真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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5-3 群雄割拠

聖たちが襄陽に帰ってから数日後、

各々政務をしたり軍を編成したり、

個人的に何かしたりと色々な事をして日々を過ごしている間に、

他の勢力では色々な動きがあった。

 

「まず……行方不明だった恋さんが………濮陽にいました………」

 

「濮陽って、確か曹操が統治してたわよね?」

 

「はい………どうやら………曹操さんが………長安に攻めて行った隙に………」

 

「たぶん音々音の悪知恵だろうな。」

 

士郎の発言に全員が頷く。

 

「桃香さまたちも徐州に居るし、

丁度良かったじゃない。」

 

徐州の前太守陶謙は戦が上手くは無く、統治自体も賊のせいで悪化する一方だった。

その為領内は賊が多数存在し、勢力を急激に広げる曹操軍の対処にも困った為、

援軍要請を出した所、白蓮の所で居候していた桃香たちが要請に応じたのだ。

 

その後、陶謙が亡くなった為、そのまま桃香たちが徐州の統治を行っている。

 

「あれ?確か白蓮さんって、確か袁紹さんに負けませんでしたっ?」

 

「桃香さまたちが出て行って直ぐです。

愛紗,鈴々,星さんに、軍師が二人も急に抜けたら負けるに決まってるです。」

 

玖遠の疑問に蓬梅が答える。

 

まぁ確かにあのメンバーが抜けたら、一気に戦力ダウンするだろう。

 

「冀州を制圧した袁紹さんの、次の目標は確実に中原でしょう。

曹操さんと桃香さんたちも色々と忙しくなりますわね。」

 

「袁術がどう動くかで変わってくるのよね……」

 

鈴梅が思わずため息を吐く。

 

荊州西にある揚州を統治する袁術。

いまいち考えが分からない為行動が読めず、

こっちに攻めてくるのか、揚州の北にある徐州に攻めるのか全く分からないのだ。

 

……最近、旧孫家メンバーを招集しているから、何らかの動きはあるとは思うが。

 

「とりあえず江夏にいる黄祖には注意するように言っておくわ。

あの子なら孫策が攻めて来ても、多少は持ちこたえれるし。」

 

「お願いね水蓮ちゃん。」

 

ばたばたと仕事が減らない聖たちであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

裂帛の気合と共に突きを放ち、声が訓練場に響く。

 

そのまま一気に薙ぎ、流れるように袈裟切りに移る。

 

「だれかと思ったら霞か。」

 

「士郎やん。どしたん?」

 

片に偃月刀を担ぎ、袖で汗を軽く拭う。

 

「あれだけ大きな声がしてればな。」

 

「ウチ、そんなに大きな出しとったん?」

 

「ああ。それはもう。」

 

「大分集中しとったけんなぁ………」

 

ばつが悪そうにする霞。

 

「士郎さーんっ。待ってくださーーいっ。」

 

「玖遠、静かに入りなさい。」

 

二人が話していると、訓練場に玖遠と水蓮が入ってくる。

 

「おっ。玖遠やん。

ええ相手が来たわーーー」

 

「やっぱり此処にいたんですかっ……」

 

対戦相手が出来て嬉しそうな霞。相変わらずである。

 

「そう言えば紫苑って強いんやろ?ウチいっぺん戦ってみたいんやけど……」

 

演技では関羽と黄忠は引き分けるほどの実力があり、

弓使いである紫苑とは、ぜひ一度戦ってみたいと霞は思っていたのだ。

 

「相変わらず中庭で何かしてたわよ。

ま、終わったら声掛けて見たらいいじゃない。」

 

「そやな。

けど、水蓮が訓練場に来るん珍しいな。どしたん?」

 

「……たまにはね。一応私も武将だし、もっと強くなりたいのよ。」

 

どちらかと言えば軍の指揮を執る事が多い水蓮。

 

指揮能力は高いが、武力は玖遠に劣る為、

常々鍛えなおしたいと思っていたのだ。

 

「早速だけど士郎。お願いしても良いかしら。」

 

フリウリスピア「波及」を構える水蓮。

 

「ああ。俺でよければ相手しよう。」

 

対する士郎も干将・莫耶を持ち、だらりと両手を下げ構える。

 

「あの………私の相手は霞さんに決定ですかっ………」

 

「当たり前やん。ほら、こっちもいくでっ!」

 

「待って下さいーーっ」

 

約一名不満があるようだが、訓練が開始された―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ………はぁっ………」

 

荒々しい息を吐く水蓮。

対する士郎は、軽く汗を滲んでいる程度しか疲労していない。

 

「二人とも頑張りますねっ。」

 

「そやなあ。けど、あのままじゃその内倒れるで。」

 

先に休憩をとっている二人は、並んで士郎と水蓮の戦いを観察していた。

 

状況は今の所、士郎の全勝である。

 

序盤は水蓮ばかり攻撃を仕掛けているが、すべて捌かれ、

疲れたところを士郎にやられる。

 

先程から、同じ事の繰り返しである。

 

「………少し休憩をいれよう。

あまり体を酷使しても意味が無い。」

 

「はぁっ………どうして………届かないのッ………」

 

「波及」が手から滑り落ち、悔しそうに膝をつく水蓮。

 

(聖を護るのは私の役目なのに………これじゃ………私の居る意味がないじゃない………)

 

自らの力量の低さに落ち込む。

 

「………水蓮。キミは少し力に頼りすぎている。」

 

そう言いながら、水蓮が落とした波及を拾う士郎。

 

「………士郎?」

 

士郎も同じく、才能に恵まれなかった。

故に、水蓮の苦しみはよく分かる。

 

「この槍は力任せに振るんじゃなく、梃子の力をするんだ。」

 

「?梃子……」

 

始めて聞く言葉にキョトンとする水蓮。

 

「そうだな……玖遠!ここに武器を構えて立ってくれないか。」

 

「私ですかっ?分かりましたっ。」

 

双剣「雲雀」を構えて士郎の前に立つ。

 

「突くから防いでくれよっ。」

 

そう言って突きを放つ士郎。

 

「くぅっ………」

 

ギャリィン!!と、玖遠は双剣を交差させてそれを防ぐ。

 

「ふっ!!」

 

その瞬間、士郎は波及をくるりと回転させる。

 

「あっ!!」

 

刃の横から飛び出している鉤爪に双剣が引っかかり、

回転と梃子の力により弾き飛ばされる。

 

「こうすれば敵の武器を無くす事が出来るし、

相手の足を突いて、鉤爪を引っ掛ければ転倒させる事も出来る。

こういう細かい技を磨けばそうそう遅れをとらないさ。」

 

重量のある武器を、不安定な船の上で振るう事が多かった水蓮は、

力はあるが、こういう細かい技術は全然習得できていない。

 

「………練習に付き合ってくれるのよね。」

 

「ああ。納得いくまで相手をさせて貰おう。」

 

その日は訓練場からの音が途絶えなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

士郎が頼まれた政務を行っていると、

他の国からの使者が訪問してきたとの連絡が入る。

 

直ぐに全員に連絡がいき、玉座がある謁見の間に集合する。

 

「で、一体なんのようだったんだ?」

 

「交州からの友好の使者だったみたいですっ!

なんか変わったものが沢山ありましたよっ。」

 

交州は南荊州のさらに南に広がる地域、

今で言う東南アジアやインドとの道を繋いでいる所である。

 

その為、未開の地で人口も少なく、多くの異民族が居るため反乱も起きやすい土地だが、

真珠、瑠璃、翡翠、葛布、象牙、龍目、バナナ、椰子といった珍品が揃っており、

貿易での収益が凄まじいのである。

 

今は士燮と言う人が統治しており、

交州は南荊州の都市の桂陽と繋がっている為、友好関係を結びに来たのだろう。

 

三国志では交州の貿易利益を求めて、劉焉や劉備、孫権と行った太守が欲しがる土地である。

しかし、交州は西は南蛮、南は山越といった異民族が存在している為、非常に統治が難しい。

 

なので、聖達は下手に統治するよりも、

友好を結んでおいて異民族の対策を任せた方が良いと判断している。

まぁそもそも聖は攻め込む気が無いのだが………

それに、そうしたら南荊州の兵力も他にまわせるし、貴重な品物も手に入るのだ。

 

「変わったものが一杯あるね~~」

 

貢物を見た聖が圧巻される。

南国の果物や宝石、珍しいものばかりである。

 

一応貢物の他にも、南蛮や山越の情報もくれたのだが、

やはり物珍しいほうに目がいってしまう。

 

「すごい良いにおい~~。

どんな味がするんだろう?」

 

「お茶に会うのかしら?」

 

果物を見繕っている聖と水蓮。

 

「この宝石私が貰ってもいいかな~」

 

「ちぃ、これが良いっ!!」

 

「この宝石武器につけたら目立つやろなぁ……」

 

宝石を見ている天和、地和と霞。

 

他のメンバーも色々なものを見ている。

 

その中、士郎はあるものに目を引かれる。

 

「これは………」

 

士郎の前にあるのは鉱石が一杯はいった葛。

その中から一欠けらを手に取る。

どうやら何かしら加工された物のようだ。

 

「南蛮の更に西にある国の物らしいよ~

結構貴重な物だって~~」

 

聖の話を聞いて「解析」を行う。

 

「………これは……ウーツ鋼か!!」

 

今は製造方法が失われた、ダマスカス鋼の元になる鉱石。

元々は確かインドで作られていた筈である。

 

この時代ではまだ刀剣にする技術は無いようだが、

製法自体は確立されていたのだろう。

 

「これは掘り出し物だな。」

 

これがあれば、かなりの業物が作れる。

 

士郎が眺めていると、聖から声が掛けられる。

 

「士郎くんっ。

宝物庫に持って行くから、手を貸してくれないかなっ?」

 

「ああ。案内してくれ。」

 

士郎は葛を担ぎ、聖の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い部屋の中にはいろんな物が置かれていた。

 

「なんか凄いな………」

 

武器,陶器,書物,織物………高価なものと思われる物があちらこちらに転がっている。

 

「あ、あははははっ……

ほら、私とか水蓮ちゃんって、あんまりよく分からないから。」

 

そう言いながら持ってきたものを置いて行く。

 

士郎も聖に続き、ウーツ鋼が入った葛を置いて周りを見てみると、

一つだけ綺麗な長方形の木製の箱が目に入る。

 

「聖、この中って何が入ってるんだ?」

 

「あっ、それは……………開けたら分かるよ~~」

 

士郎が箱を開けると、中には一本の剣が入っていた。

片刃で先の方少し曲がっている。

豪華な作りではないが、何処か目を引かれる不思議な魅力を持った剣であり、

幾度も使用されていたようだ。

………しかしその刀身は、中ほどからきれいに折れてしまっている。

 

「それって孫堅さんの剣なんだよ。」

 

「孫堅の?と言う事は、これがあの古錠刀か。」

 

江東の虎の異名を誇った孫堅が愛用していた剣。

孫呉の王が代々引き継ぐべき剣である。

 

「だけど、どうしてこれが此処に?」

 

本来ならば後継者である孫策が持っている筈。

 

「孫堅さんを落石の計で倒したのは知ってるよね。」

 

「ああ。前に水蓮たちから聞いたな。」

 

怒涛の勢いで聖たちに攻めてきた孫堅。

 

水軍は水蓮たちが足止めし、

蓬梅の策で討ち取った話は、以前に水蓮から玖遠、援里と一緒に聞いていた。

 

「その時に後から見つかったんだよ。

返そうと思ったんだけど真っ二つに折れてたし、

その時はもう、孫策さんは袁術さんの所にいたから。」

 

袁術が自分のものにする恐れもあるだろう。

仮に孫策の手に渡ったとしても、折れてしまっていては更に余計な怒りを買いかねない。

故に、この宝物庫に眠っていたのだろう。

 

「けど………これなら直せるかもしれないな。」

 

「えっ!?」

 

「一度柔らかくして再度接合はできると思う。」

 

「士郎くん……そういう技術持ってたの?」

 

「ああ。武器に関してはそこそこの知識は持ってるからな。」

 

「剣」に関しては恐らくこの時代では最高の刀鍛冶だろう。

 

「このウーツ鋼を少し使わせて貰わないといけないけど。」

 

一度折れた以上、そこの強度は必然的に脆くなる。

そこを補強する為に必要なのだ。

 

「全然いいよ~

私たちが持ってても使い道が無いし~」

 

せっかくの貢物なのに酷い扱いである。

 

「とりあえずこの鋼で、一本剣を作ってみるよ。

特性を掴んでおきたいし。」

 

「うん。よろしくね~~」

 

ウーツ鋼を手に取りじっくりと眺める。

「作るもの」としての創作意欲が沸いてくる士郎だった。




聖たちが国を固めてる間に色々動いてます。

大きな動きがあるのはもう少し後くらいですね。

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