聖たちが新野に着くと、民衆から盛大な歓迎を受ける。
「お帰りなさいーーー劉表さまーーーー」
「蔡瑁さまーーーこっち向いてくださーーーーーい」
聖は男女共に人気があるが、水蓮は女性からの人気が凄い。
にこやかに手を振っている聖と違い、
水蓮は恥ずかしそうにしながら声援に答えていた。
「李厳ちゃんーーーお疲れーーーー」
中には、時々玖遠にも呼びかけがあり
ニコニコしながら手を振っている。
「ふわーーーーすごい人気だねーーーー」
「うん・・・・ちぃたちでも、
こんなに盛り上がるのは中々ないよ・・・・」
「一国の太守なのに・・・・・こんなに人気なの・・・・・」
天和たち三姉妹はその人気に呆気に取られている。
「いつもこんな感じなのか?」
士郎は傍にいた援里に聞いてみる。
「そうですね・・・・遠征から・・・・帰った時は・・・・・
いつも・・・・こんな感じです・・・」
士郎はもう一度民衆を見渡す。
皆満面の笑みを浮かべており、心の底から喜んでいる様子が見て分かった。
「・・・愛されてるんだな。」
「はい・・・この国は・・・よそ者でも・・・気にせず受け入れますし・・・・・
戦いも・・・専守防衛に徹してますから・・・・民からの・・・・
人気があるんです・・・・・」
「それに、聖の性格もあるんだろうな。」
士郎の言葉にコクリと頷く援里。
士郎たちは、そのまま聖たちを見続ける。
聖たちはそのまま民と交流した後、新野の城に入って行った・・・・
「みんな元気そうで良かったよ~」
「ええ。戦続きだったから心配してたんだけど・・・」
士郎たちはすでに卓に着いており、
後からきた聖たちも、話ながら座る。
新野には黄巾の乱から逃げてきた人たちが沢山来ており、
居住場所や、仕事などが全く足りていない状況である。
聖たちはそんな街の様子を心配していたのだが、
街の皆の様子を見て少し安堵していた。
「でも・・・このままじゃ不味いですよねっ。」
玖遠の言葉に全員が頷く。
「でも、お金なら沢山貰ってきたから大丈夫だよ!」
その様子を見て、自信満々に答える聖。
「この為に・・・・沢山貰ってましたからね・・・・・」
「うんっ。じゃあ早速・・・・」
「駄目よ!先ずは蓬梅たちと相談してから。」
仕事の依頼書を出そうとした聖を、水蓮が止める。
「それに、天和たちが歌う場所も考えなきゃいけないからな。」
士郎の発言に水蓮が頷く。
「じゃあ一旦襄陽に移動しますかっ?」
「分かったよう・・・・・
じゃあ兵士を此処に何人か置いて、治安維持に努めて貰うね。」
渋々聖は納得し、再度士郎たちは襄陽に向かって移動していった。
士郎たちは襄陽に到着し、新野の時と同じように民衆の中を進み、城に向かう。
「帰ってきたのは久しぶりだよ~」
聖がそう言いながら門を開けると、誰かが飛び出してきた。
「お帰りなさいです。」
「お帰り~~~~っ!」
白い髪をした少女二人が、聖に抱きついている。
「遅かったから心配してたんだからっ!」
「そうです。罰として一緒に寝るです。」
怒涛の勢いで聖に話しかけている。
「この姉妹は・・・聖は疲れてるんだから早く離れなさいっ!」
水蓮が見かねて、その二人を注意するが、
「うっさいわね大根。
ずっと一緒にいたから良いでしょっ!」
「そうです。
それに疲れてるんなら、早く一緒に寝るです。」
聞く耳持たないと言った感じの二人。
その様子を見ていた他のメンバーは呆気に取られている。
「個性的な人だねぇ~~~」
「姉さんが言っちゃダメでしょ・・・」
天和に突っ込む地和。
「ほ、蓬梅ちゃん、鈴梅ちゃんっ、
とりあえず新しく仲間になった人も居るから、
中に入って自己紹介しようよう。」
「それもそうね。じゃあ行きましょう聖さまっ!」
「そうです。」
姉妹が聖の手を片手ずつ手に取り引っ張って行く。
「わ、わ、わっ・・・引っ張らないでぇ~~~」
「・・・・私達も・・・・行きますか?・・・・」
「そうだよな・・・・」
援里の言葉に頷いた士郎たちは、
聖たちを追うようにして城内に入っていった・・・・・
「私は嫌よっ!」
室内に響くのは鈴梅の声。
全員が自己紹介をし、士郎も仲間に居ることを知った鈴梅が反対していたのだった。
「私もいやです。」
姉の蓬梅もそれに反対していた。
「水蓮は反対じゃないのっ!?」
鈴梅が水蓮を問い詰める。
「まぁ、聖に悪影響が出たら困るけど・・・・・
聖が自分から勧誘したし、士郎自信も強いし、私も学ぶ事が沢山あったからね。」
「むーーーっ!!!」
それを聞いてむすっとしている鈴梅。
「今まで私たち四人でやってきたです。
玖遠は前から知ってますし、援里も水鏡先生からの推薦があるんなら別にいいです。
けど、男が入るのはいやです。」
士郎に言い放つ蓬梅、
今まで四人でやって来れた自信もあるのだろう。
沈黙する皆。
その空気を振り払うかのように聖が話し出す。
「うん。今までは大丈夫だったよね・・・・
けど、これからもっと忙しくなって来ると思うんだ」
「「・・・・・・・・・」」
聖の言葉を聞いて沈黙する二人。
「今新野には沢山の人が流れてきてるし、
朝廷も宦官たちが専横してる」
「袁紹さんも、そんな事言ってましたねっ。」
玖遠の言葉に頷く聖。
「私は皆を守りたい。
全員は無理でも、せめてこの国に居る人たちだけは絶対に」
そのまま士郎に目を向ける。
「でも、私に力を貸してくれる人が増えたら、
もっと沢山の人たちを助ける事が出来るんと思うんだ。
だから、お願いっ!」
深々と頭を下げる聖。
「けど・・・・・」
それでも何か言おうとする鈴梅だったが・・・・・
「蓬梅、鈴梅っ!!」
急に倒れる二人。
慌てて水蓮が抱きとめる。
「これは・・・すごい熱・・・・・」
二人に添えた手から伝わってくる熱を感じ、思わず呟く。
「っ・・・・急いで医務室へ連れて行った方がいい。」
士郎の言葉にはっと顔を上げた水蓮と聖は、二人を担いで急いで医務室に連れて行った。
医務室から聖が出てくる。
「どうだったんだ?」
心配そうに水蓮が問いかける。
「うん。疲労が溜まってたみたい。
最初私が触ったときは何とも思わなかったのに・・・・・」
自分が見過ごしてしまった事に罪悪感を感じているんだろう。
聖は落ち込んだ様子でポツポツと話し出す。
「ここ最近は、私と水蓮ちゃんがいなかったし、
長沙の方でも反乱があったみたいで、
その対応や政務でまともに休んでなかったみたい・・・・・」
「そうだったのね・・・・・」
「お医者さんの話じゃ、数日休んでれば良くなるみたいだけど・・・・・・」
蓬梅、鈴梅が動けないとなると、確実に政務が滞る。
蒯姉妹の政治能力は聖たちの中でも群を抜いているのだ。
思わず悩みこむ聖と水蓮。
すると、
「聖、俺に政務を教えてくれ。」
「えっ!?」
士郎の提案に思わず驚く聖。
「私もお手伝いしますっ!」
「私も・・・・政務なら・・・手伝えます・・・・」
「玖遠・・・・援里・・・・・」
「はい、は~いっ!わたしも手伝うよ~」
「だったらちぃも手伝うわよ。」
「姉さん達よりは出来ると思うし、私も手伝うわ。」
玖遠と援里が水蓮に協力を申し出て、
張三姉妹もそれに参加する。
「みんな・・・・有難う・・・・」
その様子を見て思わず涙ぐむ聖。
「仲間なんだから困った時に手を貸すのは当たり前だろ。」
士郎の言葉に皆が頷く。
「うん。じゃあ・・・頑張ろーーーっ。」
こうしてバタバタと忙しい政務が始まった・・・・・・
――――――数日後――――――
「うん・・・・・・・」
太陽の光に刺激され、鈴梅が目を覚ます。
「ここは・・・・・」
キョロキョロと寝ぼけたままの頭で周りを見回す。
どうやら医務室のようだが、記憶がはっきりしていない。
すると、直ぐ横で寝ている自分の姉を見つけたので、軽く揺すって起す。
「あれ・・・どうしたんです・・・・・?」
蓬梅も妹の鈴梅と同じくぼんやりしていたが、
「・・・・そう言えば・・・・あの男はどうなったんです?」
蓬梅の発言にハッとする鈴梅。
慌てて寝具から降りようとすると・・・・・
「あっ・・・・・」
丁度部屋に入ってきた聖と目が合う。
「良かったよう~~~目が覚めたんだね・・・・・・」
そのまま部屋に入ってきた聖に抱きしめられる二人。
久しぶりに嗅ぐ聖の香りに、思わず脱力する。
「ごめんね・・・・私の我が侭でこんなになっちゃって・・・」
その体勢のまま誤る聖。
「でも・・・体調が悪いんなら無理しちゃ駄目だよ・・・・
とっても心配したんだがら・・・・・」
聖の言葉に二人は言葉を返そうとするが、
聖にさらに強く抱きしめられ、何も言えなくなる。
「ごめんなさい・・・・・」
「ごめんなさいです。」
その言葉を聞いた聖は笑みを浮かべ。
「お医者さんから食事はして良いって聞いてたから持ってきたんだ。
食べれる?」
聖が差し出したお盆の上には卵粥と飲み物が二人分乗っていた。
倒れてからまともに食事をしてなかった二人は、
それから漂ってくる匂いに逆らうことが出来なかった。
「「美味しい・・・」」
その味に思わず呟く二人。
そのまま無我夢中で食べる二人。
病み上がりの人が食べやすいように熱すぎず、
味も薄味だが、飽きないようにしっかりと味がついている。
卵も半熟に仕上がっており、消化しやすくしてある。
飲み物の方も、甘いのか塩が入っているのか分からない
不思議な味だったが、決して不味くは無かった。
食事を終え、落ち着く二人。
すると、急に鈴梅が起き上がる。
「そういえば、政務はどうなったの!?」
「どれ位寝ていたのかは分かりませんです。
けど、早くしないと、間に合わなくなるです・・・・」
それに続いて蓬梅も起き上がるが、
「大丈夫だよう。
皆が協力してくれてるから。」
「みんなって・・・・・アイツも!?」
「うん。
それでね、士郎くんたちの仕事を見て欲しいんだ。
・・・・きっと分かると思うから。」
聖に言われ静かになる二人。
「・・・・わかったです。
じゃあ、早速行くです。」
そう言って、聖たちは政務室に向かって行った。
政務室のドアを開けた蓬梅と鈴梅が目にしたのは・・・・戦場だった。
山のように積まれた木簡や紙の中で援里と人和が書類に目を通しており、
それを天和と地和が運んでいた。
「ちぃ、さっきから運ぶばっかしなんだけどっ!」
「姉さん達に政務が出来るわけないでしょう。」
「適材・・・・適所です・・・・・」
文句を言いながら運び続ける地和と、飽きた顔をしている天和。
「もう飽きたよ・・・・
・・・・そうだっ!歌って皆を応援するよ~」
「ちぃもその方がいいっ!」
天和と一緒に歌おうとする地和。
だが、
「ね・え・さ・ん」
怖い顔を浮かべた人和にじと目で睨まれる。
「「ごめんなさい・・・・」」
その後は大人しく作業を続ける二人だった・・・・
そして他の場所では、玖遠が水蓮と一緒に作業を行っていた。
「玖遠っ、兵糧の数量が間違えてるわよ。」
水蓮が玖遠に木簡を返す。
「あれっ?ほんとですっ」
玖遠は返された木簡を見ながら呟く。
「う~ん、よく分からないですけど、
兵糧関係の仕事は上手く出来ませんねっ?」
「確かにさっきから失敗するの兵糧関係の物ばかりね。
とりあえずそれは私がしておくから、他のをお願いできる?」
「はいですっ。」
もともと政治能力は高かったのだろう。
変な所はあったが、玖遠も順調に作業をこなしている。
そして、最後に残った士郎は・・・・・
「この木簡はあっちに纏めて置くといい。・
・・・・それはこの箱の中に入れておけ。
後で分かりやすいように、外にも何なのか書いておけ。
・・・・そこは通路だからな。木簡を置くなよ。」
全体の様子を見て、作業しやすいように指示を出している。
未来での作業効率をあげる方法を幾つか知っている為、
士郎のおかげで文官達も、最大限に力を発揮することが出来るのだった。
「凄い・・・・・」
それは、普段からその仕事をしている蓬梅、鈴梅2とっては
尚更凄いことだというのが分かる。
「・・・・・向朗、ちょっと来てくれるです?」
蓬梅が目の前を通りかかった、おかっぱ頭で眼鏡をかけた女性を呼び止める。
「あれ~~~~蓬梅さまじゃないですか。
ちっちゃいのに無理するから倒れるんですよ。大丈夫なんですか?」
「うっさいです。
それより、あの男はどんな感じです?ちゃんと仕事してます?」
蓬梅の質問に向朗は「う~~ん」と考え、
「一緒に仕事してると、かな~~りやりやすいですね。
失敗も最初の方はともかく、慣れてからは全くありませんし。」
「そうですか・・・・・もういいです。」
向朗は蓬梅に「は~い。あんまり無茶したら駄目ですよ~」
と答え、作業に戻っていった。
「「・・・・・・・・」」
蓬梅と鈴梅は何か考えている。
認めたくないが、士郎の事を評価しなくてはならないのを考えているんだろう。
そんな二人の様子を見ている聖。
「・・・・・さっき蓬梅ちゃん、鈴梅ちゃんが食べた粥、
士郎くんが作ったんだよ。」
「えっ!?」と驚いた顔をしている二人。
「病み上がりでも、しっかり食べれるようにって。
飲み物も、体が吸収しやすいようになんか混ぜてたしね。」
二人が思い出すのは先程の食事。
そのまま二人は仕事を続ける士郎たちを見ていた・・・・・・・・
「終わったーーーーーっ!」
背筋を伸ばしながら叫ぶのは地和。
それにつられて他の皆も思い思いに体を休める。
士郎も同じく作業を終わらせ、お茶に手を伸ばそうとすると、誰かが近付いて来る。
「・・・・もう体の方は大丈夫か?」
士郎の問い掛けに、近付いてきた蓬梅と鈴梅はコクリと頷く。
士郎がそのまま言葉を続けようとすると、鈴梅に遮られる。
「あんたに借りが出来たわ。
・・・・・だから、しょうがないけど、聖も悲しむし・・・・・
仲間として・・・・認めてあげる・・・・・」
「しかたないです。本当にしかたないですけど、認めるです。」
聖はその言葉を聞いてとても嬉しそうな顔をしている。
「・・・そうか・・・ありがとう。
これから同じ仲間として宜しく頼む。」
士郎は二人に頭を下げながら答える。
「一応認めたしね・・・鈴梅よ。」
「私は蓬梅です。しかたありませんが宜しくです。」
蒯姉妹に認められ、正式?に劉表軍の仲間入りをした士郎だった・・・・
向朗はゲームで言えばモブキャラです。
なので真名も考えてません。
偶に出てくる事があるかもしれません。