「はぁ……やったな」
「うん!やったね、ちーちゃん」
「「いえ~い!」」
家の前の大きな畑、それを二人は手を合わせて満足気に見ていた。
前までただただ広い広場でしかなかった場所は、今ではすっかり耕されていて畑となっている。
終わったのは二人が畑を弄り始めてから、実に五日目の夕方の時であった。
「あ゛ぁぁぁー疲れた」
「ちーちゃん、寝ると汚れるよ?」
「もういいよ。既に汚れてるんだ、少し休憩」
「なら私も―!」
「いや……転がるなよ。わざと汚してるわけじゃないんだからさ」
「ころころー」
チトは大きく疲れを吐き出すように口から言葉を漏らし、そのまま崩れる様に地面に寝転ぶ。
そんな彼女を見てユーリもまた地面にばたんっと倒れて、そのまま地面を転がった。
「ふぅ……」
「だいぶお疲れだね。ちーちゃん」
「疲れよりも、体のあっちこっちが痛い」
「湿布だらけだもんね」
体を起こし、座り込むとチトは自分の手を見た。
軍手を外して見えた手は、包帯でテーピングをされていて何とも痛々しい。
腰にや肩にも湿布が張っており、まさに満身創痍と言ってもいいだろう。
「私はこんななのに……何でお前は軽傷なんだ」
「えー?私だって湿布張ってるよ?ほらほら」
チトが自分の体を調べた後にユーリへとジト目を向けた。
向けられたユーリと言えば、心外だとばかりにツナギの上半身と下に着ていたシャツだけ脱いで見せる。
そうすれば、ユーリの放漫な胸とそれを支える黒いブラジャーが丸見えとなった。
「お前なー、こんな所で脱ぐなよ。下着が見えてるぞ。人が来たらどうするんだよ」
指摘されたユーリと言えばチトの言葉を聞いてないのか呑気に『あっ、これ涼しいや』と言っていそいそとツナギの腕部分を腰に巻き付け、早速見つけたばかりの新しいスタイルを試しだす。
そんな彼女にチトは大きな溜息を付いて呆れた。
「うん?別にいいじゃん。人なんて居ないよ。居ても××××ぐらいだし、問題ないじゃんか」
「いや、問題しかないだろ」
「え?何で?だって××××でしょ?ちーちゃんに見せる様なもんでしょー?」
「いやいや、違うって私は女性で××××は男性だろ?」
「ん~……?」
「……」
前の世界での付き合いのあった異性は育て親のおじいさんのみであった。
更に言えば学校なんてものはなく、知識を得るには親から教えて貰うか貴重な本を読むしかない。
しかし、一日生きるのにも大変な世界でそんな余裕などないに等しかった。
だからか、ユーリは些か常識と言うものが欠けていた。
それを担うのが勉強をしていたチトなのだが、前の世界と違ってこの世界では二人で動くのも少なくなっていくに違いない。
なので早急に教えなければ行けないのだが、チト自身知っているだけで身をもって体験したことでもなく、教えるにしても男女の関係というのを説明するのは些か恥ずかしいものがあってまだ教えていない。
「でもさ、水着……だっけ?あれって下着と一緒じゃん。なら見せてもいいはずだ!」
「むっ」
「どう見てもあれって下着だよね?何で下着は駄目で水着はいいの?」
「いや……だから、その……なんでだろう?」
純粋な疑問をユーリがチトに投げかけた。
この間、テレビで見た光景の中に水の溜まった所で楽しむ人々が映し出されていた事を思い出したらしい。
その時の映し出される人達は男女関係なしに居り、皆が下着みたいな水着を来て遊んでいたと主張する。
それを聞かされたチトは答えようとするも、考えてみればおかしな話だと自分でも疑問に思うようになる。
確かにチトから見ても下着と水着の違いなんて、精々生地が違い濡れても透けるか透けないかのぐらいでしかなかった。
それでもやはり他人に見せるとなると恥ずかしいと思うし、絶対に嫌だと思った。
「なんでー?なんでー?」
「ん~……分からない。分からないけど、私は水着でも見せるの嫌だな」
「私は平気なのに」
「それはユーだからだろ。普通は恥って感情があるんだ。私は絶対に嫌だ」
「えー……そうだ。あれだ」
「なんだよ」
取り合えず、今ある知識だけではユーリの問いに答えられず、自分の感情のみで答えた。
その答えにユーリは何か思いついたとばかりに手を叩く。
何か思いついたかのような表情にチトは、物凄く嫌な予感がした。
「やってみればいいんだよ!」
「やっぱりだ!」
「どうしたのさ、ちーちゃん。大きな声出して」
「何で嫌だって言ってるのにやらせようとするんだよ!」
「だってあれでしょー?ちーちゃんも分からないんでしょ?なら体験するしかないじゃん」
「う゛っ」
「体験したことがないから想像だけで恥ずかしいと思っちゃうんだって!」
「むー……」
その言葉にチトは一理あると思ってしまう。
したことがない、やったことがない、だから恥ずかしい。
ユーリの言葉も的を得ていると思うが、体験する気はなかった。
「ということで……さぁ、ちーちゃんも私と同じように!」
「ぜっっっったいに嫌だっ!!」
「なんでさ」
手を広げて輝いた目で此方を見てくるユーリに拒否を示す。
絶対に同じ格好なんてする訳がないと断るチトにユーリが寂しそうな表情をするが無視である。
と言うのも今のユーリの格好が似あっていたからだ。
金色の長い髪の毛は後ろでポニーテールにし、ツナギの上半身を脱いで腰辺りで腕を縛る着こなし。
胸を隠している部分がブラジャーであるのが行けないが、これが黒い水着であればよく似合う格好である。
何よりもユーリが動く毎に揺れる胸が何とも悩ましい。
そんな彼女と比べてチトはどうなのだろうか。
ユーリほど胸がない彼女はブラジャーを付けていない、子供用のキャミソールである。
彼女みたいにしている自分を想像して見るも違和感が酷かった。
「試せば大丈夫だって~♪」
「こ、こら、やめっ、やめろ~~!!」
そうこうしていれば、痺れを切らしたユーリがチトに襲い掛かり服を脱がしに掛かった。
チトも抵抗しようとするも、体格差や筋力差によって呆気なくツナギの上半身とシャツを剥かれる。
もうこうなったら無理だとチトは悟り、暫くすれば飽きるだろうと諦めた。
結果的に言えば、ここで最後まで抵抗すべきだったと思うも後の祭りであった。
「そして、はいドーン!」
「え?」
諦めて上を脱がされた後、ユーリがチトをくるっと回して後ろを向かせた。
どうしてそんな事をするんだと思うも、次の瞬間に理解する。
「いえ~い!」
「……な゛っ!」
後ろを振り向けば、そこには鍬を肩に乗せて運んでいる青年が居た。
どうやらチト達が遊んでいる間に隣の畑から帰って来ていたらしい。
青年は理解が追い付いていないのかきょとんと不思議そうな表情をしていた。
「みてみてー!可愛いでしょ!ほら、意外に大丈夫だって」
「ななななっ、××××!?ば、ばかぁ、み、見るなー!!」
誰にどんな格好を見られてユーリが楽しそうに笑い、チトの肩に両手を置いて固定して逃げ出さないようにしている。
そのせいで逃げることも服を着ることも叶わず、下はツナギで上はキャミソール姿と言う変な格好を見せつける嵌めとなった。
チトは理解が及んで顔を真っ赤に染め上げ、手を前に突き出して視線を遮断する。
「「あっ……」」
必死に動き、手をばたばたとしていると青年の動きがない事にチトは気づいた。
その事に気付き、声一つ上げない青年を不思議に思い顔を赤く染めつつも見て見れば、そこには自分と同じぐらいに顔を真っ赤に染め上げ目を回している青年が居た。
そして、そのまま見ていれば後ろにバタンと青年は倒れ込んでしまった。
「××××!?」
「お~……なんだっけ、あれだ。あれ、のうさつって奴だね。やったね、ちーちゃん」
「そんな事言ってる場合か!服を着ろ!服を!」
「えー……涼しいのに」
青年が倒れたお陰で、驚いたユーリの拘束から逃れたチトは服を急いで着込み、彼女の頭を一発叩いて怒りを表した。
「××××、大丈夫?」
「目を回してるね。どうしてこうなった」
「どう考えてもお前のせいだろ。この馬鹿!」
「アイタっ!」
結局、その後青年が気付き大事に至らなかったが、その日青年とチトは互いに顔を合わせると顔が真っ赤になり、まともに話せなかった。
そして、チトはユーリに常識と言うものを叩きこもうと誓うのであった。