真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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3章 新たな仲間
3-1 帰路


「おーい!!誰かいないか~」

 

戦が終わり、士郎が帰りの準備をしていると、誰か来たようだ。

陣の外から声が聞こえる。

 

「劉表さまは今留守ですが……」

 

士郎が出迎えると、そこには女性が立っていた。

 

髪は赤く、ポニーテールにしている。

服装も赤を基調とした軽装のものだ。

 

「いや、士郎って奴に用があったんだ。

今居るのかな?」

 

「俺に?何かありましたか?」

 

士郎は何かしたのかと考えながら答える。

 

「ああ。ウチの桃香たちが世話になったみたいだからな。

礼を言いに来たんだ。」

 

「ああ。桃香たちの知り合いの人ですか。」

 

士郎は納得がいったような顔を浮かべた。

 

「自己紹介がまだだったな。

私は公孫瓚 伯珪。よろしくなっ。」

 

「私は衛宮 士郎。劉表軍で客将をしています。

よろしくお願いします。」

 

士郎が礼を返すと、公孫瓚は何か変な顔をしている。

 

「なんか敬語に違和感があるな……

別に普通に話してくれてもいいぞ?

そっちの方が私としても気楽だし。」

 

「……ああ。そうさせてもらえると助かる。」

 

お互いにクスリと笑いあう。

 

「それで、桃香たちは元気にしているのか?」

 

「ああ。怪我も殆ど治ってるよ。

士郎たちがそろそろ引き上げるって聞いてたから、

今日、私に着いて来るのを止めるのに大変だったんだぞ。」

 

公孫瓚は笑いながら話す。

 

「それ程元気なら、もう大丈夫そうだな。」

 

士郎の言葉に頷き、

 

「士郎もあの男に会ったんだろう。」

 

公孫瓚が神妙な顔をして話し出す。

 

「……ああ。」

 

「あの時、私の側近の兵が一瞬でやられてな……

私達は直ぐに下がろうとしたんだが、

私の部下を助けようとした桃香が逃げ遅れたんだ……」

 

公孫瓚は困ったような笑みを浮かべている。

 

「幸い、直ぐに愛紗たちが駆けつけてくれたから、何とかなったけど、

あいつは優しすぎるんだよなぁ……」

 

公孫瓚は空を見上げながら話していた。

 

「……それが桃香の良さだろう。

だから、関羽や鈴々が主と仰いでいるんだろう。」

 

「……そうだよな。」

 

「それに、キミもそんな桃香だから心配してくれているんだろう?

なら大丈夫さ。」

 

「な、何で私の名前がでてくるんだっ!?」

 

急に名前が出てきて吃驚している公孫瓚。

 

「だから、わざわざ俺に礼を言いに来てくれてるんだろう?

一角の太守が、わざわざ俺みたいな流れの将に礼をする事なんて少ないだろ。」

 

「まぁ、桃香は私にとっちゃ、

手の掛かる妹って感じだからな……」

 

「成る程。」

 

照れくさそうに話す公孫瓚を、微笑を浮かべながら見ている士郎。

 

「と、とりあえず用件はこんな所さ。

次会うまで元気でな!」

 

「ああ。またな。

桃香にもよろしく言っておいてくれ。」

 

士郎は去っていく公孫瓚を見送り、

再度帰りの荷造りに取り掛かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

数刻後、士郎たちが休憩を取っていると聖と水蓮が帰って来た。

 

「お帰り。ほら座って飲むといい。」

 

「あっ、ありがとう。士郎くん。」

 

士郎が淹れていたお茶を受け取り、座って飲み始める二人。

 

「それで、どうだったんですかっ?」

 

「はい……気になります……」

 

聖達は今回の乱の報酬を受け取りに行っていたのだ。

 

流石に客将の士郎や、日が浅い玖遠や援里は着いて行けなかったので、

興味津々である。

 

「うん。とりあえず、お城は要らなかったから辞退したよ。

それで宛は月ちゃんの所の張済さん。

許昌は月ちゃんの推薦で孔伷さんが統治することになったよ。」

 

「私達は何を貰ったんですかっ?」

 

玖遠が身を乗り出して聞いてくる。

 

「代わりにお金と兵糧を沢山貰ったよ~

この乱で、荊州に人が沢山流れて来てるから、

増築しないといけないからね。」

 

「そうなんですか……

これから忙しくなるんですねっ……」

 

「そうね。

荊州に帰ったら忙しくなるわね。」

 

玖遠も言葉に、水蓮も困ったような顔を浮かべて話す。

 

「とりあえず帰る準備からだな。」

 

「うん。

途中までは月ちゃん達と一緒だから、急いで準備しよう!」

 

パンパンと、聖は手を叩いて帰る準備を急ぐように促した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これで準備は出来たな。」

 

士郎が、自分の荷物を馬車に乗せ、

ロープで固定しながら呟く。

 

「ちょっとっ!乱暴にしないでよねっ!」

 

縛っている荷台には、荷物しか載せてない筈なのに、何故か声が聞こえる。

 

「姉さん、喋っちゃ駄目。」

 

「けど、あの馬鹿士郎が……」

 

「駄目だよそんな事言っちゃ。私達の為にしてくれてるんだから。」

 

「そうだけどぉ……」

 

士郎が固定している荷台の中から、賑やかな三姉妹の声が聞こえてきており、

三姉妹は、荷物同士の隙間に寄り添うように座っていた。

 

「この扱いは酷いわよ!」

 

地和の意見も最もだが、まだ黄巾党は完全には収まった訳ではない。

 

もし、この三人が見つかって、下手な騒ぎになったら危ないので、

こうして荷台に隠れてもらっているのだった。

 

「荊州まではちょっと遠いけど、我慢してくれ。」

 

「はい。よろしくね~」

 

士郎に返事を返す天和。

 

すると、玖遠が近付いてきた。

 

「士郎さんっ、もうそろそろ出発みたいですっ。

準備の方は大丈夫ですかっ?」

 

「ああ。こっちはもう終わったよ。」

 

「じゃあ聖様の所へいきましょうっ。」

 

そう言って士郎たちは聖達の所へ移動する。

 

士郎たちが聖の所へ来ると、

其処には、麗羽たちが来ていた。

 

「あら、貴方は……

確かお茶を入れるのが旨い人ですわね。」

 

変な覚えられ方をしている士郎。

 

「士郎さんですよ。

名前で呼びましょうよ麗羽さま……」

 

「相変わらず斗詩は固いなあ斗詩は。

……胸はこんなに柔らかいのに。」

 

そう言って、斗詩の胸を後ろから鷲掴みにする猪々子。

 

「きゃあああっ!!

文ちゃんっ!なにするのよう!?」

 

顔を真っ赤に染め、しゃがみ込む斗詩。

 

「あははははははっ。やっぱり斗詩は可愛いなあ。

しろーもそう思うだろ。」

 

「まぁ、可愛いけど……

やってる事はあれだな……」

 

急に猪々子に話しかけられた士郎が答える。

 

「もうっ!なに言ってるのよ文ちゃんっ!!」

 

立ち上がって、猪々子をポコポコと叩き始める斗詩。

 

「に、賑やかだね……」

 

聖は苦笑いを浮かべながら、その様子を見ている。

 

「ちょっと、猪々子さん、斗詩さん、静かにしてくださいな!

お話が出来ないじゃありませんかっ。」

 

「すみません……」

 

「ごめんなー姫。」

 

麗羽に怒られ静かになる二人。

 

「それで、聖さんはこれから如何するのかしら?」

 

「結構無理言って進んできたからね、

荊州に帰るよ~。

麗羽ちゃんは確か、司隷校尉だったよね?」

 

「ええ。そうですけど、もう飽きましたわ。

十常侍があれこれ五月蝿いんですもの。」

 

怒りながら話す麗羽。

 

「まぁ、この戦での華麗な戦いで功をあげましたから、

冀州の方で太守を努める事になりましたわ。」

 

急に態度が変わり、自信満々に話す麗羽。

 

「それって、左遷されたんじゃ……」

 

「残念な……性格してます……」

 

「しっ!言っちゃ駄目よ!本人気づいてないんだから。」

 

その様子を見て、ヒソヒソと話す士郎、援里、水蓮の三人。

 

「そっか、大分離れるんだね……

寂しくなるね。」

 

少し悲しそうにしている聖。

 

「おーっほっほっほっ。大丈夫ですわよ聖さん。

荊州にもこのわ・た・く・しの名が響く位は活躍しますわよ!」

 

「そうそう。姫ならそれ位朝飯まえだって。」

 

「はぁ……また私の苦労が増えるよう…………」

 

斗詩は困った顔をしているが、それに気づいてない二人。

 

「さぁ。そうと決まれば急いで冀州に向かいますわよ。

聖さん、わたくしはこれで失礼しますわ。」

 

クルリと聖に背を向ける麗羽。

 

「猪々子さん、斗詩さんっ、行きますわよ。」

 

「はーーいっ」

 

「はい。」

 

そうして去っていく麗羽たち。

 

「なんていうか……前向きだな……

 

「悪い人じゃないいんだよ?」

 

思わず呟いた士郎に答える聖。

 

「さあっ、私たちも出発しようっ。」

 

聖の声を合図に士郎たちも月たちと合流し、濮陽を出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不謹慎やけどな、今回の戦はむっちゃ楽しかったわ。」

 

馬車を引く士郎の横にいた霞が呟く。

 

「士郎たちと一緒におったんはそんなに長ないんやけど……

なんかそんな気がせえへんわ。」

 

「ああ。俺も長年の相棒みたいな感じがしてたよ。」

 

笑いながら話す霞に、士郎も笑みを浮かべて答える。

 

「う……その顔はズルイわ……」

 

「なにがさ?」

 

急にしおらしくなる霞。

 

「あ~あ。士郎はほんまにずるいわ。」

 

「だからなにがさ……」

 

よく分かってない士郎は困った顔を浮かべている。

 

そうしていると誰かが近付いて来る。

 

「あの……如何したんですか?」

 

「月やん。如何したん?」

 

「月が士郎に話があるって言ってたのよ。」

 

近付いてきたのは月と詠の二人だった。

 

「俺に?」

 

士郎の方に目を向ける月。

 

「はい。確か、士郎さんは聖さんの客将でしたよね?」

 

「ああ。そうだけど。」

 

すると、月は少し間を置き……

 

「あのっ、でしたら……

私たちと一緒に来ませんかっ!」

 

月の爆弾発言に一瞬フリーズする。

 

「だ、だめよっ!月に何するか分からないじゃないっ!」

 

「ええやんっ。ウチ士郎に負けっぱなしやし、

それならこれからも競い合えるやん。」

 

「お、俺が?」

 

士郎の言葉にコクリと頷く月。

 

「はい……士郎さんって強くて、頭も良いですし……

…………それに、士郎さんといると、とっても安心出来るんですっ……」

 

顔を赤く染めながら、ゆっくりと、しかしはっきりと理由を話す月。

 

「俺はそんなに強くは……」

 

無いと言おうとすると、

 

「大丈夫…………士郎は、強い。」

 

横から恋が話に入ってきた。

 

「……あそこまで……戦ったのは……初めて。」

 

「そやで。士郎が弱かったら、ウチはどないなんねん。」

 

恋の言葉に賛同する霞。

 

「どう、ですか……?」

 

恐る恐る聞いてくる月。

 

士郎は、笑みを浮かべて月の頭に手を乗せる。

 

「そう言ってもらえるのは、とても嬉しい。」

 

士郎の言葉に笑みを浮かべる月。

 

「……だけど、俺は聖が目指す国を見てみたいんだ。

だから……一緒には、行けない。」

 

「……そう、ですか……」

 

悲しそうに呟く月。

 

「その代わりだけど……これを持っていて欲しい。」

 

士郎が差し出したのは、小さい剣が付いたネックレス。

 

「これって、士郎が持っとる剣の片方やん。」

 

付いてる剣は陰剣・莫耶を小さくしたもの。

 

「綺麗……」

 

ネックレスを見て、思わず呟く月。

 

「お守り代わりに持っていて欲しい。」

 

「……はい。士郎さんに断られたのは残念ですけど…………

有難う御座います。大事にしますね。」

 

そう言ってつけようとするが、うまく行かない。

 

士郎が作ったのは現代と同じ造りの為、

この時代の人たちでは、構造が分からないのでうまく付けられないのだ。

 

「ちょっといいか。」

 

月の後ろに周り、首筋に手を触れる。

 

「ひゃんっ!?」

 

思わず声が漏れる月。

 

「アンタっ!なにしてるのよっ!!」

 

「し、しょうないだろっ。どうしても手が当たるんだよっ。」

 

「あ、あの……あ、あんまり動かされると……」

 

騒ぐ二人に困る月。

 

四苦八苦したが、何とか付けることが出来た。

 

月の胸元には綺麗な陰剣・莫耶が光る。

 

「ええなぁ~~~士郎~~~ウチにも無いん?」

 

「これ一つしか準備出来なかったんだよ……

また何処かで埋め合わせするから。」

 

士郎がそう言うと。

 

「ほんまに!約束やでっ!」

 

その言葉を聞いて喜ぶ霞。

 

士郎は苦笑いを浮かべながら、陳留を越え、南下して行く。

 

本当なら、そのまま南下せずに洛陽へ向かった方が月たちは近いのだが、

新しく宛を統治する張済を配属させる為に、一緒に南下していった。

 

その宛で、月たちとは別れる事になる。

 

「皆さんのお蔭で、この乱を乗り越えることが出来ました・・・・

本当に有難う御座います。」

 

ペコリとお辞儀をしながら聖たちに挨拶する月。

 

「そんな事ないですよっ。

私たちこそ、色々迷惑掛けましたし。」

 

慌てて答える聖。

 

「いやいや、そんな事無いわ。

こっちなんか訓練場で漏らした奴がおるんやし・・・・」

 

霞がそう答えると、いきなり大斧が襲い掛かってくる。

 

「うわっ!!」

 

「だ・ま・れ・っ!!誰のせいだと思ってるんだっ!」

 

「ちょっ……元々自分のせいやったやろ。」

 

ブンブンと振り回し続ける藍。

 

「はいはい。このままじゃ、お話が続きませんよ~?」

 

見かねた弧白が止めに入る。

 

「と、とりあえず、これでお別れですが、

交易なんかは続けていきたいと思っていますので……宜しくお願いします。」

 

「うん。こっちからお願いしたい位だよ。

じゃあ、そろそろ行くね。」

 

そう言って聖たちは出発して行く。

 

「お元気でーーー」

 

「次は負けへんでーーー」

 

背中に月たちの声を浴びながら、聖たちは新野に向かって行った…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドナドナドナド~ナ、子牛を乗せて~」

 

士郎が運んでいる、荷馬車の荷台の中から不吉な歌が聞こえる。

 

「ドナドナドナド~ナ、荷馬車がゆれる~」

 

「……その歌を何処で知ったんだ……」

 

思わず荷台の中に居る天和に話しかける士郎。

 

「今作ったんだよ~~~

なんか頭の中に浮かんできたんだ~。」

 

すごくいたたまれない気持ちになりながら士郎は進んでいく。

 

「早く行こう……」

 

新野はもう目前にある。

兵士達も、自然と進むスピードが上がっていった。




少し急ぎ足ですが、聖たちが帰還しました。

ここからは襄陽でのお話が少し続いてから、
次の章に移りたいと思います。

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