真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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5-2 女難の相

新野を発った聖たちは、

翌日には襄陽に到着していた。

 

「やっと帰って来た~~」

 

「聖、休むのはいいけど、政務溜まってるわよ。」

 

「………えっと………遠慮したいな~~なんて………」

 

「ダ・メ・で・す!

休憩したら早速始めるからね!!」

 

そう言ってズルズルと引き摺られていく。

 

「ちょっと!抜け駆けしないでよっ!!

……姉さまっ!」

 

「はいです。行きましょう鈴梅ちゃん」

 

「え~~と……ボクもついて行きます。」

 

二人を追いかけるようにして蒯姉妹と蒋琬もついて行く。

 

「ウチはどうすればええんや?」

 

来たばっかりで何をすればいいのか困る霞。

 

「そうだな……たしか霞は襄陽に来たのは始めてなんだよな?」

 

「そうやで。」

 

「だったら街の見学に行ったらどうだ?

何かあった時、街中で迷う訳にもいかないし、ついでに街の皆にも顔見せ出来るしな。」

 

「ええやんか。それ。

で、誰が案内してくれるんや?」

 

「俺が一緒に行ってもいいんだけど、張三姉妹の所にも行かないといけないしな……」

 

一応士郎は張三姉妹の面倒を任されている。このままほっとくのは、士郎の経験上アウトである。

そう士郎が思案していると、

 

「士郎さんっ、私と援里ちゃんが手空いてますから、一緒に行きましょうかっ?」

 

「そうか。だったら途中までは一緒に行くか。」

 

「はいっ!!」

 

「よーーしっ!じゃ、早速行こうでっ!!」

 

そう言って玖遠に絡んで行く霞。

 

「なんで私が狙われるんですかぁっ!」

 

「んふふーー別にええやんーーー」

 

「何やってるんだよ………」

 

士郎がそんな二人の様子を見ていると、

横にいた援里に袖を引っ張られる。

 

「ん、どうしたんだ?」

 

「………ん。」

 

両手を差し出してくる。

 

「えっと……俺に如何しろと……」

 

「………しゃがんで………ください………」

 

注文どおりに士郎がしゃがむと背中によじ登ってくる。

 

「……うん……行きましょう………」

 

「………了解。」

 

多分戦の疲れが残ってるんだろうなーと自己解釈して歩き出す士郎。

……何か後ろから「ああっ!!わたしもっ!!」という声が聞こえたが、気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

士郎たちが部屋を出て廊下を歩いていると、

中庭の方で紫苑と誰かが話をしている。

 

「何してるんでしょうねっ?」

 

「うーーん、此処からじゃ分からへんなぁ……

………おーーーいっ!紫苑ーーーっ!!」

 

霞の声に反応した紫苑が此方に近付いて来る。

 

「あらあら皆さん、これからお出かけですか?」

 

「ウチに街の紹介してもらおう思てな。

紫苑はなにしよったんや?」

 

「ふふふ。それは完成してからのお楽しみです♪」

 

「まぁええわ。出来たら直ぐ教えてな。」

 

「はい。お気をつけて。」

 

そう言って再度、紫苑は中庭の方に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり西涼や中原の方とは街の雰囲気が全然違うなーー」

 

物珍しそうにキョロキョロする霞を先頭に、

大通りを進んで行く士郎たち。

 

「水場が近いからな。

必然的に販売しているものそれに関係したものが多いな。」

 

周りの店並みを見ると漁や釣りに関係した物を売っている店や、

魚介類を販売している店が多く目に付く。

 

「南船北馬………南の方は……漁が盛んですから………」

 

士郎の背中にいる援里が補足する。

 

「にしても……霞は玖遠がやけに気に入ってるな。」

 

「うん?だって強いし、かわええし、育てがいもあるし、最高やん。」

 

そう言って玖遠をこねくりまわす。

 

「あうううっ……私は士郎さんのほうがっ……」

 

「もちろん士郎も好きやで。

宛で一緒に戦った時は最高やったわーー」

 

戦に快楽を見出す霞らしい意見である。

相性が良いということなんだろう。

 

深く考える事を止めた士郎は、そのまま張三姉妹がいるであろう劇場に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襄陽の街の中央、一番人が集まる所に劇場は立っていた。

 

大きさは周りの建物を軽く凌駕しており、

とても綺麗な作りになっている。

 

その前に、士郎が立っていた。

 

玖遠たちと別れた士郎は、そのまま劇場の方に進んでいた。

 

もちろん、霞も行きたがったのだが、時間の余裕が無くなる恐れがあったので、

やむなく断念している。

 

「もうそろそろ終わるはずだよな………」

 

丁度今、張三姉妹が公演を行っており、

間も無く終わる時間である。

最も、この時代には時計が無いので正確には分からないが。

 

とりあえず中に進んで行く士郎。

 

受付の人は士郎の事を知っているので、

そのまま奥に進む。

 

会場のドアを開けると、真っ暗な中、スポットライトに照らされている張三姉妹がいた。

周りは観客で埋め尽くされ、異様な熱気に包まれている。

 

「どうやら上手くいってるみたいだな。」

 

この劇場を設計する際、士郎も参加している。

劇場内の別の部屋で松明を焚き、その光を銅板で反射させて収束させ、

スポットライト代わりにしているのだ。もちろん安全には注意を払っている。

 

これは昔の灯台で使われていた方法である。

今と違い、昔はこの劇場と同じように炎の明かりを銅板で収束させて、

遠くまで光を届け、灯台の役割を果たしていたのだ。

 

資金は「銅緑山」の銅鉱山のお蔭で十分余裕がある。

 

「みんなーー今日は来てくれてありがとーーー」

 

『ほわぁぁぁぁぁっ、ほわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

どうやら歌が終わり、最後の挨拶をしているようだ。

 

この時代の人からすれば、スポットライトに照らされる張三姉妹はとても神秘的に写る。

盛り上がりは最高潮に達していた。

 

観客達に挨拶を述べ、特に問題もなく進んで行く。

 

士郎がそんな三人を観客席から見ていると、

おしゃべりな姉二人がメインで話しているから、

手持ち無沙汰にしている人和と目が合う。

 

「……………ふふっ。」

 

軽く、しかし綺麗な笑みを浮かべて士郎に手を振ってくる。

 

以前人和から受けた「このままでいいのか」という悩み。

内に溜め込みやすい性格に見えたので、士郎は心配していたのだがーーー

 

「よかった……どうやら吹っ切れたようだな。」

 

あれだけ綺麗な笑みが出来るのなら大丈夫だろうと、士郎も笑みを返す。

 

二人がそうしていると、観客へのファンサービスに集中していた地和が人和の異変に気付く。

 

「あれ、どうしたの人和ーー?」

 

そのまま人和の視線の先を見るとーーー

 

「あーーーーっ!!士郎ーーーーっ!!」

 

マイクで拡張された声が会場に響く。

 

音が響きやすいように設計している為、それはそれは大きく響いた。

 

「ほんとだーーーー。おーーーーーい。」

 

天和も一緒に手を振ってくる。

 

「…………?………なんだ………」

 

だんだんと士郎の周りの観客の空気がおかしくなっていく。

無言のプレッシャー。

観客達の、「お前は俺達の天和ちゃんたちのなんなんだ」という。

 

「何ヶ月もちぃ達ほっといてなにしてたのよーーーー」

 

「後で絶対埋め合わせしてねーーーー」

 

そんな観客の様子に気付かない二人。

もちろん人和は気付いているようで苦笑いを浮かべている。

 

「………これはもしかして………」

 

穂群原で凛、桜と一緒に登校した時も同じような空気になった事がある。

あの時は確か………

 

「………拙いっ!!」

 

咄嗟に駆け出す士郎。目標は出口。

その士郎を追いかける観客達。

劇場は阿鼻叫喚の渦に包まれた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にひどい目に遭った……」

 

何処かボロボロになっている士郎。

一緒に歩いている天和と地和もぐったりとしている。

騒動の後、士郎と人和にこってりと絞られたのだ。

 

「こいつがちぃ達をほっとくのがいけないのよーー」

 

「そうそう。料理作って貰ったり、按摩してもらったり、

荷物持ってもらったりして欲しかったのにーー」

 

全く士郎のことを考えていない地和と天和。

 

「姉さん達………」

 

人和も何処か疲れた顔を浮かべている。

 

「大変だったんだな………」

 

「はい………ここ最近は急に忙しくなりましたから。」

 

「これからは俺も手伝えるから。」

 

「助かります……本当に……」

 

どうやら色々あったようだ。

 

「こらーーっ。れんほーばっかと喋ってないでちぃの話を聞きなさいよっ!」

 

「ああ。りょうかい。」

 

賑やかに騒ぎながら街を歩いていると、

丁度同じように街を散策していた玖遠達とも合流する。

 

「あれっ。もう天和さんたちと合流したんですかっ?」

 

「ああ。………一騒動あったけどな。」

 

「そう言えば、なんか劇場の方が騒がしかったなぁ。」

 

「まぁ色々あったんだよ。」

 

どこか疲れた様子の士郎を見て、

余り強く追求できない霞。

 

「まぁええわ。で、はよウチに紹介してーな。」

 

「ああ。」

 

そう言って天和たちに前に来るように促す。

 

「始めましてーー数え役萬☆姉妹の長女、天和ですーー」

 

「あたしは次女の地和よ。」

 

「三女の人和です。宜しくお願いします。」

 

各々の性格が一発で分かる自己紹介である。

 

「あれ、確か数え役萬☆姉妹って黄巾の時の大将じゃなかったん?」

 

「………彼女たちは月と同じように、仙人達に利用されてたんだ。」

 

「そうやったんか………それやったらしゃあないな。

ウチは新しく軍に入った張遼 文遠。真名は霞や。よろしくな。」

 

張角たちを追求せずに、好意的に話しかけて行く霞。

 

「………一瞬………どうなるかと………思いました………」

 

士郎の背中にいる援里が話しかけてくる。

 

「ああ。確かに黄巾党との戦いは大規模なものだったからな。

けど、月と同じように、仙人たちに利用されてたからな。」

 

もちろん、あの仙人に感謝するつもりは全く無い。

そもそもあいつらが何もしなかったら、こんな大きな騒ぎにはなって居ないからだ。

 

「でもまぁ。これはこれで良かったよ。」

 

「………はい………」

 

くすりと笑う援里。

 

「援里ちゃん良いなあ………しろーー私もーーー」

 

「天和姉さん、士郎さんに迷惑でしょう!!」

 

皆とても良い笑顔を浮かべている。

 

この笑顔を護る為に戦うのは、絶対に悪い事じゃないよなと、

そう思う士郎だった。


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