少女牧場物語   作:はごろもんフース

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叔父

「んー……」

「んー」

 

 深夜木の伐採事件から数時間後、朝食も終えチトとユーリはカタログを前に唸った。

青年も青年でカタログを前に腕を組み、じっと読み進めている。

 

「ちーちゃん」

「分かってる。 そもそも私達に機械の事なんて分からな……」

「文字が読めない」

「……そうだった。 ユーはそれからか」

 

 カタログを真面目に読んでいると思っていたが、実際は分からない文字を一生懸命追っていたらしい。

先ほどの頑張る発言を実際に実行し、間違った頑張り方をしているユーリにチトはしょうがないとため息をつく。

 

「××××……これ、私達だけじゃ無理だと思う」

「うん……文字が読めない時点で戦力外だった」

 

 カタログを持ち、ひらひらとチトがそれを手の変わりに振る。

ユーリもダメだーと言って、そのまま絨毯の上に転がった。

それを見て青年も諦め、溜息をついて目の前のカタログを閉じる。

 

「そうだ……叔父さんに相談しよう」

「おじ?」

「ほら、××××にノウハウを教えてくれた」

「あぁー」

 

 三人集まれば文殊の知恵、チトは早々にそんな提案をした。

そもそも青年は機械を扱えず、これまで無縁の生活をしている。

チトとユーリは元居た世界も違えば暮らしていた環境ですら違う。

この三人で使ったこともない機械のどれを買うかなど決められるわけがなかった。

 

 そこでチトは先ほどの話で出てきた青年の叔父を頼ろうと提案をする。

話の内容が合っていれば、叔父に青年は農具や機械のノウハウを受けていた。

つまり機械を所持しているという事だ。

何より、牧場を経営している年数的に言えばあちらの方が先駆者である。

教えを乞いに行こうとなった。

 

「あっ……待って!」

「どしたの?」

 

 それをチトから聞いた青年は直ぐにマフラーを首に掛けると『行って来る』とカタログを片手に扉を開けた。

そんな青年をチトが呼び止める。

 

「ユーも着替えろ」

「はははは」

 

 チトは青年を呼び止めた後、直ぐに軍服の上着を着込む。

その際に着替えをボーと見ていたユーリを足裏で軽く押せばユーリは転がる。

転がされたユーリは笑いながら自分で少しの間転がり、すくっと立ち上がるとそのままチトと同じように外出する為に着替えた。

 

「私達も行く」

「いくー!」

 

 そして準備を整え、二人は青年と並んだ。

青年は少し考え込むもチトとユーリの言葉に直ぐに頷き、三人で叔父の家に行く事となった。

 

 

 

 

 

 

 

「人が居るね」

「本当に……居たんだ」

 

 チトとユーリが青年の所に住み始めてから一週間。

チトの療養もあり、二人は牧場から出たことがなかった。

今回が女神ちゃま以外で初めての外出である。

 

 あの時は夜という事もあり、人も見かけなかったが日が明るく広場には少ない数だが人が居た。

それを二人して物珍しそうに眺める。

楽観的で好奇心の塊のようなユーリは辺りを楽しそうに見渡す。

 

「お、おい……ユー、そんなにキョロキョロするな。 こっちに視線が集まるだろ」

「ちーちゃんって、寂しがり屋の癖に人苦手だよね」

「うるさい、というよりも相手も同じように思考する生き物なんだ気をつけるのに越した事ないだろ」

「人を信じようよ、ちーちゃん。 信じないと相手から信頼してもらえないよ?」

「……う゛」

 

 ユーリの後ろに隠れながらも他の人を観察しているチトはユーリの発言に言葉を詰まらせる。

確かにユーリの言葉通りであった。

常に警戒している人に対して信頼など出来るわけがない。

 

「警戒ばかりしてたら何も楽しめないし」

「そうなんだけど、うぅ……やっぱり慣れない」

 

 チトはそう告げつつもユーの後ろから出てきて隣に立ち、辺りを不安そうに見渡してはいた。

それでも後ろから出てきた分、一歩前進である。

青年はそれを見て安堵の息をつき、二人を手招きして先を進む事を伝えた。

 

「おぉー……こうなってたのか」

「私はユーに背負われてたから、初めて見る」

「あれ、帰る時は?」

「歩くのに必死で見てる余裕なかったって」

 

 着いて行けば、一つのゲートに辿り着く。

そのゲートは女神ちゃまに会いに行った際に通った場所であった。

あの時は暗く分からなかったが、ゲートは綺麗に作られている。

両端には大きな鈴が付いており、風が通るたびに綺麗な音を奏でた。

柱も赤や青などの模様が付いており、独特な雰囲気を醸し出している。

 

「それで、ここは何処の里?」

「ウェスタウン……ザ・カントリースタイルの里って××××に聞いた覚えが」

「かんとりーすたいるってどんなの?」

「……さぁ、私も見たわけじゃないし」

「役に立たないな」

「あ゛?」

 

 ユーリが聞けば三つの里があり、青年の叔父はウェスタウンに住んでいると聞かされた。

チトが覚えている限りでの知識を口に出すもユーリの質問には答えられない。

ユーリはそれを聞いてボソっと呟くと先を進む。

そんなユーリにチトが出してはいけないような声を出すも意外に手は出さずに後ろを付いていく。

 

 様子を見ていた青年は少しばかり焦ったが、結局二人は何事もなかったように並び会話をしながら歩いている様子を見て溜息をつく。

喧嘩に発展するかと思ったが、あの二人から見ればあの位はじゃれ合いだ。

『まだまだ理解が足りないか』と青年は頭を掻き、先に歩く二人に追いつくべく走った。

 

「ゲートを潜ったからと言っても……景色はそれほど変わらないか」

「自然一杯で牧場と一緒だね」

 

 改めて里に入るも、まだまだ人が住む里までは遠い。

周りが森で囲まれている一本道を三人して歩く。

 

「あっ……家だ」

「本当だ。 開けた場所に出ると雰囲気が変わるな」

「そうだね。 あとさ……なんかいいね」

「ユーの言いたいことも……まぁ、分かる」

「人が住んでると家の雰囲気も変わる物なのかな?」

「そうかも……私達が見てきた家とは違って温かい感じがする」

 

 暫く歩けば、森が途切れ広がった景色が目に入る。

そこまで来れば、人の住んでいるであろう家も何軒も目にすることが出来た。

その家を見てチトとユーリは頬が緩んだ。

 

 二人の旅路では数多い家を見てきた。

見てきた家はどれもコンクリートなどが剥き出してあり、人も住んでいないせいか寂しく感じる。

しかし、ここの里の家は木で作られており、屋根も様々な色に塗られていた。

いかにも人が住んでますと分かる景観に温かさを感じる。

 

「あっ、あれって女神様の泉じゃない?」

「本当だ。 神様居るかな?」

「そう簡単に会えるような存在じゃないだろ」

 

 色んな家を見ながら歩いているとチトが女神ちゃまの泉に気付いた。

チトの指差すほうを見てユーリはそんな事を言いつつ、視線を彷徨わせて探す。

 

「……」

「……」

「……居たね」

「女神様って簡単に会えるものなんだな」

 

 見渡していれば、女神ちゃまは泉の滝裏にある木で作られた足場に座り込み、楽しそうに足をぶらぶらとさせていた。

呆気なく見つかった事にチトとユーリはそれ以上の言葉が出ない。

青年が二人の視線に気付き、女神ちゃまに向かって微笑み手を振った。

そうすれば、女神ちゃまも此方に気づいたのだろう、手を振って答えてくれる。

 

「気安いな。 女神様」

「なんだっけ……えっと、ふ、ふれんどりー?」

「あー……そんな感じかも」

 

 チトとユーリの中で神様に対する価値観が変わった瞬間であった。

取り合えず、先を急ぐので女神ちゃまとの挨拶を終え、先を進んだ。

 

「ここかー……」

「どんな人だろね」

 

 叔父の家は女神ちゃまの泉から近かった。

女神ちゃまの泉から流れる水を橋で渡り、少し歩けばすぐだ。

青年の家と同じような感じの家で動物小屋と家の前に畑がある。

畑と言ってもハーベストムーン牧場よりも小さな畑だ。

自分で食べる分と少しの出荷程度の大きさであり、やはり牧場としての要素の方が大きいのだろう。

 

「こうやって見るとさ」

「なに」

「私達の所って牧場なのか農場なのか」

「……言うな。 むしろ牧場と農場を同時に一人でやってるほうが異常なんだ。 むしろ、これが普通だろう」

 

 極一般的な牧場を見て、ユーリが言葉を零す。

それに対して、チトは溜息をつきつつも『もう驚くのも疲れた』と呟いた。

 

「お……おぉ! ××××じゃないか!」

「大きい」

「こらっ」

 

 そんな二人の言葉が聞こえていない青年は家に近づき、扉を叩こうとして手が空を切る。

扉を叩く前に開いたのだ。

扉が開かれれば、中から一人の中年の男性が出てきた。

男性は最初、扉の前の青年の事を見てきょとんとするも直ぐに笑みへと変わる。

 

「一週間も顔を見せないから心配してたんだぞ」

 

 笑いながらも男性はバンバンと力強く青年の背中を叩く。

青年も『すみません。 いろいろとありまして……』と心配させた事に謝罪し受け入れる。

そんな男性と青年を見て『この人が叔父か』とチトは思った。

 

 青年が顔を出してなかった事が本当に心配だったのだろう。

男性はチトとユーリに気付かず、青年と会話を続けた。

チトはそんな男性を一歩後ろから引いて様子を見る。

 

 男性を初めて見たチトの感想としては似ていないだった。

男性の容姿はがたいが良いせいか、ふくよかな体系をしている。

顔には立派な髭を生やしており、青年みたいな若者よりもザ・牧場主と言った風格を持っていた。

しかし、そんな彼は青年とは容姿がかけ離れており、親戚には見えない。

 

 それでもチトはこの男性を青年の叔父だと判断した。

青年が無事だったことが嬉しく、笑みを浮かべて青年に話しかけている。

そんな彼の笑みが青年と同じなのだ。

 

「お……? そっちの二人は」

「……初めまして、××××のお世話になっている、チトです。 こっちはユーリ」

「二人あわせて~!」

「おぉ……そうか! オレの名はフランク。 ××××の叔父だ」

 

 もう一つチトは青年との共通点を見つける。

此方に気づいた時の不思議そうに首の傾げ時の仕草も青年とそっくりであった。

 

 

 

 

 

 

 

「それで……どういった経緯で?」

「色々とあって旅をして、途中で乗物が壊れ歩き旅をしていたら……食べ物も無くなり力尽き」

「な゛っ……そんな過酷な旅をか?」

「まぁ……うん、そこが丁度××××の家の前で助けられて、行き場が無い事を伝えたらといった感じに」

 

 チトとユーリがフランクに自己紹介をしたあと、長い話になると言うことでフランクの家に三人でお邪魔した。

青年とフランクが隣同士で座り、その対面にチトとユーリが座る。

こういった場合でユーリは役に立たないのでチトが主にフランクと会話をした。

 

「親は……」

「……」

「だよな。 悪い」

「いいよ、元より親の顔なんて分からないし」

 

 フランクの言葉にチトは首を振る。

それに対してフランクが申し訳なさそうに落ち込むもチトとユーリは気にすらしてなかった。

そもそも、チトとユーリは親の顔を知らない。

物心付く前には育て親のおじいさんに拾われており、兄妹が居たのかすら不明だ。

 

「それでお世話になる代わりに牧場のお手伝いをしようと思って、挨拶と機械の扱いについて聞きにきた」

「なるほど……まぁ、××××が機械を扱わないなら問題はないか」

「それほどなんだ」

「それほどなんだよ」

「××××、信用ないね」

 

 フランクが溜息をつけば、チトも溜息をつき、コーヒーを飲んでいたユーリは青年に声をかける。

話題の中心となった青年は頭を掻き、申し訳なさそうに俯いた。

 

「教えるのは構わないぜ」

「ありがとう」

「ありがとー!」

「それにしても……」

 

 二人の境遇を聞いてフランクは少し涙し、機械のことを教える事を承諾してくれた。

その事にチトはほっと安堵していると、何やらフランクがチトとユーリをじっと見つめる。

そんなフランクにチトは少し身を引き、何かあるのかと身構えた。

 

「なに?」

「いや、やっぱり噂はあてにならんなと思ってな」

「うわさー?」

「あぁ……ハーベストムーン牧場に一足早い春が来たって話を聞いたんだが」

「……は?」

「はる?」

 

 フランクの言葉に三者三様な反応を示す。

チトは意味を理解し顔を赤らめ、ユーリは『今冬なのになんで春?』と首を傾げ、青年はコーヒーを吹いた。

 

「はっはっは、噂で『××××が女の子を拾って、その子の世話に夢中だ』とあってな」

「ちーちゃん、何で春?」

「……恋愛を春に例えた言葉。 つまりは彼女や好きな人が出来たから××××はその子に夢中なんだろうと」

「あー……なるほど、××××どうなの?」

 

 ユーリの合ってるのかと言う問いに青年は顔を真っ赤にさせぶんぶんと首を横に振る。

そんな必死に否定する青年にチトはムっと拗ねた。

別段、青年に恋心を抱いているのかと言われればチトは抱いていない。

チトは愛情などは受けたことがあり理解出来る、しかし恋愛の経験はなかった。

故に青年に抱く思いは憧れや頼れる人と言った所で止まっている。

近い例えで言えば『兄』だ。

しかし、こうも必死に否定されると正直チトとしては面白くないと感じた。

 

 逆にユーリはと言えば、『必死だな~』位にしか思っていない。

ユーリは異性に対しての知識が幼児レベルで止まっていた。

母親が子供を生み出す(生み出し方は知らない)というのは知っているが、父親は何のためにいるんだろレベルである。

圧倒的な知識不足により、チト以上に恋や恋愛に対する感情がない。

故に青年に抱くのは、おじいさんに感じていた感情。

簡単に言えば『一緒に居ると楽しいな、安心出来る』と言った本来であれば『親』に対しての感情であった。

 

 ならば青年はと問われれば、こっちもまた『妹』と言った感情だ。

『何より、年齢が……』と青年は机を拭きながら心の中で思い苦笑していた。

そもそもチトは見た目がユーリは言動が幼い。

チトの言動はしっかりとしているものの、身長は百四十五位でマセた少女に見える。

ユーリは言動も行動も子供そのもので、身長はチトよりも高く百六十センチ位あっても幼く見えた。

実際の妹と身長を比較してもチトなどは同じぐらいなので、妹と同い年位と思ってもしょうがない。

 

 しかし、青年は二人の年を大きく勘違いしていた。

青年から見れば二人は十二~十四歳と言った年頃であったが、実際の二人の年齢は青年の予想よりも三、四歳ほど違う。

チトとユーリの世界で満足な食事も教育も取れるわけもなく、チトは年齢のわりに体がユーリは知識面で成長しきっていない。

何より、チトとユーリはずっと冬の季節の世界で旅をしており、空が見えない所を何日も彷徨ったりしている。

その為、チトですら自分達の年齢を把握しておらず、年齢が大事なものとも認識していなかった。

この互いのすれ違いにより、ちょっとした騒動が起きるのだがそれは別の話だ。

 

「あー……だいぶ広まってるな。 他にも『冬眠にでも入ったか?』とか『春に備えて牧場の整備をしているのだろう』とか他にも……」

 

 青年は机を拭き終わり、フランクに何処まで噂が広まっているのかを聞く。

その結果、三つの里でだいぶ噂となっていると知り、青年は顔を赤から青く染めた。

今の状況であれば、住人達は『おめでとう』など言ってくれるかも知れない。

しかし、チトとユーリを紹介した後に同じような反応をしてくれるだろうか?

『絶対ないわー……』と青年は心の中で思う。

 

『え……この子達? ……この子達何歳なの? え? あー……うん、そうなんだ。 大丈夫、何があってもオレは××××の味方だ』

 

 一番親しい友人を思い浮かべ、噂が立ったまま二人を紹介した時を妄想してみる。

脳内で綺麗な歯を見せ付けるような素的な笑顔で応援してくれる友人が簡単に思い浮かんだ。

『うん……まずいな。 まずい、先に二人を会わせる前に誤解を解かないと』と青年は奮起する。

そして、チトとユーリ、フランクに『ちょっと挨拶してくる。 フランク、二人をお願い、夜までには戻るから!』と必死に頼み込む。

そんな青年にユーリは別として、チトとしてはあまり知らない男性の所に置いてかれるのは抵抗があった。

しかし、こうまでお世話になってる人が頭を下げているのを無碍にも出来ず、他の二人同様頷く。

 

 三人の了承を取れれば青年の行動は早い。

素早く扉を開けると風のように全力で走り消えて行った。

 

「あっ……いってらっしゃい」

「はやいな」

「……」

「……」

「なんか、大変そうだね」

「そうだな、取り合えず……機械の操作方法でも教えるか?」

「……お願いします」

「お願いします! チェーンソーを最初に!」

「却下」

「なんで!?」

 

 青年を見送り、チトは即座にユーリの言葉を防ぐ。

チトがユーリに対して頑なにチェーンソーを持たそうとしないのには訳があった。

ユーリは棒があれば拾いあちら此方叩き、チトの頭を叩いたり、物を壊したりと子供の様な凶暴性を出すことがある。

そんな人物にチェーンソーなんかを持たせられる訳がなかった。

ユーリのそう言った過去の出来事のせいでチトから信用されてないのである。

 

「ところで……旅をしている時に乗物がって話があったが」

「うん」

「どんな乗物だったんだ?」

「……」

「あー……」

「一応参考に……な」

 

 そんな会話をしていれば、フランクが声を掛けてくる。

彼の問いに対してチトは、乗物を思い出す。

 

『ちーちゃん、凄いね! 階段も登れるんだ!』

『まぁ……キャタピラ構造だし、旅には向いてるな』

 

『屋根をつけようか?』

『いらん、いらん』

 

『動かないね』

『……何処かの部品が壊れたかな。 絶望だ』

 

『ちーちゃん! アクセル踏み込んで!!』

『わっ! わっー!』

 

『ユーリ! 下がってる、後ろに下がってる!』

『ごめん、間違えた』

 

『ダメだ……エンジンもかからない』

『直せるの……?』

『取り合えず、エンジンから見てみる』

 

『今までありがとう』

 

 自分で運転して、整備して、時には崩れ落ちる場所を駆け抜けて命を繋げてくれる。

ずっと頼りになって、頼りにして、少女二人の足となってくれた。

そんな二人の旅を支えてくれた乗物(相棒)

 

「ケッテンクラート」

「……なるほど、天候に弱いが足にしては最高か。 だいぶ助けられたろ?」

「うん、助かった」

 

 チトは様々な事が脳裏に甦り、複雑な感情を抱きながらも笑みを浮かべ言い切る。

そんなチトにフランクは感情を察したのか、重々しく頷き褒めた。

 

「それにしてもケッテンクラートか……これもまた運命かね」

「どういうこと?」

「運命?」

 

 ケッテンクラートの名を呟き、フランクは腕を組み考え込む。

その際の彼の呟きにユーリとチトは互いに顔を合わせて不思議そうに首を傾げた。

 

「なんだ、知らんのか」

「何が?」

「ケッテンクラートは本来の用途は牽引車だ」

「けんいんしゃ?」

「動かない車とかを最前部や最後部で連結し、動かす車。 要は物を引っ張る車かな」

「へー……」

「まぁ、他にも色々と軍事利用されたがそれも遠い昔の話だ……今のケッテンクラートの役目とは遠い」

 

 フランクはチトも持っていない知識を口にしていく。

そんな彼の言葉にチトは次の言葉を薄々察し、心臓がばくばくと鳴るのを感じる。

早鐘打つ心臓に息苦しさを感じつつも、先を促すようにチトは期待を込めてフランクを見た。

フランクはチトの感情を悟ったのか優しく微笑み、期待しているであろう言葉を続ける。

 

 

「ケッテンクラートは現在――農業や林業で活躍している乗物だ」

「……っ!」

「××××の牧場には最適な乗物だと思ってな」

 

 


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