ギルド魔王   作:星座

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遅くなりました。新年会で飲み過ぎて二日酔いで寝てました。


魔王始動

7、第一の犠牲者その名はアルゴ

 

教会

 このソードアート・オンラインでの教会の役割は、解呪と対アンデッド用の祝福を武器にエンチャント出来る唯一の場所である。

 

 その教会敷地内礼拝堂の大きな扉の前に、俺達13名プラスα(材木座の友達)は、集まっている。

 

「皆、言いたいことは有るだろうが、まずは俺に陽乃さんに質問させてくれ。今後の大きな指針にもなると思う」

「私に?」

「ええ、いいですかね」

「うんいいよ~」

 

 まずは、茅場の話した内容について聞いていく。

 

「ナーヴギアで人を殺すことは可能だと思いますか?」

「可能だよ」

 

 まさかの即答。1週間しかなかったから詳しいことは分からなかったけど、と前置きをして陽乃さんは、話を続ける。

 

「私が確保したナーヴギアは7台って皆には言ったけど、本当は8台だったの。その内の1台を分解して調べさせたんだけど、必要以上に多いマイクロウェイブ発生装置、必要以上に大きな内蔵バッテリーが積んであったわ。この事実と茅場の話を合わせると高出力マイクロウェイブを照射し人間の脳を破壊することは可能だね」

「はるさん先輩、高出力マイクロウェイブ?を脳に照射すると何で破壊されちゃうんですか?」

「そうねぇ~、簡単に言えば脳を電子レンジでチンしちゃうって考えると分かりやすいかな?」

「うわっ、グロッ!」

 

 これで、この世界での死=現実世界の死は、ほぼ確定。念のためにもう1つ確認しておくか。

 

「茅場が嘘を吐いている可能性はあると思いますか?」

「無いね。あの場で嘘を吐く意味も必要性もないもの。それにその聞き方、君もそう思ってるんでしょ?」

「はい、念のために陽乃さんの意見が聞きたくて確認させて貰いました」

 

 次は、現実世界にある俺達の身体についてだ。

 

「俺達の身体のタイムリミットは、どれくらいだと考えられますか?」

「そうねー、体力、受けれる医療・介護等により個人差は出てくると思うけど『3年』かなぁ」

「姉さん、その根拠は何?」

「雪乃ちゃんで計算したのよ。この中で一番体力が少ないから。寝たきりで痩せ細っていく筋肉、経口摂取で栄養を得る事が出来ないから点滴。それらの弊害による内臓へのダメージ。通常の医療・介護では、2年持たないでしょうね…」

「姉さん、私の事を詳しすぎじゃないかしら」

「雪乃ちゃんの事だもん、なんでも知ってるよ」

「気持ち悪いのだけれど…。まあいいわ、ではなぜ2年が3年になるのかしら?」

「それは、雪ノ下家の力。両親は…いえ父さんは、必ず私達姉妹の為に雪ノ下家の総力をあげて最高の医療・介護を私達に受けさせるでしょうね。それでも延命は1年が限界。だから3年」

「父さんが…ええそうね、父さんならそうしてくれるでしょうね」

 

 100層クリアのタイムリミットは3年。雪ノ下の身体を考えれば2年以内か…

 

「比企谷くん、質問は終わり?」

「いいえ、後は自分個人として聞いておきたい事があります」

 

 ここからが核心。

 

「陽乃さんは、こうなる事を予測していたんですか?」

 

 俺の質問に周りがざわつき始める。

 

「どういう事?」

「陽乃さんの茅場晶彦へのこだわり方が普通ではなかったので」

「なるほどね、そういう事」

 

 納得したのか、口を開き始める。

 

「今のこの状態については予測出来るわけがない。こんな事を予測出来たら神の御業」

「万が一、予測出来ていたとして、私がこの場に雪乃ちゃんを連れてくると思う?」

 

 雪ノ下の名前を出されれば、納得せざる得ない。押し黙ってしまう。

 

「君が納得しやすいように、雪乃ちゃんの名前を出したけど、他の皆だってそうだよ?」

 

 義弟くんとウインクをしてくる陽乃さん。

 まだ何か隠していそうな気もするが、今は話してくれないだろうな。

 

「最後の質問、というかお願いです」

「お願い?内容に因るけど取り敢えず話してみて」

 

 

 陽乃さんの前に立ち、腰を90度に曲げて頭を下げる。

 この世界のイレギュラーは、俺と陽乃さんだ。俺のαテスト時の知識、陽乃さんの統率力と見識及び支配力。茅場が予想しているとは思えない。

 

「この狂ったゲームをクリアーする為に俺達を導いてください」

 

一瞬の静寂

 

「なーんだ、そんな事なの?」

「え?」

 

 拍子抜けして頭だけを上げ、陽乃さんの顔を覗き込む。

 俺の頭に手を置き、可愛いな~義弟くんは、と言って撫でてくる。

 

「私達をこんな世界に閉じ込めた茅場晶彦を、私は許すつもりは無いわ。1日でも早く現実世界に戻って必ず殺してやる。その為に存分に扱き使ってあげるから覚悟しておいてね、義弟くん」

 

 此は先払いの報酬ねと、撫でていた手で俺の頭を押さえ、頬にキスをしてきた。

 

「姉さん、何をしているのかしら?そこの男は私の物だと何度言えば…」

「まーまー、雪乃ちゃん仮想世界なんだし、これくらいは許してよ」

「そうですよ雪乃先輩、仮想世界なんですから、それくらいは許してあげないと。先輩~私のキスも…」

「一色さん?」

「ひゃい!」

「雪ノ下さんといろはのこの掛け合いは、伝統芸の域に達しているんじゃないか」

 

 葉山の言葉でその場に笑いが起きる。こういう場の和ませ方は流石だな。

 

 

 ーーーーー

 

 

「さて、私も質問に答えたし、今度は比企谷くんにも答えて貰おうかな」

「俺に?」

「そうよ、さっきの私を振りほどこうとした力は何?」

 

 あー、その事か。確かに異常だったもんな。別に今となっては、このメンバーに隠す必要は無いか。他の誰にも話さないようにと念の為に注意をしてから詳細をばらすことにした。

 

「俺のアカウントは、αテスター時のレベルが引き継がれてるんですよ。ステータスの差が有りすぎる為に陽乃さんは俺を押さえつける事が出来なかった、って事です」

「え?それって凄い事でしょ。レベルは幾つなの?」

「レベルは…」

 

 教会の外に人の気配を感じる。念のために≪索敵スキル≫を展開し確認をしたあと、陽乃さんに目配せをしてから言葉を発する。

 

「続きは取り敢えず教会の中に入ってからにしよう。方針決めにもまだ時間も掛かるだろう。椅子やテーブルも中にはあるから」

 

 陽乃さんと俺以外が中に入ったのを確認し、教会の外に向かって話し掛ける。

 

「そこに隠れてるのは分かってる。何の用だか知らんが出てこいよ」

 

 するとフードを目深にかぶったプレイヤーが1人壁の後ろから現れる。

 

「にゃっハハハ、オラっちの≪隠蔽スキル≫を見破るとは中々やるナ」

「何者だ?盗み聞きとは、趣味が悪いんじゃないか?」

「オイラは、『鼠のアルゴ』情報屋サ。別に盗み聞きをしてたわけじゃないヨ。≪聞き耳スキル≫は持ってないから壁越しじゃあ殆ど聞こえなかったヨ。中央広場で茅場に槍をぶん投げようとしてた面白い奴がいたからついてきただけサ」

「鼠ねぇ…殆どって言っている時点で聞こえてたって自白している様なもんだが?」

「グッ、ヤルネ。αテスターって単語が聞こえただけだヨ」

 

 聞かれてたか。まあいい、それよりも情報か。デスゲームと化したこの閉鎖空間で情報の価値は非常に高い。俺達にも情報収集の担当が必要だな…

 誰が適任だ?やっぱり小町か?次世代ハイブリッド型ボッチのあいつが適任だよな…コミュニケーション能力が高く、ボッチ特有の気配遮断も使えるし。もう1人は大志か。小町よりは幾分見劣りするがあいつも次世代ハイブリッド型ボッチだしな。

 

「鼠、情報屋のお前に依頼を出したい」

「ホウ、仕事カ。じゃあまず名前を教えてくれヨ」

「俺の名は、比企谷八幡だ」

「ハ?プレイヤーネーム!プレイヤーネームでお願いしマス!」

「プレイヤーネーム?じゃあ『ハチマン』だ」

「ハー坊は、オンラインゲームやった事無いのカ?」

 

 ハー坊とは俺の事か?誰かさん並みのネーミングセンスのなさだ。

 オンラインゲームでは、リアルの話は基本NGらしい。現実世界で親い関係であってもダメ。ミバレを嫌いそんな会話が聞こえてくるだけで不快感をしめすプレイヤーも多いとの事。元ボッチだから基本的に1人でも出来るゲームを1人でしかやってこなかったからな。ハチマン、シラナカッタヨ。

 

「ハルノさん、鼠とO・HA・NA・SHIしといて貰えますか?ちょっとコマチとタイシを連れてきます」

「分かったよハチマンくん、アルゴちゃんとO・HA・NA・SHIしとくね」

「オイ、2人して何かイントネーションがオカシクなかったカ?」

 

 大丈夫だ鼠、逆らわなければ殺される事はない。お前の能力は有用だ、悪いが利用させてもらう。その為にちょっと怖い思いをしてくれ。トラウマにならない事を教会で祈っとくから。

 

 2人をこの場に残して教会に入る。

 

「比企谷くん、遅かったじゃないの。2人っきりで何をしてたのかしら」

「変な勘繰りは止せユキノ、一寸した来客があっただけだ。今からその事を話すよ」

「なっ…あなた今、雪乃って私の名前を…」

 

 顔を真っ赤にし固まるユキノ。

 そうか、まだ知らないんだったな。プレイヤーネームってスゲーなぁ、現実世界じゃあ絶対に恥ずかしくて呼べないだろうし。

 とりあえず鼠とのやり取りを皆に伝える。

 

「我は知っておったぞハチマン」

 

 ほーん、知ってたのに話さなかったのか。そのせいで俺が恥をかいたのか。ほーん、ほーん、死刑だな。おもむろにブロンズスピアを装備し槍のソードスキル<ディガグリント>(閃光のような一撃を標的に突き立てる)を剣豪将軍の腹を目掛けて発動させる。

 

「ぶへらっ!!」

 

 変な鳴き声と共に壁に吹き飛ばされる剣豪将軍。

 

「な、何をするのだ、ハチマンよ」

 

 起きあがろうとする剣豪将軍の眉間に槍を突き立てながら、ドスの効いた声で話しかける。

 

「そういう重要な事は隠さずに直ぐに情報共有しような」

「はい…すみませんでした…」

 

「ハッチー、相変わらず中二に容赦ないね…」

「こいつにはこれくらいでちょうどいい。それに『圏内』である限りダメージは1も負わないし、『ペインアブソーバ』があるから痛みも感じないから問題ない。それよりハッチーってなんだ、蜂か?蜂なのか?」

「ハチマンだからハッチー。可愛くない?」

「…………好きにしろ」

「うん!好きにする!!」

 

 今日はよく変なあだ名を付けられる日だな。

 

 話が脱線し過ぎた。本題に戻そう。

 

「コマチとタイシ、ちょっと此方に来てくれ」

「なーに、お兄ちゃん」「なんすか、お兄さん」

 

 2人が此方に小走りで近づいてくる。

 こいつらプレイヤーネームで呼ぶ気無いな。まあいいか、こいつらに名前で呼ばれても違和感しかないし。

 俺はシステムウインドウを操作し、虎の子の隠者のローブ・服・ブーツを1セットづつ2人にトレード機能を使って送る。

 

「2人とも、そのアイテムを受け取って装備してくれ」

「お兄ちゃん、これ真っ黒でなんかドロボーさんになったみたいだよ…」

「確かに、ゲームに出てくるシーフみたいっすね」

「見た目は勘弁してくれ。それでもαテスター時代から持ち越せた数少ない貴重な装備なんだぞ。この階層の雑魚敵じゃあダメージを与えられない位強いんだから」

 

 ステータスウインドウを各々開いて、スゲーとか確かに強ーい等騒ぎ出す2人。俺はそんな2人の頭の上に手を置き皆に話し掛ける。

 

「外に居るのは情報屋で名前は鼠のアルゴだ。おそらくβテスターだ。俺はコマチとタイシを鼠に預けてこの世界での情報収集の仕方を叩き込んで貰おうと思っている」

 

 頭に俺の手を置かれたまま、真剣な眼差しで俺を見てくる2人。

 

「ハチマンくん、そこまでして情報が必要なの?その情報屋さんから仕入れるだけではダメなの?」

「ユキノ、分かっていると思うが情報はナマモノだ。このデスゲームと化した閉鎖空間では、情報の鮮度がプレイヤーの生死を別ける事になる」

「タイシは危なくないのかい?」

「サキ、この世界に危なくない場所はない。いくら適任だからといって俺がコマチを送り出す位に情報は重要なんだ」

「でも…」

「姉ちゃん、お兄さんは俺を信用してこんな大事な装備をくれたんだ。その想いに答えられないでどうするのさ。俺はやるよ」

「タイシ…」

「サキさん、コマチも一緒ですから大丈夫ですよ。何かあった時は、コマチがタイシくんを守りますから」

「コマチちゃん、勘弁して欲しいっす。それじゃあ俺の男としてのプライド丸潰れっすよ」

「タイシくん、プライド何てあったの?」

「ひどいっす!」

 

 場に笑いが起きる。

 

 

 ーーーーー

 

 

「コマチ、タイシそれにサキ一緒に外に出るぞ」

 

 3人を伴い建物から外に出る。

 

「ハルノさん、O・HA・NA・SHI終わりました?」

「うん。終わったよー、ねぇアルゴちゃん」

「イエス、マム」

 

 何処の軍隊だよ。この様子じゃあ、俺の祈りは届かなかったかもな。

 

「ハルノさん、コマチとタイシをお願いします。今度は俺が鼠と話をします」

 

 2人をハルノさんに預けて鼠の方へ歩いていく。

 

「どうした鼠、顔色が悪いぞ」

「ハー坊、アの人はなにもんダ」

「魔王だ」

「魔王カ、確かにナ納得しタ」

「何をされたんだよ?」

「世の中にハ、絶対に逆らってはいけない人がいる事を再認識させられただけダ」

 

 ただでさえ悪い顔色を更に悪くして震え出す鼠。俺が頼んどいて何ですけどやり過ぎじゃないの、ハルノさん。

 

「仕事の話は出来るか?」

「アア、問題ないゾ」

「1つ確認しておきたい。お察しのとおり俺はαテスターだが、鼠はβテスターで間違いないか?」

 

 鼠の震えが止まる。

 

「ソうだな、コッチだけ知っているのも不公平だナ、確かにオイラはβテスターだヨ」

「αテストとβテストの情報交換は、可能か?」

「モチロン!コッチからお願いしたいくらいダ」

「そうか、じゃあここからが仕事の話だ」

 

 俺は、最後の<隠者のローブ>を鼠に渡す。

 

「まず、それが報酬だ、αテストの時から引き継げた最後の装備品だ」

「なんだこの装備ハ?強すぎるゾ」

「ああ、売れば数百万コルは下らないだろうな」

「こんナ装備品を寄越すってことハ、オネーサンのスリーサイズでも知りたいのカ?ハー坊はオマセさんだナ」

「そんな情報に1コルだって払う気はねーよ」

「そうカ?それは残念だナ」

 

 自分のスリーサイズを売り付けてくるなんてとんだビッチだな。

 

「頼みたい仕事は3件、俺達のチームとの専属契約、プレイヤー2人の情報屋としての育成、『嘆きの祠』の発見だ」

「3つ目は、イイとして、前の2つハ?」

「詳しく説明する。専属契約といっても優先的にうちに情報を流してくれるだけでいい。勿論情報料もその都度払う」

「そういう事なラ、了解ダ」

「最後のプレイヤー2人の情報屋としての育成はそのままの意味だ。あそこにいるコマチとタイシに情報屋としてのノウハウを全て叩き込んで欲しい」

「正気カ?危険な仕事だゾ」

「あー、分かっている。それ以上にこの世界で情報がどれだけ重要か理解もしている。素質が無いようなら送り返してくれてもいい。頼む」

「分かったヨ。全ての仕事を情報屋鼠のアルゴとして引き受けタ」

「助かるよ」

 

 コマチとタイシに鼠と挨拶をさせている間に、ハルノさんに状況を説明する。

 

「へー、そんないいアイテムをあげたんだ。もう1つ位、お仕事お願い出来るかな?」

「何を頼むんです?」

「アルゴちゃーん、お姉さんからもお仕事の依頼があるんだけどいいかな?」

 

 ビックと身体の震える鼠。

 

「お姉さん、この世界のプレイヤーさん達と沢山O・HA・NA・SHIしてみたいの、使えそうな人を紹介してくれないかな?」

「オラっちに、生け贄を捧げろト?」

「そういう事言うんだ。別にアルゴちゃんが毎日O・HA・NA・SHIしに来てもいいんだよ?」

「紹介しまス、紹介させてくださイ、お願いしまス」

 

 勢いよく頭を下げる鼠。本当になにされたんだよお前。

 まだ頭をペコペコ下げている鼠を横目にコマチとタイシを左右の腕で抱き締める。

 

「お兄ちゃん?」「お兄さん?」

「コマチ、寂しくなったら何時でも帰ってきていいからな」

「タイシ、コマチの事を宜しく頼むぞ」

「お兄ちゃん…」「任せてくださいっす」

「2人とも自分の命が最優先だ。無茶はするんじゃないぞ。早く一人前になって帰ってこい」

「うん!!」「はいっす!」

 

 2人を離し、鼠に向かって頭を下げる。

 

「2人を頼む…」

「アイアイ、このアルゴ様に任せておきナ」

 

 街中を走って遠ざかる3人の背中と街並みを、俺とサキはその姿が見えなくなった後も暫く眺めていた。




アルゴのセリフって難しいですね。
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