「朝か・・・・」
基本的に士郎の朝は早い。
士郎たちが今居る許昌を攻略した後、
後から来た聖達に事情説明していたせいで、まともに睡眠時間が取れていないが、
相変わらず早起きだった。
そのまま着替え、顔を洗った後厨房に立つ。
「大分人数が増えたから量を作らないとな・・・」
新しく恋、音々音、弧白が増えた為、いつもより量が多い。
「・・・・・・」
黙々と料理を作っていると、誰かが横の食事場に入ってくる。
「おはよう・・・・あら、士郎はやいわね。」
「おはよう御座います~」
「水蓮に弧白か。お茶が入ってるけど・・・飲むか?」
「貰うわ。悔しいけれど士郎のお茶はおいしいからね・・・」
「そうなんですか・・・・では私も~」
二人も一緒に座って飲み始める。
「他の皆はまだ寝てるのか?」
「みたいね・・・・とりあえず聖は、見ため通り弱いわよ。」
「こっちは基本的に恋さんが遅いですね~」
「最近戦が続いてるから疲れてるんだろうな。
・・・・二人はなんか元気だけど。」
士郎が二人の方に目を向けて話す。
「そうね・・・まぁ海戦と比べたら楽な方よ。」
「恋さんと音々音さんに振り回されてますからね~」
「・・・・苦労してるんだな・・・」
そのまま士郎は料理を続けていく。
「ずっと気になってたんだけど・・・・・
士郎も大分変わった服装してるけど、弧白も変わった服着てるわね。」
「ああ。ここらでは見かけないな。」
ふと水蓮が玖白に話しかける。
「この服ですか。
ほら、私達って西涼の方が本拠地じゃないですか~
それでたま~に大秦・羅馬の方から商人が来るんですよ~」
「と言うことはそっちの方の服装なの?」
「はい。
意外と着心地いいんですよ~」
ひらひらとしているローブの裾を掴んで弧白が答える。
そのまま三人は他愛もない会話を続けていくのだった。
「遅いわね・・・・」
水蓮の呟きに他の二人も頷く。
「朝食の準備も出来てしまったしな。」
「士郎さんのお茶、美味しいですから、
このままじゃお茶だけでお腹一杯になっちゃいますね~」
「仕方ないわね・・・ここは手分けして起しに行きましょうか。」
水連の提案に賛成する二人。
「じゃあ私は聖のとこに行くわ。」
「それなら私は恋さんと音々音さんから行きましょうか~」
「なら俺は玖遠と援里を見てくるか・・・
起したら他の奴の所に行ったらいいんだよな。」
「ええ。よろしくね。」
そのまま三人は立ち上がり部屋を出て行った。
こんこん。
「玖遠、援里、朝だぞっ。」
二人がいる部屋の扉越しに、士郎が声をかけるが中からの反応はない。
「仕方ない・・・入るか。」
扉を開け中に入る。
カーテンを閉め切っており中は薄暗い。
壁際に大きなベットが置かれており、そこに二人が寝ていた。
「凄い寝相だな・・・・」
援里は大人しく寝ているが、玖遠は中々に酷い。
掛け布団が援里の方にすべて移動しており、服も捲れている。
「玖遠、起きろ。朝だ。」
玖遠を軽く揺する。
「・・・ん・・・・ふぇ?・・・・」
どうやら頭が回ってないらしい。
ぼーっとした目を士郎に向けている。
「ん・・・・ん?・・・・」
そのまま自分の服を見て、再度士郎の方を見る。
するとだんだん玖遠の顔が赤くなっていく。
「し・・士郎さんっ・・・
さ・・流石に横に援里ちゃんがいるのは恥ずかしいですようっ・・・」
そのままあたふたしだす。
「まぁ流石にそ体勢は恥ずかしいと思うけど・・・」
「そ・・それにまずはお互いの確認をとってから・・・・」
「・・・・なにがさ・・・・」
何か重大な勘違いが発生している。
流石に士郎も気がついた。
「え・・だって夜這いに来たんじゃ?」
「なんでさ・・・・」
そのまま士郎が崩れ落ちる。
「ん・・・あれ・・・・」
大分騒がしくなっているので、流石に援里も目が覚める。
「もう・・・・朝ですか・・・・・」
目を擦りながら援里が上半身を持ち上げる。
「え・・・・・朝?」
それを聞いてキョトンとしている玖遠。
「そうだよ・・・・ほら。」
そう言いながら士郎がカーテンを明ると、明るい光が差し込んできた。
「士郎さんっ・・・遅いですよっ・・・・」
「だから違うって・・・・」
なぜか士郎が攻められている。
「と・・・とりあえず、朝食出来てるから起きてくれ。」
士郎が立ち上がって出て行こうとすると、援里に服の裾を引っ張られる。
「ん、どうしたんだ?」
「・・・・しゃがんで・・・ください・・・・」
言われた通りに士郎がしゃがむと、援里が背中に乗ってくる。
「ん・・・いいです・・・・」
「・・・・・了解。」
そのまま援里を背負う。
「いいなあ・・・それ・・・」
玖遠が羨ましそうな目を向けているが、
「とりあえず服を直した方がいいと思うぞ。」
士郎に指摘され慌てて布団で体を隠していた。
援里を送り、玖遠の分も一緒に新しくお茶を入れた後、
士郎は霞の部屋に向かっていた。
「おはよー士郎くんっ。」
「おはよう。起きたんだな聖。」
途中で聖と出会う。
「うん。水蓮ちゃんに起されたよ。
まだちょっと眠いけどね・・・」
寝起きの聖は欠伸をしながら答える。
「まだお茶が余ってたはずだから、飲んでくるといい。」
「うん、ありがと。
じゃあ待ってるね。」
そのまま聖と別れ霞の部屋の前に立つ。
「霞っ、朝だぞっ。」
士郎がノックしながら声を掛けるが反応がない。
「霞が寝坊するのも珍しいな・・・入るぞ。」
士郎が入ると、其処には・・・
「・・・・・・・」
「・・・・なんで服着てないのさ・・・」
着替えの途中で下着姿の霞が立っていた・・・・・
「キャーーーーーッ」
「ご、ごめんっ!」
霞がわざとらしく叫び、士郎が慌てて出て行こうとすると、
「何があったの霞っ!」
ドアが開いて詠が入ってくる。
「「「・・・・・・・・・・」」」
一瞬三人の行動が止まり・・・
「し~ろ~う~っ!!」
「ちゃ、ちゃんと確認して入ったっ!」
「男にしてはまともな奴だと思ってたのにっ!」
詠に誤解され、責められる士郎。
士郎は詠の誤解を解くのに大分時間を費やした・・・・・・
「あはははははっ!ほんま面白いわー」
霞が二人に士郎を吃驚させる為にやったと、笑いながら説明する。
「士郎、霞は朝食抜きにしといていいわよ。」
「ええっ!それはアカン!
ごめんな士郎ー」
「まったく・・・心臓が止まるかと思ったよ・・・・」
「まぁまぁ。士郎もええもん見れたやろ♪」
「うっ・・・・・・」
思わず思い出しそうになる。
「し~ろ~う~っ」
「そ、そうだ朝食できてるから早く来てくれよ。
ついでに月さまを起しておいてくれっ!」
詠の生暖かい視線に耐えかねた士郎は、慌てて部屋を出て行く。
「全くっ、これだから男はっ!」
「まぁまぁええやん。別に減るもんちゃうし。」
「精神的に疲れるのよっ!
と言うか元々貴女のせいじゃないっ!」
二人は士郎が部屋を出た後も、元気?に言い合いを続けていた。
霞の部屋を出た士郎が藍の部屋に向かっていると、なにか音が聞こえてきた。
「これは・・・何か振り回してる音だな。
行ってみるか。」
中庭の方に行ってみると、其処には素振りをしている藍がいた。
「朝から頑張ってるんだな。」
「ん?・・士郎か。」
士郎が声を掛けると一旦手を休める。
「次の戦は大きくなりそうだからな。
気は抜いていられん。」
軽く汗を拭きながら答える。
「うん。調子は戻ったみたいだな。」
藍の動きが停止する。
「な・・なにがだ?」
士郎の問い掛けに口篭る。
「いや、許昌
ここ
を攻略するときは、
なんか元気が無かったって聞いてたからな。
けどもう元気そうだし、あの事件を引きずって無いように見えたからよ・・・・」
「よかった。」と士郎が言おうとすると、
急に近寄って来た藍に両肩を押さえられる。
「あ・・あの事件とは何のことだっ!
私は何もしらんぞっ!」
どうやら無かった事にするらしい。
「・・・すまん。俺の勘違いだ。
朝食出来てるから早く来いよ。」
「ああ、解った。」
おそらく全員呼んだので一度食事場に戻る。
すると・・・・
「あっ!士郎くんっ、水蓮ちゃんがまだ来てないんだけど・・・・・・・
どこかで見なかった?」
「他の人でも起こしに行ったのじゃないのか?」
「もう士郎くんと水蓮ちゃん以外全員そろってるよっ。」
士郎は少し考え、
「じゃあ俺が探してくるから、聖は朝食の準備でもしていてくれ。
暖めるだけで十分だと思うから。」
「うん。よろしくねっ。」
戻っていく聖を見届けた後、水蓮を探し始める士郎。
「どこに行ったんだろうな。・」
一度来た通路を戻っていく。
「そういえば、聖や月さまがいた方はまだ行って無かったな・・・」
士郎がそこに近付くと、何か怪しい音が聞こえてくる。
「?聖の部屋から聞こえてくるな・・・・・」
不審者かもしれないので、注意を払いながら、そっとドアを開ける。
そこには・・・・・・・・
「ふうっ・・・・・聖の匂いがする♪」
聖の布団に顔を埋めている水蓮だった・・・・・
「・・・・・・・・・・」
また思考が停止する士郎。
「♪~~~~~~~」
しかし等の本人は満足そうにしている。
そうこうしていると、士郎のおかしな気配を感じ取ったのか、振り向いてくる。
「ん?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
なんともいえない沈黙が場を支配する。
そして・・・・
「!いや・・・・・これは・・・・そのっ・・・・」
水蓮は急に顔を真っ赤にして慌てだす。
「・・・・まぁ・・・その・・・朝食出来てるからな・・・・・」
士郎はそう言い残してさっと部屋を出て行く。
「ちょ・・・待てぇっ!!」
慌てて士郎を追いかける水蓮。
「なんで追い駆けてくるのさっ!」
「逃~げ~る~な~っ!!」
「たまには平穏な朝を迎えさせてくれっ!!」
士郎はそう叫びながら逃げ続ける。
相変わらず女難の相が続く士郎だった・・・・・・・
昼過ぎ、特にする事が無くなった士郎は城内を当ても無く歩いていた。
「手が空いたしな・・・何か差し入れでも作るか。」
陽も頂点を過ぎ、時刻で言えば大体三時位である。
兵の再編をしている水蓮や霞、弧白達に何か差し入れでも作ろうと思った士郎が
厨房に行くと、そこには先客がいた。
「あれっ、援里と詠に月さま?」
士郎の声に三人が振り向く。
「士郎さん?・・・・・どうしたんですか・・・・・」
「手が空いたからな。差し入れでも作ろうかと思って。」
援里の問いに答える士郎。
「皆はいったい何をしてるんだ?」
「士郎さんと一緒ですね。援里さんがお菓子作りが得意って聞いたので・・・・
教えてもらうついでに、差し入れでも作ろうってなったんです。」
「私は止めたんだけどね・・・太守がする事じゃないって。」
どうやら援里と月が乗り気で、詠が監視やくのようだ。
「あの・・・だったら・・・・士郎さんも・・・・一緒に作りますか・・・・?」
「そういえば朝食、とっても美味しかったですね~
料理得意なんですね。」
「こいつも入るのっ!?・・士郎・・・月に変なことしたら殺すからねっ!」
援里と月は友好的なのに、詠はなぜか敵意がむき出しである。
「するわけないだろ・・・」
「だって霞の着替え覗いてたじゃないっ!」
「「え・・・・・・」」
(まずい、二人が引いてる・・・・・)
慌てて士郎が弁解する。
「霞が説明しただろ。
わざとやって、俺の反応を見て楽しんでただけだって!」
それを聞いて月が「ああ・・・霞さんならやりそう・・・」と呟く。
「とにかくっ!変なことするんじゃないわよ!」
ドタバタしながら作業を開始する。
「なんか今日は朝から疲れるな・・・・
で、何を作る気なんだ?」
「月餅を作ろうと思ったんですけど、あれって太りやすいんですよね・・・・・」
「それで・・・・如何しようかと・・・・・」
援里と月が頭を悩ませている。
「西涼の方にしかないような物は無いのか?」
「う~ん・・・羅馬の方には違う物があるらしんだけど・・・・」
詠の発言を聞いて士郎が材料を見回す。
「うん・・・・この材料ならクッキーとマドレーヌあたりなら作れるな・・・・」
士郎がそう呟くと、
「それってどんな物なんですかっ?」
月が興味津々に聞いてくる。
「とりあえず作った方が早いな。」
そう言って四人は料理を始めた。
「中々美味しいわね。」
「はい・・・・」
四人は完成したものを試食している。
「月さま、どうぞ。」
士郎が空になっている月のコップにお茶を注ぐ。
「あっ、有難う御座います・・・・
なんか士郎さんに「月さま」って言われると落ち着きませんね・・・・」
月が士郎に礼を言いながら答える。
「そういえば士郎がさまって呼んでるの月だけよね。」
「聖からは呼び捨てで良いって言われてるしな。」
「あ、でしたら私も呼び捨ての方がいいです・・・・
あと敬語もです。なんか壁があるみたいで嫌ですから・・・」
「俺は構わないけど・・・いいのか?」
士郎は詠の方を見ながら問いかける。
「はぁ・・・私は反対だけど、月って結構頑固な所があるからね・・・・・」
「そうなのか・・・・・解った。じゃあ・・・そう呼ばせてもらうよ。月。」
「はい。」
そうして平和な一日は過ぎていく・・・・・