原作キャラは一切出ません。
リハビリがてらに以前から温めていたネタを投稿します。
予約投稿をしようとするとエラーを何度か吐かれたので、正直に直接あげます。
21世紀の半ば、人類は様々な問題を抱えつつも確かに未来に対して希望を抱いていた。
当時は二度の世界大戦の傷も半ば過去のものとなり、宗教や経済的格差によって発生する紛争こそあれど、多くの……先進国の人間にとってはそれらはすべて沿岸の火事でしかなかった。
人工知能を始めとした革新的な技術の開発が盛んに行われ、ニュースでひっきりなしにそれらの情報を見ていた人々は「今は問題が多いが、将来は明るい」と考えていたことだろう。
……そして、それらの期待は何もかもが外れになった。
人類の未来は明るく等なかったのだ。むしろその逆だ。
限りなくおぞましく、どす黒く、救いがたい醜態を晒す事になる。
これは腐敗した世界の一つの短編。
自らの世界を食いつぶした知性のあるイナゴが恥知らずにもその欲望の矛先を何の関係もない者らに向けるお話。
夢の死。理想の死。正義の終焉。汚濁とヘドロで紡ぎあげられた最悪の一線のお話だ。
2138年。
新・東京アーコロジー地区。スラム。
人権と憲法による命の順守が過去のものとなった世界ではよくある日常がそこではおきていた。
そこは地獄であった。
多くの人々が涙を零し、わき目もふらずに逃げ回っている。
悲鳴が上がり、青白い閃光が迸る度にレアに焼かれた巨大なステーキや、かつては人間であった水たまりが作り出される。
子を守る様に抱きしめたまま強力なプラズマ兵器によって我が子諸共炭に作り変えられる母子。
既に果てた親の身体を揺さぶり何度も呼びかける幼子。
共に逃げるために走っていた恋人をバラバラに粉砕され呆然とする女。
虐殺がここでは起こっている。
最新鋭の強化外骨格アーマーで武装した兵士達は同じ人間が相手だというのに全く躊躇いを見せずに淡々と殺している。
引き金を引くだけで殺人に特化され、チューニングされたプラズマ銃が収束された数億度の光を吐き出し標的になった人間をぐずぐずのスープへと変えていく。
兵士たちの機械と接続され暗闇の中でも対応させられた眼には全てが映っている。
夜の暗闇の中、更には有害物質のたっぷりとしみこんだ黒い雨が降っていようと、無様にボロボロの……国の規定を満たさない“スーツ”を着て何とか逃げようとする者達の姿が。
放射能を始めとした汚染物質から健康を守るための“スーツ”の着用は企業連合が定めた法に記されている。
企業の定めた基準に満たないソレの着用は違法であり、犯罪であり、一定の罰金を払うか、刑事的な罰則が処される。
そして彼らには罰金を払う能力はない。故に犯罪であり、犯罪者だ。
犯罪者は企業連合の崇高なる経済活動を阻害する悪である。
故に現場判断での処罰は許可されており、兵士達の行動は至って2138年の日本においては常識的な行動であった。
引き金が引かれ、プラズマが発射。更に4人分の人間であったものが生産される。
大人が二人。
子供が一人。
赤子が一人。
一世帯分の命を奪いながら兵士達は何の感情も抱かない。
彼らにとって犯罪者というのは人間ではない。人に似た「もどき」を駆除した所で何も思う事はない。
『セクター・クリア。犯罪者たちへの対処が完了』
『了解。局長がそちらに向かわれる。残党を処理した後、サンプル回収を実行せよ』
『了解』
奇声をあげて飛び掛かってきた男の首を片手で掴み上げながら兵士は黙々と本部と通信を続行する。
周囲では同じようにいっそ殺される位ならばと蛮勇を発揮した愚者たちが次々とプラズマの餌食になっていた。
ナノマシンと強化アーマーで補強された身体能力は彼の主観で“少し”だけ力を込めれば、哀れな犯罪者の首を握りつぶす事が可能だった。
首を薄く引き伸ばされた死体が痙攣し、それはゴミの様に投げ捨てられた。
兵士には犯罪者に対する感情など何もなかったが、さすがに自らの手にこびりついた肉と骨と血については汚いと思う念はあったらしく、黒い雨に掌を差し出して洗い流す。
空では轟音を響かせながら雨夜を切り裂き何機ものドローン・ガンシップがサーチライトを周囲に走らせ、逃亡者たちを執拗に追い掛け回している。
もう間もなく頃合いだろう。見せしめの為の殺戮は終わり、後は戦意を喪失した者らを一か所に集めるだけ。
『局長が到着なされた。総員、予定通りに行動せよ』
周囲に無数の護衛を浮かばせた巨大な円形の輸送ヘリの姿を認めた兵士達はそこら中に散らばる人であった残骸を踏みにじりながら予め脳内に打ち込まれた指令コードに従って行動を開始する。
誰も彼も今自分が何を行ったかなど考えもしない。そんな不要な感情など彼らには存在しない。
幾ら外見が子供であろうと、乳飲み子の領域を出てさえいない赤子であろうと、企業にとって益にならなければ人間として扱われないのが今の日本の……世界の常識だ。
人権? 憲法? 国民主権?
そんなものは半世紀も前に廃れた遺物であり、国民から義務教育が失われた時点でその名を知っている者さえも多くはない。
唯一あの時代から残っているのは労働の義務だけだ。
そもそも既に日本は実質的には独立国家ではなくなった。
隣国が世界最大の超国家となり、それに服従するか滅ぼされるか道がなくなった瞬間、当時の政治家たちは服従を選び天皇を差し出した瞬間から。
働け。
企業に奉仕しろ。
経済の為に生きろ。
利益の為に産まれろ。
それが出来ないモノは害悪だ。存在する価値はない。
富は全てに優先される。命など無意味だ。
これこそが世界の常識であり、人類が数千年をかけてたどり着いた真理であった。
後に残るのは炎と残骸と死だけ。遠くから微かに聞こえていた悲鳴と懇願もやがては雨音に呑まれてなくなった。
人が動かすよりも精確に飛翔する大型のドローン・シップの中はとても快適である。
揺れは殆どなく、最新鋭の核融合エンジンが生み出すパワーは室内を最適な環境に作り変える生命維持装置を問題なく稼動させていた。
特殊な軍事用の合金の装甲は例え戦術規模の攻撃が直撃したとしても内部の人員の命を守り抜くだけの堅牢さを有しており、この船を空中の指令室へと作り変えることさえ出来た。
そんな中の自室で「局長」は目の前の通信機に目をやった。
青白い幽霊の様な様相の部下がそこに投影され、それは彼に対して淡々と報告を行う。
『全て順調です。「もどき」の駆除は終了。
捕獲したサンプルの数は計画通り100“匹”です』
部下の被るフルフェイスのヘルメットに表情は存在しない。まるで真っ黒な卵の殻を頭にかぶった様だった。
直接相対した相手の顔を映し出せる程にピカピカのソレは全ての企業連合の兵士達から外見的な人間性を奪っていた。
だがそれに答える「局長」に比べれば、この無機質な無貌のヘルメットはとても愛らしいマスコットになるだろう。
「判った。もう間もなくそちらに到着する。素晴らしい。予定よりも物事は効率的に進んでいるな」
『ありがとうございます』
男……「局長」の顔は人間ではなかった。少なくともまっとうな人間では。
その皮膚はがびがびで何千年も放置されたミイラの様であり、浮き出た血管だけが鼓動を刻んでいる。
眼は窪み、眼窩の奥で輝く瞳は生物の眼球ではなく巧妙に再現された機械のカメラだ。
口を開く度に唇の端は大きく裂け、耳元あたりまでがぱっかりと開く。
頭部に毛髪はなく、くしゃくしゃの全ての水分を失った果物の皮のような頭皮があるだけ。
何百年か昔に流行ったサブカルチャーに登場するアンデッドの様な姿だが、彼は生きていた。
それどころか、誰よりも強い生命力を持っている……。
部下が外骨格強化アーマーとヘルメットであらゆる汚染物質と外敵から身を守る中、彼が着こむのは上質なスーツと革のコート、そして紳士ハット。
胸元にはしっかりと黒いネクタイを結び付け、手にも革の手袋だ。
局長が外を見れば、窓には無数の黒い雨が叩きつけられている。
150年も前からこうなる事が判っていた筈なのに、誰も彼もが次世代に託す等という綺麗ごとで先送りにした結果、どうしようもなくなった世界の象徴の雨が。
しかし彼にとってはそんな先人の愚行などどうでもいい。
大事なのは今だ。
彼は企業連合に属しており、企業の作る秩序の維持と、新たなる発展の為に全てを捧げている男だ。
ドン、という音が響くと同時に彼は立ち上がり、ハットの位置を調整する。
シップが目的地に着陸したのだ。仕事の時間の始まりである。
『失礼します。目的地に到着しました』
「判っている」
扉を開け通路に出れば直ぐに部下が報告してくる。
それに簡潔に答えながら彼は複数の護衛を引き連れて生身のまま汚染物質の雨の中に身を晒した。
今宵の雨は普段よりも放射線の濃度が高かった。
そればかりか何百年も垂れ流しにされたメタン類、硫黄、微粒子、放射能、その他あらゆる有害物質が局長に降りかかるが、彼は全く問題なく動く。
普通の人間ならば5分ももたない極限環境であるが、彼は普通ではないのだ。
彼が部下に先導され歩を進めれば、やがてこの薄汚い無数のスクラップを寄せ集めたスラム中の広間だ。
そこに集められたのはスーツを着込んではいるが、平均的で比較的スラムに生活している分には健康的な10代後半から20代前半の男女たちだ。
円形に囲まれた彼らは突如現れた局長を見て息を呑んだ。恐怖を感じたのだ。
それを感じ取った局長は機械の様な冷徹な思考の中で満足を覚えた。
彼は自分のおぞましい風貌が他者にどう映るか知っており、それを道具として活用している。
恐怖は秩序の維持のために必要不可欠なものだ。
特にこの日本では。その為に彼は象徴として存在している。
暴力と死の予感こそがこのいやしい塵どもに対する最高の抑止力となる。
局長が耳元辺りまで裂けかけた口を開いた。
そこから発せられた声は外見は想像できない程に艶やかで魅力的なものだった。
「こんばんは皆さん。法に則り、皆さんの身柄を拘束させてもらいます。
抵抗は無意味です……もしもその様な行為を行ったら全員にとって喜ばしくない事になります」
局長の言葉を合図とし、兵士達が銃を構える。
今晩だけでも何百人もの命を奪った銃口からは新鮮なプラズマの匂いがした。
何人かの引きつり押し殺した悲鳴が上がったが、直ぐに雨音にかき消される。
人々に抵抗の意思は認められない。
まるで殺処分を待つ子犬の様だった。
完全にこの場に脅威がないのを確認した局長は部下に声をかける。
「輸送用の車両に乗せて連れていけ。
これで暫くはモルモットの数合わせには困らないだろう」
返答した部下が「もどき」共を連れていく光景を局長は一瞥し、直ぐに踵を返す。
これからの彼らの命は企業連合が所有することになる。
新しい薬物や商品の実験、富裕層の娯楽の為に彼らは使い潰され、死ぬか、それよりひどい事になる。
日本では人身売買は違法である。人間の売買など人権に反する。
だが彼らは法を犯し企業の害悪となった「もどき」であり、人間ではないので違法には当たらない。
税金を払わない。耐久性に問題のあるスーツを着ている、富裕層の気まぐれ、それだけで命などあっという間に散らされる。
彼らは死人だ。通り過ぎていく亡霊に過ぎない。
20年、30年必死に生きてきた彼らの最後は心身ともに弄ばれゴミの様にその無価値な命を経済に捧げて散るのだ。
局長はあの連行されていく「もどき」たちに対して気を留めてはいなかった。
その中にまだ10代前半程度の子供がいようと、彼はちらとも見ない。
彼が見たのは自らの仕事の邪魔になる存在だ。
白い車体に黒い線の入った車が気が付けば複数台走り寄って来る。
局長は一瞬だけ顔にうんざりとした感情を浮かべたが、相手が「人間」であることも相まって直ぐに笑顔に切り替える。
150年前から続くおなじみのサイレンと共に瞬く間に展開されるのは局長が率いる黒いアーマーの部隊とは真逆の純白のアーマーの集団。
彼らは警察の機動隊だ。
既にかつての治安維持と市民の守護という役割は形骸化しているが、それでもまだ天下り先として残されている組織だ。
その先頭に立ち彼らを指揮する男に局長はにこやかに語り掛ける。
「こんばんは警視。こんな夜更けにどうしたのです?
夜勤はお辛いでしょう。そもそも何故あなたが現場に?」
ふふふ、と世辞を飛ばす局長に警視は純白のスーツの下でカメラを操作し、連行されようとする「もどき」たちに視線を向ける。
彼の眼に入り込んだのは怯える人々。顔が見えなくとも全員委縮し、震えているのがはっきりとわかる。
もしもあの輸送車にモノの様に押し込まれ扉が閉められればそれで彼らの命は終わりだという事を警視は認識していた。
「局長。彼らをどうするつもりです? どこに連れていくおつもりで」
「私の仕事の一つは治安を維持することです。
当然法を破った彼らにはしかるべき“処分”を受けてもらいます」
「それは私の仕事です。ご協力ありがとうございます、ここからは自分たちが引き継ぎます」
警視の視界の端では局長の率いる部隊がナニカを山の様に積み上げ、プラズマを放射して焼却処分を行っていた。
凄まじい熱量で瞬く間に塵にかわり、新しい大気汚染を発生させるソレらは人間に似た姿をしている……。
ふむ、と局長は雨風に濡れたハットの位置を整え、顎を摩る。
眼窩に収まった眼球を模した有機パーツが輝き、目の前の警視の血圧が上がり、発汗していく所を察知する。
見るにどうやらこの男は怒りを覚えているらしい。
下らないと内心で局長は警視を見下す。
何度もこうして仕事に水を差されているが、本当にこの男は学習しないなと。
“正義”という概念に執着し、愚直なまでにそれに従うこの哀れな時代遅れの男を局長は嘲ていた。
だが厄介な事にこの警視はとても模範的な「人間」であり、企業連合の定める優秀な人間……つまりは多額の金を企業に齎す一家の者だ。
もしもこれが一介のどうでもいい存在ならばさっさと殺してもみ消せばそれで終わりだが、そうもいかないというのが問題であり、面白い所だ。
「えぇ。貴方がそういうのならば私は従うだけです」
影の中で亡骸の様な男が深い笑みを浮かべて答えた。
『よろしいのですか』
「問題ない。あの男は……面白い目にあうだろうな」
帰路、不意に質問をしてきた部下に局長は嘲りを張り付けて答えた。
入手した筈のサンプルを奪われたのは確かに問題だったが、それも直ぐに解決する。
今頃は彼の所属する警察機構の上部に企業連合が働きかけ、あのサンプル達を引き渡すように要求しているだろう。
助けた筈の人々が目の前でまた地獄に引きずり戻される。
きっとそれを見てもあの男は諦めないのだろう。
だが心の底に黒い膿がたまる。
どうしようもない。正義なんて信じても無意味。自分と家族の事だけを考えて生きていた方が楽。
そんな単純な子供でも分かる真理にあの男が気付くのは何時になることやらと局長はごちる。
「こんな時代でも理不尽は許されないと思っている。
多額の金を払って受けた教育か、塗り固められたモラルか。あの男の信じる正義など何処にもないというのに」
それとも、自分の中にある作り話への信仰へ縋っているだけか。
もしくは……単に自分に酔っているだけかもしれない。
「どれにせよ、アレはどんな人間にも救いがあると心から信じ願い、自分がそうなろうと努力している。全ての産まれた人々をこの世界は助けると」
何の根拠も可能性さえないというのに正義と救済に拘り、言葉だけでは終わらず行動に移すあの警視は確かに人間として素晴らしいのだろう。
───そうだ、素晴らしい道化役者だ。
既に企業連合の一部の上役はあの警視の存在を把握している。
とても金持ちで冷酷で悪趣味な者らに目をつけられたものだと局長は思う。
「あの男の夢に勝利はない。いずれ夢破れるか、はたまた……“選ぶ”時がくるだろう」
妻と子という致命的な弱点を抱えたまま企業の邪魔をする愚かさ。
正義感があり、それにふさわしい実力を兼ね備えた警視ではあるが……決定的に人の悪意を測りかねている。
既に眼はつけられている。後はどう転ぶだろうかは局長にも見当はつかなかった。
まぁ、よくて信念をへし折られるか、悪い事になれば彼の最も大切なモノは汚染だらけの川底に沈むことになる。
反抗的であった者が全てを奪われ絶望する様は上流階級の者らを大いに楽しませることだろう。
「さて、次の仕事に取り掛かろう。こちらが本命だ」
端末を取り出し操作する。
空間に投影されたモニターに映った文字には「コロンブス計画」と記されていた。
それはとてもとても素敵な、偉大なる征服者を模した素晴らしい計画の概要であった。
それは幻想の様な光景であった。
何百年も前に著されたファンタジー小説の中に登場するであろう「竜」がそこには映像として映っていた。
空を埋め尽くすほどの大軍で飛翔する化物たちは、一直線に天に浮かぶ巨大な城砦に向かい、そこから撃ちだされた無数の光によって叩き落とされる。
城には8つの影が座していた。
一つは巨人。一つは鎧。一つは妖艶な女。一つは骸。一つは偉丈夫。一つは竜。一つは人。一つは鳥。
竜に負けず劣らずの異形の集団は自らが創造し指揮する30のしもべを中心とした怪物たちと共に竜の大軍を迎え撃つ。
大地は割れ、空は焼け落ち、湖は消える。
元は緑豊かな地は余りの力の衝突により全ての命を拒絶する砂漠へと変わっていく。
凄まじい攻防の果てに8つの影は幾度も竜の命を賭けた全霊の攻撃の下に討ち果たされるが……何度も何度も復活を繰り返す。
しかしやがて戦いの天秤は竜たちへと傾きだす。
8つの影は明らかに、眼に見える程に死を経る度に弱くなっていたのだ。
当初は片手で竜の吐息を打ち払う程の力を誇っていたのに、今や掠るだけでその身が崩れてしまう程に力は衰えている。
そして戦いの幕は落ちる。
最後の一つの影は最後の竜の命さえ込めた全身全霊の力の前に砕け散り、それ以降復活はしなかった。
同じように全ての力を使い果たした竜も倒れ込み、後に残るは虚無だけ。
相打ち。これが結末であった。
「以上が、我々の観測した光景の一つになります。
映画でも何でもありません。これが事実です」
映画の様な光景を空間モニターに投影していた男が椅子に座る局長に向けて言葉を放てば、彼の亡骸の様にくぼんだ瞳が男を見据える。
男は局長の怒りを覚悟していた。おぞましい死者の様な存在の怒りは想像するだけで恐ろしいが、事実を伝えたのだから、どうしようもないと。
だが、予想に反して局長は拍手をしていた。そればかりか目元を緩め、喝采の声を上げる。
「嘘等とは思わん。私達はこれこそ探し望んでいたのだ!
夢にまで見た新天地。これぞ、偉大なる二度目の大航海時代の幕開けとなる映像だ」
そもそも、と局長は続ける。
よほど機嫌がいいのか彼はハットを脱ぎ、それを振りかざして演説するように朗々としゃべる。
「その為のニューロン・ナノ・インターフェイス。
その為の量子転換だ。我々は大海に浮かぶ一粒の宝石を探し出した!
サンタ・マリア号は新大陸を遂に射程に収めたのだ」
切っ掛けは一つの「ゆらぎ」と底なしの欲望からであった。
人類が宇宙進出に失敗した所から話は始まる。
かつては無限のドリーム等と豪語されていた宇宙だったが、実際はスカスカのスポンジでしかなかった。
価値のあるものは遠すぎるところにあり、近くにある物はただの石ころでしかないという事実は人類を大きく落胆させた。
月に都市を作るにしてもコストがかかりすぎる上に、もしも都市が完成したとしてもそこで利権による争いが起こると企業連合は判断した。
100年以上前のフィクション作品ではないが、月が地球からの独立などを宣言して戦争になったら、どうする? という話だ。
更にはかつて思われていたほど月には資源が豊富ではなかったというのもそれに輪をかけて宇宙開発の停止を後押しした。
火星も遠く、月と同じ理由で企業連合は採算の見込みがないと判断し開拓は断念。
このまま人類は地球の中で腐り果てていくだけと思われたが……企業は諦めなかった。
盛んに行われていた量子の研究。重力の研究。空間や時間についての研究。
新しい資源を手に入れる為に何としてもワープでも何でもよいから新天地への道を作るのだと躍起になっていた。
彼らには見えていたのだ。明確な滅びが。
他の誰かが何十億人死ぬのは構わないが、自分だけは生き延びたくて仕方がなかったのだ。
オカルト的な要素さえ多分に含んだそれに時間と金を惜しみなく注ぎ込み、ほんの小さな「ヒモ」を見つけるに至った。
それは何処から送信されたのかさえ判らない小さな波であった。
電脳と粒子の揺らぎの中、砂嵐交じりのソレはたった一つの時間を示していた。
『2138年。××月○○日。00時00分 譁�ュ怜喧縺�譁�喧縺�』
一部は無茶苦茶な記号に置き換えられて解読困難な謎のメッセージ。
それを連合の研究者たちが見つけたのが14年前。
当時は余りの激務に頭がおかしくなった研究者のいたずらだろうと気にも留められなかったソレだが、局長は違った。
彼はこれを一つの手がかりとしてとらえた。彼の勘と言ってもいい。
唐突無形な話だが、もしもこれが本当に未来から送られてきたダイアルであったら?
量子シグナルは「1」と「0」が同時に存在しているあやふやさから成り立っている、観測されるまでは誰にも分らない子猫だ、奇跡的な確率でもしかしたら何らかの混線が起こったのかもしれないと。
何を意味している? そしてこの唯一はっきりとした年月の意味と、これの発する量子の一部の波長……。
局長が企業連合から使用を許可されているスーパー量子コンピューターは全世界の那由他にも及ぶ気が狂う程の情報シグナルを検索し続けた。
既にコードの一部は解析され、後はそれに合致するものを探すだけだったのだ。
答えは2年後に出た。
軍事利用されているような複雑なコードではなかったのが幸いした。
確かにある程度のブロックはあったが、それも所詮は民間企業レベルであった。
合致したのは何処かの研究機関や軍事施設ではなかった。
はたまた世界を裏から操る秘密結社でもない。
とある中規模の民間企業が発表したゲームだ。その内部から似たようなシグナルは出ていた。
その名を「YGGDRASIL」という。
軍事機密などに明るい局長からすれば欠伸が出る程に劣化簡略化されたVR技術を用いられていたが、民間としては画期的であった体感型のゲームだ。
該当コードはYGGDRASILの中の一つの運営だけが閲覧できるシステムメニューであった。
このゲームにはワールドアイテムと呼ばれる200の特殊なアイテムが存在する。
更に200の内で最も強大な性能を誇る10のアイテムの一つ。
ウロボロス・リングと呼ばれるアイテムが使用された際にその告知を運営に流すためのプログラムが正体であった。
200個しか存在しない超希少なアイテムの位置と入手方法は運営だけが知っている。
当然運営は誰がそれを所持し、誰がそれを使用したのかも知る事が出来る。誰がどんな状況で使用したか映像さえも見られる。
何せ、今回使用されたと10年以上先からシステムメッセージを流し続けているアイテムに至っては運営にゲームのシステムを変えろと要求する事が出来るものなのだから。
ただのゲームかと局長は落胆……しなかった。
むしろ彼は更に興味を抱いた。そもそもこのメッセージを受信したのが2124年。
ゲームが配信されたのは2126年。存在さえしていない上にワールド・アイテムの草案さえ企画ではまとまっていなかったのだ。
明らかに時間軸がずれていた。
局長は直ぐに運営する企業を買収し、スタッフはそのままに好きにやらせてみることにした。
すると、ますます不思議な事が彼の目の前で起こり始めた。
幾つかのアップデートを繰り返す度にありえない筈の未来からのワールド・アイテム使用のメッセージ……中に映像さえも受信しだしたのだ。
全ての時刻は2138年の同じ年月の同じ時間だ。
特に大型アップデート「ヴァルキュリアの失墜」を行った際にはとても興味深い映像を彼は手に入れた。
隣国の今や日本を実質併合し植民地とした超大国の伝統的な衣装を身にまとった老婆が、ドレスで着飾った少女に護衛を殺されながらもその衣服……傾城傾国と名付けられたワールド・アイテムの力を解放する場面だ。
ゲーム内の効果では例え相手のNPCがどんな精神攻撃の耐性をもっていようと無視して支配を与えるという強力なアイテムであったそれが真実設定どおりの力を発揮していた。
直ぐに傾城傾国を受けた少女の身元……ただの電子データの塊のソレに身元という表現はどうかと思うが……は割れた。
当時ゲーム内で隆盛を誇る序列9位のギルド。「アインズ・ウール・ゴウン」に所属するシャルティアというレベル100NPCだ。
そうだ、NPCなのだ。プレイヤーでさえない。
それなのに、どうだ? 映像の中の本来は電子データでお行儀よく着飾っただけの人形が映像内では吼えて、笑い、血の涙を流しながら支配に抗っている。
局長からしてもこれは未知であった。
脳内に埋め込んだ量子コンピューターがエラーを起こしているか、体内の複数のナノマシンや強化細胞、金属細胞、ウィルスのいずれかが不具合を起こしたのかもしれないと疑う程に。
企業連合の上役には一応は報告したが、案の定笑い飛ばされ、滅多に他者に関心を寄せない老人たちが局長の心配をする場面さえもあった。
君は優秀な男だが、少し過労しているのではないかな? と言われるほどには唐突無形な話であり局長もそれは理解している。
「だが私は諦めなかった。
コロンブスの卵は作り話であったが、私は私のやり方で卵を立てて見せたぞ」
映像の中にあったのは少女だけではない。鬱蒼としげった木々……アマゾンが消え去るほどに荒廃した今の地球には存在しないモノ。
汚染もなく透き通った夜空……今の地球で見えるのは分厚いスモッグの層だけ。
「シャルティア」という少女がユグドラシル内での力を行使し傾城傾国を用いた老婆を殺害する様……レベル100相当のNPCの圧倒的な力。
もしや「あちら」ではレベル100というのは非常に強大な存在であり、しかも向こう側は多くの自然……資源に溢れているのでは? と所長の機械化した頭脳は予測をはじき出す。
更にはワールド・アイテムの破格極まりない力も適応化され、ほぼそのまま使えると彼は見た。
話は簡単だ。圧倒的な戦力差があり、しかも無尽蔵の資源が向こうには存在している。
あとは行き方だけ。
これも一つの賭けだが、局長には案があった。
「こちらが揺れる度に“あちら”との混線は起こる。
ならば……全てが崩れる程の“揺れ”はどれだけの穴が開くことか」
表示された時刻通りにユグドラシルのサービスを終了させる。その際に起きる影響に彼は賭けた。
実際ユグドラシルの売り上げは低迷し、もう潮時だというのが商売人としての彼の考えでもあった。
それと同時に二度メッセージに名前の挙がっていたアインズ・ウール・ゴウンと局長が新たに立ち上げたギルドの場所情報を疑似的に同化させる。
かのギルドが向こう側に行くのは半ば確定している。
ならば自分たちはもう一つのアインズ・ウール・ゴウンとなればいい。
今や41人いたメンバーも殆ど引退し、残っているのは過去にしがみつくちっぽけなユーザー……鈴木悟という男だけ。
14年にわたる研究データと映像とメッセージを連合の頂上会議に提出し、一度だけのダメ元という条件付きで局長は計画を立ち上げた。
当然彼に突き刺さるのは嘲笑であり、侮蔑であり、遂に頭がおかしくなったかという憐れみだ。
だが全てが失敗したとしても何も問題はない。所詮はゲームなのだから。ゲームが人生のすべてになる哀れな存在は多いが、局長は違う。
帰りの手段としてはこちらではサービス終了後も外部からのログインを切断させた状態でサーバーを再稼働させ、揺らぎを観測し続ける。
同時に無防備となった局長の身体の管理と防御も行う。
向こう側に局長がもしもたどり着ければすぐさまウロボロス・リングを使用しこちらでも同時にリングを使用、二つの揺らぎをぶつけ合わせて「穴」を作るという計画だ。
帰れなかった場合は……残念だが、違う局長にすり替わるだけだ。
たどり着いた際としての戦力は問題はない。局長はこの企業の大株主であり、実質的な取締役でもある。
その為だけに専用のギルドを作り、数々の「準備」を行い、更には管理者権限の付与された己の分身を作る事など造作もなかった。
情報収集のために軍用の戦術計算AIも同行させ、実地調査を任せるという念の入れようだ。
何ともバカバカしい計画であり、夢物語でしかなかったが局長は本気だった。
彼は本気で新天地を目指していた。富の為ではない。連合の為でもない。
もう何もかもが廃れてしまった地球の中で見つけた「未知」に惹かれ、彼は可能性を求めていた。
皮肉にもそれはこのゲームの運営がユーザーに求めていたモノであった。
2138年。××月○○日。23時59分 30秒。
男は生まれながらの異形であった。
彼の身体は赤子の頃より異常だらけであり、健康という言葉からはほど遠い存在だ。
汚染と死に満ちた大気によって母体は重病であり、当然胎内の彼もその影響を受けた。
23時59分 35秒。
手足はボロボロ。
筋肉はずたずたであり、左目の視力は存在せず、皮膚は爆炎をまともに浴びたかのようにくしゃくしゃで彼は産まれた。
ひっきりなしに走る痛みだけが彼と世界を繋ぎとめる鎖だった。
だが彼には意思があった。
23時59分 40秒
彼は強い意思をもっていた。永遠と続く拷問の様な痛みが彼を支え、育んだ。
その凄まじい執着と内面を企業連合に見いだされた彼は企業の行うあらゆる汚れ仕事を投げつけられる存在になった。
殺人、脅迫、戦争、麻薬の流通、紛争の火種を拡大化し、武器を売りつける……そして企業の保有する力とそれの齎す恐怖のアイコンに。
生きるためにあらゆる改造を自らに局長は施した。敵は星の数ほどに多く死は道端に転がっている。
脳髄、細胞、遺伝子、臓器、手足、彼の肉体で元の産まれたままの状態を保っているところは存在しない。
もしも産まれたのが後100年早ければ彼は普通に生き、痛みやおぞましい悪意などとは無縁の一生を送れただろう。
だが不思議と世界に対する恨みは抱かなかった。
彼にあったのは「こんなものか」というすすけた感情だった。
23時59分 45秒
彼の内面は強大なデストルドーに満たされていた。
これは世界への憎悪から来るものではなく、未知をみたいという欲求から生み出されている。
西暦より2000年以上も続いた人類の終末期に立ち会い、ゆっくりと滅亡への歯車を回す役割を担う彼はじれったさを感じていたのだ。
彼は時折考える。もしも1962年の11月に当時の大国がどちらも譲歩せず戦略兵器を用いた全面戦争になっていたら? と。
それはそれは、とても素晴らしい光景が見られたに違いない。
ゆっくりと滅ぶ世界も面白いが、彼は聖書にしるされた最終戦争が見てみたいのだ。
23時59分 50秒
新天地に意識を向ける。もしも全てが夢ではなく、実在し、何もかもが思い通りになったらどうするかと。
勿論、新天地の全ては企業連合の保有する地となる。
かつてコロンブスが大陸を見つけた際、その全てを征服した様に。
詳細な情報の収集後、あらゆる敵対勢力は滅ぼされ、地球を食いつぶしたイナゴは新しく与えられたパイを嬉々として貪るだろう。
そして局長の立場は間違いなく盤石となる。
企業連合の頂点はあちらに眼が釘付けになり、腐った地球など家庭ごみと同じように捨てられる。
ならば、こちらをどうするかは局長に一任される。
飽きて使い潰した玩具をお下がりとして渡されるのだ。
「楽しみだ……」
間もなく未来からのメッセージ通りの時間となる。全ての是非が明らかになる。
今までの14年が報われるか否かがはっきりとなるのだ。
失敗するにしても成功するにしても、こういう時間はよいものだ。
まるで裁判を受ける罪人の様で……面白い。
局長は眼を閉じた。
ゲームの仕様上、彼の現実と全く同じ姿をしているアバターの瞼は動かないが。
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じじじっとノイズが一瞬だけ走り……。
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局長は瞼を開け……システムコンソールを動かそうとして……モニターが表示されない。
チャット、通信、GMコール、強制ログアウト……すべて動かない。
自らの顔を触る。瞬きをする。動く瞼があった。
口を開けば、耳元までぱっくりと口の端が広がり、彼が普段から感じ続けている痛みが体を炙る。
ここはゲームの中だというのに、全てがリアルだった。
まだ断ずるには早いが……恐らく成功だと彼は確信し、歓喜の笑みを張り付けた。
手元のコンソールを操作し、自らの拠点に付け加えられたあらゆるセンサー類をフルパワーで稼働させる。
衛星やネットワークとの接続が断絶された事を告げるメッセージが幾つも目に入り、それが彼の予感を確信に変えていく。
数秒後には結果がモニターに投影される。
そこに映っていたのは地球ではない何処かの大陸図。
地球ではありえない程に透き通った大気の状態……人間が普通に呼吸できる数値だ。
間違いないと彼は判断し、銀色の指輪を取り出し、躊躇いなくそれを使用する。
頭の中に新しい感覚が増えたような違和感を覚えつつ、本能で彼はそれのスイッチを押し込んだ。
《世界級/ワールド・アイテム/循環する無限蛇》
質素な指輪が青白い光を発し、世界がねじ曲がりだす。
数百年前に竜王たちより世界を奪い、汚した力が再びこの世を蹂躙する。
世界が「揺れ」出し、再びあのメッセージが時間軸にばら撒かれ出す。
局長は前もって決めていた通りの願いを口にした。
さすがの彼も緊張を覚え、口の中がカラカラになる。
「私の産まれた世界とこの世界を永遠に、強固に繋げろ」
今の所はセンサーには何の反応も見当たらない。
だが、確かにナニカの大きな力が作用し、無理やり本来は重なる筈のないものを繋げだす。
ピーピーとセンサーが今度こそ鳴りだす。向こうにいた時はこちらからのメッセージを受け止めるために使われたモノが。
予定通り向こう側でもウロボロス・リングは使用されたらしく、計画は順調だった。
揺れが更に広がり、周囲が微細に振動しだす。
大地が揺れる地震とは違い、空間そのものが震えている様な奇妙なモノであった。
───きょ……こ………か…………。
「通信設備」という設定で置いたオブジェから声が漏れだす。
幾つものダイアルがくっつくソレは現実では100年以上前に使われていたものだ。
本当ならばただのデータの塊で通信機能など付属されていない筈のソレが何故か稼動している。
局長がメモリを回し、チャンネルを合わせれば徐々に声がはっきりとし出す。
──局長、局長。こちら企業連合。聞こえますか?
「あぁ、聞こえている。計画は成功だ。そちらはどうなっている?」
通信の向こう側から息を呑む気配がした。
一瞬の間を置いてからオペレーターは極めて感情を排した声で淡々と告げる。
──局長のアバターとギルド「サンタ・マリア」は……こちらからは消失しました。
こちらの局長のお身体は深いこん睡状態に入っています。
そしてご指示通りに鈴木悟の身柄は確保いたしました。しかし彼もまた意識不明です。
「通信状態についての詳細を知りたい。
そちらからでは私は何処に居る事になっている?」
──現在局長のおられる場所は……地球には存在しない事になっております。データとしては観測できますが、何処にいるかまでは……。
予想通りだと局長は考え、試しにカメラを起動し向こう側に情報を送り付けてみる。
「私の顔が見えるか?」
はい、という返事が返って来ると彼はその骸の様な顔で大きく笑顔を浮かべた。
ゲームではありえない動きを見せた局長に向こう側がざわめきだす。
更にもう一つ実験として彼はオペレーターに指示を出す。
「この通信の回線を利用し、私の下にYGGDRASIL内のデータを送り込んでみてくれ」
暫しの沈黙の後、カランと音を立てて何かが地面に落下する。
手に取ってみればそれは奇妙な様相の仮面であった。
怒りとも嘆きとも知れない表情を浮かべた民族的な仮面だ。
「仮面が手元に来たぞ。送ったのはこれで間違いないか?」
───はい。
たまらず局長は感嘆の声を漏らしていた。
今、彼の目の前で地球を滅亡に追いやろうとしていた資源問題が解決されたのだから。
「我々は無限の物資を手に入れたぞ。では、こちらからも一つ面白いモノを送ろう」
彼が送ったのはこちら側の地理や大気、センサー類がとらえたあらゆる情報だ。
なくなってしまったはずの自然、美しいソレがまだここには存在しているという事実は向こう側のオペレーターを沈黙させ……。
───素晴らしい働きだ局長。実に見事だ。君ならきっと成功させられると信じていたぞ。
突如割り込むのは老人の声。聴きこなれたしわがれ声だ。
「おや、見ていらしたのですね。ということは議会の皆様もご覧に?」
──もちろんだ。君のやることに我々が疑問を抱くはずはないだろう。
君はよく私達に仕えてくれた。これからもそうだと信じている。
「当然です。それが私の役目ですから。
こちらは、どうやらそちらで設定した通りのアバターに身体が入れ替わるようです。
調査がひと段落し、脅威の排除などが終わったら皆様もこちらに来られますか?」
それは誘惑の言葉であった。
金も地位も名誉も技術も全て手に入れた企業連合の頂上議会のメンバーではあるが、既に老いに犯されている。
寿命という金では伸ばす事しか出来ないモノに蝕まれる彼らにとって、新天地とその法則は正に黄金の果実であった。
永遠の命。強大な力。無限の資源。
正にここは理想郷。全て欲しいと願うのも無理はない。
──あぁ、その時が来るのを楽しみにしているよ。では、君の仕事を続けてくれたまえ。
「ええ、続報はゆっくりとお待ちを。面倒な事は全て私が“処理”致しますので」
老人の気配が消え、再びオペレーターに相手が切り替わると局長は幾つかの指示を出す。
「通信はそのままに。1秒たりとて決して切るな。
……まずはこちらに送る物資とデータサイズの関連も調べよう。
世界級、神器級、伝説級、遺物級と容量ごとに時間差がどれだけ発生するか検証がしたい」
データが大きければ大きい程通信には時間がかかるという常識がこちらと向こうのやり取りでも当てはまるかの確認。
これは重要な事だった。十分な装備と設備と資源を持ってきたが、補給が無ければ不安はぬぐえない。
相手が直ぐに取り掛かりだすのを認めた彼は一息つき、改めてモニターに眼を向ける。
外部のカメラが映し出す光景は美しい夜景。
どうやらこの地は地球と同じく恒星と衛星があるらしく、巨大な満月がそこにはある。
正にここは宝石箱だった。今は、まだ美しい。
これからこの地がどのように汚されるかは簡単に想像できる。
何せ、自分の手で行うのだから。
かくしてコロンブスは新大陸を見つけサンタ・マリア号は錨を降ろした。
歴史は繰り返し、人は過ちを再び犯す……。
あとがき
前々から書いてみたかったオーバーロードの二次です。
ワールド・アイテムの所在と使用者を間違いなく運営は把握しているよねっていう考えからこれが産まれました。
更に2138年の終末的な状況を見るに複合企業は間違いなく異世界に飛びつくよねとも。
本当はナザリックと異世界の全勢力が同盟を結んで企業連合とやり合うシーンとかも書きたかったのですが、力尽きました。