逃避の先で   作:横電池

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決壊

 アカリに手を引かれ、村の中を進んでいく。その方角は天空山への吊り橋だ。

 

 え、今から天空山に行くつもりなのだろうか。

 

「この辺なら今はだれもいないね!」

 

 アカリは吊り橋の入口で立ち止まり、周囲を見渡して言った。

 ただ人気がない場所に行きたかっただけか。シャガルマガラ討伐に強引に行こうとしてるのかと思った。

 まぁ少し話しようって言われたし違うとわかってましたとも。ええ。

 

「それでいったい話ってなんだよ」

 

 一応聞いてみるけどある程度予想はできる。このタイミングで話なんて、さっきの話し合いについてか何かだろうとあたりをつける。

 

「んー、そうだねぇ……」

「何もなかったのかよ……」

 

 顎に手を当てて考えるポーズを取りだした。テキトーに行動することは多々あるけど、ここまでテキトーな感じになった記憶がない。

 

「いきなり本題に入るのはちょっとあれかなぁって思ってさ……それに、クライと久々にゆっくり話してみたいから、ね?」

「別にいきなり本題に入るでいいから。それに今のこの村でゆっくりってなんか雰囲気的に無理そうだろ」

 

 村を、山を捨てるか、山と共に往くか。どちらに転がるかわからない状態だ。古龍が山に居ついて、かつての大災害の再来が起きているのだ。村人たちは、子供たちがいないことを除けば普段通りだが、なんとも居心地が悪く感じてしまう。そんな中で、いくら人気がない場所とはいえ、ゆっくり話なんて無理だ。

 

「……そう?」

「俺はアカリのように図太い神経じゃないんで……」

 

 村の雰囲気だけでなく、空だって薄暗い、というかもうすぐ日が暮れるのだ。それに風も強い。絶対のんびりお話するような状況ではない。

 

「それで、本題ってなんだよ」

 

 こちらから本題について尋ねる。そうでもしないと、ほっといたら世間話をされかねない。まぁ世間話ならまだいい。だけど昔のことについて話されたら誤魔化さないといけない。

 

「んー……あのさ……」

 

 視線を迷わせながら何か言葉を探しているのか、溜めが長い。

 シャガルマガラ討伐に行くとかそんなのだろうか。もしそうならば、俺はどうするべきか。ウイルスの脅威、それがゲームと異なるのであれば、団長が言っていたように人身御供そのものになってしまう。そう考えると止めた方が良いかもしれない。

 

 しかし、アカリの言葉は全く違うものだった。

 

 

「ハンター、辞めない?」

 

「……はい?」

 

 

 シャガルマガラとか一切なく、突然の自主退職の願いである。何を思ってそんなことを言い出したのかわからない。

 

「いや……辞めないけど」

 

 とりあえず結論をバッサリ返す。俺が勝手に辞めていいはずがないのだ。だから辞めない。

 

「……クライは向いてないよ?」

「俺は向いてないかもだけど……辞める気はないなぁ」

 

 結構傷つく発言来てるが気にしない。そりゃ、あなたに比べたら向いてないよ、と心のなかで反論はするけど。

 そもそも向いてないなんてこと、かなり前から知っているのではないだろうか。何故今になって言い出したのか。

 

「なんで?」

「なんでって……まあ、ちょっと頑張ってみたくて? てかなんだよ。辞めさせたい感じすごいんだけど」

「うん。なんかこのままじゃ死んじゃいそうだし……生き急いでる感じっていうか……なんか、焦ってない?」

 

 ひどい結論だ。確かに死ぬかと思った場面がいくつかあったけど、回避のコツを掴んだのだ。コロリンのコツともいう。だから、その辺の相手になら簡単にやられはしない。

 焦ってた理由は、確実に事件が起きるとわかっていたから、それに備えれるようにしたかっただけだ。シャガルマガラみたいな古龍が出るとわかっていたのだ。もしも力がついて自信もつけれたら、アカリが討伐に行く際ついていって、ちょっと名誉をわけてもらおうかな的なことを考えてたりしただけだ。実際はついていけば足を引っ張る前に叩き潰される予感。そもそもついていくも何も、ギルドや村が討伐を是としていないからどうしようもないけど。

 

「もう焦ってないよ。間に合わなかったしな」

「間に合わなかったって、何が?」

「あー……いや、なんでもない。ほら、自分でもよくわかってない言葉って出るときない?」

「ある、かなぁ……?」

 

 口を滑らせすぎたが話を逸らすことに成功? したと思う。

 でも実際にたまにあると思う。そしてアカリは俺と似た考えというか、行動パターンだからあるあるのはずだ。

 

 妙なあるあるのようなネタで、きっと釈然としない表情を浮かべているだろうと思ったが、ただじっと俺を見つめていた。どこか安心しているような、気の抜けた表情だった。

 

「な、なんだよ」

「あー、いやね? やっぱりクライだなぁって!」

「意味がわからねぇ……」

 

 全く意味がわからない。アカリの中のクライはあれか。あるあるネタで話を逸らすキャラなのか。めんどくせぇなそのキャラ。

 

「なんか最近ちょっともやもやすることがあってね! なーんか落ち着かなくてね!」

「そっすか。何にもやもやしてたんすか」

 

 アカリが悩むイメージってあんまりない。いや、数多のモンスターを狩ってきたものとしての悩みとかがあるんだろう。パッと見はわからないだけで。依頼だから私情を挟まず機械的に狩るというドライなスタンスとかも、考えれば普段からはイメージできない姿でもある。

 

 この世界に来た時点でとっくに、自キャラとは言えない人物なのだ。

 

 俺のテキトーな返事を気にせず、アカリは続けた。

 

 

「笑わないでよ? 最近さ───クライが別人に思えることがあってね……」

 

 

 一瞬心臓が跳ね上がったかと思った。バレたと思って動揺しかけたが、過去形だと気づいて気持ちを持ち直す。

 

 

「別人て」

 

 

 素知らぬ風に誤魔化すことを選んだ。もともと過去話をされたら誤魔化すつもりだった。中身が違う人物だとバレないように。

 

「だって変な言動が多かったしさー!」

 

 俺の反応が呆れていると思ったのか、どこか子供っぽく反論してくる。

 念のため、どういった言動が変だったのか確認しようと思い尋ねた。

 

「変な言動て……例えばどんなのだよ」

「えっと、ほら。採取専門ハンターになるとか言いだしたり、言ってなかったのにシナト村のこと言い当てたり、モンスターに関して変に詳しい時があったり」

 

 採取専門はまだ何も知らなかった頃の言動だ。今は違う。

 シナト村に関してはいまいち心当たりがないが、何か口を滑らしてしまったということだろうか。

 モンスターのことは、きっとゴア・マガラのことだろう。筆頭ハンター救出に向かう際の言葉が、あの場にいた誰かからアカリに伝わったのだろう。

 

 後ろ二つは少し不味いが、致命的ではないはず。まだ誤魔化せる。それっぽい文献をたまたまバルバレの市場で見かけたとか、ゴアは骨格から六本脚になる気がしたからハッタリで押し通したとか。

 その方向で誤魔化そうと、口を開きかけて──────

 

 

「あとさ──────憑依って、なんのこと?」

 

 

 思わず動きが止まってしまった。

 

 どうしてその単語が出てきたのか。アカリの表情は読めない。普段通りにも見えるし、無感情にも見える。顔色を伺うほど、誤魔化しが難しくなるかもしれないから、じっくりと見ることはできなかったため読めないだけかもしれないが。

 

 

「前、独り言聞いちゃってさ。憑依物がどうたらとか。ただでさえ独り言ってアレなのに内容もよくわかんないし、どう考えても変な言動ばっかりじゃん!」

 

 

 アカリの言い方から、バレたわけではないと察した。

 

 今なら変人扱いで誤魔化せる。

 独り言を聞かれていたのは完全に不注意だった。この先、気を付けていれば憑依なんて単語など出てこないだろう。この先もずっと、誤魔化せる。ずっと誤魔化し続けてきたのだから。でも───

 

 

 

 いつまで誤魔化せばいいんだろう

 

 

 

 この先もバレないようにずっと、昔の話を避けて、別人であることを隠し、騙し続けて過ごすのか。

 クライの身体を奪っておいて、本物のクライの人生を奪っておいて、平然とこの先も誤魔化し続けていくのか。

 一人の人生を横取りし、周囲を騙し続け、罪悪感が溢れてくる。罪悪感に押し潰されるより、いっそ───

 

 駄目だ。考えたら駄目だ。

 

「…………クライ?」

 

 確かに現実逃避で憑依を願ったが、クライに憑依など願っていない。だからこの罪悪感は見当違いのものだ。俺だって、被害者だ。

 そう考えようとしても、胸に積もる罪悪感はなくなりはしない。

 

 こんなとき、いつもどうしてたっけ。

 

 そうだ。

 せめて罪悪感を減らすために、本物のクライの昔の夢を、ハンターになって英雄になるという姿に近づこうと狩猟をしていたんだ。危険だとわかってても、罪悪感を減らすために、罪悪感から目をそらすために、狩りに積極的に動いて他のことを考えなくしてたんだ。

 だけど今は出来ない。狩り場の天空山は放棄されるのだ。何も出来ない。

 

 この先、こんな事件があるかわからない。ない可能性の方が高い。なら、この罪悪感を減らすことは、難しくなっていく。

 誤魔化す時間が長くなるほど積もっていく。減らす手段はこの先減っていくだろう。

 今でさえ、押し潰されそうな感覚になっているのだ。

 

 いつまでもこんなの、続けたくない。

 

 

「クライじゃない……」

 

 

 気づけば、勝手に言っていた。

 

 

「え?」

 

「クライじゃないんだ」

 

 

 流れる沈黙。

 

 言ってしまったことに後悔が押し寄せるより、まだまだ吐き出したい落ち着かなさが胸に込み上げる。

 

「えっと……あー。クライじゃない。生まれ変わったスーパークライだ、的な気分なの?」

 

 

 そうなんだよ。

 

 そう言えば、まだ修正が効くとわかっている。

 

 

「そう、じゃない……そうじゃないんだ……」

 

 

 別人だと話してもなんにもならない。だから正直に話すだけ無駄だ。今からでも遅くはない。誤魔化すんだ。

 

 そんな台詞が頭のなかに浮かんでくる。

 

 だけど、浮かぶだけで実行はされない。

 それよりも一度決壊した気持ちが、言葉となって溢れる。

 

 

「本当に、別人なんだよ……!」

 

 出てくる言葉をそのままに、喚くように言う。

 

「クライじゃない! なぜかこの身体になってた、別人なんだ!」

 

 自分でも馬鹿なことをやっていると思う。だけど止まらない。吐き出せば楽になれるなんて、思ってなどいない。だけど、止まらない。

 

「ずっと誤魔化してきた! バルバレにいた頃からずっと!」

 

 吐き出しておいて、アカリの反応が怖かった。

 

「昔の話をされるのが怖かった。……答えられないことから怪しまれるんじゃないかって……! バレたら居場所がなくなると思って、なに食わぬ顔でずっといた!」

 

 喉が熱い。頭も痛い。

 ここ最近で一番の痛さだ。

 

「だから、本物のクライはいないんだ……!」

 

 何をやっているのだろう自分は。

 こんなことを告げても、ただ傷つけるだけなのに。

 

「ずっとずっと……クライのフリして騙してたんだ……」

 

 吐ききっても、苦しいままだ。ただ罪悪感から溢れた勢いだけの告白。楽になれるわけがない。

 

 アカリはしばらく黙っていた。

 

 今すぐにでもここから逃げ出したい。逃げ場なんてないが。

 ただ判決を待つ気分だった。

 

 実際は十秒ほどだったかもしれない。だけど長い沈黙に感じた。

 ようやく沈黙を破った言葉は────

 

 

 

「えっと……どう反応しろと?」

 

 

 

 マジかこいつ。

 

 

 

 いや、どう反応してほしいかなんて自分でもわかってないけど。素直に反応したらいいじゃん。優しめで。

 というか他に言うことないのか。かなり重大な告白だったぞ今の。

 重めな話は俺も苦手だからそういう反応するのもわかるけども……ってああ、そうか。俺と同じ行動パターンだもんな。つまり───

 

 

 アカリも、誤魔化そうとしているんだ。

 

 

 もしかしたら、憑依の単語を出した時から。いや、もっと前から別人だと思いながらも、その認識を、自分を誤魔化していたのかもしれない。

 

 ここでふざけてみたんです。と言えばまだ誤魔化せる。互いに。

 

「思ったままに反応しろよ……」

 

 でももう誤魔化しなど無駄だ。互いに表面に溢れさせてしまったから。

 

「───訳がわからない。狂竜症でおかしくなってるだけ……」

「……」

「……じゃあ、ないんだよね……」

 

 俺が狂竜症でおかしくなった。そういう事にも出来ただろうに、アカリは自ら否定した。

 

「ゴアに遭遇する前から、ただ心機一転で変わった、なんてレベルじゃなかったもん。採取専門って言い出したのに、昔のクライの夢の話をしてからじゃない? 狩りを頑張りだしたのって。それって、クライのフリをするため?」

 

 フリをするためではなかった。ただ、本当のクライの夢に近付くことで、奪ってしまった人生についての罪滅ぼしだった。

 だけど、もしかしたら成り済ますためでもあったかもしれない。

 

「別人だって言われても、すんなり受け入れれるわけないのに、なんでか納得できることもあって……。でもやっぱり納得できないこともあって、もう何を言えばいいかわかんないし……」

 

 普通は信じれる訳がない。だけど心当たりがいくつかあるからか、全否定もできないようだ。思いの外、ボロを出していたらしい。

 アカリはそのまま言葉を続ける。

 

 

「もし、今の話が本当だとして、それなら────本当のクライはどこ……?」

 

「それは、わからない……ごめん……」

 

「……なんで謝るのさ?」

 

「…………俺のせいでいろいろおかしくなった気がして……」

 

 

 本来なら、本物のクライとアカリが我らの団にいたのだろう。本物なら、禁足地の立ち入り許可もでて、もっとすんなりと事件を解決したかもしれない。

 

 

「……謝られても、どうしたらいいかさっぱりだ……やっぱり実はただ狂竜症かなんかで錯乱してるだけとかかもしれないし、この話は時間を置いて落ち着いてからもう一度しない?」

 

「……ああ」

 

 

 それじゃ、今回は解散! と手を叩いて切り替えるようにアカリは言った。普段通りを装うように。

 

 

 話は落ち着いてから、か。

 判決が先伸ばしになった。そんな心境だ。

 

 吐露してしまった内容に、改めて後悔する。だけどこれできっと良かった。いつまでも隠せるとは思えない。もっと早くに言うべきだったかもしれないし。

 

 自分がアカリの立場ならどうしていただろう。

 

 いつの間にか親しい人物に別人が成り済ましていた。

 

 想像したら、嫌悪感が凄まじかった。

 

 自分でこう感じるなら、アカリも同じだ。先伸ばしになった判決がどうなるか、わかってしまった。

 

 

 一切晴れることない気持ちのまま、戻ろうとすると向こうから人がやって来た。

 

 

「…………君に大事な話がある。少しいいかな」

 

 

 筆頭ハンターのランサーだ。

 沈痛そうな面持ちに、気分じゃないんで。と断れるような雰囲気はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




更新ペースが落ちているのはMHWを買ったせいです
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