逃避の先で   作:横電池

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開戦の音色は終わりの叫びとなりて

「はぁ……緊急クエストっすか」

 

「そうなんです! 入団希望者の竜人商人さんの出した依頼がギルドで緊急クエスト認定を受けたんです! 1回のクエストで仲間も増えて、さらにハンターランクも上がって、まさに一石二ガーグァですよ!」

 

 

 探索から戻ったらお嬢が随分とご機嫌だったのだ。

 何かあったのかと聞いたらこのテンションである。そう、緊急クエストである。

 村の緊急クエストってハンターランク上がったっけ。上限開放後は村クエでも上がるけど、あ、待てよ。これはひょっとしてアカリの緊急クエストではないか。

 だって俺、今までの狩猟歴アルセルタスとドスジャギィだけだし、緊急受けれないっしょ。

 しかし一応確認だ。

 

 

「一応、緊急クエストってどういうものか聞いていい? 確認のためなんだけど。あと俺じゃないよねそれ受けるの」

「クライさんですよ?」

 

 この世界は残酷だ。

 

「えと……俺の思ってる緊急クエストって、こう、いろいろ狩猟経験を積んだハンターに任されるもんだと思ってたんだけど……」

「概ねその認識であってますよ。はい。加えて言うなら、ギルドがハンターさんの評価をあげたら出される昇格試験のようなものですね」

「俺、ドスジャギィとアルセルタスしか狩ってないんだけど?」

「探索での行動も評価対象ですから、そのあたりも加味されてるんじゃないでしょうか」

 

 探索での行動ってお前。俺が何をやったと思っているんだ。

 

 

 パンツ覗こうとして腹パンをされた覚えしかないぞ。

 

 

「とにかく緊急クエストです! ケチャワチャの狩猟ですよ! なんでもバルバレの流通経路のひとつで大暴れをしている困ったさんだとか。ということはつまり! このクエストをこなせばバルバレの方たちのためにもなるという、一石三ガーグァですよ!」

 

 こう、このまま流されていいものなのだろうか。

 なんだかズルズル、ズルズルと流されっぱなしな気がする。採取専門ハンターへの道はかくも厳しいものなのか。

 

 しかしなんとなくあれだ。村クエの主人公になってない俺? アカリじゃなくて俺が村クエで頑張る流れなのだろうか。だとしたら、うむ。

 流される前に、まずはモンハン4のストーリーの流れを思いだせるだけ思いだしてみなくては。

 

 竜人商人仲間にしたらナグリ村だったかに行って、ネルスキュラ倒して船作って、ゴアに襲われて、猫島について……何したっけあそこ。まぁ何かとあってゴアと戦って倒して、空飛んで、シャガルーン。

 

 キークエは覚えてないけど、とりあえずストーリーに関わるのはこんな感じか。絶対なんか足りない気がする。

 あ、ババコンガとジンオウガだ。シャガル前にババコンガとジンオウガだ。狂竜状態の。ムービーあったはず。

 

 とりあえず、ケチャワチャの次はたぶんネルスキュラ……?

 

 蜘蛛か。つまり虫か。4って虫多くね?

 そして危険な香りが跳ね上がってる気がするぞぅ。大きな蜘蛛さんなネルスキュラになると。

 

「……やっぱりアカリが緊急クエストやるべきな気がするんだ。ほら、確実性高いし、俺よりギルドに貢献しそうだしほら。ほらほら」

「アカリさんは上位ハンターですからこのクエストじゃ昇格に適さないようですね。もっと逞しいモンスター相手じゃないとダメなようです。その時は私もこっそりついて行ってみたいですね」

「俺ちょっと風邪気味なんですよはい。なのでちょっと……」

 

 仮病じゃないよ。本当だよ。

 

 そんな思いが通じることを祈りながら、訴えかけたが―――

 

「クライさんなら大丈夫ですよ。きっと団長もこう言いますよ。お前さんならできるできる!」

 

 なんてテキトーな流しっぷり。それに団長はいっつもそれだから。

 あと『まあまあ。まあまあ』だから。

 

「まぁ、ケチャワチャならたぶん大丈夫だろうし……今回は仕方なく行くよ……」

 

 もちろんひとりでは行かないけども。

 

「クエストが終わったらケチャワチャについて教えてくださいね。もちろん、動きも再現してくださいね」

 

 もちろん再現なんてしないけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結構見慣れてきた景色。遺跡平原へまたも到着である。

 

 

「今日は片手剣なんだね!」

 

 この上位ハンターは相変わらずの大声である。

 

「ケチャワチャ相手にあの重量を当てれる気があまりしなくてな……」

 

 あの時ドスジャギィに当てれたのは偶然だったと思う。片目が見えない状態で、でかい虫を落としたと思ったら死角から俺の攻撃だったのだ。

 今回のケチャワチャは、ゲームではフットワーク軽いのだ。ドスジャギィよりもはるかに。

 そんな相手にあの大剣を当てれる気がしない。相手がフットワーク軽いのならこちらも軽い武器だ。

 

 敵に合わせて獲物を変える。まさに玄人狩人である。ふふん。

 

「アカリは今日はハンマーなんだな」

 

 なんていうかあれだな。俺のデータ通りなら全武器まんべんなく使ってたから何でもいけるんだろうけど、重量武器ばっかだな。もう脳筋雰囲気伝わってくるわ。

 

 

 しかしそのハンマー……

 

 

 なんかしょぼくね?

 

 

 アイアンハンマー? だっけ? とりあえずそんな感じの。初期っぽい感じがすごいする。星砕きプロメテオルだっけ。そんな発掘装備なかったっけ。スシローな発掘装備。

 

「後ろで見てるだけってのもつまらないしね! やりすぎない程度にたまーに手伝おうかなって!」

 

 たまーに、ですか。ずっと手伝ってくれてもいいんですよ。

 

 この行動はあれだな。心当たりある。

 

 誰かのクエストを手伝うとき、武器をクエストの適正なレベルに落として手伝うのだ。やりすぎて『もうあいつひとりでいいんじゃないかな』にしないようにするために。勇者様行動NGだ。

 ただついていくだけだとつまらなくなるからこその行動だ。

 

「ボクはいつも通り槍だニャ!」

 

 ネコ太郎が槍を掲げる。オトモ装備って加工屋さんで作ってもらえたっけ。ネコだらけの島に着くまで無理だっけ。そうだったらずっと槍だなこいつ。こいついっつも槍使ってんな。

 

 ちなみに今回の俺の片手剣はなんと星紋の剣盾である。アルセルタス素材から作られた片手剣だ。ボーンククリとかハンターナイフとかとは比べ物にならない代物である。

 ぶっちゃけそんなにデザインは好きじゃないけど。

 

 

 しかしアイアン的なハンマーにネコランス、星紋の剣盾。

 

 俺が一番いい武器である。

 

 なんていうかプレッシャー感じる。

 

 

「アカリとネコ太郎の大活躍に期待して、行くとするか」

「最初はしばらく見てるね?」

「ボクの名前はネコ太郎じゃなくて、眩惑の―――」

 

 いきなり武器のランク落とした意味をなくす発言される上位ハンターどのである。

 

「いやそのハンマーなら最初から一緒に戦ってくれてもよくない!?」

「そしたらクライいつの間にかいなくなってそうだし……」

 

 なんという勝手な思い込みであろうか。

 

 もちろんその通りだけども。

 

 回復のためにエリア移動しますね大作戦考えてたけども。

 

 

「しょうがない。一緒に頑張るか、ネコ太郎」

「だから僕の名前は眩惑の―――」

「がんばってこー!」

 

 体育会系的な気合の入れ方だなこのハンター。チャットの俺ってこんな感じなのか。第三者目線で見るとやかましい系すぎるんですけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の狩猟のターゲットはケチャワチャ。

 

 奇猿狐と呼ばれる牙獣種。まぁ猿である。お猿さんである。

 でも顔は象さんだと思っているでござる。

 

 ムササビとサルと鼻の短い象さんを混ぜたような獣だ。

 

 鼻の短い象って象じゃなくね?

 

 心の中でセルフ突っ込みをしてしまった。

 

 あ、でも狐要素もどっかにあるのかなあいつ。

 

 

「しかしあれだな」

 

「何?」

 

「爪えげつなくね?」

 

「そういう生き物だしねぇ……」

 

 

 蔦でうんていを楽しんでるような目標を発見し、遠目から観察する。

 

 ケチャワチャさん、爪すっごいおおきいのぉ……

 

 ちょっと爪が怖すぎて頭が変になってしまった。

 とりあえず思ったことをそばにいる二人、いや一人と一匹? に言う。

 

 

「絶対あれで引っかかれたら大怪我するくね?」

 

「するね?」

 

「首元とかに当たったら死ぬくね?」

 

「死ぬニャ」

 

「帰らね?」

 

「さ、クエストをこなそっか?」

 

 

 無慈悲な決定である。

 拒否を許してくれない雰囲気すごいのである。

 

 ま、まぁあれだな。当たらなければどうということはない、だな。

 

 

「う、うおー! お前のその腕を孫の手にしてやる!」

「近くば寄って目にも見よニャー!」

「がんばれー!」

 

 

 三人の気合いの掛け声と共に、ケチャワチャ戦が始まった。

 応援だけする上位ハンターってどうよ。キック機能どこですか。

 

 

 

 掛け声に気づいたケチャワチャはなんというかあれだった。

 

 全く敵意がないのである。ドスジャギィとは大違いだ。なんやこいつら、みたいな感じで見てくる。

 油断でもしているのであろうか。変な三人組が来た、と。

 

 だがその油断が命取りよ。

 

 我が名刀の、第一の犠牲者になるがいい。

 

 星紋の剣をその顔に振り下ろす。が―――

 

「ぬっ……! よけ―――」

 

 ケチャワチャの姿が縦にぶれたと思ったら空ぶってしまった。そして再度現れたケチャワチャの顔。蔦にぶら下がりながら避けただと、こいつ。

 

 そしてまた同じ位置に顔を戻すとは、おちょくられている? おのれ!

 

「おの―――ブピャ!?」

「だ、旦那さーーん!?」

 

 思わず尻もちをつく。

 

 おのれ、おのれぇ……。

 

「旦那さん! 大丈夫ニャ!?」

 

 大丈夫かだって? 大丈夫と言えば大丈夫だけど大丈夫じゃない。とりあえず今の状況を伝えるならば―――

 

「ふぇぇ……ベチョベチョでドロドロだよぉ……」

「なんかイラっとくるニャその言い方」

「次その話し方したら飛び膝蹴りしていい?」

 

 何故こんなに辛辣なのか仲間は。

 

「ってそんな場合じゃない! ケチャワッピャア!?」

「旦那さーん!?」

 

 ケチャワチャを見失ったのではと思い慌てて立ち上がろうとしたら、再び顔面に液体がぶつけられた。

 

 ケチャワチャの鼻から出る粘液である。鼻水としか思えない粘液である。

 

 正直ダメージ的なのは全然ない。ゲームならあるけども。

 こう、少し柔らかなボールでやるドッジボールに当たった的な衝撃はある。

 

 あと、鼻水をつけられたという凄まじい気色悪さがある。

 

 尻もちをつきながらベチョドロな俺を見て、ケチャワチャは笑いながら手を叩いている。

 

 これはプッツンですわ。泣いて謝っても絶対許しませんわぁ……

 

「やろう! ぶっころしてやる!」

 

 飛び掛かりながら斬りつける―――が、またも避けられる。また上か。今度は同じ轍を踏まぬ。また顔を戻した時が貴様の最後よ。

 

「うひっ!?」

 

 目の前に巨大な爪が二対、迫ってた。

 突然の危険に思わず、またも、尻もちをついてしまう。

 

 そしてその様子を見たケチャワチャはまたも笑いながら手を叩いている。

 

「この……! 調子にのりッポゥ!?」

「だ、旦那さーーん!!」

 

 

「ふ、フフ……。初めてですよ。この私をここまでコケにしたおバ―――キャゥ!?」

「もうやめるニャ!! 旦那さんの体はもうベチョベチョニャ!!」

 

 人がしゃべってる途中でこいつは! この猿は! さっきから鼻水ばかり―――!

 

「ネコ太郎! 撤退だ!」

「ニャ!? 了解だニャ! あとボクの名前は衝撃の―――」

「退―――ヒャウン!?」

 

 後ろからまたも……! だが今回は見逃してやる。とりあえずここから撤退だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで撤退したけど、どうするの?」

 

 アカリが不自然に距離を開けながら尋ねてくる。

 その距離あれですね。鼻水でベチョベチョな奴に近づきたくないってやつですね。傷つくわぁ……

 

「あんなあいつが得意そうな場所で戦うのはやめただけだ。こっちへ来たら今度こそここいらで遊びはおしまいってことを教えてやる……」

「すごい不安だニャ……」

 

 蔦のないケチャワチャなどおそるるにたらぬ。

 

 にしても……

 

 

 来ない。

 

 

 蔦の張られてない所、遺跡の上でこうして待っているが、来ない。

 

 あの憎たらしいこんちくしょうはぶら下がりながら、こちらを眺めているだけである。

 

 

「近づいてこないニャ……」

 

「今は雌伏の時だ……忍耐力が試されてるのだ……」

 

 

 待つのだ……ひたすら待つのだ……。あとタオルか何か持ってませんか。つけられた鼻水拭いたいです。

 

 

「……来ないな」

「来ないねぇ……」

「寒いな……」

「心が?」

「身体が」

 

 心が寒いってなんだ。いや、わかるけど何故今出てきたんだ。

 

「お」「あ」

「降りたニャ」

 

 ぶら下がりをやめて地上に降りた。所詮猿の忍耐力よ。我慢できずに自ら危険地帯へ降りるとはな。

 

 

 そして猿は俺たちと反対方向へ歩いていった。

 

 

「……どーすんの?」

「追いかけてギッタギタにしてやる!! あの猿野郎!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人がひとつの感情を維持し続けるは、困難なことである。

 

 辛いことがあって、悲しい気持ちでずっといると思っていても、時と共に悲しみも薄れていくのが大半だ。

 もちろん喜びも同じだ。どれだけ嬉しい気持ちを胸に抱き続けても、だんだん薄れゆくものなのだ。

 

 そしてそれは怒りも同じだ。

 

 まぁあれだ。

 

 

 

 帰りたい。

 

 

 

 だってあの猿全然見つからないんだもん。

 

 ぶっちゃけあの粘液のせいで寒気がさらにひどくなった気がする。風邪悪化してるんじゃないですかこれ。

 

「なぁなぁ……猿見つからないしさ、帰らない? ちょっと体調不良なんですはい」

「遺跡平原からどこかへ移動したわけではなさそうだけど……うまい具合にすれ違ってそうだねぇ……」

「そうなのニャ? こんなに見つからないなら街道へまた悪さをしに行ってそうに感じちゃうニャ」

 

 おおっと、俺の意見スルーですか。そんなことされたら心が寒い。

 

「それっぽい足跡とか爪跡があるから、たぶん、だけども……」

 

 そんなのあった? 全然気づかなかった。

 

「んー、角笛でも吹いたら来るかなぁ?」

「え、角笛持ってきてんの?」

「うん、もしクライにとって厳しいモンスターも紛れ込んでた場合にそなえて一応!」

 

 角笛とか俺クエスト終了時にネタとして吹いてたわ。ポーチに補充するの面倒になって数回やったらやめたけど。

 一応角笛はゲーム中だとヘイト上がって狙われやすくなるって効果だったか。同エリア内しか効果なかったと思うけど、ゲームと違ってエリアで区切ってるわけじゃないしなぁ今は。

 

「それじゃ吹くよ。ここなら蔦もないし、大丈夫だよね?」

「ん、よゆーよゆー」

 

 まぁあまり期待してないけど。

 いくらケチャワチャが耳がいいとはいえ、わざわざ見えない距離の角笛の音の場所まで来るとは思いづらい。

 

 まぁやるだけ無駄ではないだろう。減るもんじゃないし。

 

 そんなことを思っているうちに、アカリは角笛を吹き出した。

 

 ぷおーぷおーと、角笛の音が響き渡る。

 開戦の合図って感じがするわ。角笛の音って。

 

 

 

 心を戦国時代に寄せている最中に、事件は起こった。

 

 

 ぷおーぷおーと、それまで鳴り響いてた音が―――

 

 全く異なる音に変化したのだ。

 

 それはまるで、悲鳴のような、いや、断末魔の叫びの如くであった―――

 

 

 目の前で起こったことが衝撃的すぎて、どうしたらいいかわからない。

 

 とりあえずありのままに思ったことを言おう。

 

 

 

 

「ア、アカリ……」

 

 

 

 

 声が震える。

 

 

 

 

「お前の肺活量、やば過ぎね……?」

 

 

 

 どうやったら吹いてるだけで角笛壊せるんだよ……。角笛さんの断末魔の叫びが悲しすぎるわ。

 

 

 俺もし溺れることがあったとしても、アカリにだけは人工呼吸されたくない。されたらたぶん肺が破裂して死ぬ。

 そう確信させる出来事だった。

 

 

 

「た、たまたまだから! たまたま! ちょっとこの角笛が脆くなってただけだって!」

「あ、来たニャ」

「お、マジだ。よかった、角笛さんの犠牲は無駄じゃなかった……」

 

 

 たまたま近くをうろついていたのか、それとも偶然来たのか。どちらかわからないが、ケチャワチャがやってきたことに変わりはない。

 

 

「角笛さんの弔い合戦だ……ネコ太郎、やるぞ……!」

「ニャ! やってやるニャ!」

 

「なんか腹立つわー……」

 

 

 

 

 第二ラウンド、もとい最終ラウンドだこの猿野郎!

 

 

 

 

 

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