ギルド魔王   作:星座

11 / 12
うーん、最後の部分イロハをリズに変えてみたんですけど…




女鍛冶師

11、女鍛冶師

 

 

 この世界に閉じ込められて2週間が経過しようとしている。先週からの一週間でチームの人数は倍以上に増えている。原因はプレイヤーハウスのお風呂の存在が口づてで広がり、サポート班への女性の加入申請が後を絶たないからだ。加入申請者には1日1回の集団面接で対応しているが、ハルノさんは女性のプレイヤーの入隊をほとんど断っていないようだ。まあ、追加面接の必要なプレイヤーもいるみたいだが。そんな事情によりあの家は、プレイヤーハウスの拡張機能を使い全室が風呂場に改築されている。風呂場しかない家なんてもう家じゃないし、風呂屋で良いんじゃないかとハチマンは思うの。

 

 サポート班のスキルレベル上げは順調で、店売りの物よりもいい装備が出来始めている。特に順調なのは、料理班による<料理代行>だ。毎日長蛇の列が出来ている。今度テラス席を勝手に宿屋の前に作る案まで出ているくらいだ。このまま順調に売り上げを伸ばしていくなら、専用の店を持つのも有りかもしれない。

 

 そんな頑張っているサポート班の拠点である廃工場に今俺は来ている。新しく出来た盾を受け取る約束があるためだ。

 

「遅いわよハチマン!待ちくたびれたじゃない」

「約束の時間ピッタリじゃねえか。遅刻はしてねえよ」

「男は女性を待たせた時点で遅刻なのよ!」

 

 え?そうなの?男女平等は何処へいっちゃたの?泣かれちゃたらそれまでなの?ネタが古すぎる?けど好きなんだよあの曲。夏だけ活動して春秋冬はお休みという生活スタイルに若干の憧れもあるし。

 

「まあいいわ。それよりこれがあんた用に私が鍛えた盾<クリティカルガード>よ」

「ほーん、さすが天才女鍛冶師リズベット。名に恥じない良いできじゃないか」

「お、おだてても何もでないわよ。それよりさっさと装備して感想を聞かせなさいよ」

 

 さいですか。せっかく素直にほめてやったのに。まあいいかとカウンターの上に置かれている盾を手に取り装備してみる。良い盾だ。重くもなく軽くもない左腕にしっくりと収まっている。しかもその名の示すとおりクリティカル攻撃の無効化の能力まで付いている。間違いなく第1層なんかで手に入れられる代物じゃない。リズベットの鍛冶師としてのセンスの良さに改めて関心してしまう。

 そういえばこいつの入隊時も凄かったな。ハルノさんに向かって開口一声「将来自分の店を持ちたいから力を貸して欲しい」なんて堂々とチームを利用して成り上がってやる宣言をしたのだ。一瞬目が点になっていたが次の瞬間には大笑いをしながら入隊の許可をハルノさんは出していたっけ。向上心のある人は大好きだもんな、あの人。俺も凄いと思う。閉じ込められた事に悲観して自殺した人や宿屋に引きこもっている人がいるなかで、この世界でも自分の夢を持ちそれに向かって邁進するなんて、なかなか出来ることではない。例えそれが閉じ込められた事実から目を背ける為であっても。

 

「良い出来だよ。腕に馴染んでいる感じと言えばいいのか?分からんけど」

「なにそれ。まあハチマンらしい感想だけど」

「うっせ。評論家じゃないんだから上手く伝えられないんだよ」

「取り敢えず気に入ってくれたようで安心したわ。それと今更だけどなんで盾なの?強化するなら普通は武器からじゃない?」

 

 まあ、普通はそうだよな。昔RPGで遊んでいた時は俺もそうしていた。でも今は事情が違う。俺の役目は敵の攻撃をことごとく弾き、味方を守る事。その為に新しく武器を作ってくれると言われた時、店売りの盾では耐久値等に不安があったので、迷わず盾を作ってくれるように頼んだ。

 

「プレースタイルの違いだ。俺はまず守ってから隙を見付けて攻撃するスタイルなんだよ」

「そういうものなのかしらね。まあいいわ、それより今日の夜にサポート組の上位レベル者も連れて大掛かりな狩りがあるんでしょう?私も参加するから護衛宜しくね」

「出来る限りは頑張る」

「男なら「任せとけ」くらい言いなさいよ」

「出来ない事は約束しない主義なんだよ」

 

 その後もやいのやいのと騒ぎ、腹が減ってきたので「また後で」とリズベットと別れてから、昼食を取る為に料理班のいる中央広場沿いの宿屋へ向かった。

 

 

 ーーーーー

 

 

 どうしてこうなった?

 今俺は、イロハの隣のカウンターで武器等のアイテムを販売させられている。

 俺が宿屋前に到着した時は、相変わらず大盛況のようで並んでいるプレイヤーの長蛇の列があった。チームメンバーだしバックヤードで飯を食わせてもらえるかな?なんて考えて列を無視して店内に入ったのが運の尽き、カウンター内で馬車馬の如く働いていたイロハに「先輩、暇なら手伝ってください。忙しすぎて目が回りそうなんです」と有無を言わさず首根っこを捕まれ「買い取りは無理でも販売は出来ますよね」との言葉と一緒に、空いていた隣のカウンターに放り込まれた。不慣れなアイテム販売を何とかこなして解放されたのは15時過ぎ、店の前の列が無くなった後だった。

 

「商人班の連中はどうしたんだよ」

「隣の村に出張中です。武器等の売れ行きはあっちの方がいいですから」

「さいですか…」

 

 遅めの昼食をとった俺は、20時から予定されている狩りの為に<クリティカルガード>の試運転をしようとフィールドに足を向けた。

 

 

 ーーーーー

 

 

 現在時刻は20時、ボルンカ村にチーム魔王の攻略班38名とサポート班8名が集まっている。今回の狩りの目的は鍛冶班からの注文である「アニール・ブレード」を1本でも多く手に入れる事。その為にはクエスト「森の秘薬」を受注する必要がある。

 クエストの内容は、病気によって寝込んだ娘を「リトルネペント」の「花付き」から手に入る「胚珠」というドロップアイテムを娘の母親に渡すこと。 だが花付きは滅多に出現せず、「実付き」か普通のリトルネペントしかポップしない。この実付きが厄介で、もしも実が割れてしまえばたくさんのリトルネペントを引き寄せるし、ポップの促進もさせてしまう。普段なら絶対に実付きの実は壊してはいけない、そう普段なら。

 俺達の考えた作戦は実付きの実を積極的に割り、リトルネペントを集め、さらに調合班の開発した<集蜜薬>(実付きの実と同じ効果)でもっと集めて大量撃破してしまえ、とのおバカな考えから生まれた<リトルネペントほいほい>という作戦名までおバカな代物。しかもこの作戦をプレイヤーが少ない、敵の再ポップまでの時間が短いとの理由から夜にやろうと言うのだから、最早目も当てられない。こんな作戦考えたバカは何処のどいつだ?

 …………はい、俺とユキノです。だって効率がいいじゃん、普通にチマチマやってたら何日もかかるよ?

 

 ハルノさんの「出発~!」という合図で、俺たちは「ボルンカの森」へと進軍を開始しした。

 

 結果、やりすぎた……いくらみんなが下位ソードスキル一撃で倒せるレベル(攻略班の平均レベルは12)とはいえ、数が多すぎる。完全にやらかした…

 

「サポート班は攻略班のの後ろに隠れろ!」「実付きは実を壊さずに本体を一撃で倒せ!」「もう集蜜薬は使うな!」「円陣を崩さないように!サポート班を守って!」

 

 いろんな指示が飛び交い混乱しているのが手に取る様に分かる。俺も事ここに至っては攻撃しないなんて言ってられないので、円陣を飛び出し遊撃として敵を一撃で倒しまくり、頭数を減らすのに必死だ。

 

「きゃあぁ!」

「リズベット!?」

 

 どうやらリトルネペントの酸攻撃を浴びたようだ。急いで駆けつけリズベットの目の前にいたリトルペネントを一撃の下に切り伏せる。

 

「大丈夫か?」

「なんとかね。助かったわ」

「お前その格好は…」

 

 立ち上がったリズベットの姿を見て、慌てて抱き寄せ俺の身体と盾で挟み込む様にしてリズベットの身体を周りの視線から隠す。

 

「ち、ちょっとなにするのよ、とっとと離しなさいよ、黒鉄宮に送られたいの!?」

「自分の身体をよく見てみろ。アウター装備がさっきの酸攻撃で壊れてインナー装備が丸見えだ。早く替えのアウターを装備しろ!」

「ええ?わっ!本当だ。でも替えの装備なんてまともな物を持ってないし…」

「選り好みしてる場合か!リトルネペントが近づいて来ているからもう離すぞ」

「ちょっと待って!すぐ装備するから」

 

 リズベットの身体に装備時のエフェクトが視界の片隅に見えた瞬間に、抱き寄せていた手を離し迫って来ていたリトルネペントを切り伏せ、他のターゲットに向かって走り出す。

 

 

 しばらくして、リトルネペントのポップも落ち着いたようだ。幸いな事に犠牲者は1人も出ていない。入手した「胚珠」の数は12個。時間は夜中の12時を過ぎている。4時間以上の戦闘でみんなクタクタだがここはフィールド、ホルンカの村に引き返してから休む事にして歩き始める。余談だが<集蜜薬>は危険すぎるとの判断から製造と販売を中止する事になった。

 

「ハチマン、さっきはありがとね」

「リズベットか、無事で何より……」

「なによ、何かあたしの顔についてる?」

「……その格好どうした」

「ああこの衣装ね。ユイッチとユミコが私に似合うからって、無理やりサキに作ってもらったのよ」

「そうか……」

「それといいかげんに『リズ』って呼びなさいよ。長いでしょ私の名前」

「俺にあだ名呼びは、ハードルが高いんだよ」

 

 ポルンカの村への帰り道を、いくら緊急事態とはいえ大胆な事をしてしまったと顔を赤らめながら<メイド服>姿のリズベットと並んで歩いて行く。この後、ボルンカの村に着いた途端に一部始終を見ていたユキノにその場で正座させられて説教を受けることになるのは、また別のお話。




次回
第1層フィールドボス戦①
12、決戦前夜

次回更新は週末以降になりそうです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。