逃避の先で   作:横電池

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三つ巴の狩場

 ジャギィ達が周囲をぴょんぴょん跳び回る。

 

 おちょくってるような動きが腹立つ。が、あまり気にしてられない。

 

 こいつらはあれだ。撹乱役だきっと。ゲーム中でもドスジャギィと戦う時は周囲の雑魚が気になったことはあまりないし。

 

 だからドスジャギィに気を付ければきっと大丈夫だ。

 油断せず、正々堂々と戦えば俺でも行ける、はず。

 

 と考えつつ―――

 

 

「そぉい!!」

 

 

 持ってた折れた釣り竿をドスジャギィにぶん投げた。先ほど片目に突き刺さったものの一部だ。怖かろう。

 そしてすぐさま背中を向けて走る。逃げるとも。戦えば勝てると思う。思うけど、やっぱり不安だし万が一に備えてルーキーと合流なのだ。戦略的撤退と言うやつだ。

 

 

 って言うか何で本当にBCに出てるんだよあいつら。おかしいだろ畜生。

 

 心の中で愚痴りながら走っていると背後からジャギィ達の鳴き声が聞こえる。

 

 これは追いかけっこ始まってますわ。MMOで言うならトレイン状態というものになるのではなかろうか。

 

 そんなことはどうでもいい。とにかくなんとかして撒かないと。もしくは筆頭ルーキーと合流しないと。本当にあいつどこ探し回ってるんだ。

 

 

 

 

 走りながらちらりと後ろを見る。

 

 先頭には右目が傷ついたドスジャギィがドシドシ走りながら追いかけてきている。

 

 やる気満点ですよあいつ。

 

 だが、そのやる気が逆に命取りよ。

 

 

 

 前に出した足で強くブレーキをかけ、振り向く。右手は大剣の柄にやりながら。

 

「そぉぉぉい!!」

 

 突然のUターン武器出し攻撃だ食らいやがれ―――

 

 

 

 

 あ、だめこれ。

 

 

 腕だけじゃこれ振れない。重すぎないこれ? 腕だけじゃ無理なら―――

 

 

「腰ぃぃ!!」

 

 

 海老反りから思いっきりヘッドバッドするように前に姿勢を倒す。

 

 

 

 やった。武器が振れた。

 

 

 

 ズシン、と重量感溢れる音を立てた大剣はやっぱり強そうである。重量武器はいいものだ。

 

 普通に躱されたことから目をそらせば、だが。

 

 

 

 

 ふむ。

 

「もう一度逃げるしかあるめぇよ!」

 

 

 

 

 

 地面に叩き付けた大剣を引きずるようにしながら再度走りだした。やっばいやばい。助けてアカリさん。上位ハンターさん助けて。ルーキー行方不明とかマジ意味わからないんですけど。

 

 っていうか大剣重すぎるんだよ。すっごい置いていきたいこれ。でも武器無しになるのはさすがになんかあれだ。やってはいけない気がする。なんでかはいまいち自分でもわからないけども。

 

 少し立ち止まり無理やり大剣を背中に担ぐ。

 横から体をねじ込む形だけどまぁいいだろう。この納刀のやり方は、これはこれでカッコいい気がするし。

 

 まあカッコつけるのは置いておいて、そんなことよりクエストリタイアのボタンどこですか。マジでどこですか。

 このままではがぶがぶされてしまう。甘噛みで終わらせてくれる雰囲気じゃない。

 

 

 

 正直走り続けるのも疲れてきた。スタミナゲージがあるならもうすぐ25切ってしまう。

 

 あれ20だっけ。どうでもいいことを考えてしまう。

 

 

 やばい状況で現実逃避気味になったとき、前から人影が走ってくるのが見えた。

 

 筆頭ルーキーだ。

 

 

 

「どこ行ってたんだよお前!!」

「アンタこそどこ行ってたんスか!!」

 

 

 開口一番に思っていた文句が出てしまった。向こうも同じことを言うとは、お前がいない間大変だったんだぞ。っていうか現在進行形で大変だ。

 

 

「それよりも! 追われてんだよ今! ドスジャギ―――」

 

「そんなことより! 追われてるんスよ! アルセルタ―――」

 

 

 なんでお前の背後に大きい虫さんいるの?

 

 なんでお前も追われてんの? 筆頭じゃないのお前?

 

 すごい勢いで飛んできてるんですけど?

 

 

「よ、避けるッス!」

 

「うおぉぁあああ!」

 

 

 ルーキーの動きに釣られるように横に跳んだ。

 

 あ、この動き緊急回避のあれだ。ハリウッドダイブだ―――

 

 

 さっきまで俺やルーキーがいた位置を高速ででかい虫が飛び去っていく。

 

 あんなんぶつかったら交通事故もんやん……

 モンハン世界でも交通事故起きるやん……

 

 

 少し錯乱しかけたが、すぐに正気に戻った。

 

 なぜなら実際に事故が起きたからだ。

 

 

 俺の背後にまで迫っていたあのドスジャギィが、アルセルタスと接触事故を起こしてしまったのだ。

 

 

 アルセルタスはたいして強くない序盤の敵だ。

 序盤なのに空を飛ぶ敵とか頭おかしいんじゃねぇの。と当時は思ったものだが、序盤の敵だ。

 

 序盤の敵らしく、ぶっちゃけゲーム中では弱い。

 

 だが、アルセルタスは戦車か何かじゃねぇのと言いたくなるような、ゲネル・セルタスを持ちあげるほどの力持ちなのだ。飛ぶ力がやばいんかね。難しいことはわからん。

 

 とにかくそんな飛ぶ力がヤバイアルセルタスの、空中突進にもろにぶつかったドスジャギィは盛大に吹っ飛ばされた。

 

 悲惨な事故を生で見ることになるなんて……

 

 

 群れのリーダーのドスジャギィを吹っ飛ばした第三者にジャギィたちも戸惑っているようだ。

 

 事故を起こしたアルセルタスも新しい勢力に戸惑っているのか空中で停止している。

 

 

 これはチャンスだろうか。ドスジャギィがやられて群れも混乱、アルセルタスも混乱。

 

 そう思って動こうとしたら、うめき声をあげながらドスジャギィが起き上がった。

 

 

 やだ、あの狗竜。すごい頑丈。

 

 

 ドスジャギィは怒りの雄たけびをあげる。今度は俺を見ながらでなく、アルセルタスを見ながら。

 

 敵意を向けられたのを認識したのか、アルセルタスもドスジャギィに威嚇のようなモーションをする。

 

 

 

 漁夫の利の可能性、あるくない? これ。

 

 

 

「な、なんか喧嘩しそうな雰囲気ッスね……」

「うまいこと潰しあってもらおう……」

 

 モンスターVSモンスター。ちょっと興奮だ。モンハン4はモンスター&モンスターVSハンターという構成が多かったから、こういうの嬉しい。

 

「っていうかお前なんでアルセルタスから逃げてたんだよ……。筆頭ハンターじゃないの?」

 

 あまり周囲を刺激したくないからじっとしているが、気になっていたことを小声で聞いてみた。

 

「筆頭ハンターッスよちゃんと。ただ……飛んでる相手は自分だけじゃ厳しいッス。いつも姐さんに撃ち落としてもらったりしてるんスよ……」

 

 やっぱり空を飛ぶ敵ってきついよなぁ。

 

 数はジャギィ達、地の利はアルセルタスって感じか。

 そしておまけで俺たち。

 

 

「とにかく、ドスジャギィとアルセルタスの勝負がついたら……いや、つきそうになったら、すぐ動けるようにしとくッスよ……」

「つきそうになったら……?」

「そうッス……。勝負がつく寸前が一番チャンス。リーダーがそう言ってたんスよ……」

 

 勝負がついてからじゃ遅いのだろうか。

 っていうか、勝負がつく寸前ってどんな状況なんだろう。

 

「自分がアルセルタスをやるっす。アンタはドスジャギィのほうを頼む……」

「……おう」

 

 

 正直どっちも嫌だけど。

 

 だけど虫相手にするよりドスジャギィのほうがいい。

 決してクンチュウのトラウマを思いだしたからではない。

 

 

 しかし、空飛ぶアルセルタスとドスジャギィ率いるジャギィ軍団。決着とか着くのこれ?

 

 アルセルタスが空にいる限り決着つかないんじゃないのこれ。

 あの虫が空中突進か、キモイ液攻撃している限り一方的だ。疲れて地上に降りるってことはまずないだろう。疲れたらどっかへ飛んでいきそうだ。

 そしたらジャギィ軍団はまた俺を狙うのではなかろうか。

 

 

 結構やばくね? いや、筆頭ルーキーがいるし……、でも頼りにならなさそうな気がしてくるしなぁ。アルセルタスから逃げてたし……。

 

 ふむ。

 

 

 ドスジャギィがんばれ。超がんばれ。

 

 

 心の中で応援をとばす。なんとかしてアルセルタスをぼっこぼこにしてくれ。片目が見えないだろうから大変だと思うけど頑張ってくれマジで。

 

 

 アルセルタスは空中突進を何度もしてジャギィ達を蹴散らしていく。ドスジャギィはさすがに何度も当たらないのか、躱しているのがちょっとかっこいい。

 さすがリーダーだ。マジで頑張ってくれ。

 

 

 しかし躱せても攻撃はできないか。ちくしょう虫は滅べ。

 

 

 せめてルーキーが乗り攻撃でもできれば、って出来たら今度は俺たちが狙われかねないか。目立つの怖い。

 

 そう思ってたらやってくださいました。

 

 ルーキーじゃないよ。

 

 

 空中突進に合わせて、アルセルタスにドスジャギィがしがみ付いた。

 

 あの脚でしがみつきながら背中の羽を噛みつき、羽ばたきを止める。やだ、ドスジャギィさんカッコいい。

 羽ばたきを止められてアルセルタスが落ちる。ドスジャギィも一緒に。

 

 

「今ッス!」

「お、おう!」

 

 

 落ちていく2頭のもとへ走りだす。なんかすごい、こう、高揚する。

 

 アルセルタスはひっくり返りながら落下した。

 

 ドスジャギィは途中でアルセルタスを踏み台にでもしたのか、綺麗に着地する。アルセルタスから目を離さずに。

 

 え、やばくね? 落下して体勢崩れると思ってたんだけど。え?

 

 まだまだ戦えますよと言わんばかりのドスジャギィの右半身を見て、やっぱり下がろうかと思ってしまう。

 

 

 

 いや、まだこちらを見ていない。この隙をつくしかない。止まるんじゃねぇぞ、の気持ちだ。

 

 

 

 今度こそ大剣をぶち当ててやる。

 

 

 

 あ、重―――

 

 

 

 腕だけじゃ振れないってさっきもやったじゃん俺。

 

 腰も、膝も、全身を使って振り下ろすのだこれはきっと。腕だけじゃ振れてもこれ脱臼しちゃいそう。

 

 

 漫画で読んだことある。きっと背負い投げの要領だ。

 

 大事なのは―――

 

 

 

「腰ぃぃいい!!」

 

 

 

 地面に叩き付けた時とは違う音が、聞こえた。

 

 

 手ごたえ、ありだ。

 

 

 剣を叩き付ける勢いで振ったので顔が下を向いていた。確認のため顔をあげる。

 

 首の途中までアイアンソードが食い込んだドスジャギィが苦し気に立っていた。

 

 

 仕留め切れてない……だと……

 

 

 思わずアイアンソードから手を離し、距離をとる。

 

 

 ドスジャギィは空を仰ぎ―――

 

 

 

 音を立てて倒れた。

 

 

 

 

 やった。

 

 やった、よな? あの呪文唱えても大丈夫だよな?

 

 よし、唱えるぞ? 唱えちゃうぞ?

 

 

「やったか!?」

 

 

 ……

 

 ………………

 

 …………………………

 

 

 ドスジャギィは動かない。

 

 

「よし!」

 

 

 リーダーを失ったことを遅れて実感したのか、ジャギィ達は散り散りに逃げていく。

 

 ってそうだアルセルタスが残ってる。あのルーキーじゃなんだか不安だ。

 

 アルセルタスのほうを慌てて見たら―――

 

 

「これで終わりッス!」

 

 

 アルセルタスの複眼に片手剣を突き刺すルーキーの姿があった。

 

 なんとなく甲殻とかに片手剣がはじかれるー的な姿を想像してたのに、あれ? なんかさわやか出来る系ハンターになってないこいつ?

 

「そっちも終わったッスね!」

 

「あ、おう。虫のモンスターって甲殻硬いイメージあったんだけど」

 

 ゲームと同じでそんなことなかったのかな。前のクンチュウのせいでどうもイメージがごちゃまぜになってしまう。

 

「そうッスよー。だから自分、関節とか甲殻の隙間を斬ってたんスよ! 結構集中力いるんスよこれ。飛ばれてたら上手くいかないから落ちてくれて本当に助かったッス!」

「お、おう」

 

 マジか。

 

 落下しても暴れるだろうに、甲殻の隙間とかマジか。

 

 こいつ実はかなり有能か。

 

 

「ハプニングがあったッスけど、クエストクリアッスね! ヒヤヒヤしたりもしたけど楽しかったッス!」

 

 俺は楽しくなかったっす。

 

「ヤッパたまには違う人と狩りするのもいいもんッスね~。それにしても大剣ってヤッパ豪快ッスね。自分も今度は大剣使ってみようかな~。いや、操虫棍も捨てがたいし……」

 

 そういやこいついろんな武器を使えちゃう系ハンターなんだっけ。

 なにこいつ有能なの? チャラいのに有能なの? 有能だわ。

 

「ま、まあお疲れ様」

 

 とにかく狩りが終わったら互いに労うのが野良のマナーだ。ゲームではだけど。実際のハンターの狩りってどうなんだろう。獲物への感謝の言葉を、とかだろうか。

 

 前回の俺の狩りは全く参考にならないからわからない。

 

「お疲れ様ッス!」

 

 そう言ってルーキーは手をあげ近づいてくる。

 

 あ、これはわかる。

 

 同じく手をあげて迎える。

 

 

 

 

 ハイタッチって、結構気持ちいいものだなぁ。

 

 

 

 

 なんだかまともに狩猟できた実感が、今ようやく味わえた。

 

 俺の初狩猟デビューはドスジャギィなのだ。

 

 

 

 クンチュウ? 知らない子ですねぇ……

 

 

 

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