真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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4-9 重なる刹那

「月ーーーっ!!何処に居るのーーーっ!!」

 

月を探す詠の声が厩舎に響く。

 

連合軍は既に洛陽の街に進入してしまっている。

もし、連合軍に月が捕まろうものなら、

この事件の責任を負わされて処刑されてしまうのは目に見えて分かっている。

 

なんとしてもそれを避ける為、詠は月を探し回っているのだ。

 

「もうっ!!一体何処に幽閉したのよっ!!

………あと探してないのは政庁くらいだけど………」

 

直属の兵を使って彼方此方を探しているが、全く姿が見つからない。

 

まさか常日頃から政務を行っていた政庁に居るとは考えにくいし、

隠し部屋があれば気付かない筈が無いのだが………

 

「あの仙人ならやりかねないわね……」

 

おかしな術を使うアイツの相手なら、常識は通用しない。

 

そうと決まれば直ぐに向かいたいのだが、

 

「馬が全く居ないじゃないっ!!」

 

この騒ぎである。

逃げ出すか、馬は貴重な為窃盗されたのだろう

 

僅かな希望を元に、奥のほうまで進んで行くと、

 

「あれ……士郎の馬が居るじゃない。」

 

縄が外されており、手綱と鞍がなぜかついたままだが、

其処には士郎から借りたままの『的盧』が大人しく佇んでいた。

 

「脚も速いし丁度いいわ。」

 

脚を掛け、詠が馬に乗った瞬間、

急に走り出す!!

 

「きゃあああっ!!何でよ~~~っ!!」

 

わけも分からないまま必死にしがみつく詠。

そのまま政庁に向かって駆けて行く的盧であった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建屋の柱が燻るなか、桃香たちは『陽剣・干将』を頼りに奥に進んで行く。

 

「はぁっ!!」

 

「たぁっ!!」

 

時折崩れ、倒れてくる柱を愛紗と鈴々が弾き飛ばしてくれているが、

この建物もそう長くは持たないだろう。

 

「また行き止まりだよ…」

 

桃香の眼前に塞がるのは瓦礫に塞がれた道。

「干将」が指し示しているのは、月までの最短距離な為、

所々で迂回する必要があるのだ。

…最も、干将

これ

があると無いとでは大きな差がでるが。

 

そうして迂回しながら進んでいると、またつきあたりに到着する。

 

「また回り道するのだー?」

 

「うん。この壁の向こうを指してるねーー」

 

「干将」が向いているのは壁の向こう。

確かに今までどおり、迂回して道を探す必要があるのだが、

 

「ですが桃香さま、こっち方向はこの道しかありませんでしたよ?」

 

部屋が並ぶ一本道のつきあたりな為、

迂回するとなると大分遠回りになってしまう。

 

「う~~~ん……どうしよう………」

 

「だったら壁を壊して進めばいいのだ!!」

 

そういうと蛇矛を振りかぶる鈴々。

 

「ちょ……っ」

「うりゃりゃりゃりゃ~~っ!!!」

 

愛紗の静止が聞こえる前に叩きつける。

 

すると壁にひびが入り、その先に地下へと続く階段が現れる。

 

「鈴々っ!せめて私たちが離れてからにしろっ!!」

 

「ごめんなのだ……」

 

「あはは………大丈夫だよ愛紗ちゃん。

ちょうどこの下に続いてるみたいだし。」

 

桃香たちが進む先に現れた地下へ続く階段。

「干将」もその先を指し示しており、どうやらこの先に月がいるようだ。

 

松明が照らす長い階段を下りると、

其処には鉄格子で作られた幾つもの牢屋が並んでいた。

 

「桃香さま!私の後ろに……」

 

「うん。気をつけてね。」

 

「鈴々が後ろに行くのだ。」

 

薄暗い牢獄を警戒しながら進んで行く。

すると、突き当たりにある牢屋に誰がが居るのが分かる。

 

「月ちゃんっ!!」

 

「その声は………桃香さん!?」

 

鉄格子越しに近寄ってくる月。

 

「よかった………無事だったんだね………」

 

「はい………でも、どうして皆さんが此処に?」

 

ずっと閉じ込められていたので、外の状況が掴めて居ないのだ。

 

桃香たちから説明される月。

 

「そうなんですか………」

 

自分のせいでこんな騒ぎになってしまったのだと落ち込む月。

 

「月さまのせいではありません!あの男がすべての原因ですっ!!」

 

「そうなのだーー

ほんとの事知ってる人は、皆助けに来てるのだーー」

 

「私をですか?」

 

キョトンとしている月。

 

「此処を見つけれたのも、士郎くんのお蔭なんだよう。」

 

首飾りに付いている『干将』を見せながら話す桃香。

 

「わ、わたしも同じもの持ってますっ!!」

 

「うん。なんかねーこれとそれが惹き寄せ合ってるんだ。

最初は士郎くんがこれ使ってたんだけど、

強い敵が出てきたから、代わりに私が使ってるんだよ。」

 

「そうなのですか………」

 

胸に光る『莫耶』を見つめ、そのまま握り締める。

 

(士郎さん………やっぱり護っててくれたんだ………)

 

牢獄に閉じ込められても、この首飾りを見ていたらなんとか耐える事が出来た。

それは宝具としての加護なのかどうなのかは分からないが、

月は確かに、この首飾りに救われたのだ。

 

「うん!だったら早く此処から逃げようっ。」

 

「ですが桃香さま……この鉄格子は如何しますか?」

 

ガシャガシャと軽くゆする愛紗。

 

「これを壊すのは大変なのだ…………」

 

「鍵もあの仙人さんが持ってるだろうし………どうしよう?」

 

そう言って途方にくれていると、

 

「下がって。」

 

「恋さんっ!!」

 

いつの間にか、桃香たちの後ろに恋が立っていた。

おそらく桃香たちの後ろをついて来ていたのだろう。

 

「今助ける。」

 

そう言うと、方点画戟を振りかぶり、

 

「はぁあああっ!!」

 

そのまま鉄格子を斬りつける!!

 

すると激しい音を立てて、数本の柱が中ほどから斬れ落ちていた。

 

「す、凄い………」

 

呆気に取られる桃香たち。

 

「月、大丈夫だった?」

 

「はいッ!!恋さん………有難う御座います………」

 

飛びついてきた月を抱きしめる恋。

 

「よかった………

直ぐに此処から逃げる。」

 

モタモタしている時間は無い。

直ぐに身を隠さなければ、他の連合軍に見つかる可能性も高くなる。

 

「うん。だったら私たちと一緒に行こうっ!!

白蓮ちゃんにも話はしてるから、匿ってくれると思うから。」

 

そう言って踵を返し、来た道を帰ろうとすると、

 

「おやおや、帰られるんですか。」

 

桃香たちの後ろ、先程まで月が居た牢屋の中に男が現れる。

 

「なッ!こいつ何処から!!」

 

「貴方は……于吉さん!!」

 

武器を構え、警戒する桃香たちをよそに、

微笑を浮かべている于吉。

 

「名前を覚えてもらって光栄です。

まぁ………ここで死んで貰いますから、余り意味はありませんですが。」

 

そう言って于吉が懐から札を出す。

 

「退路なき兵よ、集いて駆逐せよッ!!」

 

札が燃え、于吉の周りに白装束に覆われた兵が幾人も出現する。

 

「さあ、この牢獄が貴女たちの墓場です。

………行きなさいッ!」

 

于吉の号令と共に、剣を構えて襲い掛かってくる白装束たち。

 

だが、動きは確かにそこらの兵よりかはマシだが、

愛紗たちには全然及ばない。

 

「その程度で………我らを舐めるなッ!!」

 

振るってくる剣を避け、青龍偃月刀を叩き込む。

 

「次っ!!」

 

そのまま一気に于吉も斬りつけようとするが、

異変に気付く。

 

「数が………増えている!?」

 

愛紗が見ている見の前で、虚空から次々と白装束の兵が現れていた。

 

「ふふふ。どうしました?

まだまだこれからですよ。」

 

ただでさえ狭い牢獄。

このまま増え続けえられると、行動範囲が狭くなり、

どんどん不利になって行く。

 

こっちも愛紗、鈴々、恋がどんどん倒していっているが、

それよりも増えるほうが速い。

 

「くっ………桃香さまっ!!私たちが時間を稼ぎますから、

先に月さまを連れてお逃げくださいっ!!」

 

「でも……っ………皆はっ!!」

 

「だいじょうぶなのだっ!!」

 

「少しだけ粘ったら………直ぐに逃げる。」

 

心配する桃香に答える。

先に桃香と月に逃げて貰った方が、

三人からすれば戦いやすいし、逃げやすい。

 

月の手を握って、降りてきた階段に向かって奔る桃香。

 

「させませんよ!!」

 

再度札を出して、それが燃えると于吉の姿が虚空に消える。

 

急いで階段を上りきると二人。

すると、そこには下に居たはずの于吉がいた。

 

「そう簡単には逃がしませんよ。

こんな好機は滅多にありませんからね。」

 

元々突き当たりの道に階段があった為、

退路が塞がれてしまう。

 

前は于吉、後ろは白装束。

どうしようかと桃香が悩んでいると、

 

「月ーーーーっ!!」

 

「詠ちゃんっ!!」

 

『的盧』に乗った詠が突っ込んでくる。

 

「くっ!!」

 

慌ててそれを避ける于吉。

こんなに急に来られては、札を使う時間が無い。

 

「月っ!!早く乗って!!」

 

「うんっ!!」

 

于吉が倒れている間に、的盧に乗る桃香と月。

 

馬に三人騎乗するのは少し無理があるが、

月と詠が小柄な為、どうにかなっていた。

 

「させませんっ!!」

 

再度、白装束を召還する于吉。

が、急に柱が倒れてきて、召還した白装束たちがそれに巻き込まれる。

 

「なっ!!」

 

その隙に逃げる三人。

 

慌てて召還しなおそうとするが、

三人が通過した後、通った道の壁が爆発し、

砂煙で三人の姿を見失う。

 

「くっ………これでは召還しても無意味ですね………」

 

姿を見失っては召還しても意味が無い。

 

「下にいる三人もそろそろ上って来るでしょうし………」

 

階段の上に召還して、挟みうちにしてもいいのだが、

あの三人相手では恐らく突破されてしまうだろう。

 

「左慈か小次郎がいれば………

まぁいいでしょう。ここは一旦小次郎と合流しましょう。」

 

そう言い残し、于吉は虚空に消えた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、士郎と小次郎の戦いも決着が付きそうになっていた。

 

互いに刀を構え、対峙する。

 

士郎は平正眼、小次郎は顔の横に一文字に構える。

 

「さて………セイバーですら回避しきれなかった一撃………

その刀でどう捌くか見ものよな。」

 

ゆらりと刀がぶれる。

瞬間―――――

 

「秘剣―――燕返し―――――」

 

士郎に襲い掛かる三つの剣閃。

すべてが必殺である為、一太刀でも受ければそれで終わり。

 

唯一つを愚直に繰り返した男がたどり着いた究極の一。

魔法にも届きうる神技。

 

英霊にギリギリ届くだけの士郎では、それを放たれてしまえば終わり。

 

だが、

士郎は刀を構えたまま一歩踏み込む。

 

士郎が持つ刀――『加州清光(かしゅうきよみつ)

この刀の本来の持ち主も、肺病を患いながらも、只一つを極めた。

 

士郎はこの刀から、その持ち主の技術を模倣する。

 

「三段――突きっ――――!!」

 

迫る三つの剣閃に対して、響く士郎の踏み込み音。

 

放たれるのは同時に発生する三つの刺突。

 

それぞれの突きが燕返しの剣閃と交差し、剣筋を逸らした。

 

「ぐぅうううっ!!」

 

剣筋は逸らし、体を抉る三つの刃を強引に突破しながら、

一気に切り込んで行く。

 

「なっ!?」

 

小次郎は咄嗟の事に対応が出来ない。

技を放った後のことを考えていたかどうかの差が、明暗を分けた。

 

そのまま士郎が放った袈裟切りを体に受ける小次郎。

 

「くっ………やるな…………

だが、そちらも無事ではあるまい。」

 

小次郎が言い終わるや否や地面に膝をつく士郎。

 

剣筋を逸らしたとはいえ、

それは急所を狙っていたものを多少逸らしただけなので、

体には深く、三つの切り傷が出来ている。

 

「この方法しか………お前にダメージを与えれなかったからな………」

 

小次郎もまた、決して浅くない傷を負ってしまっている。

士郎とは違い切られたのは一箇所だが、

元々傷を負う事に慣れている士郎相手では、小次郎が優勢とも言いきれない。

 

「おや……どうやら苦戦しているようですね。」

 

小次郎の後ろに現れる于吉。

 

対して士郎の方にも、貂蝉が応援に駆けつける。

 

「ご主人さまっ!!大丈夫なの!?」

 

「ああ………怪我するのは慣れているからな………」

 

気力を振り絞って立ち上がる士郎。

 

「ここは一端引いたほうがよさそうですね………

そちらも貴重な手駒を失いたくないでしょう。」

 

「そうねん。ご主人様みたいな良い男を失うのは重大な損失だわん♪」

 

本気かどうなのか分からない言葉を言い放つ貂蝉。

 

「ふん………小次郎もいいですね?」

 

「ああ。これでは戦いを続けれそうにもない………

………士郎。次に相見えるのを楽しみにしているぞ。」

 

そう言い残し、姿を消す二人。

 

「行ったのか………」

 

「ええ。とりあえず危機は去ったのね。」

 

宝具の発動と憑依経験。

止めとばかりに自身が負った傷によるダメージは思いのほか大きく、

安全を確認し、気が抜けた士郎はそのまま意識を手放した………




三段突き

天然理心流の奥義。
踏み込み音が一つ鳴る間に三度の突きを放つ。

こちらも小次郎の燕返しと同じく、
「多重次元屈折現象」による一撃であり、
宝具の域に達した秘剣に分類される。

小次郎の燕返しが三つの剣閃を繰り出すのに対して、
こちらは三つの突きを放つ。

三十歳にも満たずにこの世を去った、
新選組一番組組長、沖田総司が使用した技。


的盧

白点四白(はくてんしはく)

騎乗する者との相性により、
騎乗者の幸運値に対して最大±2ランクまでの補正が掛かる。

ちなみに
士郎、詠は+1ランク、
桃香は+2ランク、雛里は-2ランクの補正が掛かります。

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