少女牧場物語   作:はごろもんフース

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哀愁

「んー……」

「ははは、もふもふだ」

「んんー……」

「ヌコはもちもちで良かったけど、犬はふかふかでいいなー」

「ユー……お前も考えろよ」

 

 あれから、話を一旦置きフランクに機械の説明と操作方法を簡単に教わった。

簡単にと言っても種類も多く、チトとユーリが一通り触り終わった頃には日が暮れる。

しかし、困ったことに日が暮れても青年は帰って来ない。

里を廻って誤解を解いているので時間が掛かるのはしょうがなかった。

それでも、青年の叔父とはいえ、フランクはあまり知らない人。

そんな人の家で待たせてもらうと言うのは居心地が悪い。

 

 そんな考えをしているチトを知ってか知らずかフランクは夕飯をご馳走してくれるらしく、チトとユーリを家に上げると嬉しそうにキッチンに立っている。

そんな嬉しそうな彼をチトは、不思議に思いつつも居心地の悪さを昼間に出た話題について考えることで誤魔化すことにした。

考えるのはケッテンクラートの事だ。

テレビを見て、同じ物がある事を知り、あの時チトの心は大きく揺れた。

 

 もっとも、テレビに出ていた値段を知り諦めた。

青年に聞けば、『去年の年収と同じ位』と言われたのだ。

生活に必要な物であれば、この先生きて行くにあたって必要な物であれば、しょうがない。

しかし、ケッテンクラートは違う。

牧場を見れば青年がどれだけ頑張ってきたのか、その一端であるがチトにも理解出来た。

だからこそ、そんな青年の一年を無駄にするような事を言えず諦めたのだ。

 

 しかし、フランクの家でケッテンクラートの必要性が少し出てしまった。

青年の牧場にはピッタリな乗物なのだ、ケッテンクラートは。

牧場の他に農業や林業などを行う青年の牧場に置いて、兼業出来る乗物はありがたい。

 

「まだ考えてるの?」

「だって……一台で済むけど、他の機械を全部買うよりも高いし」

「でも、作業のたびに乗り換えないと行けないじゃん。 あと運転するちーちゃんはケッテンクラートの方が慣れてるし、楽だよね」

「そうだけど……」

 

 ユーリの言葉にチトは目を瞑り、倒れるように額を机に押し付ける。

そしてそのまま唸った。

どちらにも一長一短があり、それが余計にチトの頭を悩ませる。

経済的に言えば、他の機械をとも思うが置き場所など整備の手間を考えると此方も安いとは言えない。

ならばケッテンクラート一択かと思うが、此方は此方で出来ない作業もある。

 

「どうすればいいんだ~」

「素直になってケッテンクラートがいいかもって言えばいいじゃんか」

「うー……乗りたいけどさ、乗りたいけども。 これ以上の恩を受けてどう返せばいい」

「自惚れてるね。 ちーちゃん」

「何処が」

 

 頭を悩ませているチトに対して、ユーリはお気楽だ。

口元に手を当て、ユーリはうふふとチトを笑った。

それにカチンと頭に来てチトが顔をユーリに向ける。

 

「別にちーちゃんの為だけに買うわけじゃないよ? 牧場の為でもあるんだからさ! ちーちゃんはケッテンクラートに乗れて嬉しい、××××は出来る事が増えて嬉しい。 それでいいじゃん」

「う゛」

「考え過ぎだって、楽しく生きようぜ!」

「お気楽過ぎるだろ」

「ちーちゃんが考え過ぎなんだよ」

「いやいや……それだけはないと思う」

 

 あはははっとユーリは笑い、フランクの愛犬のラッキーを撫でまくる。

それを横目に見つつもチトは自分が考え過ぎているのかなとユーリに少し侵食された。

チトは出来る限りで青年に恩を返して行きたいと思っている。

しかし、暮らせば暮らすほど青年への恩は返す所か倍々で増えていくばかり。

 

 機械操作で少しはと思ったが、良く考えれば機械を買い揃えなければいけない。

そして、その機械を買い揃えるのは勿論青年だ。

 

「恩が増えて行く」

「もういいじゃん。 のんびりと返して行こうよ。 お婆ちゃんになるまでさ」

 

 ユーリの言葉にチトは、牧場で三人が年をとっても何も変わらず過ごしている様子を思い浮かべる。

そんな様子を思い浮かべて、チトはそれもいいかもと強く心が惹かれた。

というよりも悩むのに疲れた。

 

「お婆ちゃんか……もうそれでいいか」

「そうだよ。 そうしよう……と言うことで××××もいい?」

「あー……××××、おかえり」

「おかえりい」

 

 チトは疲れ、考えるのを止めてユーリの意見に同意する。

同意すればユーリも頷き玄関先へと声をかけた。

それにチトも反射的に反応し、玄関先で立っていた青年へと声をかける。

その後、顔を机につけ少しの間、机の冷たい感触を堪能する。

 

「……うわぁ」

 

 暫く机を堪能していたチトであったが、自分が出迎えた人物を少しずつ把握し顔が真っ赤に染まった。

そして、ゆっくりゆっくりとチトは顔を机から離し、自分の対面に座った人物の顔を覗き込むように見る。

 

 やはりと言うべきか、チトの対面に座っていたのは青年であった。

いつの間にか帰ってきてたのか、青年は冷えた体を暖めるため、フランクから貰ったお茶に口をつけている。

 

「何時から居たんだ」

 

 チトが何とか振り絞って出した言葉がこれであった。

青年はチトの言葉に少し悩んだ後『だって……一台で済むけどってところから』と答える。

その答えを聞くとチトは上げた頭をまた机に落とし、小さく『……ほぼ最初からじゃん』と呟いた。

 

「それは……」

 

 頭を抱えているチトに青年が『それで……チトはまた乗りたい?』問いかけた。

その問いかけに対して、チトは頭を悩ます。

買いたいでも欲しいでもなく、乗りたいかと尋ねられた。

 

「……乗りたいよ」

 

 チトは目の前のカップを両手で持ち、その中身を見つめた。

少し揺らせば、中のお茶が揺れて波紋を生み出す。

その波紋を見ていれば少しばかり、心が落ち着いた。

 

「乗りたいに決まってる」

 

 落ち着いた心で考えて本心を告げる。

先ほどのユーリとの会話を聞かれていた。

今更隠してもしょうがないとチトは悟ったのだ。

 

「ずっと乗り続けたんだ。 私達のケッテンクラートと違うかも知れないけど……それでも乗りたい」

 

 チトだって分かっている。

今更探しても、追い求めても自分達のケッテンクラートはあそこに置いて来たのだと、今度乗る時のケッテンクラートが違うものだと、寂しく思うもそれでも乗りたいと思った。

そんな思いを聞いた青年は『ケッテンクラートについて教えてくれない?』とチトに聞いてきた。

 

 「えっと、分かった……」

 

 青年の言葉に戸惑いながらもチトは答えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達の乗ってたケッテンクラートは、こんな感じだった」

 

 それから時間も経ち、キッチンからいい匂いが漂ってきた頃になりチトの話が終わる。

話が終わりチトが青年を見れば、青年は目を瞑って腕を組んでいた。

そのせいか表情から感情を読み取る事が出来ない。

 

(心臓が破裂しそうだ……何を言われるんだろ)

 

 チトは自分の胸元をぎゅと手で掴み苦しさを紛らわせようとする。

心臓が早鐘のように鳴り、緊張で汗が顔を伝う。

それでもチトは青年から目を離さず、じっと見つめた。

 

「……あっ」

 

 青年が喋ったのはそれから数分後であった。

目を開けて、天井を暫し眺めた後にチトと目を合わせる。

その時の目がチトの緊張を一瞬で失くした。

青年の目はチトを咎めるような目ではない、ただただ優しいと感じるほどに穏やかだ。

 

「……うん、いい相棒(乗物)だった」

 

 更に青年は『いい乗物だね』と声を掛けてくる。

それに対して、チトは先ほど語ったケッテンクラートを思い出し、微笑んで答えた。

早鐘のように鳴っていた心臓は段々と収まっていく。

 

「ごめん、何年かけても――」

 

 チトを見て青年は同じように微笑み『まぁ、高い買い物になるなー』と呟き軽く息を付く。

そんなことを言う彼にチトは慌てて恩を返していく事を告げようとした。

しかし、チトは青年の言葉で硬直し顔を真っ赤にさせ、俯くことになる。

 

「あぁ……それも聞かれてたんだった」

 

 顔を真っ赤にさせ俯いたチトに言えたのはそれだけであった。

何せ青年に言われた言葉が『頼りにしてる。 恩返しは僕がお爺ちゃんになるまでにでいいよ。 それまで居てくれるんでしょ?』である。

これには恥ずかしいやら、嬉しいやらでチトは何も言えなくなった。

 

「よかったね、ちーちゃん。 これで二年後も三年後も牧場に居られるよ!」

「……いや、それはそれでどうなんだ?」

 

 そんな色んな感情が混じり、困っていたチトにユーリが抱きつきそう言う。

確かに青年の言葉を読み取れば、ずっと居てもいいよとなった。

しかし、ユーリの言葉でチトが疑問に思い突っ込みを入れる。

ユーリの言葉に呆れるがそのお蔭でチトは少し落ち着いた。

 

「はぁ……」

 

 この先、どれだけ働けば恩を返した事になるのかチトには分からない。

しかし、取り合えずだが目先の事が片付き一息つく。

既に衣食住、ケッテンクラートと恩を受けた。

後は返していくだけである。

 

(流石にこれ以上は恩を受ける事は……ないと思いたい)

 

 難しい話が終わったのでユーリがじゃれつき、チトはそれを『はいはい』とあやす。

 

「まぁ……問題は入手できるかだけど」

「お金の問題だけじゃないの?」

「お前なー……テレビで言ってたろ。 珍しい物だって」

「そうだっけか」

「そうだよ」

 

 チトはユーリに抱き疲れつつも気を取り直し、これからの事を話す。

ケッテンクラートを買うのはいいとして問題は入手方法であった。

テレビでも言っていたように高価な上に数が少なく貴重品だ。

青年とチトは腕を組み互いに悩む。

 

「なぁ……もしかして、お前達の買おうとしているケッテンクラートはオリジナルのほうか?」

「え?」

「おりじなる?」

 

 二人で悩んでいれば、キッチンに居たフランクが此方に顔を向けそんな事を言う。

それに対してチトも青年すら分からず、互いに首を傾げフランクを見た。

 

「えっと……これか」

「あっ……」

「おぉー! ケッテンクラートがいっぱいだ!」

 

 フランクはやっぱりかと言った表情になると布巾で手を拭取り、本棚から一冊の本を取り出す。

そしてそれを机の上に広げて、何ページか捲る。

捲られた本を三人で覗けば、そこには数々のケッテンクラートが書かれていた。

見れば、その本は農業器具などを扱うカタログで作業機械の分類にケッテンクラートが載っている。

 

「横で話を聞いてて、まさかと思ったが……あっちを買おうとしてたのか」

「色んな形や色あるね」

「……値段も安いな」

「そりゃ、最近作られた種類の奴だしな」

「最近作られると安いの?」

 

 カタログを覗き、青年とチトは唖然とし事情をよく理解していないユーリは楽しげだ。

そんな三人にフランクが事情を説明していく。

 

「骨董品や古い物に価値を見出す人は何処でもいるからな。 ケッテンクラートもそうだ。 テレビで紹介されたのは初期に作られたオリジナルだな」

「使えなくても?」

「使えなくても……買うならこっちを買う方がいいぞ。 性能もいいのが多い。 おすすめはレジャーランドカンパニーの所の最新機種だ」

 

 フランクが一台のケッテンクラートを指差し、チト達に勧めてくる。

それを見て、聞いて首を傾げたのは青年だ。

チトが『どうしたのか』と聞けばフランクの言った『レジャーランドカンパニー』と言う会社の事らしい。

 

「あぁ……あそこは名前の通りにレジャーランドの建設や経営に関しての会社だからな」

「れじゃーらんど?」

 

 説明をフランクが始めれば、今度はユーリが首を傾げてしまう。

そんなユーリに青年が『お金は掛かるけど、面白い遊び道具がいっぱいある施設』と微笑んだ。

 

「あー……遊園地って奴か」

「ちーちゃん、知ってたの?」

「本で読んだ事はあった。 縁のない施設だと思ってたから言わなかったけど……」

 

 そんな二人の会話にフランクは不憫だと思ったのか悲しげに、青年は『旅行は遊園地かなー』と呟く。

 

「っと……話を戻すが、レジャーランドカンパニーなんだが最近になって農機具などの機械産業にも進出してきててな。 何でも女社長の旦那が牧場主らしい」

「旦那の仕事を手伝う為……かな?」

「多分な。 しかし、元々レジャーランド建設をしてきた会社なだけあって機械の出来はかなりいい。 好きなカスタムも出来るし考えても損はない」

 

 それを聞いてチトも真剣にカタログに載っている箇所を読んでいく。

確かにフランクの言うとおり、見た目もオリジナルと差異がない。

何よりも馬力や性能が段違いに上がっている。

値段も安く、此方を買うとなれば他の機材同等の値段で青年の負担にもなりにくい。

 

「うん……いいかも」

「まぁ……買うにしても実物を見て、試しに乗ってみるといい」

「出来るの?」

「春に牧農祭と言った祭りがある。 牧場主と農場主達が集まって開く大きな祭りでコンテストや要らなくなった機材を売ったりする」

「そこにケッテンクラートも?」

「大きな祭りだからな。 色んな会社が買ってもらおうとアピールしに来る。 そこで乗せてもらえる筈だ」

 

 チトが載っていた品物に満足し、頷けばフランクから更にアドバイスを貰えた。

そのアドバイスはありがたく、チトが青年に『どうだろう?』と言った視線を向ければ青年もまた頷いてくれる。

それにより、別の機械もその時にしようと決まった。

 

「お祭り?」

「んー……神様を祀ったり、豊作・健康などを祈願または感謝したりするための行事だった気が」

「ふーん」

「……ユー、やっぱりお前も本を読め。 分からないことが多すぎる」

「やだ」

「まったく」

 

 一言、一言喋るたびに疑問が思い浮かぶユーリにチトが呆れつつ進めた。

しかし、分かっていた事であったがユーリは間もおかずに答えて机にべったりとくっ付き拒否する。

そんなユーリにフランクも苦笑し、夕飯の準備をするためにキッチンへと戻った。

 

「××××、このケッテンクラートだけど……」

「ふんふふ~♪ ゆーはん、ばんごはーん♪」

 

 結局チトはユーリの事を諦め、青年とカタログを見合って購入するケッテンクラートを選んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー……」

「まだ悩んでるの?」

「悩むって……前よりも安くなったとはいえ、まだまだ高い品物なんだ。 悩むだろ」

 

 あれから晩御飯をご馳走になり、三人はフランクにお礼を言って家に帰って来た。

家に帰って来ると青年にお風呂に放り込まれる。

チトが家主の青年からと抗議するも『病人に口なし』と冷えた体を温めるように言われ、結局は青年に押し切られてチトとユーリが先にお風呂を頂く事となった。

 

 お風呂から上がれば、今度は青年がお風呂と向かい、ユーリはお風呂上りの楽しみと言わんばかりにキッチンでコーヒーを作る。

他の知識は身に付けようとしないユーリであったが、食事関係に関しては貪欲であった。

どんな物が美味しいのか、手軽に作れる料理などの手順を一通り覚えている。

これに関してだけは、チト以上の知識の多さと馴染みっぷりだ。

現に朝食と夜のコーヒー作り等は青年に代わり、ユーリが作っている。

チトはユーリが『何時でも好きな時に食べれるように覚えているんだろう』と決め付けていた。

ありがたい事には変わりはないので、何も言わないが。

 

「はい、ちーちゃん」

「ん、ありがと」

 

 チトがソファーに座り込んでカタログを見ていれば、ユーリにカップを渡された。

それをチトは受け取り、何度か息を吹きかけ一口口に入れる。

中身はチトの好きなホットミルクでチトは飲んで、ほっと安堵の息を吐いた。

 

「××××のもあるよー」

 

 チトが楽しんでいれば、青年も風呂から上がって来た。

既にパジャマに着替えており、濡れた髪の毛をガシガシと適当に拭取っている。

何だかんだユーリでさえ、髪の毛を丁寧に拭くので『これが男性か』とチトは青年を見てそんな事を思った。

 

「うん?」

「んー……」

 

 青年がユーリにお礼を言って机に向かった後、チトはカタログへと目を戻す。

戻した際に青年が『明後日、三人でつゆくさの里に買い物に行くから』と何気なく伝えられる。

その事にチトはカタログから目を離し、振り返って青年へと視線を移す。

丁度、その際に視界にユーリが入り、彼女もまた不思議そうに青年を見て首を傾げていた。

 

「買い物……何か買うの?」

「服……そういえば、これしか持ってなかったな。 さすがに軍服だけじゃ、目立つか……」

 

 不思議に思いユーリが聞けば、青年は『二人の洋服を買いに行く』と告げる。

言われて見て気づいたが、チトとユーリは代えの服をあまり持っていない。

下着もそうだし、あの世界だ……洗濯出来ることが稀であり、そう言う習慣もなかった。

しかし、チトもユーリも汚れたままよりも綺麗なままの方が好き。

なるべく毎日洗濯し、綺麗な服や下着を代えはしている。

最近では青年が大変だと言って自分のシャツなどをくれているが、それは間に合わせ程度。

此方の世界で暮らしていくなら、他の服も必要である。

 

「そういえば……三つの里ってどう違うの?」

「私も知りたい」

 

 チトが自分の姿を鑑みていれば、ユーリが青年の前の席に座りそう聞いた。

それに対して、説明をあまり受けていない事にチトも気付きソファーから離れ、ユーリの隣へと移動する。

 

 チトが席に着けば、青年は改めて三つの里の違いについて説明を始めた。

最初に説明をされたのが『ウェスタウン』である。

今回は町まで行かなかったのでチト達は見れなかったが、家の外観などは青年の家やフランクの家と変わらないらしい。

他にも汽車が通ってたり、他の里への移動が馬車であったりと昔ながらの良さを再現しているとのこと。

 

 次に説明を受けたのが、『つゆくさの里』。

和を基調とし、落ち着いた雰囲気の里であり、ゆったりと寛げる。

此方の移動手段は、人力車と呼ばれる物で人が引いて進む車のようなもの。

服装も和服と呼ばれる物で主に絹織物を使用して作られている。

他の里にはない独特の雰囲気を持った里だ。

 

 最後は『ルルココ村』。

他の里とは違い、此方には四季がない。

年中常夏の場所であり、海に面している為、観光地としては一番人気だ。

何より、他の場所と違い日常と一線を引き楽しめる魅力もある。

泊まるならつゆくさ里、日常から解き離れたいならルルココ村、のんびりと楽しむならウェスタウンだ。

 

「へー……海、ルルココ村行きたい!」

「私はつゆくさの里が気になる」

 

 青年が話を終えれば、二人が互いに行って見たい里を告げた。

魚などに興味を示すユーリは、ルルココ村。

落ち着いた雰囲気などが好きなチトは、つゆくさの里を選ぶ。

 

「他に違いってある?」

「挨拶が違う?」

 

 ユーリが聞けば、青年は少し悩み『挨拶が違うかな』と答えた。

その事にチトとユーリが聞いて見れば、青年は『試しにしてみる?』と聞いて来る。

 

「そうだな。 覚えておいた方がいいかも」

「どうやるの?」

 

 この先、必要となってくる事項なだけにチトもユーリも青年の提案に頷く。

青年は二人を立たせると、自分も立ち、互いに面向かうようにする。

そして、『最初はルルココ村』と言って青年が片方の手を前に突き出し『ハロンガ』と言った。

 

「はろんが?」

「挨拶の言葉なのか……」

 

 青年の言った言葉の『ハロンガ』が気になり聞けば、挨拶で交わす言葉と返される。

先ほどの片方の手を前に突き出すと同時にハロンガと挨拶。

それがルルココ村の挨拶の方法だ。

 

「何か普通だね」

「確かに普通かもな」

 

 次に教わったのは『つゆくさの里』の挨拶の方法。

片方の手の甲の上にもう片方の掌を合わせ、腰を折って頭を下げる。

先ほどのルルココ村と違い、派手さなどはないが余裕のある丁寧さに一種の美しさを感じた。

 

「どうしたのー?」

「?」

 

 最後にウェスタウンの挨拶となった時だ。

先ほどのきびきびと教えていた青年の動きが止まった。

何やら、顔を赤くし頬を指で掻いて『これはどうしよう』と少々困った様子である。

それに不思議に思い、チトとユーリは互いに顔を見合わせて、青年へと問いかけた。

 

「はぐ?」

「はぐ……あっ、そういうことか」

「ちーちゃん、今ので分かったの?」

「まぁ……うん、分かった。 そっか……ハグか」

 

 問いかけてみれば、青年は顔を赤くし困ったように『挨拶の方法がハグなんだよね』と答える。

ユーリはハグと言われてもピンと来ないのだろう、不思議そうに首を傾げるのみ。

逆に様々な本を読み意味を知っていたチトは青年同様に顔を少し赤くし視線を逸らす。

 

「んー……どういったの?」

「……二人でする感じかな」

「なら……分かってるちーちゃんと××××でしてみてよ」

「それはー……」

「ちーちゃん?」

「う゛ー……分かった」

 

 ユーリの言葉に少し抵抗するも結局チトは溜息を付きつつも実際にやってみる事にした。

恥ずかしいことであるが、ウェスタウンの挨拶の方法では仕方がない。

この先、ずっとウェスタウンに行かないと言う訳にもいかないのだ。

 

 チトは意を決して両手を開き、受け入れる体制を取る。

ここで有耶無耶にしたら、ユーリがどういった行動に出るか分からない。

しっかりとここで教えていた方が、のちのち良いだろうとチトは思った。

 

「おぉー」

(うわぁ……)

 

 両手を広げて待っていれば、青年がチトのやせ我慢に対して苦笑しつつハグをする。

互いに抱き合い、顔が触れるか触れないか程度まで近づかせ、背中を軽く叩き合う。

幸い青年はお風呂上りだった為、匂いなどは石鹸の香りで問題はない。

しかし、異性の男性に抱きしめられた事などないチトは体温と息遣いを感じただけで一杯一杯となった。

 

 ユーリとは違う。

柔らかい感触でなく、硬い筋肉質の触れ心地。

短い時間であるが、互いに抱き合えばチトはそれだけで顔を真っ赤にさせ恥ずかしくなる。

しかし、何処となく嫌ではなかった。

 

「ちーちゃん、顔真っ赤」

「……うるさい」

 

 互いに体を離しあえば、チトの真っ赤な顔を見てユーリが腹を抱えて笑う。

そんなユーリにチトは噛み付き、ユーリの背後に回ると背中を押す。

 

「おっとっと」

「お前もやれよ」

 

 一人だけ蚊帳の外で笑っているユーリにチトが提案する。

正直な話、順応が早いユーリのことだ。

恥ずかしがる事はないだろうが、それでもユーリもやらなければチトは納得出来ない。

 

「ばっちこ~い」

「はぁ……」

 

 チトに促されユーリは同じように両手を広げると楽しげに笑い青年を迎える。

そんな余裕のある態度にやっぱりかとチトは溜息をついた。

 

「……」

「ユー?」

 

 しかし、ユーリの反応はチトが考えていたものと違った。

ぎゅっと青年が抱きしめれば、ユーリは動きをピタっと止め動かなくなる。

顔も楽しいとか恥ずかしいとかでなく、何を考えているか分からない表情となった。

チトが声を掛けても喋らず、青年が離れようとすれば青年の背中に回された手がぎゅっと掴み阻止する。

 

 暫くの間、チトも青年も黙り込み異様な雰囲気の中で停止した。

時が動いたのは全員が黙り込み数分経った時だ。

 

「……はっ! 考え事してた」

「ユー……お前な」

 

 はたっと自分が固まっていた事に気付き、ユーリが再起動をする。

青年から手を離し開放してそんな事をのたまうユーリにチトは今日何度目か分からないため息を付き呆れた。

 

「まったく」

「えへへー」

 

 チトがじと目で見れば、ユーリは軽く照れて頭を掻いて誤魔化す。

何を考えていたのかユーリに聞こうとチトがした時、青年が欠伸をした。

その事にチトが気付き、時計を見れば既に十時を回っており、朝の早い青年からすれば寝る時間である。

結局、ユーリに聞くのを止めてチト達も寝る準備へと時間を回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ユー」

「なに? ちーちゃん」

 

 歯磨きを終え、布団に入り電気を消す。

そうすれば真っ暗闇となるも、すぐに目が慣れてぼんやりとユーリの顔が見えた。

何時もなら直ぐに眠るユーリであるが、この日だけはまだ眠たくないらしい。

試しに呼びかけてみれば、ユーリも答えた。

丁度いいのでチトは先ほどの件を聞いて見ることにする。

 

「さっきは何を考えてたの?」

「んー……」

 

 聞いて見れば、ユーリは声を出し考え込んだ。

 

「××××に抱きしめられた時さ」

「うん」

「胸がぎゅーと痛くなったんだ」

「胸が?」

「そそ……胸が痛くなって、涙が出そうになって」

「……嫌だった?」

 

 答えたユーリにチトが聞いて見れば、顔をふるふると横に振られて否定される。

 

「なんだろ……あれだ。 懐かしいって感じがした」

「懐かしい……か」

「何でだろうね? ××××とは一週間前に会ったばっかりだし、抱きしめられた事もないのに」

「……」

 

 不思議そうにそれで居て寂しそうな表情でユーリが呟く。

そんな彼女にチトは何となく答えが分かった。

 

「ユーはさ……」

「……うん」

「……」

「……」

「ごめん、やっぱり何でもない」

「……そっか、ちーちゃん」

「なに?」

「抱きしめて寝てもいい?」

「……いいよ」

 

 チトが少し間を開けて許可すれば、ユーリの手がするすると伸びてきてチトを抱きしめる。

チトは抱きしめられた後、そのままされるがままとなった。

 

(私も……恥ずかしかったけど、そんなに嫌じゃなかった。 ユーもきっと同じ気持ちだったんだろうな)

 

 そんなことを思いチトもユーリの背中に手を回し、ぎゅっと握る。

そうすれば、ユーリも抱きしめた手に力を入れて互いに離さないようにし合う。

そして、互いに青年に抱きしめられた際に思い出した人物を思いつつ、チトもユーリも眠りについた。




《ははは、もふもふだ》
フランクの愛犬、ラッキーのことである。
ちなみに犬はフレンチブルが好きです。

《ケッテンクラート》
この世界では量産されて、出回っているようだ。
様々なカラーリングに形も少しばかり違った物も多い。
アタッチメントも豊富である。

《もういいじゃん。 のんびりと返して行こうよ。 お婆ちゃんになるまでさ》
別に告白ではない。

《あー……××××、おかえり》
実はずっとスタンバってました!

《何時から居たんだ》
この世界に来て赤面ばっかりのチトであった。
クールな彼女を見れるのは何時になるのだろう?

《乗りたいに決まってる》
もしも、これが買いたい?欲しい?の類であったら拒否をしていた。
あくまで乗りたいかと尋ねられたことにより、チトの負担も減った。
青年が狙ってやったかは定かではない。

《恩は僕がお爺ちゃんになるまでにでいいよ》
別に告白ではない。

《流石にこれ以上は恩を受ける事は……ないと思いたい》
フラグである。

《レジャーランドカンパニー》
どうやら女社長はシュガー村の牧場主と結婚したらしい。
時折、手に付けている指輪を見て嬉しそうにデレデレしている女社長も見れるとか……

《旅行は遊園地かなー》
牧場の経営で休みを取るのは大変だ。
きっとフランクなどに一日だけ頼むのだろう。

《牧農祭》
オリジナルの設定である。

《ユーリが作っている》
正直、キッチンに合うのはチトのほう。
しかし、食に貪欲なのはユーリである。

《ホットミルクでチトは飲んで、ほっと安堵の息を吐いた》
別にダジャレではない。
……本当だよ?

《挨拶が違う?》
不満点があるとすれば、挨拶が一回限りであることである。
ハグをして回りたかった……特にウェスタウンのイケメン君と。

《ハグハグチト》
(。>∧<。)←こんな顔を思い浮かべれば良い

《「抱きしめて寝てもいい?」「……いいよ」》
尊い
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