少女牧場物語   作:はごろもんフース

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手紙

「ひゃっほー!」

 

 ある晴れた日の朝の出来事でした。

乗って来ていた馬車から降りるとユーリが好奇心のまま飛び出して、歩き回ろうとします。

それは何時ものユーリからは想像できないような速さでした。

一緒に乗っていた青年は驚きのあまりポカーンと口を開いて固まってしまうほどです。

 

「こら、騒ぐな」

「ぐえ……」

 

 しかし、それを予期していた人もいます。チトです。

チトは一緒に降りた瞬間にユーリの首根っこを掴んで妨害しました。

走ろうとした瞬間に首根っこを掴まれた為、ユーリの首が絞まって変な声が出ました。

やり過ぎではと思いますが仕方がありません。

 

「人が居る所で騒ぐなって教えただろ!」

「ごめん、ごめん、忘れてた」

「……このやろ」

「ひたいよ……ひーちゃん」

 

 もしこれが牧場とかであればチトも言葉だけで注意するでしょう。

しかし、今日二人が居る場所は他の人も大勢いる場所、三つの里のうちの一つの『ウェスタウン』なのです。

人に迷惑が掛かりそうなため、実力行使もしょうがないのです。ユーリが悪いです。

 

 チトは警告とばかりにユーリを引き寄せると頬を後ろからぐいっと引っ張りました。

そんなチトの攻撃に涙目になるユーリでしたが

 

「ほら……大人しく歩く」

「いやなこった」

「おい!」

 

 効果は薄そうです。

チトの手から離れた瞬間にぴゅんっと素早い動きで走り去り、入口近くにある広場に行ってしまいました。

何時もはチトの攻撃を受けて大人しくなる事が多い彼女ですが、時たまに好奇心が暴走するとこうなる事があります。

 

 こうなってはチトが出来る事はありません。何をしようとも止まらないからです。

後ろから付いてって人に迷惑が掛からないようにフォローするだけです。

 

「××××!ごめん!」

 

 チトは馬車から降りて来た青年に声を掛けました。

ただただ名前を呼んだだけですが、先ほどの騒ぎを見ていたので青年も状況を把握しています。

青年は苦笑しつつ『あとで追いつくから、行ってきていいよ』とチトに告げました。

 

 チトは青年から了承を得てから速足で歩きます。

すぐに追いつきたいのですが流石に走る訳にはいきません。

 

「あいつ……覚えてろよ」

 

 悪態を付きながらも道の端っこを歩いて行きます。

速足の為、他の観光客よりも先へ先へと進んでしまうので道行く人の視線が突き刺さりました。

別に笑われている訳ではありません。奇行と言うほどのことではありませんが、チトなんだか恥ずかしくなり顔が真っ赤になってしまいました。

 

「はぁ……ユーの奴……どこ行った」

 

 ある程度歩くとウェスタウンの広場に辿り着きました。

本来であればここで観光したいのですが、今は時間がありません。

未だに常識と言うものが覚えられてないユーリが里の中で野放しなのです。

何をするか、どんなことをしでかすかと考えるだけで頭が痛くなります。

 

 辺りをきょろきょろと見渡すと多くの露店と呼ばれるお店があります。

前に行った事のある大黒屋のような一軒家でのお店はありません。

どうやら広場には露店しかないようです。

 

「いないし」

 

 チトは広場に目を通しますがユーリの後姿はありませんでした。

一番最初に行きそうな食べ物屋の露店も見て見ますが姿はありません。

 

 これにはチトも焦りだします。

ユーリの事なので興味あるのは食べ物関連と決めつけており、すぐに目に入る食べ物を売ってるお店に行けば見つかると思ってたからです。

 

 想定外の事に焦りだし、頬を嫌な汗が伝っていきます。

もしも、もしもの話ですが見つからなかったらと言う嫌な思いが頭に浮かびます。

ないとは思います。流石のユーリもこの里内部から勝手に出て行くようなことをしないでしょう。

それでも不安です。不安になりました。

 

「ユー……」

「――ってこと?」

「ユー!」

「おろ……?」

 

 そんな時でした。聞き覚えのある声、ユーリの声がチトの耳に届きました。

思わず名前を強く呼んでしまいましたが、些細な事です。

 

「お前なー!」

「どしたの?ちーちゃん」

 

 すぐに辺りを見渡し、ユーリの後ろ姿を見つけると走って追いついて服を引っ張りました。

後ろから服を引っ張られたことでユーリがチトに気付きました。

自分の服を引っ張るチトへと視線が向けられます。

 

「一人で行くな。買い物もまだ一人で上手く出来ないだろ。お前」

「えー……買い物ぐらい一人で出来るよ」

「あれはなんて書いてあるか読めるか?」

「……ただ食い歓迎?」

「そんなわけあるか!」

 

 何も分かってなさそうな、一人でも不安のふの字もなさそうな態度にチトはむっとしました。

チトは少し離れてここまで不安になったと言うのに、迷惑をかけた方のユーリがこれなのです。

怒ってもしょうがないのです。

 

 やつぎばやに一人行動をしてはいけないと注意しました。

しかし、何処から湧いてくるのか謎の自信を持つユーリが胸を張りました。

もちろん、試してみますが結果はバッテン印のだめだめでした。

 

「だから――」

「ふふっ……」

 

 ユーリの服から手を放し、チトは自分の腰に両手を当てて怒ってるぞアピールをします。

そんな時でした。ユーリ以外の笑い声、もちろんチトでもなく置いて来た青年でもない他の人の笑い声がしました。

 

「え゛……」

「あぁ……ごめんね。二人のやり取りが面白くて……ついね」

「面白いかな?」

「面白いよ」

 

 そこにきてチトはユーリが一人でなかった事に気付きました。

ユーリの後ろ姿に駆け寄ったために正面に立っていた人に気付いていなかったのです。

これにはチトも驚いてしまい説教が止まりました。

 

 ユーリの正面に居た人物は男性でした。

青いコートに水色のシャツ、髪は金髪でふんわりとした肌触りをしてそうです。

顔はテレビの中で見るアイドルといった風でイケメンでした。

 

 その人物がユーリと軽いお喋りをします。

男性はお腹を抱えて笑い、ユーリは何処が面白かったのかと不思議そうにしています。

 

「お……おい、誰だ。この人!」

「えーと……誰だっけ?」

「くくくっ」

 

 いきなり現れた知らない人物にチトは警戒心が高まりました。

そして、ユーリの腕を引っ張って耳元で誰なのかを尋ねます。

チトとしては相手に悟られないように、失礼にならないように聞いたのですがユーリには関係ありませんでした。

 

 躊躇なく相手へと質問をします。

それを受けて相手は更に笑ってしまいました。

その笑い声に釣られてか周りに居た人が何事かと視線を三人へと向けられます。

 

「なんか見られてるね。私達」

「ううぅ……」

「ピースでもしとく?ちーちゃん」

「やめろ……もうやだ……××××」

 

 チトはユーリがいなくなった不安と怒り、知らない人との会話と笑われた事。

知らない町での散策と周りの人々からの不思議そうな視線など様々な事が起きていっぱいいっぱいになりました。

最後にはがっくりと項垂れて心の中に浮かんだ名前。青年の名前をぽつりと呼んで助けを求めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、オレはウェイン。この町で郵便配達員をしてるんだ。よろしくね」

「私はユーリでこっちがちーちゃん」

「チトです。よろしく」

「よろしくー」

「まさか君達が噂になっている✕✕✕✕の所に居る二人とはね」

 

 それから事態が落ち着いたのは青年が追い付いての事でした。

青年とユーリと会話していた男性は友人だったらしく、すぐに事態は収束しました。

広場近くではあまりに目立つと言う事で近くにあったウェインが働いている郵便局へと移動します。

そこにあるベンチに座ると自己紹介が始まりました。

 

「……なんでユーに声をかけてたんだ?」

 

 会話の内容は先ほどの事です。

一体ユーリと何を会話していたのかと気になって質問しました。

 

「あぁ……お嬢様が迷ってるのかと思ってね。何か困ってることがあれば力になろうと」

「こいつがお嬢様?」

「うへへー」

 

 彼の言葉に何を言ってるんだと思いユーリを観察します。

ウェインに褒められたせいか、ユーリはしまりない顔で喜んでいます。

そんなユーリは何時もの服装とは違うものでした。

 

 此方に来て毎日お風呂に入れる環境に美味しい食べ物の数々のお陰が肌づやも良くなり、髪の毛もふんわりとした綺麗な髪質となっています。

服装も軍服でもジャージでもありません。白いシャツに赤いロングスカート、髪の後ろには大きなリボンが付いていました。

確かに見た目だけであれば何処かのお嬢様かも知れません。

 

「好奇心のままにふらふらして目を輝かせてたし」

「格好も相まって世間知らずのお嬢様に見えたと?」

「うん、声を掛けて見たら全然違ったけど」

「うへへー」

「褒めてない、褒めてない」

 

 ユーリはだらしなく喜び、チトは溜息を付きます。

そんな二人を見てウェインはまた笑うのでした。

 

 そのほかの会話は前までの生活はどんな風だったか。何処からやってきたのか。ここには慣れたのか。毎日青年が作った野菜と料理が食えて羨ましい。何か困っている事はないかなどなどです。

 

「そう言えば郵便配達員って言ってたけどどんな事をするの?」

「そうだね。ここに集められたお手紙(思い)を預かり配達するお仕事だね」

「……お手紙(思い)

「うん、お手紙ってその人の心そのものでね。それをお預かりして届けるこの仕事がオレは大好きなんだ」

 

 会話の際にユーリが聞いたのはお仕事の内容でした。

チトとユーリが集落に住んでいたのは子供の頃です。

その頃には他人に手紙を送るようなお仕事は既にありませんでした。

食べ物などにも困っているぐらいの物資不足、お手紙を書いている余裕なんてありませんでした。

ゆえに手紙を書くと言った事に少しばかり興味が惹かれます。

 

「お手紙ってどんな事を書いてもいいの?」

「うん、文字だけでなく絵でもいい。相手に伝えたいことがあればそれでいいんだ」

「なるほど」

「ちーちゃん!お手紙書こうよ!」

 

 最初に提案してきたのはユーリでした。

目を輝かせて立ち上がるとチトの手を取って立ち上がらせます。

 

「うわわっ!」

「ほらほら!早く!」

 

 勢いよく立ち上がらせられたせいで前のめりになりました。

しかし、ユーリが器用にバランスを取ると二人はくるくると回ります。

まるでダンスのように楽しそうにです。

 

「……ところで何に書けばいいの?」

「おい……何も知らずに書こうと言ってたのか」

「えへー」

「郵便局の中にレターセットが売ってるよ。それに書いた後に――」

 

 ある程度踊った後にユーリが急にぴったりと止まります。

そして不思議そうにウェインへと視線を向けました。

これにはチトは呆れて、ウェインと青年も苦笑です。

取り合えずユーリを落ち着かせた後にウェインが一から丁寧に教えてくれました。

 

「……紙!」

「いっぱいあるな」

「あっ……ちーちゃん!見て見て!サカナ!」

「うん、知ってる」

 

 その後、配達のお仕事があるウェインと別れて郵便局内に入りました。

郵便局内にはレターセットの売り場がありそこにはチトとユーリが思っていた以上に数多くあります。

 

「うーん……どれにしよう」

「ちーちゃんはこれとかいいんじゃない?ほら、けってんくらーと」

「こんなものまであるのか」

 

 数多くの中からチトはどれにしようかと悩みます。

隣に居るユーリと言えば特に考えていないのかひょいひょいと選んで行きました。

 

「ユー……」

「なに?ちーちゃん」

「流石に多すぎだろ。誰にそんなに送るんだ」

 

 チトが一枚選び終えた時にはユーリの手の中にはいっぱいのレターセットがありました。

どう見ても今まであった人以上の数です。

 

「えっとねー私にでしょー。ちーちゃん、✕✕✕✕に女神様にイナリちゃま……それとフランクにつゆくさの皆!あーあと、さっき出会ったウェインにも」

「今まで会った人、全員に送るのか……と言うか自分には送らないでいいだろ」

 

 ユーリの熱意には感心しますが、チトはそれを止めることにしました。

チトは日記を付けている為、文字を書く文章を書くと言うことがいかに大変なことかわかっているからです。

全員分を書き終える事をやり遂げられるかと聞かれれば不安しかないとしか言えません。

 

「なぁ……ユー、悪いこと言わないから」

 

 チトが善意でユーリを止めようとした時です。

 

「あとねー、おじいさんにもいっぱい書くし」

「――」

 

 うへへっと笑いながら告げられた一言でチトと見守っていた青年が固まりました。

ユーリが言うおじいさんと言う人物はチトが知る限り一人しか居ません。

親に捨てられたチトとユーリを拾って育ててくれた人物、その人だけです。

その彼は異世界に居る存在であり、生きているかもわかりません。

手紙を書いて送ったところで届くわけがなかったのです。

 

「あのな……ユー」

 

 青年がどうやって悲しませずに事実を教えようかとしているのを見て、チトが代わりに事実を教えようとしました。

 

「だいじょーぶ、わかってるから」

「……」

 

 しかし、そんな二人の心配を他所にユーリはしまりない顔で笑いながら答えます。

ユーリの言葉には何時ものふざけた調子がありません。

確かに理解しているのだと思われる声に二人は何も言えなくなりました。

 

「これとこれとこれも……」

「あーもうっ、そんな無造作に選ぶな!ただじゃないんだぞ!」

「えーっ」

 

 結局ユーリの考えは分からず、あれもこれもと手に取る彼女を止めるためチトが奔走してその日が終わりました。

 

 

a few days later…

(数日後)

 

 

「うぇー……書き終わらないよ」

「だから言ったのに」

 

 机の上でぐでーとなっているユーリにチトは呆れました。

結局レターセットを大量に買い込んだユーリですが、案の定手紙を書くのに苦戦しています。

 

「ほら……後にしろ。天気がいいから洗濯物干さないと」

「まって……あと少し」

「先行ってるぞ」

「ぐえー」

 

 チトは洗濯物を入れた籠で軽くユーリの頭を叩くと外へと歩いていきました。

 

「うんしょ……できたー!」

 

 しばらくするとユーリの作業も終わり手紙が完成しました。

先ほどまで唸りながら書いていたのが噓のようです。

手紙を封筒に入れると両手で持ち上げ、器用にくるくると回ります。

嬉しさを表現していますが、誰も見ていません。ユーリは気にしません。

 

『ユーー!』

「おわっとっと!」

 

 呑気に踊っていると外から大きな大きな声が聞こえてきました。

その声は恐ろしく地の底から響いてくるような声でユーリはぶるりと体を震わせるのです。

もちろん、そんな風に聞こえたのは家事をさぼってのんびりとしていたユーリだけですが。

 

「いまいくーっ!」

 

 これ以上怒られると晩御飯がなくなるかもしれません。

ユーリは慌てて扉に手を掛け外に飛び出そうとして……思いとどまります。

 

「……」

 

 手に持っていた先ほど書き終わった手紙を持っていることに気づいたからです。

 

「へへ……」

 

 手紙を部屋の隅っこにある、もう使われなくなった古いボロボロのカバンの中に丁寧にいれました。

この手紙が相手に届くことはないでしょう。読まれることもないでしょう。

それでもこの手紙をしたためた彼女はとても満足しました。

そしてぽんぽんとカバン越しに手紙を叩き、今度こそ外へと飛び出すのでした。

 

『遅い!』

『えー……そんなに時間たってないじゃん』

『いや……半分干し終わってるから』

『太陽は沈んでないからよし!』

『時計を見ろ。時計を』

『ちーちゃんは細かいなー』

『お前が大雑把なんだ』

 

 チトはぷんぷん、ユーリはのほほんと……そんな二人を青年が優しく見守ります。

今日も今日とての何時もの日常です。

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