少女牧場物語   作:はごろもんフース

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 美味しく夕食を戴いた後は、青年にどう過ごせばいいのかとチトが尋ねた。

出来れば仕事を手伝いたいと言うチトに青年はかなり悩んでいる様子であった。

病人に無理をさせたくないと言う気持ちをチトもよく理解していたが、何もせず養ってもらうのだけは嫌だ。

一方的に与えられ続けるのだけは絶対に遠慮したいことであった。

 

「好きなこと……読書かな。 こっちの文字を読めないから出来ないけど」

 

 悩んだ青年は、「何が好き?」と苦し紛れに聞いて来る。

それに対してチトは少し悩むも、青年の家に置かれていた本棚を見てから答えた。

その答えに青年は腕を組み、空中をぼーと眺め考え込んでしまう。

 

 チト自身、ここまで考え込まれるとは思わなかった。

適当に掃除やら洗濯などを任せてもらえれば良かったのに何処までもこの青年はお人好しらしい。

暫くの間、青年は考え込んだ後「明日買い物ついでに相談に行ってくる」と言った。

 

「買い物?」

「早い話、物々交換だな。 私達もあったろ、配給」

「あー……札を渡して色々と貰ってた奴?」

「それだ。 こっちでは仕事をすると札の変わりにお金を貰え、品物を売ってくれる人に渡して交換するんだ」

「へー……」

「ちなみに品物によって渡すお金の量も違ってくるぞ」

「……」

「……取り合えずユーは、勝手に建物に入らない。 勝手に物を持ってこない、落ちている物でもだ。 欲しい物があれば私か××××に声をかけろ」

「はーい」

 

 チトは自分の知識と考え、昨日青年から話して貰った話を参考にユーリに忠告する。

その際に間違ってないか青年のほうへと少し視線を向けた。

チトの説明で青年も納得しているのだろう。

青年は間違いないよとばかりにチトに頷いた。

 

(私達の世界と似てくれる箇所が多くて助かるが、やっぱり心配なのはユーだな)

 

 頷いてくれた事にほっとしながらも、チトは思考する。

チトは本の知識により、何とかこの世界についていけていた。

しかし、ユーリに関しては違う。

本の世界を知らず、知識も常識もがあちらの世界基準だ。

今の所、大きな失敗などは無いがそれも時間の問題だろうとチトは溜息をつく。

 

 何せ目の前で能天気にしている少女(ユーリ)は奇数のレーションを分け合った時に最後の一本を食べるため、本気でないといえ此方に銃を向けてくるほどの奇行をするのだ。

あの時は、戦争の話題をだしその延長線で二人にとっては冗談の類ではあった。

しかし、あれはチトだから通じる事であり、チトに接する感覚で他の人にやったら冗談ですまない。

そんなことになればチトもユーリも此処には居られなくなるだろう。

ちなみにその後、本当にユーリがレーションを食べて喧嘩となっている。

 

(……××××の事だから、事を自分で被って収め私達を庇いそうだけど)

 

 チトは其処まで考え、自分達の保護者である青年を見る。

既に買い物に行く事が決まり、のんびりとしている青年はお茶を啜っていた。

たった一日一緒に過ごしただけであるが、チトはそんな彼を理解しつつある。

 

(きっと……私達の事を他人でなく、身内だと思ってそう)

 

 青年のチト達を見る目がおじいさんに似ているのとチトは感じていた。

まだ壁を作ってるチト達に対して、そういう目を向けられる青年を少し羨ましいとチトは思う。

そんな性格になれる環境があり、家族が居ると言うことは本当に素晴らしいことなのだ。

 

「ユー」

「ちーちゃん、なに?」

「出来る限り、私の側を離れるな」 

「がってん!」

 

 ユーリの責任はチトの責任。

流石に青年に責任を被せるのは筋違いでチトが被るものだ。

チトはそう考え、取り合えずどれだけ効くか分からないが釘を刺しておく。

釘を刺せばユーリは椅子から立ち上がり、そのままチトに抱きついて来た。

 

「……何してんの?」

「抱きついてる」

「なんで」

「離れるなって言ったから!」

「そういう意味じゃない!」

 

 真剣に考えた結果であったが、ユーリには伝わったか分からなかった。

嬉しそうに抱きつくユーリにそれに対して怒るチト。

そんな二人を青年はお茶を飲みながらも「本当に仲良しだな」とのんびり見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こんばんは、ハモニカ――』

「「おぉー」」

 

 時間も過ぎお風呂にも入り終わりゆったりと寛ぐ時間帯。

その時間帯にチトとユーリは感嘆の声を漏らした。

好奇心が人一倍のユーリは勿論、いつもは冷静なチトでさえ興味津々で楽しそうだ。

 

「これがてーれびぃ」

「テレビだ。 器用に間違うな」

 

 二人が見ているの箱型の機械には中央に大き目のレンズが嵌っており、中にビシっと服装を決めた銀髪で顔立ちの整った青年が映りこんでいた。

まぁ、早い話がテレビである。

あれからも青年も家に娯楽用品があったかずっと考え込んでいたらしい。

気晴らしに青年がニュース番組を付ければ、二人が反応し「これも娯楽か」と気付く。

 

「おぉ、おぉーー!!」

「うるせえ」

「シュン」

 

 二人の反応が面白く、青年は手元のリモコンで次々に番組を変えていく。

そうすればユーリが楽しげな声を出し、チトがそれを咎めつつも画面から目を離さない。

チトとユーリは此方の世界の文字を読めないが、言葉と意味自体は通じるので楽しめている。

青年は「盲点だった」と自分の専用のカップを飲みながらも小さく呟いた。

 

「ちーちゃん、ちーちゃん」

「……集中してるから、静かにして」

「……」

 

 二人はテレビの前にペタリと座り込み、じっと画面に集中する。

その際にユーリが気になることがあったのかチトに声を掛けた。

しかし、チトは画面に夢中で少し冷たくあしらわれて終わる。

 

「……分かった。 なに?」

「……ちーちゃん、集中してるから静かに」

「……」

 

 そんなチトに対して、ユーリは画面でなくチトを穴が空くぐらい見つめた。

流石のチトも目を閉じて、軽くため息をついた後、話を聞こうとするも丁度画面に料理が映りこみユーリの興味が移ってしまう。

先ほどチト自身がユーリにしたことであり、これには文句も言えない。

ただただ先ほどユーリがしたように今度はチトがじと目でユーリを見るだけだ。

もっともユーリは画面の料理を見て涎を垂らしているのでチトの行為は無駄に終わった。

 

「これってさ」

「うん」

 

 それからも二人は青年からクッションを受取り、それに座り込み観賞を続ける。

 

「動画って奴だよね?」

「……」

 

 流石のチトも説明を受けていないのでユーリの質問に答えられなかった。

チトは、ユーリの質問を受けた後、後ろでのんびりと見守っていた青年へと視線を向ける。

青年はその視線に気付くと「大体はそう。 たまに生放送って言ってリアルタイムで放送する時もあるけど」と答えた。

二人にはリアルタイムと言う単語は分からなかったが、それでも動画だと分かりユーリは納得する。

 

「……ここに映ってる人はまだ生きてる?」

 

 ユーリが画面を指差し青年に聞いてくる。

そんな事を質問されるとは思いもしなかったのだろう。

青年は持っていたカップを空中で停止させ、きょとんとした表情をする。

そのまま視線をユーリとあわせ、少しばかり何かを考えた後「そうだよ。 少し過去の出来事になってしまうから絶対とは言えないけど……」と告げた。

 

「あはは、この世界すげー」

「今更か」

 

 青年の答えにユーリは笑いながら言った。

その事に対してチトは何を今更と呆れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コヒ飲む!」

「……ぎゅうにゅうって飲めない?」

 

 テレビに熱中する二人に青年が「コーヒー入れるけど飲む?」と聞いてきた。

その問いに対してユーリは目を輝かせ、チトは遠慮気味に牛乳を頼む。

 

「……無理?」

 

 青年はそんなチトに対して、少し考え込む。

それを見てチトは貴重な物だったのかなと思い、あまり飲めない品物なのかもと落ち込む。

しかし、チトのそんな思いを裏切り青年は「夜だし……ホットミルクにでもしようか」と誰に言うでもなく呟いた。

 

(ほっとみるく……みるくはぎゅうにゅうの別の名称だった筈、ほっとってなんだろ)

「待ってました。 あちち……」

 

 呟いた言葉を理解しようとチトは考え込んだ。

考え込むもそもそもほっとと言う単語が分からない。

青年はユーリにコーヒーを渡した後、鍋を使い何かをしていた。

それをチトはテレビよりも気になり、見つめる。

 

「……これがほっとみるく?」

 

 見つめていれば鍋に入っていた液体をチト専用のカップに入れて差し出してくる。

それは温かい牛乳であった。

今朝飲んだ牛乳は冷たかったが、今回の牛乳はコーヒーのように熱い。

チトは興味深げにそれを見つめ、何度か息を吹きかけた後飲んでみた。

 

「……」

 

 一口飲んだチトに青年は「美味しい?」と聞いてくる。

 

「……美味しい」

 

 それに対してチトの答えは一口、口に含んだ瞬間決まっていた。

まずい訳が無いのだ。

 

(なんだろ……今朝飲んだぎゅうにゅうよりも甘みが強く感じる。 それに温かくて心が安心する)

 

 両手でカップを持ち、一口一口をチトは丁寧に飲んでいく。

飲むたびにチトの体は内側から温まり、心地よさが押し寄せる。

冷たい牛乳も良かったが、これはこれで好きだとチトはほっと息を付く。

冷たいままでも美味しい、温めても美味しい、クリームシチューにしても美味しい。

もはやチトは万能である牛乳の虜だった。

 

「あ……これって」

「……え?」

 

 その乗り物が出てきたのは偶然であった。

ホットミルクを飲み干し満足していたチトがユーリの声でテレビを見つめる。

それは、とある番組が特集で世界の様々な乗り物を紹介するといった企画であった。

 

 二人が目にした乗り物は変わった乗り物である。

バイクと戦車が合体したような形をしており、前に前輪が着いているのに後ろはキャタピラ構造となっていた。

ユーリはそれを見て、隣のチトへと視線を向ける。

 

「……ケッテンクラート」

 

 ユーリが視線を向ければ、チトはテレビで紹介された乗り物の名前を呟く。

そして、先ほど満足気であったチトが今にも泣き出しそうな表情をした。


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