家の前でチトとユーリは互いに頭にはヘルメット、手には軍手をはめ、色違いのツナギを着て立っていた。
冬の間に行ったお手伝いの時と同じくチトは青色でユーリが赤色だ。
そんなツナギに身を包んだ二人は全身で日の光を浴びる。
日の光は暖かく、ツナギだけでも寒さを感じないほどの気温になっていた。
雪などもってのほか、地面は緑色で埋め尽くされ、空には本でしか見たことがない生物も飛んでいる。
季節は春。チトは目の間に広がる光景を見て胸がドキドキと鳴っているのを感じ取った。
「なぁ、ユー」
「なーに? ちーちゃん」
胸に手を当て、一度深く深く息を吸い込んだ。
吸い込んだ空気は暖かく、大きく吸い込んでも肺は苦しくも痛くもならない。
そのことを確認した後、チトは隣に立つユーリに一声かけた。
「始まるな」
「始まるね」
口から出たのは確認の言葉だった。
「最初って何するんだろ。前と同じく収穫?」
「いや、収穫は終わったから。ないない」
ユーリがおもむろに今日することをチトに尋ねた。
ユーリは冬の間に行った野菜の収穫だけしか仕事をしたことがない。
そのため、彼女の中で仕事とは収穫と言ったイメージが付いているらしい。
そんなユーリに対して、農業関連のテレビを見て本を読んで、青年に色々と聞いていたチトは手を軽く振って否定する。
予習はすでに完璧だ。
「そっかー……。キャベツ取りたかったな」
「お前の場合は食べたいだけだろ」
ユーリの心情が取って分かったチトは、すぐにツッコミを入れた。
仲が良いのですぐに相手の考えていることが分かる……といったことではない。
ユーリのだらしなくニヤケた顔と涎を見れば誰でも一目瞭然である。
「おいしかったよね。ロ-ルキャベツ」
「……」
「キャベツの中のお肉にトマトスープ、相性抜群で良かった」
「本当、食べ物のことに関しては覚えてるのな」
「ちーちゃんもおかわりするほどおいしかったでしょー」
「そりゃ……美味しかったけどさ」
ユーリは涎を拭くと仕事の話から離れ、食べ物の話をする。
冬の間に収穫したキャベツは様々な料理で二人のお腹を満たしていた。
「そうだな。本に書いてある通りだと……土作りからかな」
「つち?」
「うん。本にはそう書いてあったし、××××もそう言ってた」
チトもロールキャベツを思い出し、一瞬話題に乗っかりそうになるも何とか気持ちを抑える。
このままユーリに合わせて喋ると仕事の話のしの字すら出なさそうだったからだ。
チトは話の内容を食べ物から離れさせ、今日から始まる仕事の話を振って修正する。
二人がこの世界で生きるのに二つの意味で行わなければならないこと。
そして、二人にとっては初めて経験することだ。
「つちづくり……どんなことするの?」
「えっと……
「くわ? かんきょう?」
「んー……」
案の定と言うべきか、予習を行っていなかったユーリがチトに質問する。
その質問にチトは予習して覚えたことをどう伝えようかと頭を悩ませた。
チトとて経験をしている訳ではない。
ただただ知識として知っているだけなのだ。
知識として知っていることと、経験をしていると言うことは似ているようで違う。
知識として教えることは出来るだろう。
経験として教えることは出来ないだろう。
「うん?」
「あ……」
ユーリにどう言えば正しく教えられるだろうと考えていた時だ。
不意に二人は声をかけられる。
声に釣られて正面を見ればここの牧場主でもあり、二人の保護者と言ってもよい青年が立っていた。
青年は『道具を持ってくる』とだけ告げた後、二人を残し家の隣のある家よりも小さな小屋へと入ったきりであった。
その青年が何かしらの道具を担ぎ戻って来ていたのだ。
「それが使う道具?」
「……おかえり」
ユーリは帰ってきた青年に対して、手に持っていた道具に興味を示した。
チトは帰ってきた青年に対して、少し迷うも小さく手を振り出迎えた。
そんな二つの反応に対して青年はユーリには『うん。これが使う道具』と楽し気に、チトには『ただいま』と優しい笑みで答えてくれる。
「これがちーちゃんがくわって言ってたやつ?」
「……」
「ちーちゃん?」
「……そうだよ」
ユーリの問い掛けにチトはすぐに答えることが出来なかった。
「ただいま」「おかえり」と言った特にどうってこともないやり取りのはず。
冬の間にも何回もしたやり取りだ。
それでもこの時、チトは体の芯がむずむずし体の体温が上がったのを感じた。
青年の返しの笑顔が予想以上で気恥ずかしくなってしまったのだ。
「私に聞くよりも××××に聞いたほうがいいって」
「それもそうだった」
顔が赤くなっていることが見なくても分かったチトは、顔を背け二人から見えないようにするとユーリの視線を逸らすべく青年へと話を振る。
それが功を成したのか、ユーリは少しばかりチトを眺めるも特に何も言わず青年へと楽し気に声を掛け始めた。
チトは意識が逸れたことを確認した後、二人に背を向けて自分の頬をぺちぺちと叩いた後に深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとする。
(それにしても……本当に楽しそうだ)
落ち着きを取り戻している最中にそんなことを思った。
先ほどの青年は、楽しくてしょうがないと言った表情をしている。
青年は一人で毎日この広い牧場を管理していた。
好きなことと言え、一人と言うのは寂しいのだろう。
更に言えば、自分が好きな物を友人が共感してくれるというのはとても嬉しいことだ。
チトも前の世界でユーリが図鑑を気に入った時にとても嬉しかった。
一緒に仕事をしてくれる人が増え、共感もしてくれる。
青年のあの笑顔に込められた感情を汲み取れれば、あの笑顔も納得できた。
(でも未だに慣れない。 同い年ぐらいの異性と言うだけでだいぶ違う)
おじいさんと暮らしていたことと青年の雰囲気がおじいさんに近いこともあり、同世代でも慣れるだろうと気軽に考えていた。
しかし、実際は慣れたと思った頃に青年の新たな一面を見れば初心な反応をしてしまう、今もそうであった。
ユーリ同様とまでは行かずとも、おじいさんに接するぐらいの距離感になりたいと思うもままならない。
チトとは逆にユーリと青年は慣れたらしい。
ユーリは何時もの様に自然体、青年はたまにお風呂上りに上半身裸で出て来てしまうほどに気を許していた。
そんな状態であるといちいち反応しているチトのほうが馬鹿らしく思えてくる。
(そういえば、おじいさんと暮らし始めた時はどうだったっけ……?)
参考におじいさんと暮らし始めた頃を思い出そうとする。
しかし、思い出そうとするも幼かった頃の記憶のせいか中々思い出せない。
そんなことをしていれば体温が戻り、ちょうど良く青年に声を掛けられた。
鍬の説明をユーリにしていたのだが、チトが背を向けていたことに気付いたのだろう。
『チト、どうかした?』と心配そうな声で聞かれた。
チトは考えていたことを中断し、青年の声に答えることにする。
「あ……うん、大丈夫。 問題ない」
その問いに対してチトは振り向いて、すまし顔で答える。
実際はバレていないか、先ほどとは違った意味での胸のドキドキを感じていた。
しかし、その心配も無用であった。
青年はいつものチトだと勝手に納得し、鍬をユーリへと渡し始めたのだ。
「おぉー結構ふりやすい!」
「横に振るなよ。 近くに人や動物がいないことをしっかりと確認してから縦に振るんだぞ」
「もう、信用ないなー」
「お前のどこに信用できる要素があるんだよ」
ユーリへと渡った鍬を見てチトは先ほどのドキドキが別の何か、主に不安に変わったのが分かった。
何せユーリは棒といった振りやすい物が大好きなのだ。
前の世界の時も棒を振り回し、雪だるまや木箱などを殴り壊している。
たまに暴走し、チトの頭を叩いてしまうこともあった。
そんな人物が鍬を持ったらと考えれば、チトの反応も正しいだろう。
むしろ、忠告だけでなく取り上げたいぐらいなのだが、仕事なので仕方がない。
チトはユーリが暴走しないように自分が注意しなければと心に誓う。
「うん」
「りょーかい」
鍬の説明も終わり、畑に出て実際に耕してみようと言った話になり移動する。
青年は機嫌が良いのか軽い足取りで鼻歌を歌いながら二人の前を歩く。
そんな青年の後ろを渡された鍬を持ってチトとユーリは付いて歩いて行った。
「つちづくりって聞いたけど、何すればいいの?」
畑の前に到着してすぐにユーリが青年に聞いた。
青年は、元から聞かれることを想定していたのか『ユーリとチトは、布団が柔らかいのと硬いのどっちがいい?』と逆に聞いてきた。
「んー……柔らかいほう」
「……私もだ」
質問の答えになっていないが、ユーリとチトは素直に答えた。
相手は二年間もこの牧場を支えてきた青年だ。
この質問に答えることによって、ユーリの問いに対しての答えが出てくるのだろうとチトは考えたからだ。
ユーリに関しては聞かれたから答える程度にしか考えてなさそうであったが。
「そりゃ、食べ物多いほう!」
「そうだな。 そっちがいいな」
次に言われた質問は『食べ物がいっぱいの部屋と少ない部屋どっちがいい?』である。
この答えは、二人共にほぼ即答であった。
食事のありがたさは良く知っている。
「んー……悩むけど、地上かな」
「いや、普通は悩まないだろ」
最後の質問は『水中と地上、住むならどっち?』である。
この答えにユーリは腕を組み考え込みながら答えた。
普通であれば悩む必要もない二択であるも、相手はユーリである。
チトはどうせ「魚が住んでいる水の中も捨てがたいなー」とか思ってるんだろうなと推測した。
「なるほどねー。 住みやすい部屋を作るんだね」
「……」
青年の三つの質問が終わるとユーリが納得したとばかりに答える。
青年は鍬を地面に立てチトとユーリに『そういう事』と告げた。
さっきの質問でユーリの中でイメージが掴めたのだろう。
ユーリが理解した所で青年は改めて、チトとユーリに初日の仕事を説明し始める。
最初に仕事は畑を耕すことであった。
青年は肩に乗せていた鍬を改めて持ち直した後、『見てて』と告げた。
青年は土だけの畑に身体を向けると鍬の棒の部分を左手を前に右手を後ろのほうにし持ち、軽く振り上げて下ろす。
振り下ろした際に前を持っていた左手がスライドし、右手少し前まで戻ってくる。
土に刺さった鍬を軽く手前に引けば、刺さった分の土が掘り返された。
「もとごえ?」
「
青年は何度か耕しながら『元肥は済んでるから最初は耕すだけでいいよ』と告げる。
元肥と言う聞いたこともない単語に関して、ユーリが首を傾げるもチトがすぐに教えた。
「ひりょう?」
「んー……野菜が育つのに必要な栄養かな」
「えいよう?」
「……」
手を止めて向き直った青年は軍手でおでこの汗を拭取ると『チトの知識であってるよ。 これで一作業お終い。 この作業を畑に張ってある紐に沿って耕していけばいいよ』と告げる。
「紐に沿って鍬で掘り起こしていけばいいんだね?」
ユーリが教わった事を復唱し、青年もまたその言葉に頷いた。
チトも脳内で先ほどの鍬の振り方を予習し、息を整えて準備をする。
「ほいっと」
「……」
鍬を持って眺めていれば、青年が『それじゃ、さっき教えたように振ってみて』と言う。
その言葉に対してユーリは待ってましたとばかりに軽く振り上げて青年と同様の動作を行なった。
振り下ろされた鍬は、しっかりと土に食い込み軽く引けば土が盛り返される。
ユーリの鍬捌きを見た青年は軽く微笑み『上手い上手い』と拍手した。
「それじゃ、次はちーちゃんの番」
「わ、わかった。 やってみる」
先にやったユーリはあっという間に鍬を振り、見事に耕した。
その事でチトの中に緊張感が生まれる。
別に失敗してもいいのだが、あまり青年を落胆させたくないと思ってしまう。
ただでさえ、迷惑ばかりかけている状態なのである。
ここで共感してくれる頼れる人として関係を上げていきたいと思っていた。
「えいっ」
「おー……へっぴり腰」
予習はした、実際に耕す姿を見た。
頭の中で何度も実践してみるも実際は鍬自体の重みや重圧、そういったものでチトの一投は百点と呼べるものにはならなかった。
それでも少し腰が引けてしまった程度なので十分と言えば十分だろ。
現に青年はユーリの一投と変わらぬ微笑と拍手を寄こしてくれている。
「よーし! やるぞー!」
「気合入れすぎて空回るなよ」
チトとユーリの二人は青年からの軽い矯正を受けたのち、本格的に畑を耕す作業へと入ることとなった。
「よっと」
「ほっと」
畑の右端はチトが、真ん中を青年が、左側をユーリと言った布陣で畑を耕す事となった。
真ん中に居る青年は何時もの高速的な動きでなく、チトとユーリが一振りしたら自分も一振りするといった二人に合わせた速度である。
合わせてくれるお陰でチトもユーリも青年を見本とし耕す事ができた。
何より、何度か振っていればチトの緊張も解けて振り方が様になってきたのも大きい。
慣れてしまえば、あとは体力勝負。
一時間毎に十五分の休憩を挟みつつ、三人は土作りを進める。
「……なんだろ、これ」
「どうした? ユー」
事件が起きたのは、昼近く頃であった。
ユーリが鍬を置いて、自分の正面の土を見てしゃがみ込んだ。
青年は二人よりも一振りほど前に居た為、必然的に最初に気付いたのがチトとなった。
チトはユーリに声を掛け、何か問題が起きたのかと危惧する。
しかし、当のユーリと言えば先ほどの言葉を最後にじっと石のように固まってしまった。
そんな彼女を少し遅れて気付いた青年とチトは互いに『なんだろう』と目を合わせて同時に首を傾げる。
「ユー?」
「とった!」
ユーリの反応を待っているよりも近づいたほうが早いと判断し、チトと青年はしゃがみ込むユーリに近づく。
先ほどから声を掛けても喋らず、動かなかったユーリが動いて喋ったのはユーリと同じような体勢でチトが近くにしゃがみ込んだ時であった。
「とった?」
「ねぇ、ねぇ、ちーちゃん、××××。 これって何て生物?」
「うん?」
ユーリが親指と人差し指でそれを掴んでチトの目の前に差し出した。
そのユーリがとったと言い、何て生物? と聞いてきた物は細長い紐であった。
色はピンク色をしており、長さは十センチほどで胴体に縦線が並んでいる。
骨がないのか、チトとユーリが旅の中で出会ったヌコのようにうねうねと柔らかそうに動く生物であった。
「!?」
そんなユーリが見つけた謎の生物を目の前にして、チトは最初は唖然とし、次第に体の底からゾワゾワっといった悪寒を感じた。
その悪寒に気づけばチトは、声にならない声を上げてしゃがんでいる事も忘れ、反射的に全力で土を蹴り後ろへと飛んでいた。
急な動きにより、見事に背中が土に付き汚れるも気にならない位に必死である。
とにかく、ユーリの差し出してきた生物から少しでも距離を取りたかったのだ。
「おぉ……」
「な、なな、な!」
突然な動きにユーリの興味と青年の視線は、変な生物からチトへと移った。
二人の注目を受けたチトと言えば、そんな二人よりもユーリの持っている生物から一時も目を離さない。
離した隙にユーリの手から逃げ出し、自分の所に寄って来るのではといった最悪な考えが思い浮かぶためだ。
「ユー! 絶対に離すなよ!」
「おぉー……ここまで必死なちーちゃんも珍しい。 そんなに怖いの?」
チトはユーリがしっかりと確保してる事を確認し、なおかつ逃がさないと約束を取ると辺りを見渡し、安全を確保出来る場所を探す。
「怖いのに近づくんだ?」
「離れれば離れるで姿が見えなくて怖い。 ……いざって時は頼んだからな。 ××××」
安全確保をしようとするも辺りは畑ばかりで遮蔽物はない。
遠くへ逃げようと考えたが、それだと生物が見えず恐怖が沸いてしまう。
そんな考えに至り、チトは結局は気持ち悪い生物に近くなるも
いざとなれば、青年が何とかするだろうの精神である。
先ほどまで考えていた迷惑だの、頼りがいあるなどは一瞬のうちに吹き飛んだ。
それほどまでにチトにとってこの生物は嫌悪感が強かった。
「うぅー……図鑑で知ってたけど、実際に見ると無理だ」
後ろに隠れ両手で青年のツナギを掴みながら、涙目でチトは呟いた。
ちなみに青年はチトの反応に対して『女の子だものね。 苦手だよねー』である。
「ちーちゃんはこの生物知ってるんだね」
「……知ってる。 というか、農業に関して調べれば嫌って言うぐらいに出てくる」
「そうなの? ××××」
チトの言葉にユーリが青年に確かめれば、青年は頷いた。
そして青年は生物に関して詳しく喋っていく。
青年から聞いたこのユーリが捕まえた生物の名は『ミミズ』と言った生物であった。
ミミズは土を食べ、そこに含まれる微生物や有機物を取り込み粉上の糞として排出する。
その糞が植物の生育に適した構造となっており、農業者にとっては
「へー……」
「居るとは思ってた。 思ってたけど……ここまで気持ち悪いと思ってなかった」
「……とりあえず、こいつはどうする?」
ユーリの指の間でうねうねしているミミズ。
ミミズは結局、ユーリの手によって畑から離され森の中に帰される事となった。
その際の青年は、慰めなのか止めなのかチトに『気持ち悪いけど、農業をしていくにあたって絶対に避けれない存在だから……慣れてね』と告げる。
それにはチトも涙目ながらも頷くしかなかった。
何よりも、この先の事を知っているチトはミミズ以外にも様々な虫と関わる未来を知っている。
その虫達の対応も仕事の内なのだ。
生きていくためにも、人生を繋いでいくにもチトとユーリは牧場と言う道をいくしかない。
ただし……ミミズに関しては明日から慣れていこうと思った。
「ふぅ……落ち着いた」
午前の仕事を終え、家の横の木の下にシートを広げて休憩所を作る。
そんな新しく作られた休憩所の上には、先ほどまでサンドイッチがたっぷりと入っていた籠と、チトが飲んでいるお茶の入った水筒が並んでいた。
チトは木を背にぐったりとし、ユーリは畑の前で写真を撮り、青年と言えば食べ終わった後に『十四時までおやすみ』と言ってチトの隣で寝転んだ。
チトはお茶を飲んだ後、気持ちのいいそよ風を受けながら遠くの景色を眺める。
遠くを眺めれば、今日の朝からの出来事を一つ一つ思い出しまだ午前中かと一息付いた。
既に掌は痛い、腕は重たい。
長めの休憩であっても本を開く気力さえないほどに疲れていた。
明日は間違いなく筋肉痛だろう。
「農業って……仕事って……大変だ」
「何をいまさら。 収穫の時に味わったじゃん」
「そうだったけどさー……」
「いろいろと慣れるしかないよ。 ちーちゃん」
「うー……」
チトが呟けば、ヘルメットを両手に戻ってきたユーリが会話を繋げた。
ユーリの言葉にチトは、青年に仕事にミミズにと慣れていかなければいけない数々を思い唸った。
少し可愛らしい唸り声が聞こえたのか、元々目を瞑っていただけで寝ていなかったのか、青年から『ふふっ』と言った笑い声が聞こえる。
その小さな声にチトは少し頬を染め、もう一度唸るしかなかった。
「××××ー。 つちづくりってどのぐらいやればいいのー?」
青年の声を聞いて、ユーリは青年が起きていると判断したのだろう。
丁度いいとばかりにこれからの仕事の予定を聞いた。
「結構ゆっくりだね」
「……五日かー」
ユーリの問いに青年は『五日ぐらいかな。 期間内に家の前の畑を耕し終わっても、もう一度耕して五日は土と喋ろうか』と告げた。
「つちと会話するの?」
「……」
青年の問いを不思議に思ったのか、ユーリが復唱した。
ユーリの声に青年は『うん』と短く答える。
そして今度こそ本当に青年は寝に入ったのか寝息が聞こえてきた。
「土と会話……か」
「……」
チトは良く分からずお茶をもう一度口にしてから畑を見た。
畑は中途半端に耕されているだけで、どう見ても喋る気配はない。
そもそも口も頭もない物がどうやって喋るんだとチトは頭を悩まし、ユーリもまた寝転ぶと黙って畑を見入った。
(取り合えず……頑張ってみよう)
少しばかり悩んでも結局は分からず、チトは心の中でそう思うと午後のために目を瞑ってゆっくりと体を休めるのであった。
《青いツナギと赤いツナギ》
どちらも新品である。
おさがりではない。
ちなみに青年は灰色のツナギを着ることとなった。
《ドキドキ》
いろんな意味でドキドキしっぱなしである。
《真っ赤なちーちゃん》
実はユーリは気づいていた。
青年は鈍感であった。
《一人と言うのは寂しいのだろう》
農業に関することとなるとマシンガントークとなるとか、ならないとか。
《おじいさんと暮らし始めた頃》
あれ……?
《矯正》
矯正の際に後ろから抱き着かれる形で行い、チトが真っ赤っかと言うのを考えていた。
そういった描写が多くなくても すでに真っ赤なのでやめた。
《ミミズ》
ユーリ「ペット候補その1」
チト「やめろ。 ぜったいにやめろ」
《女の子だものね》
青年の妹の反応もチト同様であった。