逃避の先で   作:横電池

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積み重ねた経験

 シャガルマガラへ走り寄る。

 近づけば近づくほど、人とは異なる龍としての大きさをより実感する。相対する心を折るかのような存在感。雰囲気だけでなく身体でも見せてくる。

 

 近づいてくる存在に対して、シャガルマガラは何もしない。

 

 舐めプか。ゴアの時も舐めプだったな。ゴアの変身は条件揃わないとできないっけ。まぁいいか。

 舐めプだろうと何か意図があろうと、遠慮なく───

 

 

「そぉい!!」

 

 

 その頭に大剣をぶちこんでやった。

 

 避けることもしなかったことに、僅かな驚きと───あたったにも関わらず、たいした反応がないことに戸惑いが生まれた。

 角で受け止められたわけではない。ゴアと比べて遥かに硬くなっている。

 

 

「外側まで硬くなったのかよ!」

 

 

 そんなぼやきをしていると、シャガルマガラの顔が、というか身体全体が近づいてくる。近づく巨体に押されて尻もちをついた。その拍子に、シャガルマガラから大剣が離れる。───追撃はない。

 

 攻撃ではなく、ただの歩き。よく見れば翼脚も畳まれていた。

 

 

 完全に舐められている。敵として見ていない。

 

 

 先の攻撃は、当てることを重視した振り方だった。大剣の重みだけを使った攻撃。だからまだ、こちらの攻撃が効かないと決まったわけではない。

 

 にも関わらずこの見限り様。

 

 尻もちをついた相手に、何もせずにいる。

 

 

「だ、旦那さん大丈夫ニャ……?」

 

「ああ、ただ押されただけだしな……ネコ太郎、早速使うぞ」

 

 

 ポーチからアイテムを取り出す。舐めプ大いに結構、と思っていたが、腹が立つ。ただ弱いものが何をするか観察してるかのような龍に、目にもの見せてやろう。

 

 

「輝けるのはお前だけじゃねぇよ!!」

 

 

 その言葉と共に、強い光が生まれた。

 

 閃光玉の強烈な光。さすがに無反応ではいられなかったのか、一瞬苦し気な動きを見せた。

 目にもの見せてやった。というか目に強い光を見せてやった。

 

 目が眩んでいる間に大剣を構え直し、身体を捻りながら振りかぶる。今度は重みだけではない。全身の力を、バネをフルで使った一撃だ。狙うはもう一度同じ場所、頭だ。

 

 何も見えないのはさすがに不安なのか。畳まれていた翼脚を再度ひろげて地に着けている。

 

 今度は掛け声も出さずに頭を目掛けて振り下ろした。

 

 

「……っ!」

 

 

 まさしく全力の一撃だ。

 その成果は──────角を片方へし折るに終わった。

 

 目が眩んで見えないから思わず動いたのか、そのまま受け止めては不味いと感じて角で受け止めたのか。なんにしろ、

 

 

「次はもう片方の角……いや、頭にぶちこんでやるからな!」

 

 

 攻撃が通じないわけではないとわかった。希望は充分ある。

 

「いけるニャ! やれるニャ───ニャ!?」

 

 角を折る衝撃はさすがに堪えたのか、耳を塞ぎたくなるような咆哮があがった。

 

 今度こそ完全に、敵として見られたようだ。

 

 視界が治る前にもう一撃叩き込むつもりで剣を振りかぶる。

 

 

「───あ?」

 

 

 シャガルマガラの姿が、黒く染まった。

 

 通常状態のゴア・マガラの姿に───なんで

 

 唖然としている俺に対して翼脚が横に薙ぎ払われた。その動きに、脳裏に浮かんだのは海上でのアカリとゴアの戦闘。

 目の前にくる翼脚の軌道など考えずに、その時のアカリの動きを咄嗟に真似た。

 

 薙ぎ払いは当たることなく、その勢いで白い身体を大きく曝す。

 

 あれ? ゴア・マガラじゃない。シャガルマガラになっている。

 

 ───幻覚でゴアに見えていたのか。意識が攻撃より分析にいったことと、大剣の重量のためすぐさま攻撃に転じれないために、相手の攻撃後の隙はつけなかった。

 

 六本脚で地を踏みしめる体勢に戻したシャガルマガラは大きく口を開ける。その口元に周囲のウイルスが集まっていくかのように、靄がかかり、妖しげな紫の揺らめきが生まれた。

 

「ブレスが来るニャ!」

 

 まだこっちは姿勢を戻せてないというのに、大技だ。範囲内から逃げるために、大剣を引きずるようにしながら距離をとる。

 

 そして目の前で起きる爆発。

 

 直撃ではないが、爆風により大きく姿勢を崩される。頭にしがみつくネコ太郎の力がより込められた。揺れが激しくて申し訳ない限りだ。

 

「旦那さん!!」

 

 耳元から焦る声が聞こえる。その理由もすぐにわかった。

 

 ───爆発が終わらない。

 

 まるで連鎖するように爆発が何度も起きる。そこに漂うウイルスに誘爆しているのか、どんどんと起きる爆発は場所を広げていく。それは爆風で仰け反った俺の方角も例外なく───

 

「くそっ!!」

 

 ひたすら距離をとるために、地面を蹴るように後ろへ跳ぶ。何度も起きる爆発が起こす風にバランスを崩されながら。

 この地帯を全て飲み込むのでは、と一瞬想像したが、ほどなくして爆発はおさまった。

 

「───なんでここに!」

 

 爆発で散っていくウイルスの塊の向こうから、ババコンガの姿が見えた。跳び上がってのボディプレスをするハゲコンガの姿が。

 

「よ、避けるニャ!」

 

 ボディプレス。前回は前に進んで避けた。だから今回もそうする。あれはガードなどできない。

 前に勢いよく走ると後ろから響く大きな揺れ。そして視界が埋まるほどの距離にある、龍の腹。シャガルマガラの懐にいた。

 

「近すぎね!? てかさっきいなくなかった!?」

「何を言って───ニャー!」

 

 口にウチケシの実を突っ込まれながら、大剣を横殴りにぶつける。

 振るには距離が近すぎるのだ。

 大剣の重みも何もない横殴りだが、一応龍属性の大剣だ。なんか嫌なものを押し付けられたかのような嫌がらせにならないかなと期待して。

 

 特に痛みに呻いたりせず、シャガルマガラは大きく後退して距離を取り直した。

 

「旦那さん! ちゃんと見えてるニャ!?」

「さっきまでゴア・マガラとハゲコンガに見えてたけど今はへーき!」

 

 全く幻覚に疑問を抱いてなかった。ここにいるのは俺とネコ太郎、そしてシャガルマガラだけだと理解してるはずなのに、ハゲコンガをそこにいるものとして動いていた。

 もっとも、今回は幻覚のおかげで助かった気がする。幻覚ではない以前の姿がフラッシュバックして回避がすんなりできた。

 

 しのげたことと、その後のシャガルマガラの行動。

 

 これらのおかげでシャガルマガラの弱点に気づけた。

 

 

「ネコ太郎! あいつの弱点がわかったぞ!」

「な、何ニャ!?」

 

 ネコ太郎に大声で教える。シャガルマガラの弱点───

 

「あいつはプライドが高い!! だから───フホォ!?」

「真面目にす───ブレス来てるニャ!!」

 

 途中でウチケシの実である。

 そして容赦のないブレス。今度は爆発ではなく、ぶつけるタイプのもの。

 

 射線上から離れれば大丈夫……なんて、思わない。未知のウイルスの塊ブレスだ。ゴアのブレスのように急に軌道を変えると考えておいたほうがいいかもしれない。

 

 地を這うように向かってくるブレスに、大剣の腹を上から叩きつける。面で押し潰す。

 ウイルスの塊のくせに衝撃が強い。押し潰せても周囲の空気を強く汚染したかのように、拡がった。だがおかげで直接的なダメージは受けていない。

 その代わり、また症状が一気に進行してそうだが。

 

「あいつはプライド高くてお上品なんだよ! 腹を地につけるようなことはしてこない! だから懐に対して攻撃手段を持ってない!」

 

 ウチケシアタックとブレスで言えなかった続きを言った。もともとゲームでも腹下は比較的安全な場所だ。それが今回確信に変わった。

 

 まあ、懐だと相手に攻撃手段はないが、こちらも攻撃手段がないけど。大剣まともに振れないし。

 

「ずっと懐にいるわけにはいかねぇけど、攻撃を避けるなら腹下に潜り込む方向でいく!」

「わかったニャ!」

 

 シャガルマガラが大きく動いた。

 翼脚の片方を振りかぶる。距離が離れていようと、相手にとっては一歩で踏み込める間合いなのだろう。あ、まだ大剣を背中に帯剣してない。とにかく避ける。つまり懐に潜り込む。

 

 思考がブレブレ状態の中、シャガルマガラの姿がぼやけだした。そして見えだしたのは、ジンオウガの姿だった。

 

 今度はわかる。幻覚だ。

 

 シャガルマガラの姿は見えないが、このジンオウガがそうなはずだ。ジンオウガのお手もとい前脚での叩きつけがくる。避けるなら───脚の外側。

 大剣を軸に前転。立ち上がると同時に大剣を蹴りあげて持ち上げる。その勢いのまま、背後に振り落とす。

 その攻撃は当たることはなく、向き直りながら避けられた。

 

 ……正直、かなりやれてね?

 

 心の中で自画自賛。まだ攻撃された回数は少ないが、全て凌げている。なんだか幻覚が逆に助けてくれている形になってるが。

 調子にのりかけたが考え直す。

 今のところ回避しか出来ていない。閃光からの一撃以外は当たってない現状だ。その一撃が角を片方へし折ったからこそ、シャガルマガラは避ける選択をしているのだろうが、実際は当たったところでダメージにはならないだろう。

 

 渾身の一撃以外は。

 

 全身を使った全力の一撃。激しく攻防している状態では狙えそうにない。もし狙うとしたら……ゴア戦の時と同じく向かってくる突進に合わせて叩き込むくらいだ。

 突進攻撃をしてくるまでは凌ぐしかない。してきたら確実に決めなくては。

 

 方針を考えながら、ケチャワチャの長腕による引っ掻きを回避する。避けた腕が地面にあたり、抉れるような音が聞こえた。

 その音が、対峙している相手はケチャワチャでないということを証明してくれる。

 

 もう一撃、反対の長腕が襲いかかる。

 連続はさすがに無理だ。剣を盾にして受けるしかない。

 

「フニャー!?」

 

 大剣が腕に当たると同時に後ろに跳ぶ。少しでも勢いを殺さなくてはと思ってだ。しかし想像以上の勢いだったため、後転してしまった。ネコ太郎の悲鳴がよく聞こえた。頭にフィットのデメリットである。

 

 一回転してしまったが、それ以上ゴロゴロしないために踏ん張りをきかす。地と擦れて手が痛い。だけど無視できるレベルだ。

 顔をあげればシャガルマガラが翼脚を振り上げていた。

 

 叩き潰す気だ。

 

 さっきのジンオウガの時と同じように、外側へ回避した。自らの脚に邪魔されて、俺へ攻撃は出来ない位置。その位置を嫌がるのかバックジャンプして距離を取られる。またも仕切り直しだ。

 しかしあれだ。今はシャガルマガラの姿が見えてるからか、なおさら思う。

 

 ジンオウガより遅い。

 

 この攻撃の前のケチャワチャに見えてた時も、大剣を盾にして受け止めた時に思った。

 

 ケチャワチャのトリッキーさがないから受けやすい。

 

 この分だとババコンガに見えてた時の攻撃も、きっとどこかババコンガより駄目な要素がありそうだ。

 幻覚のおかげで凌げていると思ったが、案外今までの経験が活きているのかもしれない。

 

 そう思った途端に身体が軽くなった気がした。

 身体を奪っておいて、あまり活躍らしい活躍をしていなかったが、それでも自分は成長していたようだ。

 そんなことを思いながら大剣を振りかぶる。

 

 今度は触覚の生えたゴア・マガラが、六本の脚で地を踏みしめるように姿勢を低くした。

 

 

 ────突進がくる。

 

 決めれば樹海の時の再現ができる。やたらと空気の読める幻覚も、あの時のゴア・マガラを見せてくれている。

 

「ネコ太郎! 実!!」

「ニャ!」

 

 特に打ち合わせなどしてなかったが、こちらの意図を汲み取ったのかすんなりとウチケシの実が口に突っ込まれた。

 正常になった視界の中、シャガルマガラが突進してくる。翼脚の叩きつけと違い、広い面による攻撃。

 だが脅威ではない。

 この攻撃は以前樹海でカウンターを決めれたのだ。タイミングも外さない。さらにはあの時と違って武器が強力になった。大チャンスである。

 

 勢いよく近づいてくるシャガルマガラ。

 

 その姿に渾身の一撃を決めるために、大剣を振り落とした────その一撃は、ただ空を斬るだけだった。

 

 今までの戦いの経験が、ことを有利に運んでくれていた。

 だが、経験を積んでいたのは当然、俺だけではなかった。

 

 

 シャガルマガラも、かつての戦いの経験を覚えていたのだろう。

 

 

 確実にあたるタイミング。それをズラすように急停止した。そして大剣が地に振り落とされてから、翼脚を突きだした。

 

 

 忘れたフリして実は覚えてたとか、性格わっる……

 

 

 迫る翼脚がゆっくりに見える。なのに身体は動かない。見えているのに、動いてくれない。

 

 

 ただ心の中で悪態をつくことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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