5-1 新野改修
「ご主人様ん♪大丈夫かしら?」
「貂蝉か……何とかな……」
聖たちが帰還の準備の為、いなくなった隙に貂蝉が近寄ってくる。
「まさか小次郎が居るとは思わなかった……
アイツを何とかしないと拙いな。」
「あの人も英霊なのよねん?」
「ああ。そうだ。
巌流島で武蔵と戦った、佐々木小次郎っていう剣士だけど……」
それを聞いて少し考える貂蝉。
「確かご主人様は武器を作れたわよねん……
此処は私が対策を見つけてくるわん♪
それまでは頑張ってねん。」
「ああ。何とか倒せるように頑張ってみるさ。
それで、そっちは何かあったのか?」
「ええ。今回の戦、左慈の姿が見えなかったのねん。」
「そう言えばそうだな……」
恋を凌駕する武力の持ち主であるアイツがもしいたのなら、
確実に誰かが死んでいただろう。
無論、士郎や貂蝉も只では済んでいない。
「恐らく何処かで別行動をしてるんだと思うわん♪
主要な人々の関心がこの戦に集まってたから、暗躍するには丁度いいしねん。」
「なら、早い内に手を打った方が良さそうだな。」
「そうなのねん。
だから私は、これから左慈を追ってみるのねん。」
「………大丈夫なのか?」
「いざとなったら逃げる事くらいは出来るわん♪
それじゃあ行ってくるのねん。」
そう言って去って行く貂蝉。
「まぁ貂蝉なら多分大丈夫だろう……」
特に根拠も無いが、そう思う士郎だった………
「さあーーて、新野に出発ーー!!」
聖の声に合わせ、洛陽から一番近い自領土である新野に向かって移動して行く。
ちなみに董卓軍は壊滅したが、長安には李傕,郭汜が残っている。
洛陽は復興の為、しばらくは隣接している諸侯が互いに協力して統治し、
残った宛は張済が統治する事となった。
「はぁ……新野には
「流石に放っとく訳にはいかないです。
気乗りはしませんですけど。」
ため息を吐きながら話す鈴梅に、蓬梅が答える。
「どんな奴なんや?」
会った事の無い霞は、隣に居る士郎に話しかける。
「そうだな………一言で言うなら百合な変態だな。」
「なんや。鈴梅たちと一緒やんか。」
あまりにも身も蓋もない霞の意見。
「如何言う意味よっ!!」
「鈴梅が聖大好きなんと一緒やん。」
「わ、私たちのはもっと崇高なのよっ!!」
「そうです。あんな変態眼鏡とは違うのです。」
全力で否定する姉妹。
「まぁウチも玖遠がちょっと気になっとるけど。」
「えええっ!!こ、困りますよっ!!」
いきなり爆弾発言をされて焦る玖遠。
「わ。私は士郎さんが………」
「あら?だったら私と一緒ね。」
紫苑も参戦してくる。
人物相関図が無茶苦茶である。
「………だれか突っ込んでくれ………」
思わず呟く士郎。
聖達は賑やかに騒ぎながら新野への道を進んで行った。
「蓬梅さまに鈴梅さま~~~っ!!ご無事でしたか~~っ!!」
聖達が新野に着くや否や、向朗が凄まじい勢いで近寄ってくる。
………お前文官じゃないのかよ…………
「げっ……やっぱり来た………」
「会いたかったんですよぉ~~~」
そのまま二人を一緒に抱きしめる。
「うざいです。さっさと離れるです。」
蓬梅にガスガスと脛を蹴られてるが気にしていない。
筋金入りの変態である。
「もうちょっと待って下さいよ~~~」
そう言って抱きしめ続ける。
「ちょっ……どこ触ってるのよ!!」
「むぅ………っ………」
ゴソゴソ暴れる二人。
「うん。もういいですよ~~」
そう言って離れて、懐から出した木簡に何やら書き出す。
「身長……体重……胸は………」
どうやら抱きついた時、二人の身体を測定したようだ。
「何書いてんのよお!!」
怒った鈴梅に取り上げられるが、
「ふっ。もう私の頭の中に記録されてます!!」
「威張るなあっ!!」
「士郎………アイツの頭しばいて記憶消すです。」
「無理言うなよ……………」
賑やかに騒ぎながら、新野城に移動していった。
「で、新野の様子はどうなのかな?」
城に着くや否や、直ぐに様子を聞かれる。
「そうですね~~治安は安定してますし、賊もあんまりいないから平和ですよ~~」
賊は黄巾の乱の影響で弱くなっており、
近隣の諸侯も今回の戦に出ている為、平和な時が続いていた。
「そう……でも、今回の戦のせいで漢王朝の権威は失墜したと見てもいいでしょうね。
だから、
が中原から攻めてくる敵を止める最前線になるわ。」
新野は首都襄陽と長江を挟んでいる為、
いざという時援軍を送りにくい。
故に、新野事自体の防備を固めておく必要が出てくるのだ。
しかも、東に黄祖が統治する江夏がある為、連携が取れるうちはいいが、
もしどちらかが落ちてしまったら、もう片方も危なくなる。
「ま、とりあえずこのまま城壁補修したり、防衛施設を固めていくのよ。
方法はまた明日詳しく決めましょう。」
「了解です~~」
ビシッと敬礼をする向朗。
「で、人材の方は如何なってるのよ?」
「大丈夫ですよ~~何人か良い娘見つけてますって。」
鈴梅の質問に軽く答える。
「とりあえずどんなのがいるのです?」
「まずは政治が抜群な蒋琬ちゃんです。将来有望ですね、いろんな意味で!
で、後は私の友達の伊籍ちゃんに紹介してもらった馬氏の五常です。
長女から順に馬順ちゃん、馬統ちゃん、馬安仁ちゃん、馬良ちゃん、馬謖ちゃんの五姉妹です。」
それを聞いて蓬梅と鈴梅が話し合う。
「馬氏の五常は聞いた事があるです。」
「だったらその五人は新野に置いといて、蒋琬を襄陽に連れて行きましょう。」
「あの~~私はまだ此処に残らないといけないんでしょうか………」
恐る恐る向朗が聞いて来る。
「あたりまえでしょうが。
アンタが一番新野の事把握してるんでしょ!!」
「そ、そんなぁ……聖さま~~~」
向朗は聖に助けを求めるが、
「が、頑張って!!
後で必ず呼び戻してあげるから!!」
「ううっ………約束ですよ……
………蒋琬ちゃん~~」
とりあえず向朗が蒋琬を呼ぶと、女の子が入って来る。
「呼びました?向朗さま?」
「うん。此処に居る劉表さま達と一緒に襄陽に行って欲しいんだ。」
「ボクがですが?分かりました。」
「よろしくね~~蒋琬ちゃん。」
「はい。よろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げ、蒋琬が政治官として仲間に加わった。
会議が終わった聖たちは、戦の疲れも残っているので一旦翌日まで休息する事にした。
夜中、向朗が蓬梅、鈴梅の部屋に突撃しようとして、失敗していたが。
士郎の部屋には、恐らくトイレの帰りだと思われる璃々が間違って入って来てしまい、
流石に深夜の女性の部屋を訪れるのはマナー違反だと思ったので、
一緒に寝ていたが―――
翌朝
「くーーーっ、すーーーーーっ」
士郎の服を握り締め、抱き枕状態の璃々。
「なんか前にも同じ事があったような………」
デジャヴを感じながら士郎が目を覚ますと、
「あら、起きたのですね。
お早う御座います。」
にこにこと椅子に座って二人を見ていた紫苑が其処にいた。
「えっと……なんでここに………」
寝起きでまともに動かない脳をフル回転させる士郎。
「朝起きたら娘がいなかったので………もしかしたらと思ったら正解でしたわ。」
穏やかな笑みを浮かべながら答える。
「そうか………」
窓からは朝日が差し込み、とてものんびりしている朝である。
もし何も知らない他人が見ると、どう見ても親子にしか見えない光景だ。
「って!違うだろ!!」
「あらあら。どうしたんですか?」
危うく雰囲気に飲まれそうになった士郎が慌てて起床する。
「んぅ…………あさ~~~?」
そんな士郎に反応して、璃々も起床する。
「おはよう璃々。」
「あれ~~~お母さんなんでここにいるの~~~」
寝ぼけ眼の璃々。
「璃々がいなくなったから探してたのよ。
さあ、お部屋に戻って着替えましょうね。」
「うん~~~
お兄ちゃんありがとーー」
そう言って二人は部屋を出て行く。
「はぁ………とりあえず余計な火種にならなかっただけでも良いと思うか………」
朝も色々と罠が待ち構えている士郎だった。
朝食を全員で食べた後、そのまま会議を始める。
「で、新野の防衛強化だけど……何か案はあるかしら?」
鈴梅が進行役を努める。
「先ずは………兵を……集めた方がいいかと………」
現状新野には一万の兵が駐屯している。
賊の襲来などはどうにかなるが、
近隣諸侯が大軍を押し寄せてくるとなったら、流石に心もとない。
それに………
「今ちょっと新野に人が集まり過ぎますーー
今もドンドン中原の方から人が流れてきてますしーー」
他人事見たいに話す向朗。
だが、黄巾の乱の後に今回の戦である。
しかも中原には今、いろんな諸侯が居るため、
このままでは戦に巻き込まれるのは、火を見るより明らかである。
しかも移民してきた民が増えると治安の悪化にも繋がる。
幸い今は何とかなっているが、そろそろ手を打たなければ拙い。
「だったら街を広げたらいいんじゃないんですかっ?」
「流石に城壁は動かせないわよ玖遠ちゃん………」
「ですよねっ……」
紫苑に突っ込まれて落ち込む玖遠。
しかし、士郎はそれを聞いてある事を思いつく。
「だったら、今の城壁の外にもう一周城壁を作ったらどうだ?」
「城壁を二重にするですか?」
「ああ。」
蓬梅に聞かれて頷く士郎。
「幸い、民が増えてきたお蔭で資金には余裕があるんだろ。
それに城壁を作るとなったら仕事が増えるし、土地も増える。
しかも城壁が二重になれば防衛力も上がるだろ。」
「確かに、せっかく城門破ったのに、
もう一個あったりしたらやる気なくすわ。」
「だったら、兵舎とかは外周側に作った方が、
咄嗟のときに動きやすいわね………」
霞と水蓮の発言に皆が頷く。
「士郎くんありがとう~~
資金の方は何とかなるかな?」
聖に聞かれた向朗は、横にいる蒋琬に目を向ける。
「ボクの計算では大丈夫ですね。
行うのなら、速い方が良いかと。」
パチパチと算盤を弾きながら答える。
「じゃあ士郎の案を採用するわよ。
他に何かあった?」
鈴梅がぐるりと皆を見渡す。
「だったら今回の会議はここまで!!
さっそく襄陽へ帰る準備を始めてね~~」
聖の号令を受けて、
各々は襄陽へ帰る準備を始めた。