真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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3-5 崩御

――――――襄陽城 謁見の間――――――

 

一段高い所に椅子があり其処に聖が座っており、

目の前に片膝をついた紫苑がいた。

 

水蓮、蓬梅、鈴梅は聖の横に立っており、

士郎、玖遠、援里は紫苑の横に立っている。

 

「始めまして劉表さま。

長沙太守の妻、黄漢升と申します―――」

 

椅子に座ったままの聖の前で、恭しく頭を下げる紫苑。

 

「どうぞ頭を上げてください。

此度の乱鎮圧、ご苦労さまです。

貴女のお蔭で沢山の人の命が救われました。

本当に有難う御座います。」

 

普段とは違う、太守としての姿を見せ、

紫苑の労をねぎらう聖。

 

「報酬として、何か差し上げたいのですが・・・・・

何か望みの物はありますか?」

 

すると紫苑は顔を上げながら答える。

 

「でしたら・・・・

まずは長沙を始めとする、荊州の南部四郡の統治をお願いしたいのですが。」

 

『・・・・・・・・・』

 

沈黙する聖たち。

 

「ええっ!?本気で言ってるのっ!?」

 

直ぐに気付き、思わず驚いたのは鈴梅。

 

彼女が驚くのも無理は無い。

南部四郡はここ数年で急激に開発されてきた土地である。

 

前漢時代は四郡合わせて人口70万人だったのが、後漢では260万人と爆発的に人口が増えてきており、

土地もまだまだ未開発になっているので、

人材や資源など「色々」眠っている土地である。

 

またこの土地を入手すれば、漢水を挟んだ先にある江陵に資源や兵を送れるようになり、

防衛強化に繋がる。

 

そして最後に、劉表軍の将である黄祖が太守を努めている江夏の南、

長沙からは北東にあたる土地には「銅緑山」と呼ばれる、中国最大の銅鉱山が存在しており、

そこの開発、発掘に着手することができるようになる。

 

三国が対立していた時も、曹操が統治した魏のエリアには鉱山が殆ど無く、

この銅緑山から銅製品を輸入していていた事もあり、正に宝の山である。

 

「うん。私は賛成です。

鈴梅ちゃんはどうかな?」

 

劉表軍の政務を取り仕切っている鈴梅に問いかける聖。

 

「当然賛成です。直ぐにでも取り掛かるべきです。」

 

以前から軍を率いてでも入手するべきと考えていた鈴梅からすれば、まさに棚からぼた餅である。

 

「軍備の面から見ても、あの土地は手に入れたほうがいいですね。」

 

水軍都督の水蓮もそれに賛成する。

 

「それでは南部四郡の統治の件、確かに承りました。」

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

紫苑が聖に南部四郡それぞれの太守印を渡し、

南部四郡は劉表軍の土地となった。

 

その件が一段落したとき、聖が紫苑に話しかける。

 

「黄忠さん、此度の乱での活躍は聞いています。

それで・・・是非、私たちの仲間になって欲しいんですが・・・

如何でしょうか?」

 

それを聞いて、少し考える紫苑。

 

「・・・・・そうですね・・・・・

私は今までは長沙太守代行でした。

その長沙が劉表様の統治化になりましたので、臣下に加わるのが普通の流れですね。」

 

「よかった・・・」

 

「それに失礼ですが、私は劉表さまの事をよく知っておりません・・・・

ですので、それを知る為にも丁度いいですしね。」

 

「はい。もし、私に至らない所があれば仰って下さいね。

まだまだ皆がいないと何も出来ない非才の身ですし・・・・・」

 

「ふふっ。

はい。よろしくお願いしますね。

黄漢升――真名は紫苑です。」

 

「私の真名は聖。

よろしくお願いしますね~」

 

その後、他のメンバーも自己紹介をして、新しく紫苑が仲間に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――襄陽城 訓練場――――――

 

対峙しているのは紫苑と玖遠、

互いに得物である双剣「雲雀」と大弓「颶鵬」を構えて立っている。

 

紫苑の武将としての実力を見る為、

玖遠と戦う事になったのだ。

 

「はっ!!」

 

弓相手に距離を開けるのは危険と判断した玖遠が、

左手に短槍、右手に短剣を持ち、紫苑との距離を詰める。

 

途中、紫苑が放った数本の矢が体を掠めるが、強引に突破する。

 

「やああああッ!!」

 

距離を詰めれば此方のもの――――

 

そう言わんばかりに、右手の短剣で横薙ぎに切りかかる。

 

ブンッ!!!

 

紫苑はその一撃を慌てずに、半歩下がり避ける。

 

体勢を崩した玖遠を見て、再度、弓に矢を番え放とうとするが、

 

玖遠は右手の短剣を振り切った後、

そのまま左手に持った短槍と組み合わせ、双刃槍を作る。

 

「もらいましたッ!」

 

そのまま左から横薙ぎに切りかかる。

 

紫苑が再度距離を開けようとするが、

攻撃範囲が先程より倍近い範囲だった為、

紫苑は目測を誤り、回避が間に合わない。

 

その瞬間―――紫苑は気づく。

 

(成る程・・・体捌きと武器の組み替えで射程を変えているのね)

 

玖遠の戦法を判断した紫苑は、

そのまま弓の曲部で受け、流す。

 

「っ・・・・・!?」

 

力を込めていたせいか、そのまま武器と一緒に横に流される玖遠だが、

自分を中心にくるりと半回転し、紫苑に背中を向けたまま、反対側の刃で切りかかる。

 

が、その刃が紫苑に届く前に、紫苑の右手が玖遠の右手を押さえる。

 

「くうっ・・・・」

 

背面で右手を取られては、身動きが取れない。

 

見ていた聖や水蓮もこれで終わったと思った瞬間、

 

ガチリと、

玖遠は双刃槍の刃を取り外し、

右手はそのままで短剣を左手に持って紫苑に切りかかって行く。

 

『なっ!?』

 

聖や水蓮が驚いている中、背面に居る紫苑に向かって

左手に逆手で持った短剣を突くが。

 

「あれっ!?」

 

玖遠の戦法を見切っていた紫苑は、予め左足を下げていたので、

玖遠は誰もいない空間を短剣で突いてしまう。

 

「はッ!」

 

一瞬止まった玖遠の隙をついて紫苑が足払いをかけ、左手を捻り、

玖遠を仰向けに倒す。

 

「ふふっ。これで私の勝ちですわね。」

 

玖遠の顔に矢を突きつけながら言い放つ。

 

「きゅう~~~~~」

 

まぁ、玖遠自身は倒れたときに受身が取れなかったので目を回していたが・・・・・

 

「凄いわね・・・・玖遠に勝てるなんて相当物よ・・・・」

 

「はい・・・・霞さんと玖遠さんが最初戦った時は・・・・

玖遠さんが勝ちましたから・・・・・」

 

最もその後、玖遠は霞に四連敗し、

結局一勝四敗という結果になっているが・・・・

 

「恐らく玖遠の変則二刀に気がついたんだろう。

・・・弓使いだしな・・・観察力は相当なものだろう。」

 

「成る程ね・・・・まぁ伊達に歳とってないって事か・・・」

 

鈴梅がそう言った瞬間―――――

 

ダンッ!!!!

 

鈴梅の真横に矢が突き刺さる。

 

「あらあら♪手が滑ってしまいましたわ♪」

 

驚いて士郎に飛びついた鈴梅に、

ニコニコと黒いオーラを出しながら話しかける紫苑。

 

「き、きをつけなさいよっ!?」

 

鈴梅が紫苑に抗議するが、

怯えながら言っているので全く迫力が無い。

 

(やっぱり女性に歳の話は禁物だな)

 

そんな鈴梅を見て、以前の経験を生かしてわざと言わなかった士郎は、

ため息をつきながら安堵していたが、

 

「なんでため息ついてんのよ!」

 

鈴梅の怒りの矛先が士郎に向いてくる。

 

「しかも私にくっついてるしっ!!」

 

「いや、くっついてきたのはそっちの方・・・・」

 

「うるさいーーーアンタが全部悪いーーーっ」

 

鈴梅に理不尽に脛を蹴られている士郎を横目に、

他のメンバーは訓練場を後にした・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い数ね・・・・・」

 

思わず呟いた水蓮の目の前には、数千頭の馬がいる。

 

これらは月たちとの貿易で

遥か涼州から運ばれてきたので来たものである。

 

「お馬さん一杯いる~~~」

 

「ふふふっ。いたずらしちゃダメよ。」

 

「は~~い。お母さんっ。」

 

初めて馬を間近で見た璃々が興味津々に近付いて行き、

それを紫苑が見守っている。

 

「お兄ちゃんも一緒にいこうよっ。」

 

璃々にぐいぐい袖を引っ張られる士郎。

 

「ほら、怪我しないように気をつけるんだぞ。」

 

士郎も一緒に近付き、璃々を持ち上げ馬に乗せて遊んであげ、

紫苑はその様子を微笑みながら見ていた。

 

そうしていると、蓬梅と鈴梅がやってくる。

 

「数は五千頭ね・・・・・

馬の調教師にも来てもらってるから、案内してあげて。」

 

鈴梅に言われ、馬が連れられていく。

 

するとその様子を見ていた士郎が、調教師に声をかける。

 

「この馬の中から、特に体格と持久力が良い馬って選べるかな?」

 

「それは出来ますけど・・・・・」

 

「どうしたです?

何か良からぬ事考えてますです?」

 

直ぐ傍にいた蓬梅からあらぬ疑いをかけられる士郎。

 

「なんでさ・・・

ちょっとやってみたい事があってな。

うまく行けば切り札が出来るかもしれないな。」

 

「まぁ士郎が変態な事しなければいいです。」

 

「お母さん、へんたいってなに~~~」

 

「そうね・・・・璃々が大人になったら分かるわよ♪」

 

「うんーーー早くなるーーー」

 

何か変な会話が聞こえてきたが、

蓬梅の毒舌を耐えながら何とか了承をもらった士郎。

 

「ああ。有難う・・・・

そうだな・・・・五百頭は欲しいな。

身長は低くてもいいから、がっしりしていて、特に持久力が良いのを頼む。」

 

「十頭の中から一頭ずつ良い奴を選べば良いんですね・・・・

分かりました。

ただ持久力は走らせて見ないと分からないですし、数も数ですから。

時間は掛かりますが・・・」

 

「それなら大丈夫だ。

こっちの準備も時間がかかるし、焦ってもらわなくてもいい。」

 

そんな会話をしていると、伝令の兵が士郎たちの所にやってくる。

 

「士郎さまっ、劉表さまが『重要な報告があるので、全員帰ってきて欲しい』との事です。」

 

「分かった。

じゃ馬のことは頼んだ。」

 

そう言って士郎たちは城の方へ移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――襄陽城 会議室――――――

 

「これで全員集まったです。」

 

蓬梅が全員を見回す。

 

「まだグラグラするです~~っ」

 

玖遠は先程のダメージがまだ抜けてないのだろう。

頭をグラグラさせている。

 

「一名おかしいのがいますが続けますです。」

 

「酷いですっ!?」

 

玖遠の抗議を無視して話し出す蓬梅。

 

「皇帝の霊帝が崩御したみたです。

それで、その隙を狙って何進が十常侍を一掃しようとしたです。」

 

「あの~~~十常侍って何ですかっ?」

 

「宦官の中で特に力を持った人たちの事さ。

まぁ良い噂は聞かないけどな。」

 

「そうですね・・・・・暴利を民に課したり・・・・・賄賂が横行したり・・・・・

黄巾の乱が起きた・・・・・大本の原因かもしれないです。」

 

玖遠の疑問に士郎と援里が答える。

 

「話を戻します。

で、その事がばれてしまったみたいで、

逆に何進とその一族が殺されたみたいです。」

 

「そんな・・・・・・」

 

おもわず聖が呟く。

 

「その情報、信憑性はあるの?」

 

「董卓さまと交易する時に、密偵を何人か派遣して洛陽や長安を調べてたのよ。

それで、今回交易品と一緒に何人か帰ってきてもらったんだけど・・・・

本当みたいね。」

 

蓬梅の代わりに鈴梅が水蓮に答える。

 

何進は良い将軍では無かったが、

霊帝の親族である何進が軍務を取り仕切って十常侍と対立していた為、

十常侍は表立って大きな動きが出来ていなかった。

 

その何進と現皇帝が死んでしまった以上、

十常侍の専横は悪化するのは目に見えて分かっている。

 

戦乱の足音は、着実に士郎たちに近付いてきていた。


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