連合軍の会議室に各諸侯が集まって、これからの事の話し合いを始められていた。
劉表軍からは聖と水蓮が其処に参加しており、
他のメンバーは天幕の直ぐ外に待機している。
「さて、皆さん集まりましたわね。
始めて顔を会わせる人もいますし、まずは私から自己紹介から始めますわ。」
場を取り仕切っている麗羽から自己紹介を始める。
「私が!名門袁家の袁本初ですわっ。」
自信満々に言い切る麗羽。
「はぁ・・・・こいつはいつもこんな感じだから
ほっとくわよ。」
そんな麗羽の様子を見て言い放つ曹操。
とりあえず無視して話が進んで行く。
「私が陳留太守の曹孟徳よ。」
次は麗羽を挟んで曹操の反対に座っている、
軽鎧を着た女性だ。
「私は公孫瓚 伯珪だ。よろしくなっ。
それと・・・」
「劉玄徳です。よろしくね~~」
公孫瓚やその付き添いの桃香は士郎との面識はあるが、
聖と会ったのは始めてである。
聖にとっては幽州太守の公孫瓚より、
同じ劉性の桃香の方が気になっていた。
「やっぱり私の遠縁になるのかなぁ・・・・」
「自称してる人も多いし・・・・
判断しづらいわね。」
聖の呟きに答える水蓮。
そうしていると次の人に移って行く。
「西涼の馬騰の娘馬超だ。
母さんが体調を崩してるから、代理として来てるんだ。」
「へぇ・・・・貴女があの錦馬超ね。」
「そ、そんな錦馬超なんて凄くは・・・・」
曹操に言われた瞬間、照れ始める馬超。
「華琳さんっ!誘惑するのは終わってからにしてくださいます!?」
「あら。妬いてるの麗羽?」
「な、なにを仰ってるのかしらっ!?
この小娘っ・・・・・」
「あーーもうっ、会議が進まないだろっ!?
二人ともそこまでにしとけってーー」
二人の言い合いを見かねた公孫瓚が止めに入る。
「仕方ありませんわね・・・・
では次の人お願いしますわ。」
次の人は赤を基調とした服を着た女性二人だ。
前に座っている方は獰猛な目付きをしており、
後ろに立っている方は静かに目を閉じている。
「袁術の代わりで来た孫策よ。」
「その軍師の周瑜だ。」
孫策と周瑜が静かに挨拶する。
「美羽さんはどうしたんですの?」
「長旅で疲れたからめんどくさいと仰っていました。」
麗羽の質問に答える周瑜。
「まぁいいですわ。
あの小娘では袁家の名は重すぎますわ。」
そんな様子を見ながら、聖と水連が周りに聞こえないように話し出す。
「あの人が孫堅さんの娘・・・・・・」
「彼女からすれば私たちは親の仇になるから、
気をつけなきゃいけないわね・・・・・」
そうしているうちに他の諸侯も挨拶が終わり、
最後に聖たちの番が回ってくる。
「荊州牧の劉景升です。よろしくおねがいします~~」
「水軍都督の蔡徳珪です。」
聖が挨拶した瞬間、周りの諸侯の目が一斉に向けられる。
黄巾の際、月たちと一緒に行動していたのを各諸侯は知っており、
聖は「自分たちからは戦を仕掛けない」と言うのを言っているため、
疑惑の目が向けられているのだ。
「皆さん、聖さんは私の古い友人ですわ。
この度は私に協力して下さったから、ここに居るのですわっ。」
直ぐに麗羽からのフォローが入り、騒ぎにはなら無いですんだが、
まだ信用はされて無いようだ。
特に、孫策からの視線は凄まじい。
聖のことを目に焼き付けるように、
鋭い目でジロリと見てくる。
緊迫する空気の中、聖は真っ直ぐ前を見つめる。
そんな聖から孫策が目を離した所で、軍議が再開された。
「・・・・・これで自己紹介が終わりましたわね。
作戦を決める前に決めておく事があります。」
「なによ一体?」
曹操が頭に?マークを浮かべて質問する。
「それは・・・・この連合軍を率いる総大将を決める事ですわっ!!」
『・・・・・・はぁ?』
聖たちを除いた他のメンバーが皆、呆気に取られる。
「今、私達連合軍と董卓さんとではほぼ同じくらいの勢力ですわっ。
ならば後はい・か・に優秀な人がいるかで決まりますわっ!」
謎理論が発動する。
勿論他の諸侯は置いてけぼりである。
付き合いが長い聖も苦笑いを浮かべており、
曹操は「また始まった・・・」というような顔をしている。
「やっぱりそれなりの立場の人じゃ無ければいけませんわねっ」
長くなりそうな気がしてくる・・・・
「もう自分がしたいって言えよ・・・」と言う風な空気になるが、
麗羽がそんな空気を読めるはずも無い。
「・・・・・あれ?袁紹さんが総大将じゃないんですか?」
そんな空気の中、桃香が発言する。
「あら?やはりそう見えてしまいます?」
白々しく言い放つ。
「もう決まってると思ってたんですよ・・・・・
それだったら袁紹さんで良いんじゃないんですか?」
「そうですわね。
他の人はそれでいいですの?」
「別に良いわよ。」
「と、言うより代理で来てるから、決まった事連絡するだけだから別に良いけど・・・」
「異論は無いわ。」
というよりこの面子で「総大将やりたい!」
なんていうのは麗羽くらいである。
「決まりですわね♪
ではこの名門袁本初が連合軍の総大将を努めますわ。」
陣内に麗羽の高笑いが響き渡る。
『はぁ・・・・・』
他のメンバーがため息をついた所で、
次の話に移っていった・・・・・・・
「では、私たちはまず汜水関の攻略に取り掛かりますわ。」
洛陽に至る途中にある汜水関、虎牢関の二つの関。
この関を越えたら洛陽は制圧したも同然になる。
まずは汜水関の攻略の話からである。
「まず先陣ですが・・・・劉備さん。お願いしますわ。」
「・・・・・・えええええええっっっっっ!?」
麗羽の発言に驚く桃香。
「だ、だって私たちが連れてる兵が一番少ないんですよっ!?」
「ですが、私を責任重大な総大将に推薦したのは貴女じゃないですの?
だったら一緒に責任を負って欲しいですわ。」
無茶苦茶である。
だが、他の諸侯は口出しが出来ない、と言うよりはしない。
敵軍の情報を入手する為、誰かがを捨て石にするのは非常に効果的であるからだ。
それが連合軍の中で最も弱い勢力なら損害も最小限ですむ。
そう言う思惑があるから無言の肯定を示しているのだった・・・・
「ううっ・・・・」
言葉に詰まる桃香。
「心配なさらなくても、直ぐ後ろには私たちが控えていますわ。」
問題点は其処では無いのだが、
話が進み、決定して行く。
「じゃあお願いしますわ・・・・・・「ちょっといいかな?」
・・・・どうしたんですの聖さん?」
麗羽がそう言った瞬間、
聖が間に入る。
「やっぱり劉備さんの所だけじゃ数が少ないでしょ?
だから、私たちの軍も前線に加えて欲しいんだ。」
「私としては嬉しいですけど・・・他の人はそれでいいですの?」
他の諸侯にとっても、聖が戦う事で本当に仲間になるのかを見極める事が出来る為、
特に反対する人はいなかった。
「それでは劉備さん聖さん。
前線の方よろしくお願いしますわね♪」
そうして軍議は終わり、
各諸侯は各々の陣営に戻っていった・・・・・
軍議が終わり聖と水蓮は外に出て、士郎たちと合流しようと探していると、
背後から声をかけられる。
「貴女が劉表ね。」
「っ・・・孫策さん・・・・」
聖と水蓮が振り向くと、其処にいたのは先程視線を向けてきていた孫策と周瑜、
そして妙齢の女性の三人が立っていた。
「お母様の件では大変お世話になったわね。」
「仇討ちでもしにきたのかしら。」
水蓮が聖の前に出て牽制する。
「ここで騒ぎなんか起せるわけないでしょ。
・・・・やっぱり直に話しておかないと・・・って思ったのよ。」
スッ・・・と目を細めながら続ける孫策。
「どうしてこの連合に参加したのかしら?
貴女は確か他の国には攻め込まないんじゃないかしら。」
「・・・・・・・」
聖は答えられない。
聖が参加する大きな理由は、月の安否確認である。
ここでそれを話してしてまい、広まってしまうと、
連合内に不安が広がり、
最悪、他の全諸侯から攻撃される可能性があるからだ。
「今はまだ袁術の客将だけど、
独立した時には必ず・・・・・」
「なにをしているの。アンタは。」
不意に声を掛けられ、孫策が振り向くと、
其処には聖を探していた士郎たちがいた。
「・・・誰かしら?
貴女のような子供に知り合いは居ないんだけど。」
何か嫌な予感を感じた孫策は、声を掛けてきた鈴梅に向かって警戒気味に質問する。
「成人してるわよっっ!!」
子供扱いされ怒る鈴梅。
そんな様子を見て、横にいた蓬梅が話しだす。
「・・・・・貴女の本当の仇でしたら、私になりますです。」
「どういう・・・意味かしら・・・・・」
ゾクリと殺気が広がるが、
それを物ともせずに話し続ける蓬梅。
「私が考えた策に、まんまと嵌っただけです。」
「成る程・・・・・だったら貴女が蒯良ね。
その顔、覚えておくわ・・・・・」
ギロリと、憎しみが篭った目で見つめると、
「いい加減にしなさい!
アンタ、どの立場で話しかけてんのっ!」
「なによ・・・・・」
鈴梅に怒鳴られ、不機嫌そうな目を向ける孫策。
「アンタ何様なの?
たかだか袁術の客将の分際で、劉表さまや姉さまと対等に話せるつもりなの?
袁術の狗はとっとと下がりなさいっ!!」
「つ・・・・・・・言って・・・くれるじゃない・・・・・」
「やめなさいっ!雪蓮っ!」
孫策が思わず剣を抜きそうになるが、それを周瑜が止める。
「これは失礼しました。
私たちは主に呼ばれているので、これで失礼します。」
周瑜が強引に場を閉め、聖たちに背中を向けて去って行く。
「必ず・・・この借りは返すわっ!」
最後に孫策の叫びを残して・・・・・
〜 孫策 side 〜
「冥琳、どうして止めたのよっ!」
周瑜に攻め寄る孫策。
まだ怒りが収まってないのだろう。
「あそこで騒ぎを起せば、確実に袁術に責められるわ。
・・・・そうなったら最悪、独立出来なくなるかもしれない。」
苦々しい顔を浮かべて答える周瑜。
彼女とて、親友の孫策があれだけ言われて気分がいい筈が無い。
「それにあの場で戦りあっても、
儂では後ろにいた弓使いを抑えるので精一杯じゃ。」
「あの長い髪の女性?」
黄蓋が言っているのは聖達と後から合流した紫苑のことである。
武器は持っていなかったが、同じ弓使いとして感じるものがあったのだろう。
「私と雪蓮だけじゃ、残りの五人相手にするのは時間が掛かりすぎるわ。」
あの場に居合わせたのは聖たちの方は聖、水蓮、蓬梅、鈴梅、紫苑に士郎。
黄蓋が紫苑の相手をすると残りは5対2になってしまう。
「・・・・・一人いた男、アイツは厄介な感じがしたわ。」
「・・・勘か?」
「ええ。でも、だからこそ戦って見たいのもあるけど・・・・」
自身の勘に絶対の信頼を持っている孫策。
その勘が危ないと告げているからこそ、あえて戦ってみたいと思うのは
武人としての性であるかもしれない。
「まぁいいわ。今回は我慢する。」
「ああ。いずれ私たちが独立した時に思う存分に戦うといい。
私はその為なら、どんな事でも貴女の力になるから。」
「ふふっ。ええ、頼りにしてるわよ冥琳。」
気分を入れなおした孫策は、幾分か軽い足取りで自陣に戻っていった。
さまざまな思惑が交差する連合軍。
向かうな難関の汜水関。
戦はまだ、始まってすらいなかった・・・・・