真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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5-5 小覇王

――――――寿春城――――――

 

煙が充満し、火が燃え盛る城内を、

荒い息を吐きながら走る二人の人物がいた。

 

「つ、つかれたのじゃ七乃っ。」

 

「私もですよ美羽さま~

けど、急がないと追いつかれちゃいますよ~~」

 

城内にはすでに敵の軍勢が攻め入っており、

二人を全力で捜索しているだろう。

 

「………つかまったらどうなるのかぇ?」

 

「ばっさり切られちゃいますよ~」

 

その光景を想像して思わず頭を振る美羽。

 

「そ、それはイヤなのじゃ!!」

 

「でしたら急ぎましょうよ~

外には馬を待機させてますし~」

 

息を切らせながら走り続ける二人は

そのまま外に飛び出す。

 

そこには、彼方此方に「孫」の旗が立っている街並みが広がっていた………

 

孫策たちが江南に攻め込んだ後、

美羽たちは「寿春」の北に位置する、桃香たちが統治する「小沛」に攻め込んだ。

 

小沛の更に北には「濮陽」という街があり、

そこは恋が曹操から奪った所だ。

 

そこで恋と呼応して「小沛」に攻め込んだのだが、

ご存知の通り恋は月たちを探していた為、そもそも桃香たちを攻撃するわけがなく、

その寝返り事態が罠であり、逆に待ち伏せされ、大きな損失を被ったのだ。

 

そこで一旦「寿春」に」戻って体勢を整えようとしたが、

その時既に「寿春」は曹操たちの攻撃を受けていたのだ。

 

それを何とか耐え凌いだ直後、

止めといわんばかりに江南を平定した孫策が攻めてきたのだ。

 

孫策たちも江南を平定したばかりで、兵や金、食料に余裕が無かったので、

攻め込んできた兵の数は五千程だったが、

精鋭たる孫呉の兵士達に加え、孫策、周喩、黄蓋、甘寧、周泰といった、

武力重視の将が集まったせいもあり、とうとう陥落させられてしまったのだ。

 

「たしか馬はここら辺に………」

 

七乃が周りを見回し、馬を探していると………

 

「見つけましたっ!!大人しく投降して下さい!!」

 

後ろから追って来る二つの人影。

 

「あれは……甘寧さんと周泰さんじゃないですか~~」

 

既に二人とも武器を手に持っており、

いつでも切りかかれる状態にある。

 

「私たちから逃げれるとは思わない事だ………」

 

孫呉の中でも、特に素早さに秀でている二人。

 

この状態では、逃げても追いつかれてしまうだろう。

 

「な、七乃ぉ~………」

 

七乃の後ろに隠れて、服にしがみ付く美羽。

七乃は、それを見て自身も剣を抜く。

 

「大丈夫ですよ~

美羽さまは私がお護りしますから。」

 

美羽に向かってにっこりと笑みを浮かべる。

 

「さあ。今のうちにお逃げください美羽さま。

これでも私は美羽さまの側近です。

手は出させませんよ。」

 

「いやなのじゃっ!!七乃も一緒にいくのじゃ……」

 

服を握った手を決して離さない美羽。

 

「そうか………ならば命の保障はせんぞッ!!」

 

リィン…と鈴の音が鳴ったと同時に、

逆手に持った曲刀「鈴音」で切りかかる甘寧。

 

それは到底七乃が受けきれる速さではない。

 

せめて一太刀だけでもっ………!!

 

そう思い、死を覚悟して剣を突き出す七乃。

 

二人の姿が交錯する瞬間―――――

 

「そこまでですよーーー」

 

横合いから大きな斧が差し込まれ、

二人の刃が阻まれる。

 

「なッ!!貴様は………」

 

「「弧白」さんっ!!」

 

驚く甘寧を他所に、弧白は美羽と七乃を庇える位置に移動する。

 

「どこにいってたのじゃっ!!!」

 

目に涙を浮かべた美羽が抱きついてくる。

 

「すみません美羽さま………

外の敵を倒して、逃げ道を確保してたんですよ~~」

 

「そうだったんですか。

だから傷だらけなんですねぇ。」

 

見れば、弧白の白いローブは彼方此方が切り裂かれ、

血が滲んで赤く染まっている。

此処まで来るのに、如何に無茶をしていたのかがわかる。

 

「私は孫呉の甘寧。

貴様………名を名乗れッ!!」

 

「わ、わたしは周泰ですっ!」

 

隠密としての仕事が多い甘寧と周泰。

弧白の力量を一目で見抜き、油断できない相手と判断したのだろう。

 

「名乗られた以上は答えないといけませんね~

……私は徐公明。お相手いたします。」

 

「ッ!!………董卓の所にいた、あの夏侯惇と引き分けた将か!!

………成る程。相手に不足はないッ!!」

 

斧の刃を地面に付け下段に構える弧白と、

体勢を低くし、一息で切りかかれるよう大腿筋に力を込める甘寧。

 

「か、甘寧さまっ!!私も………」

 

「いらんっ!!まずは奴の出方を判断してからだッ!!」

 

相手の技を見切る為、二人同時に切りかかって対処できずにやられては意味が無い。

 

「美羽さま、今のうちに………」

 

「いやなのじゃっ!!家族は一緒に逃げるのじゃっ!!」

 

「!!………ふふっ。そうですね。」

 

互いの空気が緊張して行く。

 

「疾ッ!!」

 

軸足で蹴った地面が爆ぜた瞬間、

右逆手に持った剣で一気に切り込む甘寧。

 

自身の体重と使用する武器の軽さ故に、

加速力ならこの時代の将で甘寧に勝るものは居ない。

 

士郎や小次郎でさえ、スタートの早さのみなら甘寧に劣るのに、

只でさえ重量のある武器を使用し、傷を負っている今の弧白では到底反応できない。

 

「もらったッ!!」

 

斧を構えたまま、全く反応できない弧白の左わき腹に剣を叩き込む。

 

本当は首や心臓を狙いたいのだが、

斧の柄が上半身を守るように構えており狙いにくく、

下手に突いて、抜けなくなったりしても困るからだ。

 

刃が弧白に触れた瞬間、ガリッと鋼が擦れる音が鳴る。

 

「ッ!!これは!!」

 

切り裂いた白いローブの下からは、鎖がチラリと見え、

そのせいで刃が通らない。

 

「いいんですか~

………そこで止まって?」

 

上から聞こえる弧白の声。

いつもと変わらぬのんびりとした口調だが、

甘寧の背中にはぞくりと冷たいものが流れる。

 

………近距離。

ここは、弧白の射程内。

 

攻撃直後の大きな隙。

それを弧白が見逃す筈が無く、

ブンッと力強く振られた斧が甘寧に襲い掛かる。

 

「くぅッ!!」

 

剣で受けるが、力が違いすぎる。

そのまま一気に飛ばされていく。

 

「甘寧さまっ!!」

 

咄嗟に飛び込んだ周泰が受け止めた為、大怪我は無かったが、

受け止めた手がジィンと痺れていた。

 

「成る程………徹底した後の後………

服の下にある鎖とその切り傷はそのせいか!!」

 

「はい~~

この服は鎖帷子って言うもので、西涼から更に西にある国で使われているんですよ~」

 

ローブを捲り、下にある鎖帷子を見せる。

ゆったりとしたローブのせいで、服が多少斬られていても見えなかったのだ。

 

「わざと攻撃を受け、その隙を取る………

そんな戦い方をしていたら死ぬぞッ!!」

 

幾ら帷子があると言っても、まともに斬られたら多少の傷は残る。

夏侯惇や張遼と同等の強さがあるのに、傷が多いのはその為である。

 

「いいんですよ~

生きている以上、いつかは死にます。

………でしたら、私は私の出来る戦い方で大事な人を護りたい。」

 

「弧白………」

 

余りにも強い決意に、思わず言葉が漏れる美羽。

 

「甘寧さま、ここは二人でいかないと拙いですっ。」

 

「ああ。気をつけてな。

最初から傷を負う覚悟の相手は………厄介だぞ。」

 

互いに武器を構えたまま、ジリジリと距離を詰めて行く。

迂闊に攻撃しようものなら、逆にやられてしまう。

 

「警戒されてますね~~

………でしたら、こちらからッ!!」

 

轟ッと風を巻き込みながら、大斧を下から上に切り上げてくる。

甘寧と周泰は咄嗟に後ろに下がり、城内の中に入り

出入り口を挟んで互いに対峙する。

 

「ここなら、そう易々と大斧(それ)を振るえません。」

 

出入り口周辺は周りに壁があるため、

振り回す系の武器は扱いにくい。

 

日本でも、刀同士が屋内で対峙するときは梁の下で待ち構えると、

相手が切り下ろしが出来なくなる為、有利になるのだ。

 

「確かに攻撃はしにくいですね~~」

 

そんな二人を見て、斧を上段に構え……

 

「………でも、私たちの目的は勝つことじゃないんですよ~」

 

思いっきり振り下ろす!!

 

「なッ!!!」

 

斧は木製で出来ている出入り口の天井を破壊し、

落ちてきた瓦礫や木片で其処が塞がれる。

 

「さて~逃げましょうか~~」

 

いつもの口調で話しかけられた二人は、

なんとなく頼もしい感じを覚えたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてっ、行きますよっ!!

しっかり捕まっててくださいね~~」

 

「わ、分かったのじゃっ………」

 

ギュッとしがみ付く美羽を乗せたまま、

七乃と弧白は並走して城門に向かって馬を走らせる。

 

途中の敵は、すべて弧白が露払いしていたので殆ど残っていない。

 

「このままだと、なんとか逃げれそうですねぇ。」

 

「そうですね~

けど、やっぱりそうはいかないみたいです。」

 

三人の目の前には、閉められた城門が立ちふさがる。

 

寿春は非常に大きな都市なので

嵌められている閂は非常に大きく、一人二人では簡単に外せない。

 

「ど、どうするのじゃっ?」

 

「足止めしましたけど、

直ぐ後ろには孫策さんたちが迫ってますしね~

………門を大きくしすぎましたねぇ。」

 

慌てる美羽に、困っているのか分かりにくい七乃。

窮地を脱した為、多少余裕が出てきたのだろう。

 

「もう一頑張りしましょうか~

………美羽さま、七乃さん、下がってくれますか~?」

 

そう言って門の前に立ち、腰貯めに大斧を構える弧白。

 

その様子を見て下がる二人。

 

弧白の眼前にあるのは木製の大きな門。

大都市の門だけあり、大きく、分厚い。

 

その門を軽く一瞥した後、

自身を中心にぐるんと反時計回りに半周くらい回し、

そのままの勢いで斧を振りかぶる。

 

「ふっ!!」と、浅く息を吸い込むと同時に、

その振りかぶった斧を、門に向かって一気に叩き込む!!

 

振り回す際に起きる遠心力、

重心が先端にある斧の重量、

振り下ろす際に加わる重力、

鍛錬し続け鍛えぬいた腕力、

全てが刃に集中した一撃は――

 

衝車の攻撃すら耐え凌ぐ城門に、大きな風穴を開けた。

 

「すごいのじゃ………」

 

「凄いですねぇ………」

 

呆気に取られる二人を尻目に、

軽く斧を振り、歪みや刃毀れを確認する弧白。

 

かつて許昌を攻めた際も、

同様の方法で突破した事があり、

その時は恋と一緒に攻撃していた。

 

「ふぅっーーー

さて、行きましょうか~?」

 

振り返った弧白に呼びかけられた二人は、

急いで気を取り戻し、

慌てて弧白について行き、寿春を脱出した。

 

「このまま何処にいくのかぇ?」

 

「う~~ん………

北は劉備さんがいますし、西は曹操さん、

南の盧江も多分ダメでしょうね~」

 

元々「周家」の本拠地である盧江、

寿春がこの様子では、もう陥落してしまっていてもおかしく無いだろう。

 

「東には海がありますけど………泳ぎます?」

 

「海に蜂蜜はあるのかぇ?」

 

「絶対に無いですね~」

 

「そ、それはいやなのじゃ!!」

 

弧白の答えに思いっきり首を振る美羽。

 

「あ!だったら南西の江夏の方に行きませんか?

あそこは劉表さんの土地ですから、入るのは楽ですし、

劉表さんなら孫策さんも、曹操さんもそう簡単には手がだせませんよ~」

 

「さすが七乃じゃっ。

早速向かうのじゃ。」

 

「は~い。

じゃあ弧白さん、行きましょうか。」

 

そう言って三人は江夏の方に向かって歩を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう。袁術には逃げられたのね。」

 

制圧した寿春城太守の間で、

先行した甘寧と周泰から報告を受ける孫策、黄蓋の二人。

 

「まあ仕方ないのう。

あの徐晃に足止めされては、そう易々とは抜けん。」

 

「私も戦いたかったわ~~

この私の一撃も受け止めるのかしら?」

 

腰に差している「南海覇王」を軽く撫でながら答える孫策。

 

「冥琳は盧江の方に行ったのじゃから、

一人で追いかけるでないぞ策どの。」

 

「分かってるわよ祭。流石に強行軍だったしね。

西の曹操と、北の劉備に備えないといけないし。」

 

戦後の統治も行わなくてはならない為、暫くは動けないだろう。

 

「けど、袁術に貸した玉璽が帰ってこないのは痛いわね。」

 

江南を攻める際、兵を借りる為孫策は玉璽を質にしている。

皇帝の証である玉璽、有れば色々な策略に利用できるのだが。

 

「………それに南西にはあの劉表がおる。」

 

少し、思い口調で話す黄蓋。

 

「そうね………「借り」は返さないとね………

ここらの統治が出来次第、直ぐに攻め込むわ。」

 

そう言って強い目をして、上を見上げる。

 

「待ってなさいよ劉表ッ!!」

 

孫策の叫びは、寿春城内に響き渡った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――襄陽城――――――

 

いつもと変わらぬ日常を過ごしている士郎の元に、一通の手紙が届く。

 

「伝書鳩か………誰だろう?」

 

鳩の脚にくくり付けられた筒の中から、

丸められた手紙を取り出すと、

鳩は飛び去って行く。

 

(返信は要らないという事か?)

 

そう思いながら手紙を開く。

どうやら貂蝉からの手紙のようだ。

 

内容を簡単にまとめると、

どうやら徐州で于吉と左慈、それに小次郎の姿が見えたらしい。

 

………文章の詳しい内容は記載しないほうがいいだろう。

 

「あそこに何かあったのか?

………それを探る意味でも、一度向かった方がよさそうだな。」

 

流石に貂蝉一人では、あの三人相手は無理だ。

もし此処で貂蝉を失うと、あいつらの行動を探る事が出来る奴がいなくなる。

于吉や小次郎はともかく、転移系の術を使用する左慈は一度見失うと厄介だ。

 

「聖にお願いして、少し時間を貰うか………」

 

袁術が滅んだ徐州。

各諸侯の思惑が交錯し始めていた。




次からは徐州で少しだけ頑張ってもらいます。

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