逃避の先で   作:横電池

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調子のいいヤツ

「ネコ太郎、どうだ?」

 

 ルーキーが持ってきた特製ウチケシジュースをネコ太郎に飲まして調子を聞く。

 俺の方は幻覚がまた抑えられたから、ネコ太郎にも同様に効果覿面だと思うが。

 

「大丈夫ニャ……旦那さんの小銭ハゲがしっかり見えるニャ」

「嘘ぉ!?」

「嘘だニャ。あ、幻覚は見えなくなったニャ」

「心臓に悪い嘘は止めてくれる!? ショックでハゲそ……ハゲてない!」

 

 救援のおかげか、心に余裕が出てきたのかふざけたことをのたまうネコ太郎だ。そのおふざけに付き合って、胸に生じた不安を無視する。

 

 

 ───忌数なんて関係ない。ただの迷信だ。

 

 

「ふざけてないではやく武器を拾ってくるッスよ!」

「お、おお!」

 

 片手剣を装備したルーキーに急かされ、大剣を拾いに行く。今度はシャガルマガラ本体からの妨害はなかった。代わりに───

 

「狙ってやったと思うか? あれ」

「狙うならボクらを直接狙うと思うニャ……だけど狙ってやれると思った方がいいかもしれないニャ」

 

 拾おうとした大剣がウイルス地雷の爆発で遠ざかった。また近づけばいいだけだが地味な嫌がらせ感。

 爆発とはいえ、ただ吹き飛ばす程度。念のためチェックしたが、大剣が壊れたりなどはしてなかった。

 

「……よし! やれる!」

 

 ウチケシパワーもまだある。そのおかげで全身に痛みがまた戻ったが。それに、武器も手元に戻った。

 

 これならシャガルマガラとアカリ達の戦いに参戦できる。武器を背負いながら戦いを見れば、シャガルマガラの攻撃を掻い潜り、攻撃をするも硬い鱗で阻まれている状況だ。

 まだそばにいたルーキーが同じ方向を見ながら言った。

 

「アンタの武器じゃないと火力不足みたいだ……なんとかして自分達が隙を作るから───」

「大剣を叩き込めばいいんだな!」

「頼んだッスよ!」

 

 このやり取り、前もしたよな。ゴア戦の時に。

 シャガルマガラに読まれるのではと思ったが、前と違ってこの人数だ。それに、シンプルすぎる作戦だから読まれても問題ない。隙ができたら叩く、だし。

 唯一の問題があるとしたら───

 

「なるべく早くな! 症状が進行する前に!」

「モチロン!」

 

 ウイルスが活性化しているこの空間。それによる時間制限だ。長引けば感染、幻覚症状からの同士討ちが起こり得る。

 

 ルーキーは返事をしながらシャガルマガラの元へ掛けていった。それに続いて俺も走った。いつでも大剣を振れるように。

 

「うおおおおーー!」

 

 ルーキー君いつになく気合い満点な掛け声だ。

 そして掛け声とともに、盾と剣を打ち鳴らし騒音をたてだした。

 

 突然の金属質な騒音に、アカリ達から注意を明らかに逸らした。

 その隙をベテランたちが見逃すわけなく───

 

「そぉい!」「ふんっ!」

 

 身軽なアカリとリーダーの攻撃がシャガルマガラの左右から襲う。狙いは眼だったのか、顔に剣を突き立てるも刺さらなかった。

 直後にシャガルマガラの背中で爆炎。ジンオウガ戦でも見た拡散弾だ。

 直ぐ様二人はシャガルマガラから離れた。

 

 拡散弾による爆発でも対したダメージにならないのか、口元に妖しげな光を、ウイルスを集めだす。

 その光を覆い隠すようにランサーの大盾が遮った。あのブレスは爆発、誘爆してどんどん拡がるものだった。しかし、大盾によって、誘爆するための周囲のウイルスに触れることが出来なかったのか、爆発は拡がることがなかった。

 

 やはりシャガルマガラの攻撃に確実に対応出来ている。ブレスも、翼脚も大丈夫だ。心配する要素なんてない。

 

 ブレスが妨げられ、翼脚でフックのように顔の前を薙いだ。それをバックステップで避けるランサーに───

 

「───危ないニャ!!」

 

 横薙ぎの勢いによって晒した側面で、強引にタックルをしてきた。反対の翼脚で地面を押し出すように。

 

「───ぐぅっ!!」

 

 盾で防ぐも勢いは止まらない。身体で地面を抉りながらなおもがむしゃらに押し続けるシャガルマガラ。翼脚を直接攻撃に使わずに、支えに使っている。

 

「センパイ!」

「翼脚を狙って!」

 

 ルーキーの焦り声とガンナーの指示が飛ぶ。

 翼脚の力による強引な突進。それを削ぐために。

 

 直ぐ様リーダーが翼脚に攻撃を入れる。胴体から爪に向かって、沿うように刃を入れた。

 その斬撃は翼脚の鱗を削ぎ、続いてアカリの攻撃が鱗を削がれた部位に入る。

 

 さすがに危険を感じたのか、すかさず翼脚を引っ込め、突進をやめて飛び退いた。

 

 もう完全に我武者羅だ。

 プライド高くお上品に振る舞っていた先程までとは違う。もう懐も安全とは言いがたそうだ。

 

 シャガルマガラの行動が変わって焦ったが、大丈夫だ。対応出来ている。それどころか、翼脚の鱗を削げた。この分ならいずれ大剣以外でもダメージが入る。

 

 だから、大丈夫だ。

 

 再び肉薄する戦況。明確な隙をただ待つ。

 シャガルマガラがダウンするような状況を待つ。たとえ数秒程度でも、動きが止まるのを待つ。

 

 シャガルマガラが翼脚を大きく振りかぶった。いや、翼脚だけでなく全身を大きく持ち上げた。焦れたのか、ここにきて超大振り。両方の翼脚を地に叩きつける、ゲームで見た土下座。そんなの俺を含めて当たる人物はいないだろう。

 

 その攻撃の狙いは───明らかに誰もいない位置。

 

 意味がわからない。

 

 シャガルマガラ自身が幻覚を見ている? そんなはずない。そんな間抜けだとは思えない。

 

 あるとしたらフェイント。何気に性格が悪く、そして我武者羅になっている。無理矢理、強引に軌道を変えて襲ってくるかもしれない。

 

 他の皆も同じ考えに至ったのか、攻撃の手を止め回避に専念するためか、シャガルマガラの動きに注視していた。

 

 どうしようもない不安から、シャガルマガラでなく皆の姿を見ていたため、気づいた。

 

 

 5人目の、アカリの足元が、光りだしていた───

 

 

 シャガルマガラが身体全体を持ち上げて、それに注視しているせいで、誰も足元に気づいていない。

 あの地雷爆発は致命傷にはならない。精々身体ごと動かされる程度。

 飛ばされた先にあの大振りが来たら───

 

 すぐに言うべきだ。

 足元から崩しに来ていると。

 

 そう思うと同時に、ある考えがよぎった。

 

 

 ───アカリがいなくなれば、あの暴露がなかったことにできるんじゃないか───

 

 

「───った!」

 

 

 アカリの足元の光が爆発し、その身体を運ぶように吹き飛ばした。───シャガルマガラの前まで。

 

 完全に姿勢を崩されたアカリと、攻撃に移っているシャガルマガラの姿に誰も対応できない。

 5という数字は、この世界ではやはり忌むべき数字だと思えるような光景に。

 

 

 

「───っそんなもん知るかぁあ!!」

 

「クライ!?」

 

 

 忌数とか、なかったことにできるとか───そんな考えを振り払い、シャガルマガラの側面の上半身に飛び掛かり斬りつけた。

 

 六本の脚でいる時や、四本脚での舐めプの時と違い、攻撃のため二本脚になっていたシャガルマガラは突然の横からの攻撃にバランスを崩した。

 その結果、身体を倒さないように、慌てて手を前に出して転ばないように動いたため、シャガルマガラの攻撃はアカリに当たることはなかった。

 

「あ、ありがとう、クラ……ありがとう……!」

 

 どこかぎこちない感謝の言葉と、シャガルマガラの敵意だらけの視線に挟まれた。

 ぎこちない理由にあたりをつけながらシャガルマガラを見る。邪魔をされた怒りからか、大振りで片翼脚で迫る叩きつけ。後ろにはアカリがいる。放っておいても回避しそうだが、今はまだ不安だ。忌数なんて───

 

 

「信じてねぇけど───!」

 

 

 迫る翼脚。大剣を構え、迎える。

 

 

「そんな迷信はもう、おしまいだ───!」

 

 

 大剣の柄を地につけた。怒りでこの剣に角を折られたのを忘れてるのか、先の攻撃でたいしたことのないイメージでもついたのか、構わず振り落とされる翼脚。

 縦からくる衝撃を大剣もまた、縦に受け止める。

 大剣ごと潰す目論みは、うまくいったのだろう。

 

 ───アイアンソードのままだったら。

 

 しなって受け流すことなく、影の誇り───プライドofシャドウ───はシャガルマガラの攻撃をそのまま受けた。

 折れたりせずに、逃がされなかった攻撃の威力は地面と、シャガルマガラに返る。

 

 貫くことはなかったが、反射行動のように即座に離れるシャガルマガラ。その痛めたであろう翼脚は、離れた後も地に着けず庇うように畳まれた。その状態はつまり

 

 

 

 ───5本脚で立っている。

 

 

 

 やっぱり迷信を信じるわ。モンスター側にのみ適用という形にして信じるわ。

 

「ク───もう、大丈夫!」

 

 アカリの言葉と、今の状況。

 今度こそ、完全に負ける気がなくなった。もう不安も感じない。

 

 あとは勝つだけだ。それなら名無しでなんていられない。

 

 

「クライだ」

 

「え……?」

 

 

 今だけはクライと名乗る。元々クライという名を英雄にしたてあげるための行動だったのだ。それに、アカリがさっきから、どこかぎこちない言葉だったのは、なんて呼べばいいかわからなかったから。その解消にもつながる。

 

 

「今だけはクライだ!」

 

「…………馬鹿だよねクライって!」

 

「そこでまず罵倒!?」

 

 

 アカリのもの言いに突っこみながら、大剣を背負い直す。

 

 一体で六人に対峙するシャガルマガラ。

 最初に、自分とはまるで真逆な存在と思った相手。この状況になって殊更その思いが強まる。

 

 距離を詰める。

 迎え撃とうとするシャガルマガラに、ボウガンによる射撃が襲う。痛めた右翼脚に、容赦なく弾丸が突き刺さった。

 その痛みから、一瞬苦し気に呻いたシャガルマガラの頭に大剣を振り落とす───

 

 

「これで終わりだ───!」

 

 

 避けられた。後ろ下がられ、避けられた。

 

 

「そんなこと叫んで普通避けられる!?」

「旦那さん……ボクも今のは決めるべきだと思うニャ……」

 

 アカリとネコ太郎の言葉が耳に痛い。

 だけど

 

「しっかりしないと許さんと言ったばかりだろう……!」

「なんか気が抜けるッスね!」

「だが張りすぎるよりはいいかもしれないな!」

「フフ、それもそうね!」

 

 大剣を振り下ろした俺へ反撃しようとしたシャガルマガラに、筆頭ハンター達の攻撃が入る。翼脚でなく、前脚に。

 

 本当に、シャガルマガラと真逆だ。

 

 シャガルマガラは一体でいるのに、俺は一人になれなかった。

 

 今まで翼脚が邪魔で狙えなかった前脚への猛攻。倒れることを避けるように、そして逃げるように翼をはためかせ、シャガルマガラは宙に飛んだ。

 

 逃げられる───!?

 

 頭に浮かんだのはハゲコンガ。その時のように逃げられるのでは、と思った。

 その時、背後からいつもの声が聞こえた。

 

 

「クライ! 足揃えて思いっきり跳んで!!」

 

 

 よくわからないが言われた通りに跳んだ。まずシャガルマガラに届かない高度である。

 そして地に降りる前に、足裏から感触。そこから押し上げられる。これって───

 

 

「いけぇええ!!」

 

「かちあげぇええ!!?」

 

 

 片手剣の盾によるかちあげ、シールドバッシュ。持ち上がると同時にこちらも跳んだとはいえ、あの人こわい。

 

 

 飛び上がったシャガルマガラと同じ目線の高度まで来れたのだから。

 

 

「今度こそぉぉおお!!」

「決めるニャァァアア!」

 

 

 飛ばされた空中で大剣を振るなんて初めてだ。まともに力を込めれない。だから狙いは頭を避けた。

 

 

「終わりだぁあ!!」

 

 

 痛めた右翼脚に、狙い通りに大剣を当てた───

 

 

 執拗な怪我への攻撃に苦し気な叫びをあげ、シャガルマガラは地に落ちる。

 

 同じく落ち、着地の勢いのまま身体を捻り大剣を横薙ぎ。

 

 

「もう一回、終わりだぁあ!!」

「ニャァァアア!」

 

 

 その一撃は、倒れこんでいたシャガルマガラの下顎へ当たった。

 その巨体を僅かに揺らす。硬さがひどい。すぐさまシャガルマガラは起き上がろうともがくが、立ち上がらない。立ち上がれない。

 

 ───もしかしてスタン的な?

 

 その堅牢な外殻が、大剣を打撃に変えたのか。そのため激しく脳を揺さぶられたのか。

 

 なんにしろ、大剣を構え直し───

 

 

「もう一回、今度こそ───終わりだぁぁああ!!」

「決め台詞になってないニャァァアア!」

 

 

 その頭部へ渾身の一撃を見舞った。

 

 

 

 

 断末魔の叫びはない。

 

 シャガルマガラは、痙攣すらも止め、完全に動かなくなった。

 

 

 途端に辺りの景色が変わっていく。

 

 紫がかった視界が、風で飛ばされていく。

 

 

「お、おお…………やったー!! やったッスね!!!」

 

「やっと、終わったニャ……」

 

「やったッスよ!!! よっしゃー!!!」

 

 

 ルーキーの勝鬨の声がうるさい。余韻に浸らせて。

 

 ウイルスが飛ばされ、散っていく。

 発生源であったシャガルマガラが絶命したためか、ウイルスの補充はされない。

 

 

「随分長く感じたが、気のせいじゃなかったようだな……」

 

「そうね……」

 

 

 ランサーとガンナーがしみじみとした感じに言った。そうだよ、こういう感じに余韻が必要なんだよ。ルーキーは見習って。

 

 

「もう、朝だったんだね!」

 

「長い夜だったな……」

 

 

 アカリさんは相変わらず大声だこと。

 それに釣られないリーダー。

 それにしてもその言葉に違和感。

 

 

「いや、朝日でてなくね?」

 

「……え?」

 

 

 思った感想を素直に言ったら、何言ってんだみたいな顔された。だってまだ辺りは暗いじゃないか。まだ夜じゃねこれ?

 

 でも、なんにせよ、終わったおかげが、やたらと眠い。暗いし、ちょっと寝ていいだろう。頑張ったし。

 

 頭部が軽くなった。ネコ太郎もおやすみモードに入ったのか、頭から降りて寝だしたようだ。

 

 

「クライ! クライ!!? ネコ太郎まで───!!」

 

 

 アカリが何か喚いている。

 寝るときくらい静かにしてほしい。

 

 

 あ、ダメだ。横になるともうダメだ。

 

 睡魔がすっごい───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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