少女牧場物語   作:はごろもんフース

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書き方を変えてみました。


寝床

「まっだかなー……まっだかなー!」

「……」

 

 場所は何時もの青年の家のリビングです。

そこでユーリが何時通りの目尻の垂れた眠そうな眼をしながらうきうきとしていました。

なぜか両手にフォークとスプーンを持ってです。

 

 そんな彼女と違ってチトは洗濯し乾かし終えた服をたたみながら横目で見守ります。

呆れた様な諦めた様な視線は無理もありません。

何しろ二日前の夜からこんな調子なのです。既につっこみ疲れです。

 

「まっだかなー!まっだかなー!」

「はぁ……そんなに楽しみかな」

「楽しみに決まってんじゃん!ちーちゃんは楽しみじゃないの?」

 

 疲れていましたが壊れたように同じ言葉しか言わないユーリにも飽き飽きです。

チトは目を閉じるとため息をついて会話を試みることにしました。

 

「楽しみだけどさ。ユーほどじゃないよ。と言うかそのフォークとスプーンはなに?」

「テレビで見た。楽しみに待つ時はこうやって待つとか何とか」

「……はぁ」

 

 会話をする事は正解でした。

先ほどよりも若干ましになりましたが、今度は別の意味で疲れそうだなと思います。

 

「それよりもこっちを手伝えよ」

「やだー」

「はぁ……?」

 

 無意味な行動をしているぐらいなら手伝うように諭しました。

しかしながら効果は何とも薄いようです。

ユーリはそのまま顔を机に押し付けてぐでんと垂れてしまいました。

そんな彼女に流石のチトも堪忍袋の緒が切れます。

よくよく切れているように思えますが気のせいでしょう。

 

「ふざけんな」

「あばばば」

 

 チトは洗濯物が入った籠を持つとそのままユーリの頭でひっくり返しました。

洗濯物はチトの怒りを体現したかのように彼女を埋もれさせます。

そこには情けの欠片もありませんでした。

 

「それ全部お前のだからな」

「ぷはっ……ひどいよ。ちーちゃん!」

「私はやらないからな」

「けちー!」

「知るか」

 

 ユーリは洗濯物の雪崩から顔を出すとスプーンとフォークを高々に上げて抗議します。

それをチトは無視して自分の洗濯物を畳む事に専念します。

流石のユーリも洗濯物を畳む事になれば少しは静かになるでしょう。

 

「まったくもー……」

「そのセリフはこっちのセリフだろ。なんでそんなに嫌なんだよ」

「なんでだろうねー?」

「自分の事だろうに」

「ちーちゃんも全部分かってる訳じゃないでしょー?」

「そうだけど」

 

 チトの目論見は成功しました。

ユーリはのろのろと起き上がると洗濯物を抱えてチトの隣へとやってきます。

そして見様見真似で自分の洗濯物を畳んでいきます。

 

 それを見てチトは何故ここまで洗濯物に対してユーリが嫌がるのか不思議に思いました。

普段からやる気がないユーリですが特に洗濯物に関しては更に腰が重いのです。

今も嫌々ながらゆっくりとした動きでした。

 

「楽しみだなー!」

「……」

「楽しみだねー!」

「……はぁ」

 

 どうしてそんなにもやる気がないのかと考えているとまたユーリが壊れ始めました。

表情からは分からないがうきうきと嬉しそうな雰囲気を醸し出しています。

これでは先ほどとあまり違いがありません。

いえ、正確にはチトの仕事が少し減った分ましです。

どうしてユーリがこうなってしまったかと言えば二日前の出来事が原因です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことの始まりは二日前の夜のお話です。

夕食を食べ終え、ゆっくりとお風呂に入り疲れを癒した夜に其々が寝るまでの時間を思いのままに過ごします。

チトはテレビに近い部屋の真ん中にある机に備えてある椅子に座り読書をユーリはテレビの前を陣取り無我夢中でテレビを見ていました。

家主の青年と言えば、その日によって行動がまちまちだったりします。

 

 本を読んでるときもあれば、テレビを見ているときもあります。

稀に家を出て、外で何かをしている事も多々ありました。

そんな青年ですが、今日は本当の意味で休みの日なのかチトの前で読書をしていました。

 

(何読んでるんだろ……)

 

 青年の読んでいる本がチトは気になります。

本にしては薄く、中のページよりも硬いはずの表紙ですらペラペラなのです。

派手な色合いをしており、中身までカラーで出来ている本にチトは興味を持ちました。

 

「え?」

「んー?」

 

 何の本かを聞こうとした時です。

青年が顔を上げずに静かな声で呟くように質問をして来ました。

その質問の内容は『二人って離れて寝ても大丈夫?』といったものです。

 

 チトは質問に何でと質問で返しそうになり、慌てて口を閉じます。

質問をするにしても答えてからと首を振り、聞かれた内容の事を考えました。

 

(んー……別々に……か)

 

 チトは今までの事を思い出してみます。

今までを思い出してもチトとユーリが離れて眠ったといった出来事は皆無であります。

 

 おじいさんと一緒に暮らして居た時は、家の中が本でいっぱいであり狭かった事もあって二人で寝ていました。

旅に出てからと言えば、寝る時はケッテンクラートの荷台か地面です。

主に荷台で寝て過ごしましたが、荷台は小柄な二人でも一杯一杯の広さでした。

地面では寒いこともあり、二人が離れて寝るメリットが無いのでくっ付いて寝ています。

 

「……まぁ、問題ないと思うよ」

 

 しかし、チトはそう判断して答えました。

 

「えぇー……」

「もう子供でもないんだ。大丈夫だろ」

「う゛ぇぇぇー……」

 

 暖かい家の中で二人がくっ付いて寝るメリットは少ないのです。

安心出来るといったことはありますが、その時はその時で一緒に寝ればいいので概ね問題はなくなるのです。

常に一緒で寝るといった行為の必要性は旅をしている時と比べれば少し減りました。

 

「それで何でこんな質問を?」

 

 変な声を出し続けるユーリを無視して青年へと質問をしました。

青年は変な声を出すユーリに気を取られつつも答えてくれます。

 

「なるほど……そういえば、××××はずっとソファーだった」

 

 青年の答えは『流石に僕もベッドに寝たいし、二人用の揃えようかなと』と言いました。

その際に先ほどまで見ていた薄い本をチトに見せて来ます。

薄い本には家具カタログと書かれており、様々な家具が描かれているものでありました。

 

 言われて見れば、チトとユーリがやって来てから青年はソファーに寝っぱなしです。

ソファーは座り心地はいいですがベッドに勝てるかと言われると首を横に振らざるをえません。

やはり寝るのに適した家具で寝るのは起きた後の疲れの取れ方が違います。

その事に今更気付き、チトは青年にごめんと謝りました。

 

 チトは謝った後に一瞬自分達の使っているベッドを返して、ソファーに寝ようかとも思ったが止めます。

お人好しの青年の事です。それを良しとしないだろうと思ったのです。

どちらにしろ必要になる家具なだけにチトも素直に受取る事にしました。

その際に心の中で恩を忘れないようにしっかりと記憶するのを忘れません。

 

「ベッドは二つ買うの?」

「うぁぁぁ……」

 

 未だに嘆いているユーリを横にチトは身を乗り出してカタログを覗き込みました。

カタログには様々なベッドがあり、あれやこれと目移りしそうです。

 

(シングル、セミダブル……色々あるんだな)

 

 何枚か捲り、良いのがないのか探すも数は意外にも膨大でした。

そんな中で一つのベッドを見つけました。今のベッドよりも大きなセミダブルです。シングルを二つ買うよりも安く場所も取らない物で良さそうです。

これであれば、チトとユーリも一緒に寝れる上に問題が一気に解決しそうでした。

 

 チトがこれにしようと青年に声を掛けようとした、そんな時です。

視線を少し動かしてそれが目に入りました。

それはシングルサイズのベッドであったが二つあり、それが上下に重なっている物です。

 

「あ……二段ベッド」

「どれ!?」

「うわっ!?」

 

 チトは知識にあるそのベッドの名前を無意識に読みました。

これに反応したのがユーリです。先ほどまで呻いて遊んでいた彼女はチトに抱きつく形でカタログへと視線を落します。

悲しそうな表情から一変して嬉しそうな表情になったユーリとは逆にぐりぐりと頬を擦り付けられてチトは少しイラ付きました。そして頭を使いぐいっとユーリの頬を押し返したのです。

 

 ぐいっと押し込めば、ユーリの顔があらぬ方向へと向けられ体が離れます。

離れた後、直ぐにカタログが見える位置に戻る辺り効果は薄そうでした。

それでも学んだのか今度はチトには抱きつきませんでした。

 

「おぉ~~~、私これがいい!」

「それだと私と一緒に眠れないぞ」

「いいよー」

「……」

 

 ユーリの無邪気な一言にチトは何とも言えない表情となります。

そんな二人に青年は『二段ベッドか……何か思い入れでもあるの?』と聞きました。

チトはその問いに対して、前に有った事を話し出します。

 

 その出来事があったのは上層階を目指して旅をしていた頃のお話です。

誰も居ない廃墟とした都市をひたすら進んでいた時に

 

『家ってなんで必要なんだっけ?』

『家がないと暮らしていけないしな……』

『私達の家はあれ?』

『あれは違うだろ……』

『はいかいいえで答えて!』

『ん? いいえ』

『家なだけに!』

『よし、黙れ』

 

 とそんな話になったのです。

 

『ここは比較的綺麗だな……』

『ねぇ、ちーちゃん』

『なに……』

『この部屋だけ扉あるよー』

『本当だ……』

 

 何時ものように物資を探す為に廃墟を探索している時に珍しく扉を見つけます。

物資が無い為、持っていかれたのか、今までの探索で扉が付いていたり窓が有ったりするのは珍しい事でありました。

しかし、今回の探索で二人の目の前には扉付きの部屋があります。

 

『おぉー! 良い感じの椅子がある!』

『水もでるな……』

『なら、住めるねー……住もうか?』

『いいね……いいかも』

 

 部屋の中には風景が見れるように窓の近くに椅子が二つです。

ここに住めばいいとばかりに蛇口を捻れば水も出ており、インフラが整っています。

 

 チトとユーリは互いに椅子に座り、ゆったりと寛ぎ。既に遅い時間帯で外が少しずつ、暗闇に染まっていく。

そんな時間だったからでしょう。チトの口から好意的な言葉が珍しくでました。

 

『いいの?』

『あこがれるんだよねー……こういったところに住むの』

 

 上を見上げれば天井があり、横には壁がある。

雨風を防げ、何時も乗っているケッテンクラートとは大きな違いです。

 

『住むならさ、あれほしいね。ベッド』

『ベッドか……ベッドなら前に二人用の二段に重なって居る奴を見たな』

『いいね、それ!』

 

 ユーリの言葉にチトは手を重ねて前に本で読んだベッドを教えました。

教えられたユーリと言えば、欲しいと目を輝かせ嬉しそうにあれやこれと語りだす始末です。

勿論、残念ながら住むわけにもいかず。

二人は自分達の家があったら、あれを置きたい、これが欲しいと妄想するだけして終わりました。

 

『こんな所でもちもちしてたら、食料が尽きちゃうでしょ』

『まぁ……ね』

『……いつか、住める場所を見つけた時は二段ベッドを揃えようか』

『うん!』

 

 そんな出来事があり、二段ベッドは二人の憧れとなっていたのです。

特に執着していたのがユーリだったりします。

イシイの所でも二段ベッドがあるか聞いていた位に欲しがっていました。

 

「おぉ!」

「あ……駄目な奴だ、これ」

「やったぁ!」

 

 そんな話をすれば、青年は少し涙ぐみながらも微笑み『二段ベッドにしようか』と言い切ってしまいます。

その言葉にユーリは両手を上げて喜び、チトはそんな二人を見て流れが変わらないことを悟りました。

チトとしては今のよりも大きなセミダブルとかも気になっていましたが、諦めてカタログを閉じる事にします。

既にユーリは勿論の事、青年も心は二段ベッドに傾ている事でしょう。

ここで多数決をしても不利なのはチトのほうであり、彼女自身セミダブルもいいなと思った程度なので特に不満もありませんでした。

 

「えー……今すぐに来ないの?」

「我侭言わないの」

 

 二人のベッドが二段ベッドと決定し、青年が『明日頼んでくるよ。在庫があれば取って来る。なかったら時間かかるかも』と教えてくれました。

チトは誰に頼むのかとか、何処で買うのかと気になりましたがそれよりも先にユーリが渋りだします。

そんなユーリを宥めるのにその日を使い果たし、その日から時折ユーリがわくわくしだすようになったのです。

 

 

 

 

 

 

 

(それで今日に至ると……)

「まだかなー、まだかなー」

「はぁ……」

 

 何度目かの言葉にチトは諦めて到着を待つ事にしました。

青年が家を出てから既に二時間ほど経っており、あと少しで帰ってくる事でしょう。

むしろ早く帰って来て欲しいと思いました。

 

「おかえりー!!」

「おかえりー……」

 

 青年が帰宅したのは、それから十分後です。

ユーリとの会話にならない会話を続けてチトは、青年が帰って来ても机に頬をくっ付けぐったりです。

逆に元気なユーリは青年が扉を開けたのと同時に抱きつきました。

 

「買ってきた?」

「引き剥がしていいよ。盛大に転がしておけばいい」

 

 抱きついた状態でユーリが見上げてそう聞くと青年はニカっと笑い答えてくれました。

そして、ユーリに当たらないように担いでいた大きな包みを地面に置き『買ってきた』と短く答えます。

 

「おぉ~……これが」

 

 地面に置かれた物は大きな紫の布に包まれており、平べったく細長いです。

それを見てユーリは青年から離れると、興味心身に指で突っついてみます。

 

「……二段ベッド?」

「自分で作るんでしょ……出来上がった二段ベッドなんて扉から入るわけないし」

「ぐえぇ……」

 

 平べったい物がどう見てもベッドに見えず。ユーリが不思議そうに首を傾げました。

そんな彼女にチトはのっそりと動き出すとユーリに説明しながら上から圧し掛かります。

潰されたユーリが変な声を出すもそれは無視です。

 

「説明書は……あるのか」

「えー……いちからつくるの?」

「手伝わなくてもいいけど……その場合、お前の寝る所は下な」

「ぜひ、手伝わせてください!」

「いつもそうならいいのに」

 

 布を開けば、中には幾つもの木の板やネジといった物が入っています。

その中に作る方法が書かれている紙も入っており、チトはユーリの上に乗ったままそれを読み込みました。

青年がそんなチトに『作ろうかと』張り切るもそれを断ります。

 

「いいよ。私達の事だし、私達で作る」

「手伝ってもらった方がいいような?」

「説明書あるし、大丈夫でしょ。最低限でも自分達の事は自分達でしないと」

「あーい」

 

 既に色々としてもらっている身です。

ある程度は自分達で出来るようにしておかないと暮らしていけません。

そのことをチトは青年に伝えれば、青年は渋々ながらも引き下がってくれました。

引き下がるといっても仕事に戻らず、お茶を入れて椅子に座り込んでいる辺りは流石青年というべきでしょうか。

どうやら青年は手伝う事を諦めても、見守る事は止めないようです。

 

「まずは……部品の確認かな」

「おー!」

「えっと……大きな板が……」

 

 そんな青年を横目にチトはユーリの上から退くと説明書を読み上げます。

説明書に従い、必要な部品があるかを確認し準備を整える事が出来ました。

 

「あ……ベッドの置く場所は……」

「既に運んでるね」

「何時の間に……」

 

 部品の確認を終えてから気付きました。

ベッドを何処に置くのかを確認していなかったのです。

しかし、流石青年と言うべきかチトがその事を聞くべく視線を向ければ、そこにはベッドを運んでいる彼が居ました。

チトとユーリが使っていたベッドは元の位置の反対側の脱衣所横の壁際に置かれています。

そして青年からは『ベッドの位置は動かさなくていいでしょ。何時ものところで』と伝えられます。

これに対してチトとユーリからは特に文句はありませんでした。

 

「それじゃ……最初に細長い奴を立てて」

「これ?」

「それ」

 

 柱となる部分をユーリが立て、チトが柱に外側となる木の板をネジで止めていきます。

前にイシイの飛行機を作るのを手伝った事もあり、この位の組み立ては楽でした。

飛行機よりも難しい二段ベッドなどある訳がありません。

特に重いものはユーリに任せられることも大きく順調に事は進みました。

 

「出来た……」

「できたー!」

 

 三十分もすれば、チトとユーリの目の前にはシングルベッドが二段重なったようなベッドの二段ベッドが姿を現します。

出来た二段ベッドをチトとユーリは隅々まで見てから見上げました。

中々に立派でとても二人にとっては大きな物でした。

 

「やっほー!」

「あっ……こら!敷布団を敷いてからっ!」

 

 二段ベッドが出来上がりチトが青年から布団を受取っていれば、ユーリが堪らずに備え付けの階段を登り上の段に上がってしまいました。

それを咄嗟に咎めるもユーリの行動は速く、チトが見上げれば上の段で満足気にしている顔が見下ろしてました。

 

「ほら……自分で持ち上げて」

「あーい」

「しっかりと敷くんだぞ」

「わかってるって」

「本当かな……」

 

 敷布団を渡した後、枕と掛け布団も渡します。

チトは自分の分も受け取り、しっかりと下の段で自分の寝床を作った後に階段を登り上を覗きました。

覗けば、そこには少しぐちゃぐちゃな布団の上で寝転がっているユーリが見えます。

一瞬チトは布団を直そうとかと思うも直ぐに止めました。

いちから全部までやっていてはユーリの為にもならないと判断したのです。

面倒を見るのが面倒というのもありましたが。

 

「ん……?」

 

 チトは溜息を付き、階段を下りれば背中が目に入ります。

何時の間にか下の段のチトの寝床に青年が上がり込んでおり、枕付近で何か作業をしていました。

チトも階段から離れ、自分のベッドに乗り込むと青年の後ろから覗くように見ます。

今から自分の寝床になる場所で何かをしているのです。流石に気になります。

 

 見てみると何かを取り付けているようでありました。

取り付けている物は、細長い三十センチほどの板でその板の上にアーチ状の鉄の棒が三本ほど均等な感覚で並んでいる物です。

丁度、鉄の棒の間に何かを挟めそうな形です。

 

「あれ……これって……」

 

 じっと備え付けられた謎の板を見ていれば、正体が分かりました。

チトはこれを見た事があったのです。

形こそ違いがありますが用途としては同じ筈だとチトは思いました。

 

「もしかして……本棚?」

 

 作っていた物の正体を期待しながら言ってみれば青年がチトの答えに頷きます。

青年がチトのベッドの脇に設置していたのは簡易的な本棚でした。

 

「……」

 

 答えを聞いてチトは何も言えなくなりました。

チトにとって本とは大事な大事な宝物です。

ユーリが食い物であればチトは本と言うほどに大好きな品物です。

ならば本を収めるのに必要な本棚はと言えば

 

「おぉ~~~!!」

 

 目を輝かせるほどに大好きでした。

チトにとって本棚とは憧れの家具であります。

青年のリビングに本棚があるのではと思いますが、それはチトの物ではありません。青年の私物です。

殆どの家具が共有扱いなのでチトの物とも言えましたが、あくまで共有で専用ではないのです。彼女自身はそう感じていなかったのです。

なので何時かは自分専用の本棚を手に入れてやると思っていたのですが、まさか専用の寝床と一緒に付いてくるとは思っておらずチトには珍しく興奮を隠せませんでした。

 

 どのぐらいに興奮しているのかと言えば、先ほどユーリを上から押しつぶしたように青年を押しつぶして身を乗り出すぐらいにです。

 

「あぁ……本棚、本棚」

「どしたの?ちーちゃん」

 

 涎が出そうな勢いです。目は既に本棚しか映らず、その他は全てが見えません。

そんな珍しいチトの声に釣られたのか、二段ベッドの上の段に居たユーリがにゅと顔を出します。

上から下の段の覗いているので上下逆さまで髪の毛が全部地面へと伸びました。

 

「見ろ!ユー!本棚!本棚だ!」

「なんだ……食べ物じゃないのかー」

 

 ユーリの声にチトは反応をします。

そしてチトは押しつぶしていた人物を抱き起すとそのまま後ろから抱き着いて嬉しさを分かち合います。

 

「嬉しそうだね。ちーちゃん」

「嬉しいに決まってるだろ!ほら、ユーも見て見ろ……?」

 

 はっはっはと軽く笑うユーリにチトはどれだけ嬉しいのかを教える為に言葉を紡ぎます。

その際の何時もの様に傍に居る筈である。今まで自分が抱き着いて振り回していた人物を間近で見る事になりましたが、それはしょうがない事で必然なのです。

 

 チトの顔の隣にいた人物はユーリの様な金髪ではなくチトと同じ黒髪の人です。

チトが揺らしていた肩はユーリと比べてもたくましく筋肉質です。

朝の仕事を終えた後に外出する為にシャワーを浴びていたとは言え、重い荷物を抱えて家まで歩いて来たのです。汗を掻いてても仕方がありません。

 

 その汗の匂いはチトともユーリとも違い嗅いだことがあまりないような匂いです。

なんとなく嗅いでいると良く分からない感情が沸き起こって来そうです。

しかし、その感情が分かるよりも先に抱き着いている相手が誰かを理解して見る見る内に体が火照り顔を真っ赤になりました。

 

「ところでちーちゃん。××××が目を回してるから放してあげたら?」

「うわぁーー!!!っいたい!?」

 

 相手を完全に理解した瞬間、チトは考える暇もなく手を放して後ろに後ずさります。

本来であれば後ずさってもあまり問題ありませんが今現在二人がいる場所は二段ベッドの上です。

チトは後ずさった瞬間、二段ベッドから転げ落ちて頭を打つ羽目になりました。

青年は潰されて抱き着かれて振り回されてと理解が追い付く前に意識が飛びそうで目を回しております。

 

「なんだ……ちーちゃんも(二段ベッド)嬉しかったんじゃん」

「ち……ちがっいや嬉しいけどそうじゃなくて!」

「楽しそうだねーちーちゃん」

「こ、これは本棚が……いや、違くて……って!?」

 

 今起きた出来事を見ていたユーリは上のベッドで寝転がりあっはっはと笑い微笑ましく見守ります。

二段ベッドから転げ落ちたチトはパニックが治まらずあわあわと慌てるばかりです。

結局、新しい寝床が出来た日は嬉しさと恥ずかしさと良く分からない感情にと大忙しな一日となってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、私は本棚だったけど……ユーの所には何が付いたんだ?」

「見て見て―!」

「あー……」

 

 その日の深夜に落ち着いたチトが二段ベッドを上がってユーリの所に行ってみるとそこにあったのは

 

「サカナ!」

「なるほど……『魚で覚える読み書きポスター』」

 

 寝転がった先の天井に数多くの魚の絵と名前が書かれたポスターが貼ってありましたとさ。

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