少女牧場物語   作:はごろもんフース

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一年目 -冬の月-(後期)
牛乳


「っ!!」

 

 チトは起きると同時に素早く仕切りを開けた。

 

「あだっ」

 

 起きてから急いで開けたのがいけなかったのだろう。

勢い余って開けるとそのまま床に体を落としてしまった。

床に落ちた痛みを堪え、涙目でチトは床に座り込み辺りを直ぐに見渡す。

何度も中央の机と椅子を見てその奥の暖炉、右側にあるキッチンを見て窓の外を見る。

 

「はぁ……水飲も」

 

 何度も昨日と変わらないことを確認し、夢でなかったことに安堵する。

チトがキッチンに歩く際に昨日見方を教わった時計を見れば、朝の七時を差していた。

青年の話によれば、このくらいの時間帯から大体の人が一日の活動を開始しているらしいが、青年は仕事の関係上彼らよりもっと朝が早いとチトは聞いている。

その話通り、既に青年は働いているらしく家には居なかった。

 

「ふぅ」

 

 キッチンに着くと水を一杯飲み干し、ようやくチトは一息つけた。

怯え過ぎだと言われるかも知れないが、こればかりはしょうがない。

昨日まで家で暮らすなど夢のまた夢だったのだ、慣れるまでは時間が掛かりそうだとチトは溜息をついた。

 

「……ふふ」

 

 溜息を付いた後、もう一杯と蛇口を捻り水を出そうとする。

その時だ。

手に持っている自分専用の青いカップに気付き、少しニヤけ声が漏れる。

今まで必要な物を取捨選択する旅路であった。

しかし、この世界に来て初めて増えた私物であり、嬉しくないわけがない。

自然と笑ってしまうのもいたし方無かった。

これで他人に見られてなかったらチトにとって良い朝で終わっていただろう。

しかしだ。

 

「……ちーちゃん、嬉しそうだねぃ」

「うわっ!」

 

 自分専用のカップを見てニヤニヤしていれば耳元から声が聞こえてチトは驚く。

振り向けば何時の間にか、何時ものフード付きの軍服を着たユーリがニヤニヤと笑い立っていた。

どうやら外に居たらしく、抱きつかれ体から徐々に熱を奪われるのをチトは感じる。

 

「……ユー、珍しく私より早いな」

「誤魔化そうとしても無駄だよ! ちーちゃん!」

「くっ……!」

 

 冷静に冷静にとチトは声が震えないように努め誤魔化そうとするも失敗した。

ユーリは久しぶりにチトに対して優位に保てるのが嬉しいのか、何時もよりしつこい。

体を離し、チトがユーリを見れば何時ものタレ目でありながらも目を輝かせているのが何よりの証拠だ。

 

「ふっふっふ、そんなに嬉しい? このこの」

「うう~……」

 

 カップを両手で持ち耐えれば、ユーリが肘で何度も小突いてくる。

ユーリが調子付く、それでもチトは何も言えない。

嬉しいのは事実であり、ニヤけていた所を見られたチトに出来るのはユーリが飽きるまで耐えるしかなかった。

 

「満足した!」

「ユーが起きてた事を確認すべきだった」

 

 結局打開策を見つける事が出来ず、暫く弄られ続けた。

十分ほどの時間を要し、何とか開放された時には嬉しさなど何処かへ飛んでしまう。

チトは水をもう一杯だけ飲みカップを洗うと荷物に近づき服を着替える。

昨日は二人共に軍服の上だけを羽織った状態で寝ていた為、着替えるのは楽であった。

 

「さっきの話だけど、ユーが起きてるなんて珍しいな」

「あー、××××が起きた音で起きて、そのまま」

 

 着替え終わり、ソファーに座るとユーリが何をしていたのか状況を聞いて見る。

どうやら青年が起きた時間には既に起きていたらしい。

チトは青年から聞いた活動時間を思い返し、ユーリが五時頃から動いてた事を知る。

 

「なるほど、仕事を手伝ってたのか……」

「ううん、雪ダルマ作ってた」

「いや、そこは仕事手伝えよ」

「かまくらも作った」

「なおさら手伝えよ」

 

 約二時間もの間、仕事を手伝ってのかと思えば帰ってきた答えがこれであった。

チトがじと目でユーリを見てしまうのも致し方がない。

唯でさえ、お世話になると言うのに仕事をしている横で遊んでいるのだ。

青年の心労が溜まってなければいいなとチトは思った。

ちなみに窓から外を覗けば、雪ダルマが何個も並んでおり、そのうちのいくつかは壊れているのが見える。

近くに棒らしき物が刺してあるのでチトは、またユーが作って壊したなと呆れた。

 

「だって××××が春になるまでは仕事しなくていいって」

「××××が?」

「うん、何でもいしゃーて人が二人は軽いえいよーよーしゅっちょーと疲労が溜まってるからりょーりょーさせなさいって言ってたらしい」

「えいよーよーしゅっちょー? りょーりょー……」

 

 ユーリの言葉にチトは暫し考え込む。

暫く仕事を手伝わなくてもいい、いしゃー、えいよーよーしゅっちょー、りょーりょー。

四つの単語と自分自身の記憶、知識を総動員させチトは答えを導き出す。

 

「もしかして……医者が軽い栄養失調と疲労が溜まっているから療養させなさいと言ってた?」

「あー……そんな感じだったかも」

「全然違うんだが」

「そうかな?」

「そうだよ。 合ってる箇所の方が少ないよ」

 

 ようやく辿り着いた答えにチトは溜息を付いた。

 

「なら、ユーもあまり動かない方がいいんじゃないか?」

「私は疲労はあんまりだって……むしろ、ちーちゃんの方が重症だってさ」

「……」

 

 チトは自分が重症だと言われて体がむず痒くなる感覚を覚える。

こうして体に異常は無くとも医者に言われれば気にもなると言うもの。

チトは本当に大丈夫なのかと少し自分の体を見渡した。

 

「だから、ちーちゃんは一週間ほど家で過ごすようにって言ってた」

「一週間……確か一日が二十四時間で時計を二週、それを七日過ごして一週間だったか」

「七回寝ないとだね」

「んー……それはいいのだけど、どうやって過ごせばいいんだ」

「ちーちゃんは毎日運転ばっかだったしね」

 

 七日間の間、チトはどう過ごそうかと考える。

今までは毎日が旅であり、移動しての物資確保してと目的があった。

しかし、こうして家を持って旅を終えた今は何を目的にすればいいのかと悩む。

何時もであれば好きな読書で過ごすのだが、此方の世界の文字をまだ覚えておらずチトには読めない。

なら自分達の世界の本をと思うも、燃料として既に燃やしてしまっている。

 

 それならば青年の仕事の手伝いをと思うのだが、それも封じられた。

本格的に何も出来ない事に今まで感じたことの無い気持ちを味わう。

 

「××××が帰ってきたら聞けばいいんじゃない? さっき朝ご飯にしようって言ってたから戻ってくると思うし」

「そうする」

 

 結局この世界に疎く、本格的に暇を潰した事のないチトは青年に質問することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、別の食べ物だね」

「そうだな。 取り合えず……食べよう」

 

 それから青年が朝ご飯を作りに帰って来て、二人はパンとソーセージエッグにサラダと言った朝食を美味しく味わった。

特にソーセージは生まれて初めての肉であり、魚と違った味わいでチトもユーリも気に入る。

最初こそ動物の肉を腸詰めして燻製させた物と言われ、既に口に入れていたチトは固まった。

本の知識で腸とは何かを知っていた為であるも青年が「食べれるように綺麗に処理してから詰めてる」と言えばどうにか納得する。

まぁ、食べてしまえば結局は些細な事であった。

 

 何よりソーセージと目玉焼きの相性がまたいい。

黄身と呼ばれている黄色の部分を潰し、それにソーセージを絡めるとまた違った味になり美味しい。

目玉焼き自体も食パンと呼ばれる焼いた平らなパンに乗せ食べると更に美味かった。

 

「これ……?」

 

 チトがそれと出会ったのはその朝食の時であった。

飲み物として出された白い液体。

見た目からして昨日食べたクリームシチューに似ており、少し警戒しながらも口を付ける。

一口飲み少しの間、チトの動きが止まった。

 

 少しの間、口の中で転がすように味わいごくりと喉を通す。

そして後味の余韻を味わいほっと一息つく。

その後、チトは青年にこの飲み物の正体を聞くまえにもう一口、更に一口と飲み続け透明なコップに入っていた飲み物を飲み干してしまう。

 

(はぁぁぁあ…………昨日のくりーむしちゅーの優しい味の正体はこれだったのか)

 

 昨日の夜に初めてクリームシチューを食べたときと同じく声が漏れる。

そして昨日の夜に気に入った優しい味の正体を理解した。

 

(それにしても何だろう。 何処かで飲んだ覚えがあるような……?)

 

 空になったコップを眺めながらチトは何処で飲んだのだろうと考える。

今まで飲んで来た物を思い返してもこの様な飲み物を飲んだ記憶は出てこなかった。

 

(……なんとなく、ユーに抱きしめられた時を思い出してしまうのは何故だろう)

 

 それでも諦める事無く、思い返せばそれが当て嵌まる。

あれは何時の日か、ユーリが雪ダルマで家族を作り、その関係上で家族の話となった。

その時にユーリと一緒に寝てチトは記憶に無い母親を感じ取った。

あの時の感覚と近いと感じる。

 

「ねぇ、これって……ありがとう」

「私もおかわり!」

 

 チトは思い切って青年に聞いてみることにした。

分からないものは分からないのだ。

コップを両手で持ち、青年に話しかければ二人のコップが空になった事に気付いたのだろう。

机の上に置かれていた透明でコップよりも大きな瓶から二人のコップへと先ほどの白い液体を移した。

 

「みるく……ぎゅうにゅう、母乳」

「あー……うしってさっき見たあの白黒の大きな奴か」

 

 その後、青年は「ミルク気に入った?」と聞いて来る。

チトが欲しかった説明であり、更に詳しくと聞けば答えてくれた。

青年からの説明によると「ミルク、他にも牛乳とか呼ばれてる。 牛って言う生物の母乳を加熱して殺菌処理した物」と言われる。

それを聞いてチトは母乳と言う単語に何故懐かしく感じたのかを悟った。

 

「……」

「言っておくけど……お前のからは出ないからな」

「えー……残念」

 

 チトが感慨深くなっていれば、隣のユーリが無言で自分の胸を持ち上げているのが見える。

折角の余韻が台無しなので無視をしていたかったが、青年がそれを見て顔を赤くして困っていたので突っ込んだ。

ユーリは本気で残念がり、青年は目のやり場に困り、チトは幸せな気持ちを邪魔された。

何とも締まりのない朝食となったがチトは牛乳を気に入り、出来る限り飲める時は飲ませて貰おうと決心した。

 

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