八雪書きたい病発症!
ご注意ください。
2018/01/10 加筆修正。誤字脱字修正。
9、仮想世界でも俺の青春ラブコメは進んでいく。
方針決め会議も終わり、教会とは中央広場を挟んで反対側にあるレストラン街のNPCレストランに皆で食事をしにきている。
この店に入る前にちょっとした騒動があり、ハルノさんが「お嬢様」なんだなと再認識させられた。一食10数万コルはする超高級店に何の躊躇いもなく入って行き、慌てて全員で止めるという一件が発生したのだ。
ハチマンくんお金たくさん持っているでしょ?なんて言っていたが、考えて欲しい14人いるのだ、皆で一食150万コル近い金額だぞ。そんな食事を毎食していたら3日と持たずに俺の財布は干上がってしまう。
現実世界との金銭感覚のズレを早急にハルノさんには改めてもらわないといけないようだ。
メニューを見て料理を決めNPCに注文すると直ぐに料理が運ばれてきた。ファーストフード店も真っ青なスピードだ。
早速、口に料理を運ぶ……予想以上の不味さである。食えなくはないが現実世界で出されたら「え?なにこれ?これでお金取るの?」ってレベル。俺でこんな状態ならあの姉妹は…
「これは料理とは呼べないわね…」
「だからさっきのお店に入っておけばよかったのに~」
「多分さっきのお店でも、ここよりは多少はましなくらいじゃないかしら。料理スキルのレベルを急いで上げる必要性があるわね」
ナイフとフォークはとうの昔に手を離れており、今後の対策に夢中の様子。
結局、殆どの人が料理を残して店を後にした。料理スキルを取った彼女達の今後に期待しよう。
「これからどうするのかしら?また教会に戻るの?」
「いや、ここから教会だと結構な距離だ。近くの宿屋に泊まろう」
「それがいいし、早くお風呂に入って眠りたいし」
あー、忘れてた。第1層の宿屋には確か風呂はないはず。これはひと悶着有りそうな予感。βテストか製品版で改善されている事を願おう。(結局風呂は無かった為にこの後ひと悶着あり、後日、俺の所持コルで風呂つきの小さなプレイヤーホーム(80万コル)を買わされた。このあとの女性プレイヤーの勧誘に一役買う事になる)
「みんな~ちょっと座って待ってて、私が部屋を一括でとってくるから」
宿屋のフロントに走っていくハルノさん。お言葉に甘えて近くの椅子に座らせてもらう。今日は色々ありすぎて正直疲れた。身体の疲れなんて仮想世界には無いんだろうが、脳の疲れはどうしようもないようだ。
「この宿、全室二人部屋でちょうど7室空いてたわ、女性から順番に鍵を渡すから取りに来て~」
部屋の予約が終わったハルノさんの周りに集まり鍵を受け取っていく女性陣。他のお客さんの邪魔にならないようにか、鍵を受けっとった人から順番に宿屋の奥に消えてく。
俺は座った椅子で少し呆けていた為に鍵を最後に渡された。立ち上がり部屋に向かおうとした時、ハルノさんに声を掛けられる。
「宜しくね、義弟くん」
「何をです?」
「まあまあ、後で分かるよ」
意味がわからない。何か嫌な予感はしたが眠気の方が勝り、考える事を放棄し部屋に向かう事にした。
ーーーーー
今俺は、部屋に入ったところで固まっている。
何故かって?部屋の中にあるダブルベッドにユキノが腰かけていたからだ。部屋番号はちゃんと確認した筈なんだが…
これ以上の沈黙に耐えられず、ギギギッと擬音がつきそうな速度で回れ右をして「間違えました」と一言謝ってから部屋を出ていこうと一歩足を踏み出した。
「間違っていないわよ」
「え?」
「ここがあなたの部屋で間違っていないと言っているの」
「は?なに考えてるんだあの人。ちょっと抗議してくる」
「諦めなさい。姉さんにそんな事をしても無駄だと分かっているでしょうに」
うん。ハチマン、ワカッテル。
ハルノさんと知り合って1年半、特にユキノと付き合いだしたここ半年弱は、こういうハルノさんの悪戯は毎週のように何かしら受けていた。
そして必ず抗議や過剰な反応をすると、次回は必ずエスカレートした悪戯を受ける事になる。そこで俺とユキノの取った対策は、反応するから過激になるなら反応しなければいいとの後ろ向きな考えから導き出された「無反応」という対応方法だった。結果はあまり変わらなかったのだが、からかわれる時間が減っただけでも良しとする事にした。
「取り敢えずベットにでも腰かけていなさい。今お茶を淹れてあげるから」
ユキノに促されベットに腰をかける。慣れた手つきでお茶を淹れるユキノを見ながら、料理スキルが低くてもお茶は淹れられるのだななどと考えていると俺の目の前にお茶が差し出された。差し出された黄色いお茶を一口飲んでから、ベッド横のナイトテーブルにカップを置いてからユキノに話しかける。
「不味いな。あれから1日も経っていないのに、ユキノの淹れてくれた紅茶が懐かしい」
「そうね。確かに懐かしいわね」
俺の横に腰かけてくるユキノ。暫くの沈黙の後、不意に俺の左腕を絡め取り顔を肩に埋めてきた。
え?何してくれてるのこの子?俺は2人きりで理性を保つのに必死だっていうのに……
……震えている?
微かに嗚咽も聞こえてくる。ああ、ハルノさんの言っていた事はこの事だったのか。
分かっていた、いや分かっていたつもりだった。幾らいつも気丈に振る舞っているユキノといえど、一皮剥けばただの女子高生である。こんないつ死ぬかわからない世界に閉じ込められて恐くないはずがない。現実世界の身体の残り時間を3年などと宣告されショックを受けていないはずがない。
俺は彼氏失格だな、本当にそう思う。こんな俺が彼女に触れることは許されない、心底そう思う。でも、でも……
気が付けば俺の右手は彼女の頭の上に置かれ、仮想世界でも変わらないその艶やかな黒髪を撫でていた。
「何をしているのかしら」
「…………嫌か?」
ずるい言葉だと思う。そんな事を言えば彼女が断れない事を知っているのに。
「嫌…ではないわ。続けなさい」
ほら、許してくれた。俺は彼女の言葉に甘えて髪を撫でていく。
何分経ったのだろう…いや何十分か?何時間か?時間感覚が失われている。気付けば横にいる彼女の震えも止まっていた。こんな俺でも少しは役に立てたのだろうか…髪を撫でていた右手をそっと下ろした。
暫くの沈黙の後、意を決したような顔を彼女が俺に向けてきた。
「ハチマンくん、お願いがあるのだけれど」
「ん?」
ユキノがお願いとは珍しい。今迄一度もされた事はないんじゃないか?
「寝るときに手を繋いでいて欲しいのよ」
顔を真っ赤にしながら俺の返答を待っているユキノ。恥ずかしいが滅多にない彼女からのお願いだ。彼氏としては叶えてやらないとな。
「ん、今日だけな」
「ええ、今日だけ」
気の利いた言葉も返してやれない俺を許してほしい。
装備を解除しベッドにもぐりこむ俺とユキノ。肌掛け布団の中で指と指を絡ませギュッと強く握りしめる。せめて良い夢をとの願いを込めて。
「おやすみなさい、ハチマンくん」
「おやすみ、ユキノ」
何があってもどんな事をしても、例え俺が犠牲になってでも…彼女だけは…『雪乃』だけは現実世界に還してみせる。
そう決意を新たにし、ゆっくりとゆっくりと深い深い眠りの中に落ちていった。
唐突な八雪で失礼いたしました。
当方、社畜の為に平日のアップは難しくなります。
ご承知おきください。
次話、10、第2の犠牲者たち?
野武士面の彼が登場します。