逃避の先で   作:横電池

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忌数

 瞬く間に迫る翼脚。せめて張り手だったらいいのに。そんな願いもむなしく、迫る爪をしっかりと立てていらっしゃる姿に嫌悪。爪切れよ。

 大剣を盾にするにも間に合わない。避けるには難しい速さ。

 

「ニャー!!」

 

 ネコ太郎の声がすごく頭に響く。そうだ、頭にはネコ太郎が乗っているのだ。吹き飛ばされたりしたら、できる限り頭は地面にぶつからないようにしなくては。

 吹き飛べればいいけども。迫る爪は吹き飛ばすというより、貫いてきそうだ。

 

「───!」

 

 一瞬顔の前に、上から何かが通ったのか、視界が覆われた。

 

 その直後に衝撃が胸を襲った。その衝撃の勢いで身体ごと吹っ飛ばされる。頭を地面にぶつけないように、なんて思う間など一切ないまま地面に落ち、勢いはそれでも収まらず何度も転がった。

 

「…………ぇふ」

 

 声が思うように出ない。

 しかし、生きていること。意識があること。それらを考えると奇跡的だろう、この程度の被害は。吹き飛ばされても武器を手放さずにいれたこともなかなか上出来ではないだろうか。あ、なんか臭い。今のでポーチの中のこやし玉がつぶれたのかもしれない。

 

 それにしても、衝撃が来たときは痛かったが、今はもう痛みはない。

 

 てっきり貫かれるかと思ってた。何故打撃に変わったのだろうか。衝撃がくる直前の影がクッションになったからとかか。

 しかし、この禁足地にはそんなクッションになるようなものなんてないはずだが。

 ───それにしても、なんだか頭が軽くなったような。

 

 って今はそんなことはいい。シャガルマガラと戦わなくては。何をぼーっとしてるのか自分は。

 首を振って思考を切り替える。その時、シャガルマガラのいる位置から───

 

 

 何かが砕けるような音がした。

 

 

 音の発生源はシャガルマガラの右翼脚からだ。

 爪に突き刺さった何かを地に押し付けていた。

 

 見てはいけない気がする。

 

 何故かそう思った。

 きっとあの何かがクッションになったおかげで、俺は生きているのだ。それが何かを知っても問題ないはずなのに、何故か嫌な予感がする。

 

 シャガルマガラは爪に突き刺さったものを抜こうともがきながらも、こちらから視線をあまり外さない。

 

 シャガルマガラが立てる音と風の音、それ以外聞こえない。

 

 おかしい。

 さっきまでもっと騒がしかったはずだ。何故こんなに静かなのだ。

 ……そうだ、ニャーニャーうるさいやつの声がさっきから聞こえない。

 

「……ネコ太郎?」

 

 何故黙っているのだ。静かだと落ち着かない。

 

「ネコ太郎? おい……」

 

 シャガルマガラが右翼脚を地に叩き付けた。またも砕けるような音がした。

 

 その間も、ネコ太郎は沈黙のままだ。応えない。

 

 自身の心音がうるさい。嫌な予感がどんどんと膨れ上がる。

 応えないネコ太郎。頭の重みが軽くなったわけ。シャガルマガラの攻撃があたる前に、頭上から降りてきた影。

 

 シャガルマガラの爪から、とうとう『何か』が外れた。

 

 

 

 その『何か』は──────ネコ太郎だった。

 

 その光景に、頭が真っ白になる。ただ信じられなくて、ネコ太郎の名前を叫ぶ。

 

 

「───っネコ太ろ───うゥい!?」

 

 

 叫ぼうとした。そしたら口に何かを突っ込まれた。あ、これさっきからやってたやつだ。ウチケシの実アタックだ。

 

 突然の喉への強襲と、それをしてくる存在。そして、見えてきた正しい景色のおかげで頭が一気に冷えた。

 

 シャガルマガラの爪に突き刺さっていたのは、ネコ太郎ではなかった。

 

 ネコ太郎のランス。ドングリを模したあれだった。

 

 頭上からの影は、ネコ太郎がシャガルマガラとの間に差し込むように投げたのだろう。頭が軽くなったのも同じ理由で。

 

 ───くっそ無駄に焦った。

 

 というかネコ太郎はなんで無言なんだ。いるなら返事くらいしてくれ。それとも怪我とかしてしまったのだろうか。応える余裕がないほどの。そう思い、頭にしがみつくネコ太郎を掴んでその姿を見た。

 

「…………くっ!!」

 

 なんでこいつは、こんなときでも変顔をしてるのか。

 不意打ちはやめろ。

 

「~~~~!!」

 

 ネコ太郎が俺のポーチに何度も指をさす。そして変顔のままジェスチャー。

 

 臭いから、投げ捨てろ?

 

 そんな感じのジェスチャーだった。

 ひょっとして、臭いと変顔になるのだろうか。

 

 とりあえずポーチの投げ捨てに反対する気はない。中身はつぶれて臭いを出し始めたこやし玉と、ひとつの閃光玉しかないし。

 

「そぉい」

 

 ポーチの中に手を突っ込み、閃光玉を取り出して迫りくるシャガルマガラに投げつけた。そしてそのあとおまけにポーチもまるごと投げつけた。 

 

 先に投げた閃光玉は、光を放つ前にシャガルマガラが翼脚で払い飛ばした。なんとなく無駄だろうなと思っていたが、そう対処してくるとは。

 

 そして続く臭いポーチ。

 連続でくるとは思っていなかったのか、こちらに迫るのをやめて回り込むように跳んで避けた。

 どちらも当たらなかったのがさみしい。

 

 蓋はしたけど、臭いが少し漂うポーチはむなしく地に落ちる。

 

 一方でシャガルマガラは何かを警戒するように、周囲を見渡した。

 

「……いったいどうしたんだニャ」

「ようやく喋れるようになったのかよ。お前がどうしたってなるわ」

 

 ネコ太郎が声を出せるようになったようだ。なんだか安心してしまう。

 それはそうと、シャガルマガラは警戒を続けている。何故だろうか。あのこやしポーチを投げてからのこの反応。ババコンガが天敵とか? それでこやしのにおいから近くにいると思ったとか? そんなわけないか。

 でもあの警戒はひっかかる。

 シャガルマガラが警戒する相手といえば……いるの? 強いてあげるならアカリだろうか。ゴア時にトドメをさした人物。でもあいつ、うんこ臭くはな───

 

 

『ゴア・マガラが逃げた先がなんか臭かったから匂いが移ったのかなぁ……』

 

 

 うんこ臭かったわ。

 そういやうんこ臭かったわ。ゴア戦の後臭かったわ。

 こやしの臭気から連想されるアカリさんマジパネェっす。居もしない相手を警戒しているうちに確認したいことをネコ太郎に聞く。

 

「ネコ太郎、ウチケシの実はあと何個あるよ」

「……わからないニャ」

「わからないって……」

 

 わからないほどたくさんあるのか。いや、かなり消費したはずだ。そんなことないだろう。

 

「なんだかキモチワルイものに、なってるんだニャ……」

「お前、それ……いつから……」

 

 ウチケシの実が別のものに見えているということか。それはつまり───

 

 

「ボクも、発症してるみたいだニャ……戦い始めて、ブレスが飛んできてからちょっとしてだったニャ……」

 

 

 ───狂竜症による幻覚。

 こうなることはわかっていた。ネコ太郎とともに、シャガルマガラと戦えば感染するということは。

 だけど実際にその状況を目の当たりにするのは少し堪える。

 

「気持ち悪いかもだろうけど、そのキモいの食べろ!」

 

 ネコ太郎の症状はどこまで進行してるかわからない。まだウチケシの実以外はまともかもしれない。それなら治る可能性もまだあるかもしれない。

 

「いやだニャ」

「……っ嫌悪感やべぇのはわかるけど!」

 

 そこをなんとかして食べないと症状がどんどん悪化する。ネコ太郎を連れてきたが、シャガルマガラと相打ち覚悟だが、ネコ太郎とも一緒に往くつもりはない。そのためにも治ってもらわなくては困るのだ。無事に帰ってもらうためにも。

 

「残りの数はわからないけど、数が少ないのはわかるんだニャ! それなのにボクまで使いだしたら、あっという間になくなるニャ! なくなったら旦那さんはすぐにやられちゃうニャ!!」

「お前が幻覚を見だして錯乱してもアウトなんだよ! 俺の姿がモンスターに見えたりするかもしれないんだ!」

「大丈夫だニャ!」

 

 何を根拠にそんなことを言うのか。幻覚が幻覚に感じなくなることもあるというのに。

 

 そんな言い争いをしている間に、シャガルマガラが動きだした。

 その場で飛び上がり、翼を広げて宙にその姿を留める。あれは───

 

 思い当たる行動。ゲームでも見た行動だ。

 この戦いを始める前も似たような行動を見たが、これは違うだろう。これは、ゲームでは怒り状態への移行。

 

 耳を劈くようなシャガルマガラの咆哮が響き渡る。その咆哮に応えるように、まるで周囲の空気も歪んでいくかのように感じれた。

 視界が薄い紫がかった景色に染まっていく。一部の空間では、紫の色がどんどんと白く輝きだし───そして弾けたのが見えた。

 

「地雷までしっかりあんのかよ……!」

 

 空気中の、この辺りのウイルスがシャガルマガラによってより活性化したのだろうか。ゲームで見せた地雷をしっかり再現してくれることに思わず舌打ちしたくなるほどの感動を覚える。周囲への無差別攻撃とか、よっぽどアカリの乱入が嫌なようだ。来ないというのに。

 

 薄紫の世界の中、ネコ太郎の掴む力が強くなったのがわかった。

 

「ネコ太郎……」

「大、丈夫だニャ……こうしてしがみついている相手は旦那さんだって、わかってるから大丈夫だニャ……」

 

 そんな言葉のどこを信じろというのか。

 

「いいからお前も早く食べろ。明らかにさっきよりウイルスがおかしくなってる……爆発するようになっただけじゃなく、たぶん感染の進行も強化されてる……あと俺にもウチケシの実ください」

 

 あのシャガルマガラの行動が、ウイルスをより厄介なものに仕立てたと考えておいたほうがいい。この紫の視界が身体に異常をきたさないわけがない。

 そしてまたまた幻覚が見えだした。今度は地面を埋め尽くさんばかりのズワロポスとイーオスの死骸。

 

 見えている景色が趣味が悪すぎる。足の踏み場がなさすぎだ。

 

 後ろから口に実を突っ込まれる。

 しがみついている力は緩んでいない。

 

 ……この分だと、今はまだ自分で食べる気はなさそうだ。

 

 ウチケシの実を飲み込み、ズワロポスとイーオスが見えなくなったのを確認。大丈夫、踏み場はある。

 シャガルマガラがいた位置には、片目がつぶれたドスジャギィがいた。

 

 ───ウチケシの実を食べたのに、まだ幻覚が見えている。

 

 もう一個食べるべきか。いや、ダメだ。数が不安な状態だ。それにドスジャギィがいるところに武器を振ればいいのだろう。幻覚でシャガルマガラがドスジャギィに見えているだけだ。

 

 ドスジャギィが向かってくる。

 ネコ太郎の説得は後回しだ。向かってくるドスジャギィというかシャガルマガラを迎え撃たなくては。

 

 しかしドスジャギィて。威圧感が完全にない。

 

 飛び掛かるように襲い来るドスジャギィを横に躱し、首に向かって大剣を振り下ろす。

 しかし大剣は弾かれ、腕に痺れだけが残った。

 

 このドスジャギィ、めちゃくちゃ硬い───

 

 異常な硬さに唖然としかけ、瞬く間にドスジャギィの姿は消えた。代わりに見えたのは

 

「え……これ違う!?」

 

 大岩だった。

 

 ───なら、シャガルマガラはどこへ

 

 そう思い後ろを振り向けば、翼脚を大きく振りかぶるシャガルマガラの姿がそこにあった。

 横に、いや前に、一瞬の思巡のあと懐に飛び込んだ。

 直後に碎ける大岩。破壊力を見せつけてくれる。砕けた岩は、それでも腰ほどの高さのサイズになってあちこちに散らばった。

 

 やはり懐は安全だ。そう思いながら大剣を蹴りあげる。攻撃は腹部にあたったが、当然のごとく斬ることはできない。

 強引に押し上げようとしても無駄だろう。腹部で止められた大剣の下に身体を捻るようにいれて、背中に無理矢理戻した。

 その直後に覆い被さる影がなくなる。

 シャガルマガラが後ろに跳んだ。ただし設置するタイプのブレスという置き土産をしながら。

 そばに置かれたウイルスの塊から距離を取ろうと足に力を込める。半歩動いた時点で塊は爆発を起こした。

 

「───!」

 

 爆発により吹き飛ばされる。この戦いが始まってから、吹き飛ばされるのはこれで二回目だ。それでも生きてるのは、五体満足なのは幸運かもしれない。

 狂竜症のおかげで痛みは感じない。すぐさま起き上がり、滑空してくるシャガルマガラを前へ滑りこむようにして避ける。

 

 翼脚の攻撃といい、滑空といい、ほとんど直線的な攻撃ばかりだ。冷静にいれば、幻覚さえなければ避けやすい。二回も攻撃受けてはいるけど。

 

「ネコ太郎、残ってるウチケシの実の九割ほどくれ。残り一割はお前が食べろ」

「そんな一気に……」

 

 いっぱい摂取すればそのぶん抑える効果が長く、なんて思ってはいない。ズワロポスの死骸とシャガルマガラを眺めながら考えたことを言った。

 

「考えれば長期戦なんて不利すぎるんだ。確実に次で決める」

「わかったニャ!」

「幻覚さえなければこっちのもん───よがぅ!?」

 

 何故この子は喋ってる最中に全力で突っ込んでくるのでしょうか。

 

「もうウチケシの実は今ので全部……なくなったニャ」

 

 一度にいくつも口に突っ込んだおかげがもごもごする。そして早速効果が出てきたのか、全身に痛みが溢れる。思わず息を止めてしまう。

 

 痛みに硬直したが、シャガルマガラから目を離したりしない。正直、逃げ帰りたい。痛すぎる。そして、やっぱり怖く感じる。

 死ぬ覚悟とか決めたつもりが怖い。帰りたい。

 

 帰って───団長の思いつきに付き合わされたい。お嬢の無茶ぶりにゲンナリしながらジイさんに押し付けたい。アニキの仕事の隣で娘っ子とやいやい騒ぎたい。かあちゃんの飯をつまみ食いして怒られたい。アカリとまた───

 

 ダメだ。何を考えてるんだこんなときに。

 

 考えを振り払うように首を振る。そして見えてしまった。

 

 

 ───足元が光り輝いている。

 

 

 逃げる間もなく、足元が───足元あたりに漂うウイルスが弾けた。

 

 シャガルマガラが吐き出すブレスと違って、爆発というより空気の塊による衝撃。

 強い突風に当たるかのような衝撃に、バランスを崩し地面に倒れてしまう。

 

 ───ウチケシの実はもうないのに、俺は何をやってるんだ。

 

「旦那さん!!」

 

 見上げれば迫りくるシャガルマガラの姿。突進に合わせて攻撃なんて間に合わない。避けなくては、でもまた止まるのでは、いや、あれは俺の動きに合わせてきただけだ。このまま面による攻撃で蹴散らしてくるだろう。

 

 身体を起こし、圧迫感を出しながら目前まで迫る巨体を見やる。横にはもう避けれない。上へ避けるなんてさらに無理だ。

 だけど、ゲームで何度も突進は避けたのだ。ひたすらギルクエばかりしていたゲーマーを───

 

「舐めんなぁぁあ!!」

 

 シャガルマガラの顔の横を転がり、脇まで身体を持っていく。

 感じていた圧迫感はすれ違うようになくなった。そしてすぐさま地面を蹴り、突進の勢いを殺しきれてないシャガルマガラの背後をとる。

 

 ───これが正真正銘、最後のチャンスだと思って大剣を振りかぶる。

 

 振り向きに合わせて叩く。そのまま素直に振り向くならそれでよし。振り向きながらの攻撃なら、おそらく翼脚による薙ぎ払い。薙ぎ払いならその翼脚に叩き込む。

 

 背を向けるシャガルマガラが縦にブレた───これは薙ぎ払いじゃない。

 

「そぉぉ───!!」

 

 深く踏み込みながら大剣を振り落とそうとして───止められた。

 

 

 ───翼脚の脚裏で、大剣を受け止められた。

 

 

 器用にその脚で大剣を掴み、俺から強引に奪い取る。

 そのままもう片方の翼脚で薙ぎ払い。当たる直前に後ろに跳んで勢いを少しでも殺す。

 

 離れた俺に向かってシャガルマガラは、奪い取った大剣を投げつけてきた。

 

「即返品かよ!!」

 

 回転しながら迫る大剣を受け止めるなどできない。ただ避ける。当然避けた結果、大剣は離れた場所まで飛んでいった。飛ばされた先は、このフィールドの入り口だ。

 

 それをすぐさま拾いに行こうとして───

 

「ほんっとうに性格わりぃな……!」

 

 行く手を阻むように回り込んできた陰湿な龍に罵倒を吐き捨てる。

 

「旦那さん……」

「……すまん、ネコ太郎」

 

 シャガルマガラは武器のなくなった俺を見据えている。大剣のもとまで行かせてくれなさそうだ。こいつ性格悪いし。

 攻撃を掻い潜って行こうにも、いやに冷静そうな目付きだ。大振りばかりしてた姿とはかけ離れている。

 

「かっこよく、お前だけでも逃げろって言いたいけど、心細さがやべぇわ……」

 

 ネコ太郎は逃がすべきだろう。小さいから見逃してもらえるかもしれない。だけどそれができない。

 

「旦那さん。ボクは何があっても、ここにいるニャ」

 

 ……ネコ太郎のくせに穏やかに言いやがって。

 

「何があっても頭の上とは、図々しいやつめ」

 

 茶化しながら、その言葉に甘えてしまう。結局かっこつけれなかった。英雄になると言いながらこれだ。

 シャガルマガラは空気でも読んでるのか、こちらを見据えたままだ。

 こちらは空気を読まずに行動してやる。勝ち目はもうないが、少しでも嫌がらせをしてやる。

 構えたのは剥ぎ取りナイフだった。

 

「とりあえず最期までひとり頑張ってみるか」

「ボクもいるって言ったばっかりだけどニャ」

「あれだあれ。二人で一人的な? 一心同体的な?」

 

 翼脚がまるで蛇の鎌首をもたげるように動いた。やっぱり大振りの技ではない。

 

 ───だいぶ、頑張った方だよなぁ。

 

 だけどその頑張りも、もう終わってしまう。そう思っていた時だった。

 シャガルマガラが突然動きを変えた。まるでバランスが崩れたかのように、慌てて翼脚で倒れるのを防ぐように。

 

 何故、と思った。その答えはすぐにわかった。

 

 シャガルマガラの背中に誰かが乗っている。その人物は何度か剣を背中に斬りつけてから隣に降り立った。

 

 その人物はいつものように、眉間にしわを寄せながら俺に言った。

 

 

「頼れるものがいるならその者に頼る。君は私にそう言ってなかったか」

 

 

 なんでここに、助かりました、とか言う間も与えずに飛んでくる言葉はどこか怒気が含まれている。

 

 

「私達は、君の周りの人達は、頼りにならないと思ったのか」

 

 

 責めるような言い方だ。何度か一緒にいたけど、やっぱりこの人は苦手だ。

 この眉間にしわがデフォな───

 

 

「なんにしろ……誰かを頼るにせよ、ひとりでやるにせよ……しっかりしないと、私が許さん!」

 

 

 ───この筆頭リーダーは。

 

 

「いや、頼らなかったのは、極秘で、え……てかなんでここに」

 

 突然の展開にしどろもどろになってしまった。その質問に返してくれたのはまた別の人物だった。

 

 

「私達は友人を探しに来たんだ。極秘の任務をやっているなんて、知らないからね。村に見当たらないから探しにここまで来ただけだよ……そして、友人を助けるためにも危険なモンスターは狩らなくてはね」

 

 

 屁理屈を言いながら大盾とランスを構える。お前さん絶対極秘任務知ってたでしょ。極秘だから知らないって、もう知ってますって言ってるようなものじゃないか。

 

 

「フフ……そうね。私達の友人を探しに、たまたまここまで来ただけよ。そして、そこにたまたまいる古龍を倒すだけ」

 

 

 続いてガンナーもやってきた。ギルドの決定を無視しちゃう筆頭ハンター達である。

 この分だとルーキーも来そうだ。筆頭ハンター勢揃いである。

 

 次々と来る乱入者に、シャガルマガラは挟まれるのを避けるためかその場から飛び退いた。

 シャガルマガラが飛び退いた位置には人影が。その人物は───

 

「ってお前かーい……」

「はぁ!?」

 

 ひぇ、こわい。

 

「まったく……時間を置いてからもう一度話しよって約束したよね?」

 

 溜息をつきながら、アカリは責めるように言った。約束はしてませんけど。それに、話すことなんてない。

 

 

「なのに、逃げるみたいにひとりでいくなんて……そんなの許さない! 逃がすわけない!」

 

「話すことなんてねぇよ……するとしたらお別れの挨拶くらいで───」

 

 

 言ってる最中に横からリーダーの蹴りがとんできた。その直後に通過するウイルスのブレス。

 

「とにかく!! 話は後ね!! 今はこいつをどうにかしないと!」

 

 ハンター達にウイルス感染しないようにするための極秘任務がもう完全に意味がなくなってる。この人達シャガルマガラを倒す気満点だ。

 

「やっと着いたー! やっぱりアンタ無事だったッスね! アンタしぶとそうだし」

「お前は来てそうそう失礼だな……しかもなんかひとり遅れてるし」

 

 順番的にアカリより前に来るべきだろう。いや、ていうか本来はみんな来たらダメだけど。

 

「準備で遅れたんスよ! ほら、これ飲むッス!」

「なんだこれ……」

「特性ウチケシジュース! ゴリゴリに混ぜてみた!」

 

 混ぜてみたって、テキトー感溢れる言い方に感じるが効果はありそうだ。飲みたくない見た目に見えるあたり、体内のウイルスが嫌がってそう。

 

 飲みながらシャガルマガラを、筆頭ハンター達とアカリの戦いを見る。

 シャガルマガラの攻撃を避けて懐に飛び込み、斬りつけるが硬さのためかダメージはなさげだ。

 

 だけどなんでだろう。負ける気が今はもう完全にない。

 少し前までは諦め気分だったのに。

 

 ハンター六人に対し、古龍一体。

 

 四人より多い狩り場なんてゲームでは見れない状況だ。数の優勢、それに俺以外……俺とルーキー以外ベテランだ。ルーキーはルーキーだからね。

 

 

 

 

『5って数字は避けときたいかなーって!』

 

『5は忌数だからね』

 

 

 

 

 唐突にアカリと大僧正様とのやり取りを思い出した。

 その内容のせいか、なんとなく嫌な予感が芽生える。

 

 5は危険な数字。大丈夫だ。今は6人。5ではない。

 

 だから大丈夫だ。

 

 

 もし、そんなジンクスが影響が本当にあるとしたら───この狩り場に5人目に現れた人物。

 

 なおさら大丈夫だ。自分に言い聞かせる。こんな時に縁起の悪いことを考えるな。大丈夫だ。

 

 

 

 

 

 だって5人目の人物は───アカリだから、大丈夫なはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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