「霞ヶ草?」
「うん。霞ヶ草っていう天空山特有の植物なんだけど、腰痛の薬の材料になるんだ。この村はみんな畑仕事をして暮らしているんだけど、腰を痛める人が多くてね。少し手伝ってほしいんだ」
村に滞在して数日、団長は長老の家にある難しそうな本を読みふけっていた。文字を読むより実際に体感した方が早い、と言いそうな人物が本を読みふけるこの違和感。
その間、いつものパターンで村の人に何か力になれることはないか聞いてまわると、にこやかな青年から霞ヶ草の採取を頼まれた。
「わかりました! ……クライもいいよね?」
「ん、大丈夫大丈夫」
「ありがとう。モンスターが生息している山だから危険も多くてね。ハンターさんについてきてもらったら助かるよ」
青年も一緒にくるようだ。俺とアカリだけだと、霞ヶ草がどんなものかもわかってないから、助かるけども大丈夫だろうか。狩場に一般人て。しかも正体は大僧正様というお偉いさんて。
「それじゃ、私とクライ、あとネコ太郎と一緒に来てくれますか!」
「うん、お願いするよ」
「あれ? ニコは?」
「一応ほら、5って数字は避けときたいかなーって思って!」
四人までってなんか決まりあったんだっけ。
ぶっちゃけ知らない。
「5は忌数だからね。少しでも危険な場に行く場合は五人という人数は避けたほうがいいって言われているよ」
大僧正様が教えてくれた。そういう迷信的なのがあったんね。それで狩りへ行くなら四人までなのか。
「あー、それでニコはお留守番なのな」
「まぁ、護衛対象とかもその人数に含まれるなんて聞いたことないから大丈夫だとは思うけどね。一応ゲン担ぎ的な?」
「ゲン担ぎとはまた違うような……」
まぁ霞ヶ草の納品クエストって感じか。
あれだな。
絶対乱入あるわこれ。昔のポポノタン納品クエ思いだすわ。トラウマクエスト思いだすわ。
でもモンハン4ではそういうのなかったはずだけど、これもズレだろうか。
「それじゃあ準備が出来たら行こうか」
「了解ー、ネコ太郎呼んでくる」
ネコ太郎を連れて、そして新しい武器を装備していくのだ。
新しい武器。飛行船のために燃石炭を集めてたらついでに集まった素材から作られたハンマー。
ガンハンマーである。
リボルバーの弾倉のハンマー。中に火薬が詰められていて、叩くたびに爆発が起きるハンマーだ。火属性だよ。
でも火属性って言っても爆発ですよ。爆破属性とも言っていいのでは。というかそもそも属性ってなんだよ。
まぁさすがに構造上、ガンランスの砲撃よりは弱い爆発である。しかも回数制限ありである。火薬は有限なのだ。一応オンオフ出来るから普通のハンマーとして基本使って、いざと言う時に火薬使用に切り替えていくことになる。
ちなみに渡されるとき、絶対水洗いをするなと注意された。ガンランスの水洗いを引きずられている。
なんにせよ、結構いい武器である。アイアンソード改で少し前まで戦っていたのに、属性付きのハンマーなのだ。
村の子供たちのオモチャにされているネコ太郎を救出し、天空山に行くことを伝えた。
「ようやくオトモらしいことが出来るわけなんだニャ……! 筆頭オトモはやっぱり狩場でこそ輝くんだニャ!」
「この村来てからお前大人気だったじゃん。超輝いてたぞ」
「追いかけまわされてもみくちゃにされてたのを輝いていたなんて言わないニャ……」
「まぁすぐに出発だしササッと準備すますぞー」
と言っても大して準備する物はないけど。
俺はガンハンマーを装備し、ポーチには消臭玉を入れる。ババコンガのクエストじゃないけど、来るとしたらババコンガな気がするからだ。
とはいえ念のため閃光玉も入れておく。他のモンスターでもいいように。
「それじゃ行くんだニャー!」
採取クエだというのに、ネコ太郎も随分と張り切っている。そんなに子供に追い回されるのは嫌だったのだろうか。恨むならそのマスコット的な見た目を恨むのだ。
村と天空山を繋ぐ長い吊り橋を渡る。
とんでもない標高で、吊り橋を渡る。大きい橋とかではない。ギィ、ギィ、と音を立て揺れる吊り橋である。
「吊り橋効果とか言ってられないくらいドキドキするんだけど」
「初めての人にはやっぱりこわいよね。でも大丈夫! 村の自慢の錬金術師がこまめにチェックしているからね。滅多なことでは切れたりしないよ」
村の自慢の錬金術師て、マカフシギィなあの子か。
やべぇ、不安しかない。
「そんなビクビクしてないでさっさといこーよー! 吊り橋の上に長くいるほうが怖くない?」
「はは、それもそうだね」
大僧正様はともかくアカリも平然としているのは何でなのか。ネコ太郎なんてさっきから俺の後頭部にずっとしがみついてるぞ。
「ネコ太郎だけがまともな気がしてきたわ……」
「……」
やっぱりこの高さは異常だよな。無言だけどわかる。わかるぞ、その気持ち。
「―――てニャ」
「どうしたネコ太郎?」
ネコ太郎が何か弱々しく発言した。ぴったりくっついてるのに全く聞き取れない。
「早く、行ってニャ……揺れがひどくて……ウプッ……、吐きそうニャ……」
「待って耐えて耐えて耐えて!? そこで吐くなよ! 絶対吐くなよ!!」
後頭部にしがみ付かれている状態でリバースなんてされたくない。そんな時限爆弾を背負った焦りゆえか、吊り橋への恐怖心は自然と薄れ、急いでアカリたちに追いつくため走った。
「ふーっ。少し休憩しようか」
なんとかネコ太郎のリバースによる被害は食い止められた。とはいえ、すぐに動くのは無理そうなのは、誰が見ても明らかだった。
「申し訳……ないニャ……風が気持ちいいから、すぐ落ち着くニャ……」
「もし風上でリバースしてたら汚れた風が吹くわけか。恐ろしい狩場だなこれは」
「あっという間に臭いも広がるね……とんでもない狩場だわ……」
場合によっては村にまで香りが飛んでいく可能性もある……?
そう思えるくらいには、風が常に吹き続けている。場所が場所だけに当然といえば当然だけど。
「それにしても、BCがあるってことはほかにもハンターが来たことあるんだねぇ……」
「滅多に来ないけどね。時々学者さんと一緒に来て調査しているんだ。天空山にも遺跡跡があるからね。ここ以外にも下の方にキャンプがいくつかあるはずだよ」
「ほへー」
アカリに呟きに大僧正様が答えた。
他にもBCがあるということは、村からじゃなくて麓から移動するのだろうか。とんでもなく大変そうだ。
「この扉の先に遺跡があるの?」
アカリが紋章の書かれた古い大きな扉を指しながら聞いてきた。
BCにある唯一の扉。
禁足地への扉だっけ。
「どうだろうね。実は僕もその扉の向こうへ行ったことはないんだ」
「んー、頑丈そうだし、開けるのも大変そうだし……」
何故開けようとしているのだこいつは。
「無理にこじ開けようとするなよ……? なんか出来そうで怖いわ……」
「いやいや、出来ないからね?」
「はは、開けるのは止めてほしいかな。この扉は代々守られてきたものだからね」
こじ開けることが出来なかったからよかったけど、もっと早く止めてほしかった。もし開いてたら気まずい空気になりかねないんだし。
「守られて? 神聖なものなんです?」
「実はそれもよくわかってないんだ。神様が降りた場所とも、悪しき風が生まれた場所とも言われててね。生き物が間違って入り込まないように固く閉ざされてるってことしかわかってないんだ」
「悪しき風……じゃあ、この先が禁足地、ですか?」
「うん。長老から聞いてたのかい?」
「ええ、まあ……」
禁足地の場所がわかったからと言って、今の時点では旅の目的である白い鱗が何なのか、わからないままなはずだ。禁足地へ入り込めばわかるかもしれない、とかアカリは考えていないだろうか。脳筋の勢いで考えてそうな気がする。そっと釘を刺しておこうか。順番滅茶苦茶にすることに定評があるしこの人……
「アカリ、無理やり入ろうとか考えてないよな?」
「そんなこと考えてないから!」
「なーんか不安だからなぁ……」
そんな会話をしている間に、ネコ太郎が復活したので本来の目的に取り掛かる。
禁足地の扉の下見をしに来たわけでも観光に来たわけでもないのだ。
霞ヶ草の採取である。
「それじゃあ、行こうか」
「おー!」
BCを後にして、ゲームで見慣れた天空山のフィールドへ入る。まぁ一番見慣れてるのはギルドクエストの樹海なんですけどね。
しかし、あらかじめ知っていたし、遠目でも見ていたけども、とんでもない場所である。
大小さまざまな蔦でからめとられた足場ばかりだ。BCから離れれば離れるほど、どこも不安定なのか、上からは小石が落ちてくるわ、強い風が吹いたら足場ごとやや揺れるわと、想像以上に危険である。
「こんな高いところでも、アプトノスとかいるんだニャ」
「はは、そうだね。きっと代替わりしながら少しずつ登ってきたんだろうね」
アプトノスの親子はのんびりと草を食んでいる。安全な地を求めてここまで来たのだろうか。正直この環境は安全とは真逆と思うけど。
「でも天空山も肉食のモンスターとかもいるんじゃないです?」
「そうだね。それでも麓よりましだと思って来たんじゃないかな」
それか、降りられなくなっちゃったか。とおどけて大僧正様は言った。冗談っぽく言ってるけどその可能性がすごく高く感じてしまう。
「おっと、こっちこっち」
大僧正様はそう言ってしゃがみ、生えている植物を摘んだ。それを見せながら説明する。
「これが霞ヶ草だよ。根っこの部分は残して採取してほしいんだ」
「ほへー。どれくらいいるんすか」
「うーん。せっかくだし、多ければ多いほどいいかな」
「おおぅ」
終わりが見えない採取クエストにする気か。それが精神的にどれほど辛いことか。
「ああ、大丈夫だよ! 一通りここの安全なルートを巡って、その際にとれた数でいいからね。体力がある限り取り続けようなんて言わないよ」
付け加えられた補足に安堵する。
「それじゃあ進もうか」
「あいあいさ!」
「うぅーい!」
「わかったニャー!」
三者三様の返事をして、また歩みを進めだした。
採取をしながらの移動中も、様々なモンスターがいた。
アプトノス、ケルビ、リノプロスなどの草食種。ジャギィやクンチュウなどのよく見る小型モンスター。中にはガブラスが飛んでいる姿も見れた。
襲われないように、時に隠れたりしながら進む。
「なんだか変だな……」
大僧正様がぼやいた。突然のぼやきに、何が変なのかさっぱりわからない。
「何が変なんです?」
「なんだか、風が騒がしいんだ」
アカリの問いに対しての答えに少し吹きかけた。
なんだそのかっこいい厨二台詞は。
「確かに風は強いと思うニャ」
ネコ太郎が同意する。ちなみにアカリと俺は表情を隠すために腕で顔を覆っていた。だって今の台詞反則だもの。真顔であんな台詞ズルい。
「風が強いというより……この風にまぎれて、何か良くないものがきたような……」
何故真顔でそう何度も厨二台詞が飛び出るのだ。
俺とアカリの笑いのツボは同じなんだぞ。二人同時に笑いで戦えなくなってしまうんだぞ。
「少し急いだ方がいいかもしれないね」
「わ、わかったニャ。ほら、二人とも何してるニャ。行くニャ」
眉間を指で揉んで誤魔化す。大僧正様はふざけてるわけではないのだ。真面目な状況なのだ。切り替えなくては、切り替えなくては。
半笑いになっていたかもしれないが、気を取り直して再度足を進めようとした時
――――――激しい鳴き声が複数聞こえた。