逃避の先で   作:横電池

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真夜中に向けて

 またも天空山への吊り橋の前にて二人きり。今度は男二人である。

 もう日が暮れて、暗くなってしまった空模様。

 

「顔色があまりよくないが、大丈夫だろうか?」

「さっきちょっと暴走しちゃって……あー、狂竜症とか関係ないやつで」

「そうか……」

 

 これがリーダーなら顔色については後回しで、いきなり本題に入ってそうだ。

 ランサーは俺が狂竜症に感染したことをひどく気にしてそうなので、顔色の悪さについては無関係なことを念のため言った。効果はないかもしれないが。

 

「……」

「……」

 

 沈黙。

 

 大事な話があると言われたのに、沈黙が続く。

 正直、沈黙が続くと先ほどのアカリとのやり取りをなんとなしに思い出してしまう。

 話はまたの機会にとなったが、その機会の訪れはきっと決別の時になるだろう。その時を思うと気分が沈んでいく。その時が来る前に、かつていたあの場所に、故郷に帰りたい。

 

 あの場所に───

 そして、元の自分の身体に──────?

 

 ふと気づいた。

 

 

 自分の名前が、出てこない。

 

 

 クライではない。この身体になる前の名前が出てこない。

 ずっとクライとしていたからド忘れしてしまったのだろうか。それとも狂竜症で混乱状態なのか。

 途端に不安になってくる。精神が身体に引っ張られるという話は見たことあるが、記憶に関してもだったろうか。それとも狂竜症が原因だとして、こんな症状が出るほど進行しているというのか。

 

 この不安から目をそらしたい。だから早く本題でも雑談でもいいから出してもらいたい。俺からは何か振る話題は思い付かないけど。

 

「先ほどの話し合いの、ギルドの決定についてなんだが……あれで全てではないんだ」

 

 落ち着かない気分で心がざわめいていたところ、ようやくランサーが話し始めた。今は聞くことに専念しなくては。

 

 ギルドの決定。

 天空山一帯を、その近隣の村も永劫に立ち入り禁止とかだったか。それ以外にもあるんだ、とぼんやりと話の続きを待った。

 

「……これから話すことは、リーダーも、団長も知らないことだ。知っているのは、私と大僧正だけだ」

「はぁ……」

 

 シャガルマガラ関連だろうか。だけどそれならあの話し合いで言ってるだろう。それにリーダーも知らないとなるとさっぱりだ。

 

「…………」

 

 長い沈黙。

 

 言葉を探しているのか、なかなか続きがでない。

 

「……シャガルマガラがいつまでも禁足地に、天空山に留まってくれるか不明だ。シナト村の伝承では扉で外界と隔たれたらしいが、今回のシャガルマガラも同じとは限らない」

「それは、そうっすね……」

 

 シャガルマガラがどこかへ行けば、またそこでも同じ災害が訪れる。生物なのだ。ずっと禁足地で引きこもってはいないだろう。

 

「それに、村の住人は避難に協力的とは言い難い」

 

 大僧正様は自分だけ残ると言った。村人は老人達が残ると言った。全員が避難するということはないのだろう。

 

「大僧正としての決断はあの時の話し合いで出た通りだが、彼個人としては住人全員無事でいさせたいそうだ」

 

 それはつまり、全員の避難。もしくはシャガルマガラの討伐をしたいということだろうか。

 大僧正としての立場が、あの決定を下したのか。

 

「だが討伐に挑もうにも、あの龍は未知のウイルスを振り撒く。感染は避けられない。ウイルスを除いても、どれ程の強さかも未知数だ」

「……」

 

 ランサーは天空山を見ながら言葉を続ける。その話はまるで言い訳の準備のように感じた。

 

「天空山の近隣から動かないことを期待するか……誰かを犠牲にして討伐するか、ギルドは悩んだのだと思う。そして、出した答えは…………討伐だ」

「…………え?」

 

 さっきの話し合いで出た話とはまるで真逆の答え。表だって禁足地の立ち入り許可が出ないから、こっそり行くために秘密にしたとか? それならリーダーぐらいは話を知らされてそうだ。

 

 

「討伐に行けば感染は避けられない……だから、既に感染している者に討伐を任せることにした。それも、完治していない者に……極秘裏に」

 

 

 既に感染していて、完治していない者。

 

 

「既に感染していて、討伐の可能性が見込める優秀な、ハンターに……」

 

「……」

 

「……その条件を満たす人物がいなければ……また、その人物が討伐に失敗すれば、あの話し合いと同じ決断になる予定だ」

 

「……」

 

「条件を満たす人物は…………ハンター歴が短いにも関わらず、ゴア・マガラと渡り合い、筆頭ハンターを救出する力を持っている……まさにギルドが求めている人物だ」

 

 

 沈痛な面持ちの理由、長かった沈黙の理由、言い訳のよう聞こえた理由。それらがようやくわかった。

 

 

「シャガルマガラに、挑んでこいってことか……」

 

 

 団長が言っていた、人身御供のようなもの。その役目を言い渡すのが辛かったのだ。

 そしてリーダーが知らなかった理由もなんとなくわかった。きっとリーダーは反発するからだろう。シャガルマガラを放置する旨を伝えたときのあの激昂っぷりを思い出すと反応が予想しやすかった。

 

 

「…………逃げてもいい」

 

「……?」

 

「相手は未知数の古龍だ。討伐に赴いても、失敗する可能性の方が高い。仮に成功しても……その命は長くはない。こんな馬鹿げた任務をやる必要はないんだ」

 

 

 きっとこの言葉は本心からなのだろう。本気で俺の身を案じてくれているのがなんとなく伝わった。

 

 

「ギルドには失敗したと報告しておく。だから君は逃げるんだ。今はまだ完治していなくても、いずれ治るはずだ。そのためにも、こんな任務から逃げて生き延びるんだ……」

 

 

 逃げてもいい。逃げろ。

 そう言われて思い浮かんだのは、漠然とした不安だった。逃げて生き延びて、そしてそのまま他人の身体で生きていく。

 

「その任務……成功したら、英雄みたいなもんかな」

「……災害を止めることに繋がる。それは英雄のようなものだろう」

 

 受ければ死ぬ。そんな任務。

 だけど英雄になれるチャンスだ。そんなチャンスなければ良かったのにと思う気持ちもある。

 

 逃げて、ただ罪悪感とともに生きていくか。任務を受けて、本物のクライが目指した英雄になるか。

 

 この任務を受ければ、団の人達と会うことはなくなってしまうだろう。そう思うと、二の足を踏んでしまう気持ちもある。だけど、会わなくなることが魅力にも感じてしまう。アカリからの判決もまだ言い渡されていない。

 そこまで考えて、決断した。

 

 

「その任務、受ける」

 

 

 ランサーの表情は驚きではなく、諦めの表情だった。受けることを予想されていたのだろうか。

 

「……シャガルマガラはこの近隣から出ないかも知れないんだ。無駄骨になるかもしれない」

「でもこの地の災害を止めれるし」

 

「…………もう山は死んだんだ。住人は無理矢理にでも避難させればいい」

「避難したがらない人もいるみたいじゃん。それに、山もまだ死んでないかもだよ。自然は案外強い!」

 

「君の実力では古龍に勝てるはずがない……!」

「足りない分は、なんとか絞り出してやってみるさ」

 

 知恵とか知識とか、後は捨て身の心構え?

 

 

「それに、これ以上逃げる場所なんてないと思ってるから」

 

 

 逃げた先が今の俺なのだ。逃げれば逃げるほど、罪悪感が追ってくる。

 

 

「だから、逃げずに受けたい」

 

「それは自暴自棄なだけじゃないか……!」

 

「そうかもしれない。だけど、逃避の先がもうここなんだ。これ以上、逃げれないんだよ」

 

 

 きっと、ここで逃げればその先ずっと後悔する。

 だからなんと言われようと、その任務を受けるつもりだ。

 

 

「失敗すれば、君は失踪扱いとなる。いや、そもそも極秘裏の任務なんだ。成功しても公表はされない。誰にも知られないんだ……英雄とは呼ばれない……」

 

 ひどい条件だ。だけど嘘ではないだろうな、と思いつつも───

 

「それでもやるよ」

 

 言い切った。

 

 

「…………いつでも、その言葉を撤回してくれていい」

 

「ん。あんがと。だけど結構意思は固いつもり。あとごめん」

 

 

 なんだかランサーは変な罪悪感を感じてしまいそうだ。罪悪感に悩む会の会員である俺が言うのだ。間違いない。

 

 

「……ゴア・マガラから助けてもらった時の君のことを、ギルドに報告しなければ良かったと、強く思うよ……」

 

 

 そう言って、心痛な面持ちのままランサーは離れていった。

 

 極秘裏任務。

 なら出発は夜のうちだろう。まだ日が暮れて間もない。皆が寝静まったら出よう。

 

 それまでにやれることはやらなくては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の人達や団の皆が集まっている場所まで戻った。

 我らの団は避難の方向で動いているが、村の人達はまるでいつも通りの姿である。長老と大僧正様だけは互いに神妙な面持ちで話し合ってはいるが。

 きっとあの二人は誰が避難すべきかの話し合いをまだしているのだろう。

 

 それらの姿を横目に、イサナ船に入る。

 シャガルマガラ対策なんて何も思いつかないが、とりあえずウチケシの実をポーチに詰めれるだけ詰め込むのだ。生理的に嫌悪感を感じるものを手に取れば、それがきっとウチケシの実だろう。

 

「クライさん、ウンウン唸ってどうしたの?」

 

 ボックスからウチケシの実捜索していたら背後から声をかけられた。後ろをとられるとは不覚。

 この声は娘っ子だ。アカリではないことに少しだけホッとした。

 

「ちょっとなー、ポーチにウチケシの実をいっぱい詰め込みたくてなー」

 

 この子相手なら隠す必要もないだろう。まだ完治してないことは団の人にはバレてるし、ウチケシの実を漁っていても不思議ではないはずだ。

 そうだ。折角だしこの子に実をポーチに入れてもらおう。ひとりでやるとなかなか進まないのだ。

 

「狂竜症を治すためだね! 私も何か手伝えることあるかな!」

「おお、じゃあこのポーチにウチケシの実を入れれるだけ入れてくれぃ」

 

 自分から手伝う発言に即座に乗る。遠慮などない。

 

「クライさんには早く治ってもらわないと、オッショさんの作った武器が埃まみれになっちゃうんだから!」

「地味にツンデレ台詞っぽいなそれ」

 

 兄貴の作った武器を埃まみれにするなど許されぬ。そういえば武器は何にするべきか。ウイルスだらけだろうし、火で滅菌な気持ちでガンランスだろうか。しかし、いくら大盾があっても、あの翼脚による攻撃をガードできる気がしない。

 ガンハンマーなら爆発もするし、機動力もある。問題は火薬の補充をまだしていない。優先的にしてもらうのも不自然に思われかねない。

 アイアンソードは、最終戦でそれって……てなる。ていうか最後なのにブレイブ一式もたいがいか。

 

「オッショさんの新作、スッゴいんだからね! 早く治してよー!」

「新作……? あー、そういえば新しい武器作ってるって言ってたっけ」

「そーだよ! でも治ってくれないとオッショさんいつまでも渡せないから、早く治してね」

 

 治らないと渡してくれないのか。

 まあそりゃそうか。言ってしまえば病人みたいなもんだし、そんな人物に武器を渡すなんて兄貴がするはずない。

 しかし今回ばかりはその思いやりを無視してでも受けとりたい。たしか大剣だったはず。

 

「ちなみにどんな大剣なんだ?」

 

 後でこっそりその大剣回収にいくから教えてください。

 心の中でつけ足した台詞の下衆いことよ。

 

「なんだか悪そうな大剣だよっ!」

「悪そうて」

 

 なんだそれは。

 

「その名も、プライドオブシャドウ!」

「ぷらいどおぶしゃどう」

 

 直訳で影の誇り? わぁ、悪そう。

 というか───

 

「ゴア・マガラの……?」

「えぇ! なんでわかったの!? サプライズだったのに!」

「あー、なんとなく……?」

 

 厨二臭い名前からあたりをつけてみたのだ。それにしても、ゴアの大剣か。確かに悪そうだ。とりあえず黒い、としか覚えてないけど。

 

「加工したし、もうウイルスを撒くことはないけど、やっぱり不安になっちゃう……?」

 

 どこか不安げに聞いてきた。しかし俺が不安になる要素がわからない。ウイルス?

 

「……あー、そんなことないない。ゴアの素材からできた武器がウイルス持ってるなんて思ってない」

 

 治らないと渡さない理由でもありそうだこれ。ウイルスにやられてるやつに、ウイルスを生み出してた存在からできた武器をプレゼントはし辛いだろう。作り始めた頃はまだ感染してるなんてわからなかったし。

 

「よかった! オッショさん、渡すかどうか悩んでたから……はい、いっぱい詰めたよ!」

「兄貴は団の優しさだからなぁ。あんがと」

 

 ウチケシの実だらけであろうポーチを受け取り、さらには大剣完成情報も得れたことだ。後は夜中まで待つ。きっと兄貴達の仕事場にあるはずだ。

 娘っ子と別れて次のことを考える。

 コソ泥計画を立てたことだし、もう用意するものはないだろうか。ウチケシも持った。武器も目処が立った。

 

 後は……ゲームのハンターっぽく猫飯を食べてみよう。食いきれないんじゃないかってくらいのあの量の飯を。

 料理長ことかあちゃんの、イカサマの口止め料として、高級食材を使った料理を今度つくってもらう約束していたのだ。その約束を果たすのと、気持ちドーピングだ。

 体力とスタミナがゲームと同じように50上昇とは思ってないが、ゲン担ぎみたいな感じで食べたい。

 

 そう思い、かあちゃんのもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高級食材はあるか」

「やって来たと思ったら唐突すぎるニャルよ」

 

 出会い頭に高級食材の有無を確認する。なかったらなんかもどかしいじゃないか。折角いろいろ準備してるのだ。

 

「高級食材は一応アルニャルが、夕飯はもうすぐできあがるニャル。今からレシピの変更はできないニャルよ」

 

 ここのところかあちゃんは村の人達の夕飯も作っている。そのため量のすごいことすごいこと。大変だろなぁと思いつつ

 

「イカサマサイコロの口止め料として約束したじゃん。それを今から果たしてもらおうかなと」

「今ニャルか……? 明日でよくないニャルか」

「今がいい。大変だけどお願いたのんます。今じゃないとショックでイカサマのこと大声で喋っちゃいそう」

 

 弱味を握っているんだぜと露骨にアピールしながらお願いを続行。

 

「それは止めるニャル……まだ勝負に挑んでないニャル……戦わずしてハイボクなんてお断りニャルよ……」

「まだやってなかったんだ。てっきりもう挑んでボロ負けしてると思ってた」

「そんなことニャイニャル!」

 

 調理の手を止めるほど勝負に熱いようだ。まだ勝負できてないならこの弱味は無視できないだろう。

 

「まあまあ、とにかく今日、普段献立に出ないような豪勢なかあちゃんの料理を食べたい。俺の分だけこっそり作ってー」

「……そう言われても困るニャル」

「食材はあるんだろ? もしや……腕に自信がない?」

「そんなわけないニャル! そこまで言うなら見せてやるニャルよ! お腹を空かせて待つニャル!」

 

 アイルーって単純なイメージ多いけど、かあちゃんもやっぱり単純ですわぁ。

 みんなより出来るのは遅いからそれまで空腹で苦しめとかあちゃんは続けた。無理を言って申し訳ない半面、やはり楽しみだ。

 

 配膳を手伝いながら、目先のことに期待しつつ、さらに先のことに不安が募る。

 

 シャガルマガラの討伐。やっぱり止めようか。

 

 そんな弱気な言葉が浮かぶ。その度に、考えるのはアカリとクライのことだ。

 

 身体は返せないままダラダラといるより、大きなことを成し遂げれば許してもらえるだろうか。ランサーは成功しても誰にも知られないと言っていたが、なんだかんだで団の人には言ってくれそうである。

 

 都合のいい考えだと自分でも思う。だけどそう考えないと沈んだ気分があまりにも重い。

 

 

 村中への配膳を終えて、今は目の前に出来上がっていく料理の数々に気持ちを切り替えよう。

 

 ちょっとこれ多すぎる。これで一人前なの? 食べすぎで動けないとかならないだろうか。

 一人特別メニューのため、こっそり配置したテーブルに並べていくが、もうぎゅうぎゅうだ。テーブルが。

 

「これ、一人前っすよね……?」

「かあちゃんの全力フルコース一人前ニャル」

 

 戦々恐々と尋ねてみたら、やはりそうらしい。かあちゃん要素全然ない、かあちゃんの全力フルコースである。真顔でまだまだ増える料理を凝視していると、残したら許さんぞと言わんばかりに薄目のまま睨まれた。お残しは許しませんというかあちゃん要素がそこにあった。

 

「出来上がりニャル。しっかり味わって食べるニャル」

「お、おおおおお……!」

 

 

 雄叫びをあげながら中央に鎮座している肉まんにかじりついた。

 勢いよすぎて舌を噛んだ。

 痛かった。

 

 

 

 

 

 正直最後の方は味を感じれないほどの満腹感だったが、なんとか完食である。食べきったあとは様式美だろうと思い、ガッツポーズをとった。

 まさか食べきるとは……みたいな表情のかあちゃんに気づき、目の前で再度ガッツポーズをとる。

 

「わかったニャルわかったニャルよ。そう何度もアピールしなくていいニャル」

「おいしゅうござんした。ごちそうさまっした!」

 

 なんとなく強くなった気がする。ハンターさんが食べる料理だもの。強くなったはずだ。思い込みかもだけど。

 

「これでヤクソクは果たしたニャルよ」

「ん。あんがと!」

「一応聞くニャル。普段の料理と比べてどうだったニャルか。どっちも美味しいのはわかってるニャルが」

 

 でけぇ自信である。身体は小さいのに。

 

「んー」

「正直な意見を聞かせるニャル」

 

 当然今回のが美味い。と答えようと思ったが、量のせいか特にそうは思えなかった事実。

 

「いつも通りの料理がいいかなぁ」

 

 量もだけど、味だけを見てもいつものがいい。貧乏舌と言われるかもしれないと思いつつ正直に答える。

 その言葉にかあちゃんは気を悪くすることなく

 

「そうニャルか。ウレシい言葉ニャルね」

 

 とても満足げに笑っていた。

 

「かあちゃん嬉しいのか」

「アタリ前ニャル。団のかあちゃんを自負してるニャルからトウゼンのことニャルよ」

 

 高級食材をうまく活かせなかった、不覚! ってなるかなぁと勝手に思ってた。

 

「団の皆が喜ぶような、実家のような、安心感のある味を常に探求してるニャル。しかし、それぞれ故郷は違うから、好みも異なるニャル……」

 

 食器を片付けながら語り出した。皆が寝静まるまですることも思い付かないし、片付けを手伝いながら話を聞く。

 

「だから私はこう考えたニャル!」

 

 小さな握りこぶしを作りながら熱くなっていく。演説でもしそうだこれ。

 

「この団を第二の故郷のように感じれる料理を作ればよいと!」

「第二の故郷?」

 

 普段の語尾が消えた件。

 

「そうニャル。団の皆がいつまでも一緒ではないことはわかってるニャル。それでも、第二の故郷の味を作れば長く一緒にいられると思ったニャルよ」

「……なーるほど」

「例え離れても、もうひとつの帰る場所としての味ができれば、まさに真の団のかあちゃんニャル」

 

 これから離れようとしている人間には、耳が痛い話だ。

 

「だから旦那も、どんなに離れてもここに戻ってきていいニャルからね」

「───え」

 

 これからやることを知られているかのような言葉に一瞬戸惑った。

 

「旦那が喧嘩したことはお見通しニャルよ。旦那は勢いのままどこかに行っちゃいそうニャル。頭が冷えたらちゃんと戻ってくるニャル」

 

 これは、アカリと喧嘩していると思われているのだろうか。

 

「団の皆は第二の家族ニャル。モチロン、旦那だってそうニャル」

 

 決心が鈍るようなことを言うのはやめてほしい。反応を返すことができず、皿を黙々と片付ける。

 

「あとはかあちゃんがやっとくニャル。旦那はゆっくり休むニャルよ」

「ん。了解」

 

 

 もう戻る気はないつもりだったのに、揺れてしまう。

 

 

 揺れたままの心で部屋に戻り、静かに時間がたつのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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