は足りるかの……」
「その点は大丈夫だ。俺たちはイサナ船があるからな。ところでジイさん、後で聞きたいことがあるんだが……」
「聞きたいこととな? 今じゃいかんのかの?」
「あァ。曰く付きのアイテムのようでな。あまり人に聞かせないほうがいいかもしれないと思ってな」
団長は気まずいことも勢いで言うタイプだと思ってたが違った。不吉なアイテムってすでに調査で知ってるんだっけ。具体的にどう不吉とか知らない感じだろうか。
「ふうむ、まぁよいじゃろう。ならば、ワシの家に来なさい。そこで話を聞くとしよう」
「ありがたい! それじゃあ俺はジイさんと少し話をしてくる! 皆は自由にしてくれ!」
その言葉を聞いてカッケー連呼少年がイサナ船の船内へはしゃぎながら入っていく。
いや、お前じゃないと思うよ。自由にしてくれ発言は。まぁ別に立ち入り禁止って訳じゃないからいいけど。
団の人たちは各自で自分たちの施設を村に設置しだした。ナグリ村の時といい、なんでそうも村の一員になる速度がすごいのか。
「どうしよっか?」
アカリが聞いてきた。
自由にしていいと言われてもどうしたもんか。アカリも俺も。同じように思いつかなかったようだ。
「んー。団長と長老の話でも聞きに行く、くらいか?」
「そうだねぇ……そうしよっか!」
一緒に行動するつもりだろうか。
別に駄目ってわけではないけど、ちょっぴり避けたい。ふとした拍子に昔の話とか振られたら気まずいのだ。俺には答えることはできないし。なので二人きりでの行動は出来れば避けたい。
「長老の家の広さがどんなもんかわかんないし、アカリが行くなら俺はいいよ」
「えー……団長がずっと追ってたあの鱗についての話、クライは気にならない?」
「俺は別にー」
「あの鱗について、知ってるから?」
――――――何を言われたか、わからなかった。
「……っいや、知らないけども」
とぼけながら答える。自分の心音がやけに大きく聞こえる。落ち着かない。不安を感じる。
何を俺は不安になっているのだ。嘘をついていることがバレそうだから? 疑われているような感覚が怖いから?
「そっか……」
「……急にどうしたんだよ」
「……んー、なんとなく! 知っていたら、教えてほしかったなーって思っただけ! 知らないって言うならいいよ!」
そう言い残して、アカリは団長の元へ走っていった。
アカリがいなくなってからも、未だに心音がうるさく聞こえる。アカリは何であんなことを言いだしたんだ。
なんで鱗について知ってると思ったんだ。
考えようにも、気持ちが落ち着かない。
ただ立ち尽くしていると、ネコ太郎が心配げにやってきた。
「旦那さん、どうしたんだニャ?」
「ん……ちょっと落ち着かなく……いや、なんでもない」
「なんでもないようには見えないニャ。何か悩み事なら筆頭オトモたるボクが聞いてやってもいいニャ」
悩み事。
きっと悩み事に関することなのだろう。悩んでいることを、どう言えばいいかわからない。というかそもそも言えるような内容ではない。
「―――ほら、お嬢が言ってた天空山ってあのつり橋を渡っていくのかなーって思ってな。あの橋を渡るの想像したら不安で不安で。あと次は何の武器使おうかなって思ってな。ランサーに言われた武器で使ってないのはあとハンマーだし、ハンマーで行こうかな次狩場行くときは」
「旦那さん、大丈夫ニャ?」
ネコ太郎の中で俺は高所恐怖症のイメージがついてしまったかもしれない。いや、きっとついてしまっただろう。高いところは大丈夫か? なんて聞くのなら―――
「――――――大丈夫じゃないかもなぁ」
そう答えてもいいはずだ。
「ていうか武具を新調したいし、アニキに相談してくるわ! 今のままじゃブレイブ一式だしな!」
ブレイブ一式、ただし腕だけクンチュウアームだ。村ラスト付近でなんで初期防具なんだ。武器も考えたら初期武器のようなものだ。
防具は正直、天空山のモンスター相手じゃどれだけ良い防具でも叩き潰されるイメージがあったりする。全回避必須と考えたほうがいいかもしれない。なら武器を新調したい。
まぁ欲を言えば両方新調したい。
どちらを新調するにしても、まずはアニキと相談だ。アニキの元に行くため、その場から走り去った。
「武具を新調したいです……」
「そうか……」
アニキの元で安定の物静かテンションで会話する。まぁだからと言って、周囲が静かなわけではないが。
「クライさん新しい装備作るんだね! 私もオッショサンも張り切っちゃうよ!」
「ああ……それで、何を作ればいい……?」
娘っ子のハイテンションとアニキのローテンション。
どちらも本人たちにとっては普通のテンションである。
「まずは武器を新調したい……かな……」
「そうか……」
「それならもうちょっと待っててくれるかな! もうすぐオッショサンのプレゼントが出来上がるから!」
「……すまない、新しい武器を……実はもう作り始めていた……だが間に合わなかったな……」
アニキの仕事の早さよ。
前もって準備にすでに取り掛かってるとかもう本当に、この団の中でダントツの善意である。
「初めて使う素材でな……手探りなんだ……今更だが、大剣で良かったか……?」
アニキの作ってくれた物なら何でもいいけども。『なんでも』って結構困る答えだっけか。
「おうともさ!」
それが出来るまでは今ある装備で頑張るしかないか。
「遠慮はするな……その大剣以外も、作れる……何か作ってほしいものがあるんだろ……」
「ほぁ? 大剣で忙しいんじゃ……」
「珍しいものはすぐには出来ないが……ものによっては明日までには出来る……」
「あ、私も手伝うからね!」
それなら頼んでみようか。
何が珍しいもので、何がそうでないものかイマイチ俺にはわからないけど、とりあえず言ってみよう。
「それじゃ今回はちょっとハンマー使おうかなって思って」
「ハンマーか……」
一応理由はある。もともと来る前にハンマーにしよかなとネコ太郎に言ったこともあるが、それ以外にもほら。ハンマーって要は鈍器じゃん。研いだり打ち伸ばしたりする必要はなさそうじゃん。じゃあ出来るのも早いんじゃないかなと。
「丁度よさげな素材がある……明日には出来るぞ……期待しててくれ……」
「らじゃー!」
よさげな素材って何だろう。
アカリが狩ったアカムの素材はルールとかで回してもらえないから、それ以外だとなんだ。最近俺が倒したのって……ケチャワチャまで遡らないといけない。そういや何気にケチャワチャの素材使ってないし、それかもしれない。ケチャのハンマーってあったっけ。覚えてないや。
何にしろ、新武器を持って天空山に行くのが楽しみになってきた。
新しい武器と言うのはワクワクするものなのだ。
しかし天空山って浮いているわけじゃない? 雲の下は見えないけど、遠景からはでかい山である。まぁ所々、浮いているようにも見える部分があるが。
ということは一応麓から登ることも可能なのか。絶対に断崖絶壁とかありそうだから不可能くさいけど。
リオレウスとかはともかくジンオウガもいる山だし、完全に浮いていたらジンオウガに厳しすぎるか。
「ん? おおぅ!?」
ふと村の端っこを見たらクンチュウが一匹いた。
この糞虫の生息域広すぎないだろうか。というか村にまで出てくるとは、まぁこいつは崖とか登れるしなぁ。
とりあえず蹴り飛ばしておこう。前のようにひっつかれるのでは、と戦々恐々としていたが、問題なく蹴り飛ばせた。
一匹だけで来るとは愚かな糞虫よ。
「何してるんだい?」
にこやか青年さんが話しかけてきた。確かこの人って大僧正様だったっけ。
「クンチュウがそこにいたんでちょっと」
蹴り飛ばしました。
こう、穏やかそうな人の前で暴力的な言葉って言いにくい。なので少し言葉を濁してしまった。
「ええ、本当かい? うーん、迷い込んだのかな」
「あ、やっぱり村とかに出るのって珍しいんですか」
反応的に滅多に現れないようだ。天空山にはいるのは知ってるけど。
「うん。この村にはクンチュウが好みそうなものがないからね」
「好みそうなもの?」
「この村は滅多にお肉とかは出ないからね。出ても残さず皆食べるから、クンチュウが欲しがるものはないんだ」
君たちの団も、あの料理長さんが丁寧に食材を調理しているから生ごみが出ることもなさそうだね。と続けた。
そういえばクンチュウって腐肉を食べるとかだっけ。
「一匹だけでしたし、やっぱり迷い込んだだけかもしれないですね」
「それなら良かった。小型と言っても子供達には危険だからね」
青年は安堵の表情を浮かべて言った。
念のため、先ほどクンチュウを蹴った場所を見やる。
他にクンチュウがいないか改めて確認だ。
うん、いない。
クンチュウが這った跡もないから大丈夫そうだ。
一応不要かもしれないけど、料理長に残飯とか出てないか聞いてこよう。
ついでに高級料理の件も改めて念押ししておこう。