真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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4-6 虎牢関突破戦

――――――洛陽城 軍議室――――――

 

「詠っ!!虎牢関はどうなっとるんやっ!!」

 

慌てた様子で駆け込んできたのは霞。

まだ体のあちこちに包帯を巻いており、

傷は完治してないようだ。

 

「霞っ!?もう大丈夫なの!?」

 

「ウチがあれ位で寝込む訳無いやん。

それより、虎牢関はどないなったんや!?」

 

汜水関が破られた後、急いで洛陽まで撤退した為、

現状がつかめてないのだ。

 

「まだ大丈夫よ。

一応、恋と音々音。後は楊奉の軍がいるわ。」

 

「やったら弧白もおるんか・・・・

なら大丈夫そうやな。」

 

月の軍は幾つかの部隊に分かれており、

月直属の恋、音々音、霞、藍の他に、最も力を持つ李傕,郭汜の二軍や楊奉,張済の部隊がある。

 

李傕,郭汜の二軍は月の後ろを守るため、長安の守備についており、

今回の戦には従軍しておらず、

楊奉,張済の部隊は共に来ており、楊奉の軍には弧白が所属している。

黄巾の際は、弧白の副官としての能力を期待して恋と一緒に行動してもらっていたのだ。

 

「流石に直ぐには破られないと思うから大丈夫よ。」

 

兵の数や関自体の頑丈さと攻め難さ、武将の数と質総てにおいて汜水関を上回っている。

 

汜水関を突破されても、この虎牢関の万全の状態を見れば自ずと連合軍の士気は低下する。

詠は、そこまで考えて配置していたのだった。

 

(まぁ、ここまで早く汜水関を突破されるとは思わなかったけど・・・・)

 

その汜水関を破られた遠因は詠にあるのだが、

彼女は知る由も無かった・・・・・

 

 

 

 

 

 

――――――洛陽   ?――――――

 

洛陽を一望出来る丘の上に一人の男が立っている。

 

「そろそろ溜まりましたね・・・・・」

 

手に持つ本を見ながら呟く。

 

「とりあえずは予定通りですし、

十分ですね。」

 

洛陽を見渡した後、そう言って丘から降りていると、

 

「もうよろしいのかな?」

 

別の男が近付いて来る。

 

「貴方ですか。

とりあえず此処での用事は終わりました。」

 

「ふむ。後は如何するのか?」

 

その質問に対して一泊の間をおいた後、

 

「使い終わった物はゴミです。

ゴミは燃やしてしまうのが一番ですね。」

 

口の端を僅かに持ち上げて答える。

 

「好きにすればよい。

それで、私は如何すればよいのだ。」

 

「左慈が言っていた「異物」を除去してもらえますか?

如何やらかなりのやり手の様子ですから・・・・・貴方なら丁度いいでしょう?」

 

何処か見下したように言い放つ。

 

「ふっ・・・・「異物」の相手は同じ「異物」という事かな。

・・・・・私が楽しめる相手ならばよいのだが・・・・」

 

そんな態度にも、どこか飄々とした感じで答える。

 

「ええ。しっかり頼みましたよ。」

 

そう言って二人の男はぼやける様に姿を消した・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全軍っ!!突撃ですわっ!!」

 

輿の上に座っている麗羽の号令に従い、

袁紹軍が虎牢関に突撃を仕掛ける。

 

『ウオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!』

 

数万に及ぶ兵士達の怒号は、

正に地を揺るがすような衝撃。

その勢いごと突っ込んで行く。

 

が、皇帝が居る洛陽を守る虎牢関は、そう簡単には破れない。

守っている月の軍勢も、呂布直属の精鋭たちがいる為、正に難攻不落である。

 

それに・・・・・

 

「おいっ!!どけよっ!!」

 

「なんでオメェらがこの隊に混じってんだよ!!」

 

「いてぇッ!!槍刺さってるんだよ!!」

 

袁紹軍のあちこちで起こる悲鳴。

無理もない、まともに陣形も組まずに数万に及ぶ兵が突っ込んだのだ。

まだ虎牢関に到達してないのに、早くも混乱してしまっている。

 

しかもその後ろには前線が混乱したせいで、攻城兵器たちが詰まっており、

攻城兵器からすれば、前線の兵が邪魔で進めず、

前線の兵からすれば、攻上兵器が邪魔で下がれずと、

もう如何しようもない事態になっていた・・・・・・

 

「ち、ちょっとっ!!

猪々子さん、斗詩さんなんとかしなさいな!!」

 

「あーーあ

姫ーーーこうなったらもう無理だってーーー」

 

「お手上げ」といった感じに答える猪々子。

 

「そもそも、「全軍で突っ込む」って言い出したのは猪々子さんでしょう!?」

 

「姫だって乗り気だったじゃんかーー」

 

「て言うか、何で全軍で一気に突っ込んだのよう・・・・」

 

言い争ってる二人を見て、猪々子に問いかける斗詩。

 

「え?だってそっちの方が盛り上がるだろーー」

「そっちの方が派手だからに決まってますわっ!!」

 

二人から似たような答えが帰って来て、落ち込む斗詩だった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか袁紹の所が混乱してないか?」

 

前方を進んでいる袁紹軍を見ながら呟く春蘭。

 

同じ先鋒として曹操と袁紹が共に出陣したが、

いきなり袁紹軍が突っ込んでいったので、曹操軍は置いていかれたのだ。

 

どうやらその混戦に参加したいらしく、ソワソワしていると、

 

「姉者、今行ったら私たちの兵も被害をうけるぞ。」

 

近付いてきた秋蘭に窘められる。

 

「や、やっぱり駄目なのか・・・・」

 

「ああなったら誰が敵か味方か分からなくなるからな。

流石に危険だからな。」

 

「別に行くのはいいけど、

行くんならアンタ一人で行きなさいよねっ!!」

 

残念そうに袁紹軍を見つめる春蘭を見て、

桂花が突っかかって行く。

 

「どう言う意味だ、それはっ!」

 

「どうも何も、そのままじゃない。

アンタがどうなろうと構わないけど、

華琳さまの大事な兵を傷つけさせる訳にはいかないのよ!」

 

「ふん。我が隊の兵にあの程度で傷を負うような者はいないっ!」

 

「・・・・脳みそまで筋肉なアンタと一緒にするんじゃないわよっ!」

 

「なんだとっ!」

 

「何よっ!!」

 

傍で見ている秋蘭が止める間も無く

一気にヒートアップする二人。

 

曹操軍の武と知のトップ同士が悪いのは、結構重大な問題なのだが・・・・

 

「二人とも、其処までにしなさい。」

 

愛馬の「爪黄飛電」に跨った華琳が近付いてくると、

二人の言い合いが瞬時に止まる。

 

本質的に仲が悪く、言い争いが耐えない二人だが、

華琳に対しての忠誠心の方が其れに勝る。

 

そう考えると、やはり華琳のカリスマ性は相当なものである。

 

「春蘭。あと少しすれば董卓軍に動きがあるわ。

その時に存分に活躍して貰うから、力を蓄えておきなさい。」

 

「はい。分かりました華琳さまっ!」

 

「桂花は敵軍がどんな風に動いても、迅速に行動できるように構えておきなさい。

案は任せるわよ。」

 

「はいっ!了解しました。」

 

さっきまでの光景が嘘の様にテキパキ動き出す春蘭たち。

 

その後、華琳の推測通りに、

恋を先頭にした董卓軍が虎牢関から出陣して来る。

 

「敵は呂布が先頭にいます。

今が虎牢を落とす絶好の機会です。」

 

「よしっ!

呂布の軍は麗羽に任せるわ。

全軍っ、虎牢関に進軍せよっ!」

 

桂花からの報告を聞いて、

華琳達は進軍を開始したのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵軍が迫って来てますわよっ!!

早く迎撃なさい!」

 

凄まじい勢いで迫ってくる恋を見て、

慌てる麗羽。

 

「今が好機です!

敵軍総大将の袁紹の首を取るのですぞっ!!」

 

「・・・・貰う。」

 

音々音と一緒に突っ込んでくる恋。

まるでモーゼのように道を切り開いてくる。

 

「くっ・・・

挟み込んでしまいなさい!!」

 

銅鑼の音が鳴り響き、袁紹軍が左右に分かれ、

突っ込んでくる恋を挟み討ちにする。

 

「恋どのっ、拙いのですぞっ!!」

 

幾ら恋でも、左右同時に攻めて来られては手傷は負いかねない。

慌てる音々音だが、当の本人である恋は落ち着いていた。

 

「・・・・音々音、左の敵軍は任せる・・・・

魏越,成廉。付いて来て。」

 

「れ、恋どのっ!!

何処へ行くのですかっ!」

 

軍の指揮を一旦音々音に預け左の軍の相手を任せ、

恋は二人の将だけを連れて右の軍へ突っ込んで行く。

 

元々恋の部隊は精鋭ぞろいな為、恋が抜けても勢いはそう変わらない。

そして恋が連れて行った武将の魏越,成廉は、

共に勇将,猛将を意味する「健将」の二人。

そこらの兵では相手にならないほどの強さを誇る。

 

「はあっ!!」

「やあっ!!」

 

左右対称な動きで剣を振るい、

恋の直ぐ後ろについて行く二人。

 

恋が獅子だとすれば、彼女達は翼。

翼持つ獅子に、袁紹軍は一気に破られて行き、

瞬く間に鶴翼陣に展開していた袁紹軍は破られていった。

 

「姫ーーっ、

大丈夫かーっ!!」

 

「麗羽さまっ!

後は任せて下がって下さいっ。」

 

だが、袁紹軍の必死の抵抗のお蔭で、

他の部隊の沈静に向かっていた猪々子と斗詩が

救援に間に合った。

 

馬から下りて対峙する三人。

 

「全くっ!

遅いですわっ。」

 

「ごめんな姫ーーー

さてっと、アイツがあの呂布かーーーー」

 

どこか、わくわくしながら恋と対峙する猪々子、

斗詩はそんな猪々子を心配そうに見ている。

 

「・・・・・邪魔。」

 

そう言って一気に距離を詰め、猪々子に向かって上段から戟を振り下ろし、

猪々子は其れを斬山刀で受ける。

 

「くうっ・・・・・!!」

 

ギィンッ!!と鋼同士が交差する音が響く。

 

力だけなら、恋より猪々子の方が少し劣るだけなので、

じりじりと押し込まれていく猪々子。

 

が、その隙を斗詩が見逃すはずが無い。

 

「やあああああああッ!!」

 

恋に向かって振り下ろされる金光鉄槌。

攻撃の破壊力には、武器自体の重さがかなりのアドバンテージを占めており、

幾ら恋でも、全力で振り下ろされる斗詩の金光鉄槌は受け止めれない。

 

「ち・・・・・・」

 

咄嗟に横に跳ぶ恋。

 

ゴウッと、音を閉てて空振る斗詩。

 

「きゃあっ!!」

 

そのままフラフラとバランスを崩している間に、

恋と猪々子も体勢を立て直す。

 

「惜しかったな斗詩っ。」

 

「うん・・・もうちょっとだったね・・・・・」

 

残念そうな二人。

 

「よーしっ。このままあたいと斗詩の愛の力で呂布を倒すぞーーー」

 

「わ、私はそう言うんじゃないーーっ」

 

再度武器を構えて対峙する三人、

今度も同じく恋が切り込んでくる。

 

「ふっ・・・・・」

 

横薙ぎの一閃。

並んで立っている猪々子と斗詩を同時に切りつける。

 

「くうっ・・・・・・」

「きゃっ・・・・・・」

 

突進する力も加えられているため、一瞬後ろに体勢が崩れる。

 

「はっ・・」

 

左から右に振り切った後、

そのまま流れるよう袈裟斬り、突き、払いと攻めて行く。

 

猪々子と斗詩の武器は共に重さがある為、手数を増やした方がいいと判断したのだ。

 

手数を増やした一撃でも、威力は二人の全力と同等の破壊力がある為、

猪々子と斗詩は防戦一方だ。

 

捌ききれなかった斬撃が、二人の体に切り傷をつけていっており、

このままではジリ貧である。

 

「・・・・・・・っ!!」

 

二人が困っていると、攻撃していた恋が飛び退き、

恋がいた所を高速で飛来した矢が通過する。

 

猪々子と斗詩が矢が飛んできた方に目を向けると、

そこには双剣を持つ士郎が立っていた。

 

「士郎・・・・・決着つける・・・・・・」

 

もう猪々子と斗詩には興味が無くなったのか。

 

互いに獲物を持ち、対峙する。

 

「ああ。許昌の続きだな。」(強化(トレース)開始(オンっ)

 

「本気・・・・だす・・・・・・」

 

それは士郎に言ったのか、恋自身の事なのか、

互いに強く武器を握り締める。

 

「ふっ・・・・・!!!!」

 

裂帛の気合と共に、恋は斬りかかっていった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋と麗羽,士郎が戦っている間に、

華琳たちはもう直ぐで虎牢関に到着する所まで来ていた。

 

無論、途中で敵兵の攻撃はあったが、最大の脅威である恋がいない以上、

華琳たちの敵ではなかったが。

 

「このまま虎牢関一番乗りは私が貰うっ。」

 

そう言って春蘭が先走って進んで行くと、

虎牢関が開門し、出陣した敵の部隊が近付いて来る。

 

「春蘭。蹴散らしなさい。」

 

華琳に言われるまま、一気に攻め込む。

 

狙いは敵将ただ一人。

裂帛の気合と共に斬りかかる。

 

が―――――

 

「ここは通せませんよ~~~」

 

ギィイイインッッッ!!!

 

敵将に止められる。

 

「何者だッ!!」

 

「始めまして~~

董卓軍,楊奉隊の将、徐公明です。」

 

大斧をブオンッ!!と振りかざし、構えながら答える。

 

「まさか私の一撃を止めるとは・・・

華琳さまッ!」

 

「いいわ。存分に戦いなさい。」

 

華琳から一騎打ちの許可を貰い、対峙する。

 

「曹操軍が一の剣、夏侯元譲ッ!

行くぞッ!!」

 

二人の戦いが始まった・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふッ・・・・・!!」

 

「ちッ!」

 

いつしか、戦っている士郎と恋の周りには大きな空間が出来ていた。

皆巻き込まれるのを恐れて、離れているのだ。

 

力任せに叩きつけ、自らの直感で回避する恋。

相手の隙に攻撃し、攻撃を誘導して防ぐ士郎。

全く別の方向に極めた二人の戦いは、見るものを魅了した。

 

最初は互角に戦いを繰り広げていたが、

だんだんと差がつき始める。

 

ペース配分を考えない恋と相手の力を利用する士郎。

 

少しずつだが、確実に恋の勢いが無くなってくる。

 

「はぁ・・・・・ッ・・・・・!!」

 

疲れる体に鞭打ち、戟を振りぬくが、

士郎は最小限の動きで交わし、距離を詰めてくる。

 

「・・・・・くっ・・・・・!!」

 

それを強引に弾き飛ばす。

 

「ぐぅッ!!

・・・・まだ余力は残っているのか・・・・流石だな。」

 

「まだ・・・これから・・・・ッ」

 

再度武器を構える恋。

それに対して、士郎が攻撃しようと体勢を屈め、恋も身構えると・・・・・

 

「ッ・・・!!」

 

途中で手に持っていた剣を投げてくる。

 

咄嗟に弾く恋。

が、

 

前後に重なるようにして、二本目も飛んで来ていた。

 

もはや士郎の事が意識から無くなり、目の前から飛んで来る二本目の剣に集中する。

 

「避け・・・・・るッ・・・・・・・・」

 

なんとか強引に体をねじって回避する。

 

すると、

 

「あッ・・・・・・!!」

 

手に持っていた方天画戟の感触が無くなる。

 

もはや握力は残っておらず、

最後の気力も、投擲された二本の剣に持っていかれた。

 

そのまま方天画戟を突きつけられる。

 

「・・・・・・・・私の・・・・・・負け?」

 

「ああ・・・・・・そして、俺の勝ちだ。」

 

ここに士郎と恋の戦いの決着がついた。

 

もはや恋に戦う意思は無いと判断した士郎は、

恋に方天画戟を返す。

 

「やっぱり・・・・強い・・・・・・・・」

 

どこか嬉しそうな恋。

 

最強の座に居るのが自分だけというのは、何か寂しいものがあったのだろう。

 

始めて自分より強い人を見たのが嬉しいのだ。

 

「士郎・・・・・月を、助けて欲しい。」

 

他の人たちには聞こえないように話す。

 

「何かあったんだな。」

 

「うん・・・・・・最近、姿が見えない。」

 

「そうか・・・・洛陽まで行く必要があるな・・・・・」

 

二人がそう話していると、

伝令の兵が近付いて来る。

 

「士郎様ッ!

物見の報告によると、洛陽から火が上がったとの事ですッ!!」

 

「何ッ!?」

 

どうやら他の兵たちにも連絡があったようで、

戦場全体がざわついている。

 

「ッ・・・・・・!!」

 

恋は咄嗟に赤兎馬に跨り、洛陽方面に向かって駆けて行く。

 

「我々も洛陽に向かう!

劉表様に連絡急げっ!!」

 

事態は一刻を争う事態になっていった・・・・・・


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