真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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1章 出会い
1-1 襄陽での出会い


目が光に焼かれ、視界が真っ白になる。

 

「・・・っ」

 

目を閉じ、しばらくの間光を耐え、ゆっくりと目を開けると・・・

 

「ここは・・・?」

 

周りにはところどころに草が生えた茶色の荒野が広がり、

遠くには縦に長い中国の古い絵にでてくるような山々が見えた。

 

「中国・・・になるのか?一応中国語はできるけど。」

 

正義の味方として世界中を飛び回っていた時に、

言語が通じなければ守るべき人達に誤解される事があるので、

一通りの言語はマスターしていた。

 

「とりあえずは人がいる所を探すか。宝石翁が言っていた協力者も気になるけど・・・」

 

士郎が転移してきた時に自分の持ち物を確認すると、

幾つかの宝石と共に手紙がはいっており、手紙には

 

『お前を転移するのは連絡しておるから、

向こうからアクセスが無い間は好きにするといい。

後、トオサカからの宝石も渡しておく。

魔力が入っているのもあるから、好きに使うとええ』

 

と言う内容のだった為、

 

「まずは情報収集と生活基盤の確保の方が先決だな。」

 

そう言って、視力を「強化」する。

 

すると遠くの方に建造物らしきものが見えたので、脚を「強化」して移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

軽く息をつき、目の前にある門を見上げる。

その門の上にはこう書かれていた。

 

「襄陽」

 

「襄陽って事はここは中国で間違いなさそうだな。

でもこの城壁の作りからすると大分過去みたいだな。」

 

そう言って軽く城壁を触る。

材質は石。しかし所々隙間があったりして、お世辞にも技術が高いとは言えない。

 

「とりあえず入ってみるか。」

 

門兵に怪しまれないように城壁のチェックをきりあげ、町の中に入っていった。

 

 

 

 

中に入り少し歩けばすぐに大きな通りに出る。

 

「凄いな・・・」

 

中はまさに人、人、人ばかり。

この街がいかに栄えているのかが一目で解る光景が広がっていた。

 

(襄陽といえば昔から交通の拠点として有名だからな。

三国時代も三国が交錯する点は襄陽あたりだったしな)

 

と、考えながら歩いていくとちょうど昼時なのだろう、

あちこちから美味しそうな匂いが漂ってきた。

 

(そういえばまともな食事をここ最近とっていなかったな。

いくつか魔力が無い宝石もあるし、さっき貴金属店を覗いた感じでは、

ここでも宝石それなりの価値がありそうだし)

 

「よし、どうせなら一番人気の店に行ってみよう。」

と、内心では「この時代での料理のレベルはどれくらいなんだ」

という料理人としての好奇心が抑え切れないまま店捜しを始めた。

 

 

 

 

長い列を待ち店に入り、いくつかの料理を頼む。

 

「ふむ・・・」

 

確かに美味しい。しかし・・・

 

(俺の方が上だなぁ)

 

それもそうだ。

 

料理の調理方も時代がたつにつれ、様々な手法が発見される。

 

未来からきた士郎の方が上手いのは当然であった。

 

(それでも、これだけのレベルの物を出せるのは流石だな)

 

などと一人で料理の事を考えていると・・・

 

「食い逃げだっ!」

 

一人の人相が悪い男が士郎の側を駆け抜けようとした。

 

「ふっ!」

 

静かに立ち上がった士郎は、走って来た男の脚を引っ掛け、

そのまま左手を臍の下、右手を後頭部に乗せてつんのめった男を空中で回転させる。

 

そして背中から埃がたたないよう静かに降ろし、

そのまま仰向けになった男を上から拘束する。

 

「すげえ・・・」

 

「なに!なんなの今の!」

 

周りにいる他の客達が騒ぐ中、怒りと羞恥に顔を真っ赤にした男は、

 

「ちくしょう、はなせっ!」

 

と、もがき暴れる男。

 

それを見ている士郎は、

 

「静かにしたまえ。貴様が暴れるせいで埃がたち、料理が台なしになる。

それに食い逃げなど料理人として許されざる行為だ。神妙に縄につくがいい。」

 

と、少しアーチャーっぽい感じで言い放った。

 

まぁ料理人というわけでも無いし、士郎も大分暴れている気がするが、

他の客達は皆士郎に拍手を贈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

兵士が来て男が連行されていき士郎が店主から感謝されていると、

一人の女性が近づいて来る。

 

背は士郎より低く少し青みがかかった、

肩と腰の間まで伸ばした真っ直ぐな髪をさらさら揺らしながら。

 

「旅人さん、さっきのどーやったんですか?凄いですねー」

 

と、穏やかな。しかし力強い意思を持っている目で士郎を見ながら話しかけてくる。

 

「君は・・・?」

 

「あっ、名前を言ってませんでしたね。私は劉表(りゅうひょう)景升(けいしょう)

と言います。ここの大守をしています。」

 

(劉表が大守ということは漢後期で間違いなさそうだな)

 

「大守様でしたか。私は衛宮 士郎といいます。」

 

「たいしたことじゃ無いですよ。突っ込んでくる勢いを利用して倒しただけですから。」

 

「でも、私は見たことありませんよ−」

 

「この国には無い武術ですからね。此処では珍しいと思いますよ。」

 

先程士郎が使ったのは合気道による体制崩しの後、柔術の拘束。

どちらも日本で発展した武術である為、中国の人が見た事が無いのは当然である。

 

「と、言う事は外国の方なんですか?」

 

「ここより更に東にある海を越えた国が故郷ですね。

まぁ今まで様々な国を旅してきましたから。」

 

すると劉表は目を輝かせながら、

 

「そうなんですか!外国ってどんな所なんですか?

私が行った事ある所って益州や洛陽位しかありませんから、凄く興味があるんです。」

 

と、興味津々に聞いてくる。

 

「それでもこの街ほど栄えている所は早々ないですよ。」

 

「そう言って貰えると嬉しいですねー」

 

話が段々盛り上がってきて、士郎にも興味をもった劉表は、

 

「そうだ!今から宮城に来ませんか?いろいろ聞いてみたいんです。」

 

と、士郎を誘おうとするが、一人の女性が近づきながら話かけてくる。

怒りのオーラを撒き散らしながら・・・

 

「劉表様〜〜〜何をしているんですか〜〜」

ぎろりと、少し怒った目で問い掛ける。

 

その目に少し怯みながら、

「うっ・・・水蓮ちゃん・・・」

と、少し後ずさる。

 

「昼休みはとっくの前に終わりましたよ!さぁ政務に戻っていただきます!」

 

「実は〜〜この人と宮城でお話したいな〜なんて・・・」

 

「駄目です!ただでさえ最近、

黄巾党とか言う連中が暴れ始めてて物騒になってきてるのに!

何かあったらどうするんですか!さぁ、行きますよ!」

 

そう言って引き連られて行き、

 

「あ〜ん、士郎さ〜ん」

 

士郎の視界からフェードアウトしていった。

 

「・・・頑張れ。」

 

何故か疲れた士郎は、そう呟いて途中だった食事を再開した。

 

 

 

 

 

いろいろあったが食事を終え、勘定を払いに行く。

宝石を机の上に置き、

 

「これで大丈夫か?」

 

「宝石じゃねえか!十分過ぎな位だよ。」

 

と驚かれてしまった。

 

「兄ちゃん、下手にこういうモン見せたら、

ろくでもない奴らに狙われるから気をつけろよ。」

 

「お気遣い感謝します。」

 

と返事ついでに、先程の女性について聞いてみる。

 

「そういえば、先程来ていた女性ですが、あの人は?」

 

「ああ、劉表様と蔡瑁様か。

時々劉表様が飯食べに来て、

のんびりしている所を探しに来た蔡瑁様に連行されるんだよ。」

 

店主は笑いながら答える。

 

ふと、気になった事があるので、更に質問をする。

 

「蔡瑁様って劉表様に水蓮って呼ばれていた人ですよね?」

 

その言葉を聞いた店主は慌てて、

 

「おいおい、本人がいないからって、真名を呼んだら駄目だろう。」

 

しかし、怒られた士郎は?マークを浮かべてながら、

「真名って言うのは?」

 

「もしかして兄ちゃん外国の人だから、真名って知らないのかい?

それじゃ仕方ねぇな。

真名って言うのはその人の本当の名前さ。

自分自身が認めた人以外に教えたり、呼んでもらったりしたらいけない言葉なのさ。」

 

「そうなんですか・・・いや、助かりました。

間違いなくその事を知らなかったら、呼んでしまってました。」

 

おそらく蔡瑁となると将軍クラスの人物。

 

その人に無礼を働いたとなると、最悪殺される恐れもある。

 

「いろいろありがとうございます。料理、美味しかったです。」

 

「おう、兄ちゃんもありがとな。

最近、黄巾党とか言う連中が暴れてるから気をつけて旅を続けなよ。」

 

そう言って店主に別れを告げ、店を後にする。

 

 

 

士郎は歩きながら、今までの事を整理する。

 

(とりあえず今いる国と時代は分かったな。

中原の方が栄えているとは思うけど、

この街も荊州では最大の街だから此処を拠点にして動くか。

そういえば黄巾党の党首張角は太平要術の書を持っていたな。)

 

士郎の知っている三国志では、

張角は太平要術の書を使い、符水という水を病人に与え助けたという。

 

しかし、そのせいで信者が増え、

黄巾党として官軍と戦い始めたら、書を使い風雨を呼び、官軍を苦しめたらしい。

 

(宝石翁が言っていた、この世界の危機って言うのは、

間違いなく太平要術の書が関係してくるだろうな。

・・・最悪、黄巾党と戦う必要もあるか。)

 

士郎はまた人を殺す事を考え、少し暗くなる。

 

(オヤジなら割り切って殺せるんだろうな)

 

前に聞いた「魔術使い」衛宮切嗣の戦い。

小を殺し、大を救う。

マシーンの要にその作業を行ってきたオヤジなら、

この世界を守る為に黄巾党を鏖殺しにする事も厭わないだろう。

 

士郎自身も分かっている。誰も死なずに事を片付けるなど無理だと言う事は。

 

けれど・・・

 

(この世界を救う為に殺す。けど、極力その数は減らすように戦おう。)

 

そう考えて、直ぐに来るであろう戦いに向けて準備を開始した。




劉表(りゅうひょう) 景升(けいしょう)


真名 (ひじり)


襄陽大守

劉の名がついている為、同じ王の血筋である劉備と雰囲気、口調等がよく似ている。

文官としてはかなり優秀。補佐のカイ良、カイ越姉妹の三人が襄陽の政治を仕切っている。

また戦争は苦手だが、海戦でこちらが守備側ならば、倍近い人数で攻めて来た孫堅の攻撃を凌ぎきった事があった。

自分から攻めて行く事は、余程の理由が無い限りはしないが、攻めて来た場合はかなり容赦ない防撃を行う。

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