少女牧場物語   作:はごろもんフース

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洋服

「ちーちゃん、ごめんって」

「……」

 

 二人の喧嘩は、夜まで続いた。

お昼ご飯を食べても、お昼寝しても、美味しい晩御飯を食べ、お風呂に入り寛いでもチトはユーリに冷たく当たる。

何時もであれば、お風呂から上がればチトがユーリの髪を梳かす。

しかし、この日はチトはユーリを無視して自分のだけを梳かし手入れを行なう。

 

 そんなチトにユーリが少し涙目で追い縋るも無視された。

お蔭でお風呂から上がり、髪の毛を放置していたユーリの髪の毛はごわごわだ。

今までの旅路、ユーリの髪の毛の手入れをしていたのはチトだ。

髪の毛が伸びたり、枝毛が出来たらチトがナイフで処理していた。

そのためか自分でやろうといった事がユーリの頭の中にないのだろう。

 

「はぁ……ユー」

「ちーちゃん……!」

「はい、これ」

「……」

「たまには自分でやれ」

 

 肩を捕まれぐらぐらと揺らされ、チトは目を閉じて軽く溜息をつき(くし)をユーリに手渡す。

正直な話、チトはもう怒ってはいない。

ユーリが何かを仕出かすのは何時もの事、怒りはすぐに収まる。

しかし、すぐに許してしまっては躾にならない。

調子付かせない為に怒っているふりをしていた。

 

「あいたたた」

「……」

 

 櫛を渡されたユーリと言えば、少しの間、櫛とチトを交互に見るも諦めたのか自分の髪に櫛を入れた。

しかし、普段からやっていない人が長い髪の毛を梳かせば、案の定と言うべきかすぐに引っかかる。

力で押そうとするため、余計に髪の毛が絡まり痛い思いをする。

そんなユーリをチトは手助けせず、のんびりと見守った。

 

「う゛ぅー」

「知らん」

 

 悪戦苦闘する髪の手入れにユーリが手助けを求めるも、チトはソファーに座り本を開き無視する。

結局、痛がりながらもユーリが髪の毛の手入れを行なっていると、助けは意外な所から現れた。

お風呂の扉が開き、青年が髪の毛をガシガシとタオルで拭きながらやって来たのだ。

相変わらずと言うか、青年はチト達のように櫛もいれず適当に乾かしてお終いとばかりにソファーに座り込む。

そして、涙目になりながら手入れを行なっているユーリに気付いたのか、不思議そうにチトとユーリを見比べた。

 

「ちーちゃん……」

「……今いい所」

「……え?」

「……ん?」

 

 既に何回目になるか分からない櫛の絡まり。

ユーリがチトに助けを求めた時だ。

青年がユーリを呼び手で招くと自分の隣をポンポンと叩く。

それをユーリはじーと暫く見つめるもすぐに動いて、青年の隣に座った。

 

「やらなくていいのに……」

「ふんふーん、ふーん」

 

 ユーリが隣に座れば、青年は櫛を預かり、ユーリに後ろを向かせ髪を梳く。

そんな彼のお節介にチトは呆れ、ユーリは痛がらずに済むからか機嫌が良くなる。

鼻歌まで歌い上機嫌だ。

 

(……意外と手馴れてる)

 

 チトは本を開きながらも横目で青年の櫛捌きを見る。

意外にも青年の櫛捌きはしっかりとしたものであった。

自分の髪の毛は適当なので出来るのかと思っていたが、引っかかる事無く梳かしている。

 

(そういえば、妹が居るって話してたっけ)

 

 青年の謎のスキルにチトは不思議がるも直ぐに答えに行き着いた。

青年の家族構成で妹が居たことを思い出し、頼まれて何度かやった事があるのだろうと結論付ける。

 

「××××……後は私がやる」

「ふへへ……」

「……なに」

 

 結論付けた後、チトは溜息をつき本を閉じると青年から櫛を預かる。

流石に自分達よりも働いている青年に手間掛けさせる訳にもいかない。

櫛を預かり、ユーリの髪の毛をチトが梳かすとユーリが不気味に笑った。

 

「ちーちゃん」

「なんだ」

「まだ怒ってる?」

「……怒ってないよ」

 

 機嫌の良さそうな声でユーリがチトに問いかける。

その問いかけにチトは少し悩むもここら辺で許す事にした。

何時ものように櫛で髪の毛を梳かせば、ユーリがまた楽しげに鼻歌を歌った。

 

「はい、お終い」

「ありがとおー」

「自分でも出来る様にしろよ」

「えぇー……ちーちゃんにやってもらった方が楽なんだもん」

「私は楽じゃないんだが」

 

 梳かし終わると最後にペチンと軽くユーリの頭を叩き、チトは立ち上がる。

そのタイミングを見計らってか、青年がチトとユーリの名前を呼んだ。

呼ばれたことに気付き、視線を声の方に向ければ青年は机に座っており、机には二人のカップが湯気を立ち上げていた。

どうやら二人が髪を梳かし仲直りをしている間に入れてくれたらしい。

結局、手間を掛けてしまった事にチトは軽く息を付き、もう一度軽くユーリの頭を叩き席へと座る。

 

「お疲れ様でした」

「おつかれさまー」

 

 席へと座れば青年が改まった態度で頭を下げ、チトとユーリを労う。

その事をチトは少しばかり不思議に思いつつも返せば、ユーリもまねをして頭を下げる。

 

「あれ……」

「なにこれ?」

 

 互いに労った後、机の上のカップを取ろうとチトが手を伸ばした時だ。

机のカップの横に見慣れぬ物が置いてあることに気付いた。

それは四角い形をしており、チト専用のカップと同じ青色をしている。

チトはそれを見てから、隣のユーリへと視線を移す。

そうすれば、ユーリもチトと似たような物を手に持って不思議そうにしていた。

 

(ユーリのは赤色か……手にとっても××××は反応なし。 私達に何かしらの反応を求めてるのかな?)

 

 ユーリから青年へと視線を移すと青年はコーヒーを暢気に啜りながら、チト達を見ている。

此方の反応を伺っているも何も言わない所を見てチトはそう判断した。

ユーリ同様に手に持ってみるとそれは、紙でも木でも布でもない感触だった。

スベスベとしていて繋ぎ目らしい、繋ぎ目もない。

まるで一枚から抜き取ったような物であった。

 

(ゴムとかに近い感じが……革かな)

「おぉー……ちーちゃん、何か紙が入ってるよ」

「ん? あぁ……それはお札だな。 お金だよ、お金」

「へー……これが食べ物に変わるのか」

 

 外見を見ていたチトは、呼び声に反応しユーリの手に取っていた紙を見る。

その紙は長方形の形をしており、誰か分からない人の顔が書かれていた。

チトはそれを横目で見て直ぐに『お金』と判断し、何事もないように視線を外す。

 

「……お金? お金!?」

「うわっ!?」

 

 しかし、直ぐに自分が教えた物が何なのかを思い出しユーリの持つお札へと視線を戻す。

じっとお札を見るもチトの知識の中にある物と一致しており、慌てて自分の持っていた物を確かめる。

それは二つ折りとなっていて間にあるボタンを外すと呆気なく開く。

開いて中を見てば、幾つもの層になっている部分があり、そこに一枚のお札が入っていた。

 

「ちーちゃんのにも入ってたね」

「なっ! なっー!」

「何でそんなに驚いてるの?」

「だってお金が!?」

 

 チトは目を回しつつも混乱している頭で何が起こっているかを確認しようと必死になる。

お札を広げ、本物かを確認し不思議そうなユーリを見てから、驚いている青年を見た。

 

「いやいや、何でそっちが不思議そうなんだ!?」

「むしろ、何でちーちゃんはそんなに驚いてるのさ」

「いや……だってお金を渡されるなんて」

「ちーちゃん、お金ってどうやったら貰えるんだっけ?」

「そりゃ……仕事をして……あっ」

 

 お金を渡されたのだ混乱してもしょうがないとチトが告げるもユーリの言葉で我に返る。

良く考えれば、日中にお手伝いと言う名の仕事をしたばかりで貰えるのは当たり前の権利かと考える。

でも、二人は衣食住でお世話になってる身でもある、これはその生活費に当てるべきとも思った。

 

「……そうなんだ」

 

 しかし、そんなチトの考えを青年は読んでいたのだろう。

『生活費とかを考えて三割程度、抜いた額を渡してるよ』と告げられる。

それを聞いてチトもようやく落ち着きを取り戻し、貰ったお金を見た。

 

(……これが私の稼いだお金)

「嬉しそうだね」

「……そりゃ、嬉しいだろ」

「ふへへ」

「えへへ」

 

 自然とにやけて来る頬をそのままにし、チトとユーリは互いに視線を合わせて微笑みあう。

自分で稼いだ初めてのお金なのだ、嬉しくないわけが無かった。

そんな二人を見て、青年は『それで明日買い物してみるといいよ』と告げる。

 

「なるほど……それで急に手伝ってくれと」

「好きな物買っていいの?」

 

 今日急にお手伝いを頼まれた理由を知り、チトは納得した。

明日里に行くついでにチトとユーリに買い物を体験させようとの事だったらしい。

その為のお手伝い、仕事。

ただただ渡されただけならば、ユーリはともかくチトは遠慮するだろう。

しかし、今回の件に関しては正当な報酬であり、受取るのにも抵抗は少ない。

 

「ちーちゃん、これってどの位の価値なの?」

「一万Gか……そうだな。 コーヒーが三百Gってテレビでやってたし、三十杯位飲めるかな」

「それって凄く多いよね?」

「多いな」

「一日一杯飲んでも一ヶ月持つよね?」

「そうだな」

 

 説明を受けて、『おぉー』と目を輝かせ喜びお札を掲げるユーリを見つつもチトもお札を見る。

ユーリに言われて気付いたが、午前中手伝った程度でこの額は正当なのだろうかとチトは考え込む。

考え込むも結局は、常識と言う名の知識が足りておらず、この場では断念する。

取り敢えずは、働いて貰えたと言う事実だけを喜ぶ事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「おぉ~~~!!」」

 

 それから翌日。

チトとユーリはつゆくさの里に訪れ、初めて見る里に歓喜の声を上げた。

二人は何時もの軍服ではなく、上着のみを青年から借りたウィンドブレーカーを着込んでいる。

流石に軍服のままで悪目立ちするため、青年が二人に貸したのだ。

 

「凄いな。 本当に町だ」

「何か懐かしい感じの所だね。 人も穏やかだし」

 

 チトとユーリは里の入り口できょろきょろと視線を辺りに彷徨わせる。

つゆくさの里はチトとユーリが見た事もないような作りの家が立ち並んでいた。

青年の家と同じ木造建てなのだが、重みのある色合いをしており、屋根などが石を重ねて作られている。

 

 歩く住人達も服装からしてチト達とは違っていた。

男性はゆったりとしたズボンを履き、女性は一枚の布を巻きつけたような服装である。

チトがその服装に気付き、青年に尋ねれば『和服だよ』と教えられた。

チト達が着ている軍服などは洋服にあたるもので、和服とは違う事も教えられる。

 

「んー……あれ食べたい!」

「こら、まずは服を買ってからだ」

「あー……美味しそうなのに」

 

 今日ここにやってきたのはチトとユーリの服を買う為である。

二人の初の買い物といった目的もあるが、最初に其方を決めたからと青年と話し合っていた。

しかし、里の中を歩けば観光客向けの屋台などが幾つか立ち並んでおり、チトとユーリ二人の鼻孔を擽る。

勿論ユーリが我慢できる筈もなく、ふらふらと屋台に近づいてはチトに首根っこを捕まれ引きずられた。

 

「ここが大黒屋」

「大きいね」

 

 暫く、そんな事を繰り返しながら歩けば一つの大きな屋敷のような商店に辿り着く。

チトとユーリが入り口付近で見上げれば、入り口の上に『大黒屋』と書かれたていた。

何でも青年の知り合いがやっているお店であり『前もって電話で二人の事を伝えている』と言われる。

既に何着か服を見繕ってもらっているらしい。

 

「人多いな」

「多いね」

 

 青年に続いて中に入れば、そこには数多くの人が買物を楽しんでいた。

特に観光客が多く、お土産と書かれた箇所に多くの人が集まっているのが分かる。

そんな人々を青年は無視し、奥へ奥へと歩いて行く。

チトとユーリは互いに顔を合わせて買物に来たのではと思うも口にせず、着いて行った。

 

「えっと……上がるの?」

「もうお店じゃないね」

 

 青年に着いて行けば、靴を脱いで編み込まれた絨毯の上へと上がりこんだ。

その事にチトが我慢ならず聞いて見れば、頷かれ手招きされた。

不思議に思うもチトとユーリは靴を脱ぎ変わった絨毯の上に上がる。

 

「草……かな」

「変なの」

 

 上がった際にチトは絨毯らしき部分をしゃがみ込み撫でる。

撫でて見ればわかるが、木でも布でもない。

細かく編み込まれた草だとチトは理解した。

 

「畳って言うのか」

「この上で寝たら気持ち良さそうだね」

「寝るなよ?」

「……」

「人の家なんだから寝るなよ?」

「……へーい」

 

 青年から『イグサって言う草を編んで作る畳って言う床材。 寝っころがると確かに気持ちがいいね』と告げられチトは感心する。

それと同時にユーリに釘を打つのも忘れない。

本能で動くユーリがそんな事を聞けば試しに寝るに決まっている。

現にユーリは畳に両手を付き、今にも寝そうになっていた。

 

 ユーリに釘を刺し、改めて青年の後ろを二人して靴を持ち着いて行く。

着いて行けば後ろ手に扉があり、扉の前で靴を履き直し外へと出た。

外に出れば、そこはある程度の広さを持った庭だった。

そんな庭の中に今通ってきた商店よりか幾らか小さく横に長い家が建っている。

青年の足はそこへと向かっており、チトは今回の目的地を察した。

 

「はい、どうぞ~」

 

 家の前に立ち、青年が何度か扉を叩くと中から声が聞こえた。

その声が女性の声でチトは内心ほっとする。

青年である程度は慣れてきたとは言え、やはり大人の男性は苦手だ。

なるべくであれば、距離を取りたいと思ってしまう。

 

 

 

 青年に続いて中に入れば、床が畳一面で覆われた部屋であった。

そんな部屋の真ん中に先ほどの声の主と思われる女性が座って此方を見て微笑んでいる。

チトは女性を見て軽く頭を下げてから、青年に倣い靴を脱いで畳みの上に上がった。

 

「初めまして~、私はシズ……シズって呼んでね?」

「……初めまして、私はチトこっちがユーリです」

「初めまして~!」

 

 近づいていけば、女性は優しく微笑み掛けてチト達に挨拶をしてくれた。

その際に相手が深く頭を下げたので、チトは慌てて二日前に習ったばかりのつゆくさの里の挨拶をする。

勿論、その際にユーリに小さな声で『私のマネをしろ』というのも忘れなかった。

ユーリのことなので忘れているだろうと思ってのことであったが、案の定と言うべきか忘れていたらしい。

チトに言われて気付いたのか、そうだったと言う様に手を叩いた後、チトと同じように頭を下げる。

 

 シズと名乗った女性は、旅に出てから会った二人目の大人の女性であった。

先ほど青年から教わった着物を着ており、長い髪の毛は後ろ側でまとめるように留めている。

ユーリとのやり取りを見られていたのか、口元を裾で隠しくすくすと笑う様子は子供にはない色気を感じた。

 

「ふふ……話に聞いてたよりも可愛らしい子達ね」

「……」

「可愛いだって、ちーちゃん」

「お前の耳は全部ポジティブに聞こえるのか……」

「あらあら、本当の事なのに……」

 

 シズの言葉にチトは恥ずかしくなり、顔を赤らめる。

先ほどの行動を見られてからの言葉なのだ、そのまま受取るわけがない。

逆にユーリは素直に受取ったのか、誇らしげに胸を張っている。

しかし、今回はユーリの方が当たっていたらしい。

チトの言葉にシズは頬に手を当て困ったような表情をしたのだ。

 

 チトがシズの表情を見て、『本当だったの?』と青年に視線を送った。

青年に視線を送れば、その事に気付いてくれたのか『チトとユーリは可愛いよ』と何を当たり前のことをとばかりの顔で返す。

的を射ているのか射てないのか、返してくれたのはいいが帰って来た答えがこれだ。

微妙な回答であるがチトの頬を赤く染め上げるのには問題ない答えであった。

 

「……そうじゃない」

「ちーちゃん、可愛いって!」

「はぁ……もうそれでいいよ」

 

 チトは訂正しようとするも、微笑ましく見守るシズ、何を間違ったの分かっていない青年、それにじゃれ付くユーリを見て諦める。

軽く溜息を付いてから、肩の力を抜き目を瞑ればどうでも良くなった。

 

 

 

 

 

 

「おぉー!」

「凄いな……これ、全部服なのか」

 

 あれから、チトを置いてわいわいと盛り上がる外野であったが、青年の退出によって話が進む。

例によって青年は、二人をシズに預けるとそのまま挨拶回りへと向かってしまったのだ。

チトはそれに対して、『前もこんなことあったなー。 フランクの時のように……』と思うも口にせずに見送った。

前はフランクが男性で不安であったが、今回は女性で幾分か楽である。

 

 青年を見送った後、シズは大きな箱からあれよこれよと服をいっぱい取り出していく。

それをチトとユーリはポカンと口を開け見守る。

二人はこれまでにこんな量の服を見た事がなかった。

自分達が持っている服でさえ、軍服の上下を一着にシャツと下着が何枚かある程度。

それをずっと何年もの間、洗って着ての繰り返しであった。

おじいさんと暮らしている時でさえ、こんなにも服は見ていないし持っていない。

 

「服は人の趣味が出るから、いろいろと揃えてみたの」

「はぁ……良かった。 全部ではないんだな」

 

 シズは並べ終えたのか、手を休めチトとユーリに向かって微笑んでくる。

チトはそんなシズの声で我に返り、ほっと胸を撫で降ろす。

青年が目の前にある服全部を買い取った訳でない事に気付けたのだ。

 

「流石にやらないと……」

「思うか?」

「……」

 

 ユーリがフォローを入れようと思うも一言で黙った。

 

「シズ、私達って服を選んだことないんだけど……」

「そういえばずっと着たっきりだったね」

「……それなら、こっちの本を参考にしたりで好きに試着してみるといいわ」

 

 ふとチトが自分達の服装のセンス以前に知らないことを思い出す。

素直にシズに聞いてみれば、少しの間のあとに一冊の薄い本を取り出して見せてくれた。

本という事でチトは俄然興味が沸き、本に興味がないユーリは色んな服を持っては見ていく。

 

「図鑑みたいだ」

「雑誌って言うのよ」

「ざっし……週刊誌って奴?」

「そうね。 他にも月刊誌とかあるけど、その類かしら」

 

 ペラペラとページをチトが捲れば、中では様々な服を着た女性達が写し出されていた。

それを一枚、一枚見ながらチトは自分の側にある服を見る。

 

「取り合えず、着てみる?」

「……よし、取り合えず試着だ」

「おー!」

 

 ある程度見終わった後、シズにそう提案された。

参考にはなったが、雑誌の中にある服がそのままある訳でもない。

着こなしとはどう言った物かを少し知るための切っ掛けだ。

チトはシズの言葉を聞いて決心が付き、本を閉じるとユーリと一緒に試着する服を選ぶ事にした。

 

 

 

 

 

「ど、どうだ?」

「いいわね」

「おぉー、ちーちゃんが眩しいっ」

「眩しいって……どんな感想だ」

 

 最初に試着をしたのはチトだ。

チトが選んだのは、チェック柄の大きなTシャツワンピースだった。

体格に合わない大きなシャツをチトとユーリは所持しており、それが丁度Tシャツワンピース同様の物である。

一番自分達が着ていた服と近い感じがし、チトはこれを選んだ。

 

「しかし、スカートは慣れないな」

「足元すーすー?」

「うん、休むならいいけど動くとなると落ち着かない……」

「なら、これを穿いてみる?」

「これを?」

 

 いつも軍服で身を包んでいたのだ。

スカートといった服装に違和感を感じ、目を細め困っていたチトにシズがとある物を渡す。

それを見て、チトとユーリはどういった服なのか首を傾げればシズが着方などを教えてくれた。

 

「……これならいいかも」

「なんだっけ……れぎんす、だっけこれ」

「そうよ。 他にもスパッツとか呼び名があるけど……まぁ色々とあって」

「いろいろ……ちーちゃんは気に入った?」

「うん、同じような服はあるし楽でいいな」

 

 チトが渡された物はレギンスであった。

伸縮性に富む素材で作られており、太腿から腰周りをぴったり保護する着衣だ。

膝上から足首までの物と色んな長さがあるが、チトの着用している物は足首まで長い物。

ズボンよりもビッチリと肌にくっ付くが、スカートだけよりはマシである。

 

「ちーちゃん! ちーちゃん! 私はどう?」

「……よし、少し口を閉じてろ」

「……」

「黙ってればいいと思う」

「スン」

 

 次に試着をしたのはユーリだ。

ユーリが着たのはチトと同じワンピースだ。

しかし、チトと違いユーリのワンピースは正統の物で色も真っ白い。

腰辺りには大きなリボンが付けられており、頭にはツバの長い大きな帽子を被っている。

下には薄い花柄のタイツを穿いており、ユーリの金髪と相まって黙っていればどこぞのお嬢様に見えた。

実際にチトに言われてユーリが黙ってみれば、何時もの彼女とは違った雰囲気となる。

 

「でも、ユーリに白い服は駄目だな」

「なんでさ」

「絶対汚すだろ、お前」

「……」

 

 チトの言葉にユーリは残念そうに指を咥えた。

どうやらそれなりに気に入っていたらしく、ユーリを見てチトは溜息をつく。

 

「家の中だけならいいかもな」

「それじゃ!」

「一着位そういうのもあるのもいいと思うよ」

「ちーちゃん!」

「はぁ……抱きつくな、抱きつくな。 服がシワになる」

「二人は本当に仲良いのね」

「いっしんいったい!」

「進んで戻るな。 それと一心同体だ」

「あれ?」

 

 適度にフォローを入れれば、ユーリが喜びチトに抱きつく。

それをチトは軽く息を吐いて受け止めた。

先ほどの言うとおり、ユーリが着れば汚れたり破けたりするだろう。

しかし、落ち込むほど気に入ったのだ。

それならば一着位持っておいてもいいだろうとチトは思った。

 

「ほら、他のも選ぶぞ」

「へーい」

 

 他の服を選ぶ為、抱きついてくるユーリをチトは引き剥がし視線を他の服へと戻していく。

シズから『普段着は十着ぐらい選んでおいてって言われてるの』と言われており、まだまだ足りない。

チトとユーリは次第に楽しくなっていき、互いにあれやこれと服を選びあったり、シズのおすすめを着てみたりと楽しみだした。

 

 

 

 

「下着もいっぱいだね」

「はぁ……何と言うか、私達のとは天と地ほど違うな」

「私達のって白色で飾りなんてないもんね」

「そうだな」

 

 二時間ほど掛けて服を選び終えれば、シズが服を片付け今度は下着を取り出す。

少し待っていれば、先ほどの服のように二人の目の前は下着でいっぱいとなった。

置かれた色とりどりの下着を一枚ほど手にして観察して、チトは自分の持っている下着を思い出し溜息をつく。

チトとユーリの下着は白い色だけで、飾りも何もない形だけが下着の様な物だ。

何よりも生地の柔らかさからして違う。

チト達の着ていた下着はシャツなどの生地と同じ物である。

しかし、此方の世界の生地は柔らかくスベスベしていて心地良い。

両方を比べてしまえば、前の世界がどれだけ追い詰められていたのか痛いほど分かった。

 

「そうだ。 ××××は下着の枚数について言ってなかったけど……普通は何枚ほど持ってるもの?」

「十枚……は少ないわね。 十五から二十枚ほどあれば十分じゃないかしら」

「なるほど……」

 

 普段着については青年は何着までと言っていたが、下着に関しては何もチト達に伝えていない。

その事にチトが気付き、この世界で暮らす女性であるシズへと問いかける。

問いかければ、シズは丁寧に教えてくれて自分は――と教えてくれた。

チトはシズに聞いてから、視線を目の前の下着へと移し少しばかり感動する。

 

(十五枚……そんなに多い数を一人で所有できるんだ)

「ちーちゃん! ちーちゃん!」

「な……に……」

「これ! これ!」

「……」

 

 前の世界では考えられないほどの豊富な資源に感動していれば、チトはユーリに呼ばれる。

呼ばれてチトはユーリの方を向いて、彼女の持っている物に視線がいってしまった。

ユーリの持っている物を確認し、チトは真顔となる。

 

 ユーリの持ってるのは赤い下着であった。

それだけであれば、チトは『似合うかもね』とだけ伝えて終わる。

しかし、ユーリの持っている下着はと言えば前部分は生地が薄く、後ろ部分が紐のようになっていた。

 

「……」

「……人の趣味はそれぞれだから」

「一般的?」

「……」

 

 目を輝かせて持ち上げているユーリをチトは無視してシズに問いかける。

問いかけてみれば、シズは頬に手をあて少し赤くして視線を逸らす。

そんなシズを見てチトは目を細め考えた後、ユーリへと振り向いた。

 

「ちー……」

「置け」

「こ……」

「いらないから」

「……」

「あとで働いて返すと言っても今払うのは××××なんだ。 そういうのは自分のお金で買え」

「はーい」

 

 流石のユーリもそう言えば素直に下着を下ろしてくれた。

今持っているお金で買えるであろうが、そのお金を使うまで欲しくはないらしい。

全て食べ物に使うんだろうなとチトは予想した。

 

「……はぁ」

「ちーちゃんが買う?」

「買わない。 今の私達にはいらないよ」

 

 チラっとだけチトは先ほどの赤い下着を見ればユーリに不思議そうに言われる。

それに対してチトは心の底から否定し、豊富な物資があると人はこういった道に進むものかと溜息をついた。

 


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