真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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1-3 新野騒乱(1)

襄陽にいた時、

新野に賊が攻め入る準備をしていると聞いた士郎は、直ぐに移動を開始した。

 

士郎の知っている技術(製剣、料理など)を提供する代わりにいくらかの金を得、

目立たない用に馬を買い移動をしていたが(掘り出し物の駿馬)、

移動し始めたのが夕方だった為、新屋についたのは翌日の昼前位になっていた。

 

 

 

 

「これは・・・」

 

新野に着いた士郎が見たのはおびただしい数の死体や怪我人だった。

 

「くっ・・・」

 

思い出すのは幼き時の記憶。

 

苦しむ人々の怨嗟の声の中、必死に歩き続けた地獄・・・

 

規模こそ違えど、あの日の記憶を思い出すには充分な光景だった。

 

(落ち着けっ・・・まずは情報収集と治療の手伝いだっ!)

 

治療をしながら話を聞くと昨晩に一度、賊による夜襲があったらしい。

 

守備兵達が迎撃に出たらしいが、兵自体は訓練はしているが中原と比べ、

余り陸戦には参加してなく、相手もたかが賊と侮った為予想以上に被害を被った。

 

(まぁ数も自分達より少ないし、江夏の一戦を終えて気が抜けてる兵と、

自分達が生きる為に戦う兵じゃ士気が違うよな・・・)

 

しかも敵の大将は黄巾党の人物が勤めており、

こちらの将軍が一人討ち取られたらしい。

 

(黄巾党ってそんなに強い将軍いたのか?

中原の方ならともかく、ここらへんではそういなかった筈だけど・・・)

 

疑問を抱きつつ、士郎は臨時徴兵を行っている話しを聞いたので、広場に向かっていった。

 

広場では幾人かの兵が、兵を募っていた。

 

「我こそはと思う者は、武器を手に取り、戦に参列するのだっ!」

 

「共にこの街を守ろう!」

 

と、募兵は行っているのだがイマイチ集まってはいない。

 

ふと将軍の方に目を向けると一人の女性がいた

 

(多分昨晩の戦いで死んだ将軍の代わりなんだろうな)

 

確かに臨時。しかも女性だから兵の集まりが悪いのも納得できる。

しかしどう見ても非常に若い人に見える。

 

(人手不足なのか?)

 

人手不足と言うよりは、将軍の方も江夏や襄陽の方にいるせいなのだが。

 

戦があった時は自分が戦に参加して、極力早めに戦を終わらせるようにしてきた。

 

それに・・・

 

(どんな理由があっても、

自分とは無関係な人を傷つけていい理由にはならないしな・・・)

 

そう考えた士郎は、将軍であろう女性に話かけにいった。

 

「すいません。」

 

「はっ、はいっ。なんでしょうっ。」

 

少し緊張気味な返事が帰ってくる。

 

「募兵しているみたいなので、参加したいんですが。」

 

「あっ、ありがとうございますっ。

中々集まらないから困ってたんですっ。

でもいいんですか?私女ですし、将軍なりたてですし・・・」

 

(大分緊張しているな・・・

おそらく急になったから、まだ心の準備が出来てないんだな。)

 

そう考えながら士郎は、

 

「大丈夫ですよ。何処の将軍の下だろうと私のする事は変わりませんし、

戦の経験も多々ありますから。」

 

「はあ〜そうなんですか。

私なんかより全然頼りになりますっ。」

 

「そんな事無いですよ。

私もその歳で将軍になるっている人は見た事が無いですから、

よっぽど凄い方なんでしょう。」

 

どう見積もってもこの女性は士郎より年下だ。

と、言ってもそんなに差はなく、大体20前後位であろう。

 

「やっぱり早いですよねっ・・・」

 

そう言って苦笑いしていた。

 

ふと、士郎の服に気付いた将軍は、

 

「そういえば外国の人なんですよね?

なんで参加してくれたんでしょう?」

 

と言う当たり前の疑問を投げかけた。

 

すると、士郎は笑いながら、

 

「まだこの国に来て一日位しかたっていません。

それでも分かるんです。この国の人々は私みたいなよそ者でも、

とてもよくしてくれました。」

 

元来戦が起きにくく、他の地域の住民が戦火を逃れて、

劉表の下に沢山の民が集まってきた。

 

そのおかげで、街の人々はよそ者だろうと特に気にせずに、

普通に対応するようになっていた。

 

まぁ旅人やよそ者からしたら、その「当たり前」の対応がありがたいのだか。

 

「それに・・・」

 

「それに?」

 

すると士郎はとても綺麗な笑い顔を見せ、

 

「なりたいものがあるんだ・・・

だから・・見て見ぬふりなんて・・・できない。」

 

そう言い放って少し苦笑していた。

 

 

「・・・・・」

 

はっとした後、ぽーっと少し赤くなった顔を士郎に向けていた将軍は、

 

「うん・・・決めたっ!」

 

そう言って、

 

「・・・名前教えて貰えますか?

私、李厳(りげん)正方(せいほう)って言います。

真名は玖遠(くおん)。」

 

士郎は真名を教えてくれた事に少し驚きながら。

 

「私は衛宮 士郎。真名はありません。

えっと李厳様で言いんですか?」

 

すると玖遠は少しむっとした顔を見せ、

 

「士郎さんっ。真名を教えるって言う事は真名で呼んでも言いって事なんですよっ。

あと、敬語も要りません。士郎さんの方が年上ですし、お願いしたい事があるんですっ。」

 

「分かった、玖遠。

で、お願いしたい事って。」

 

玖遠は少し赤くなっている顔を士郎に近づけて、

 

「私の軍の副将になって下さいっ。誰にしようかずっと考えてたんですっ。

とりあえず軍に所属してないので、客将としてになっちゃいますけど、お願いしますっ。」

 

ぺこっと士郎に向かって頭を下げてきた。

 

「な、なんでさ・・・

俺みたいな何処の者かも分からないし、実力だって全然分からない相手を?」

 

まさかの展開に大分ついていけない士郎。

 

「はいっ!元々急な昇格でしたから余り期待されて無くて、そこら辺は私に一任されてますしっ。」

 

そして、両腰につけている剣を軽く叩きながら、

 

「それに私だってそこそこ武には自信がありますっ。

でも士郎さんを見れば分かります。多分、私なんか足元にも及びませんっ。」

 

聖杯戦争時のアーチャーと同等位の強さを持つ今の士郎なら、そこらの人では相手にならないだろう。

 

「だけど、俺が賊の密偵かも知れない。本当にいいのか?」

 

玖遠はくすくす笑いながら、

 

「本当に密偵ならそんな事いいませんっ。

後は勘ですねっ。」

 

きょとんとしている士郎を見て、

 

「私、勘だけはいいんです。

今までそれを信じて来てハズレは無いですからっ。

前回でも命は助かりましたし、将軍になれましたし、

それに・・・今日士郎さんに会えましたっ。」

 

臨時寡兵を募る際、将軍がついて来るなんて事はまずありえない。

玖遠も何となく今日ついて来ただけである。

 

(それだけでも無いんだろうな。

彼女自身の才能と実力もかなりのものだし。)

 

士郎は彼女の双剣を解析した情報をみながら、そう判断した。

 

李厳といえば、かの諸葛亮に「武は黄忠と引き分け、知は陸遜に匹敵する」と言われ、

まさしく才能の固まりと評価してもいい位の人物である。

 

「はぁ・・・どうしようか・・・」

 

士郎が悩んでいると、玖遠が、

 

「じゃあっ!私と一度試合してもらえませんかっ?」

 

と、士郎との試合をお願いする。

 

「俺は大丈夫だけど・・・

そんな時間はあるのか?」

 

「はい。私の隊の軍師さんが副将選ぶなら、出来るだけ強い人にしてくれって。

その人の力量で、立てる作戦が変わってきますからっ。」

 

「俺はまだ副将になるって・・・」

 

「それに、私も武人です。

話すより剣を合わせる事で、わかる事もあるんですよっ。」

 

そう言われた士郎は、「分かった」と玖遠に答え、

訓練場へと案内され、玖遠との模擬戦を開始した。

 

 

 

 

 

 

まわりの兵士達が見守る中、お互いに刃を潰してある得物を持ち対峙する。

 

士郎は両手に持った干将・莫耶をだらりと下げて構える。

 

それに対し、玖遠は干将・莫耶と同じ程の長さの両刃の直刀を両手に持っている。

 

ただ、

 

(みょうに持ち手が長いな・・・

それに後ろ腰に挿している棒も気になる・・・)

 

そんな風に士郎が疑問に思っていると、玖遠の方から仕掛けて来た。

 

真っ直ぐ距離を詰めそのまま−−

 

−−ヒュオンッ!!

 

と、振るう者の力量を示すような音をたてながら、

右手の剣を右上から袈裟切りに振り下ろす。

 

士郎は、それを後ろに下がりながら回避する。

 

(スピードと威力は中々。だけど中途半端な袈裟切りだな)

 

士郎がそう思ったのは玖遠が踏み込んだ足が『左足』だった為だからだ。

 

玖遠が行ったのは『右上』からの袈裟切り。

踏み込んだのは『左足』。

これでは自分自身の足を切ってしまう恐れがある。

 

(玖遠程の力量を持つ人がそんなミスをする訳が無いよな・・・

と、すれば・・・)

 

再度士郎は回避に移る。

 

すると玖遠は残した右足で踏み込みながら、右手を捻り、

切り下ろした勢いのまま逆袈裟をくり出した。

 

その射程は先程の倍近く。

後ろに下がったら一撃貰っていたが、士郎は直ぐに気付き、玖遠の左前に回避していた。

 

(この距離ならっ)

 

目の前には玖遠の横顔。

 

士郎が攻撃に移ろうとすると、

 

(そうだ、左の剣っ)

 

玖遠は左手の剣を逆手に持ち直しており、逆袈裟の勢いを利用して追撃に入っている。

 

(ふっ!!)

 

士郎はしゃがみ込んで回避を行うが、玖遠も空振りした後、

くるりと一回転しながら士郎との距離を空ける。

 

「凄いですっ。まさか初見で避けるなんて。」

 

逆手に持っている左の剣を、順手に持ち直しながら士郎に話しかける。

 

「言っただろう。場数はそれなりに踏んでいると。

それとなく全体を見ていれば分かる。」

 

「なんか口調変わってますねっ?」

 

「ああ、戦闘時はこうなるんだ。私としても直したいのだが、いかんせんこの方が効率がいい。」

 

と、苦々しい顔をしながら士郎は答えた。

 

かつて聖杯戦争時に出会ったアーチャー。

何故かアイツとはあわなかったが、そのアーチャーと段々似てくる自分を見ていれば、

自ずとアイツの正体は分かってきているが、いい気分はしない。

 

これが衛宮士郎の最良の戦闘方法の為、こうなるのは仕方がないのだが・・・

 

「ふっ−−」

 

浅く息を吐き、再度士郎との距離を詰める玖遠。

 

士郎は変わらずに防御に徹し、相手の剣筋を見極める。

 

「やあっ!!」

 

舞うように士郎に連撃を叩き込む。

 

突き、薙ぎ、払い、横に意識を向けさせた後に唐竹割り。

 

上下左右のコンビネーション。竜巻のような連撃は見る者を圧倒する。

 

「おおっ!」

 

「流石李厳将軍だなっ。」

 

いつしか周りの兵士達も二人の戦いに魅入っていた。

 

だが−−−

 

(ぜんぜんっ・・・入りませんっ・・・)

 

額に汗を浮かべながら玖遠は思う。

 

見た目には玖遠が推しているように見えるが、

息を荒くして切り込んでいる玖遠と比べて、士郎は全く疲労していない。

 

(こんなにも差があるなんてっ・・・)

 

武にはかなりの自信がある為、こうもいなされるとは思ってはいなかった。

 

(予想以上ですっ・・・

ですけどっ!)

 

連撃を一旦止め、左手を後ろの腰に挿している棒に持って行き、

右手は素早く突きを繰り出して幕をはる。

 

士郎はぎりぎり玖遠の突きが届かない所まで下がり、攻撃を捌く。

 

瞬間−−−左手に持っている『短槍』で突く!

 

ヒュンッ−−−

 

射程のぎりぎり外にいる士郎に楽に届く一撃。

 

しかし・・・士郎はそれを最初から分かっていたように、

斜め下に移動しながら回避し、玖遠の眼前に移動していた。

 

「ええっ!」

 

咄嗟に右手の剣で攻撃しようとするが、既に士郎の左手で掴まれ、

止められており、そのまま首筋に剣を当てられる。

 

「私の負け・・ですねっ。」

 

玖遠の敗北宣言により、二人の試合は士郎の勝ちで終わった。

 

 

 

試合が終わった後、士郎が軽く息を吐くと、

 

「あれが李厳将軍が任命した副将殿か。」

 

「まさかあの連撃を捌ききるなんて、ただ者じゃ無いな。」

 

「あれ程の実力者ならば、今回の戦も大丈夫かもしれぬな。」

 

などと、周りの兵士達から歓声や拍手が送られる。

 

「玖遠・・・」

 

「えへへ・・・これで士郎さんも私の部隊の人に認められましたねっ。」

 

と、いたずらが成功したような、可愛い笑みを浮かべながら答えた。

 

玖遠は、前もって副将が見つかったら此処で試合をすると伝達をしており、その為に自分の部隊の隊長格の人を訓練場に集めておいたのだ。

 

「全く、しょうがないな。

よろしく玖遠。」

 

「はいっ。士郎さん。」

 

お互いに顔を合わせて笑っていると、横から声を掛けられる。

 

「えっと・・・すみません玖遠さま、副将の方が決まったって伺ったんですけど・・・」

 

と、少しおどおどしながら少女が玖遠に話しかける。

 

「あっ!そうだよ援理ちゃんっ。この人っ。」

 

そう言うと援理と呼ばれた子が士郎に視線を向ける。

 

「えっと・・・徐庶(じょしょ) 元直( げんちょく)真名は援理(えんり )です。

よろしくお願いします・・・」

 

「あ・・・ああ。俺は衛宮 士郎、真名は無いんだ。

よろしく。」

 

士郎はこんな少女も戦に参加する事に驚きながら返事を返した。

 

「?えっと・・・その、私がどうかしましたか?」

 

士郎の視線に気付いた援理が失礼すると、

 

「いや・・・君みたいな子も戦に参加するんだなって思ってね・・・」

 

すると援理は少し怒って、

 

「えっと・・・私も・・一応・・成人してます。

大丈夫です。」

 

「そうか・・・ごめん。

君も覚悟をもって参加していると思うんだけど、どうしても抵抗があってね・・・」

 

「いえ・・・心配してくれているんですよね。

だったら・・・別に大丈夫です。」

 

「士郎さんっ!私だって女の子なんですけどっ!」

 

「玖遠は・・・なぁ?」

 

すると援理はくすくす笑いながら、

 

「えっと・・・まぁ、玖遠さんですから。」

 

「二人とも酷いよーっ。」

 

そう言いながら玖遠は崩れ落ちる。

なんか変なリズムと勘で行動している玖遠は、

士郎と援理から見れば、十分ネタになってしまうのだった。

 

「その・・・士郎さん。

改めてよろしくお願いしますね。

勉強は沢山してきましたけど、実戦は今回が始めてなんです。」

 

「ああ。俺も色々戦場を経験して来たから、何か参考になれるかもしれないしな。

よろしく、援理。」

 

「じゃあ・・・作戦の確認とかしてほしいので・・・行きましょう。」

 

「ああ。」

 

二人並んで歩きだすと、

 

「待ってよーっ、私も参加しますーっ。」

 

崩れ落ちていた玖遠が慌てて追いかけていった。




李厳(りげん) 正方(せいほう)


真名 玖遠(くおん)




演義では劉璋配下だか、元は荊州出身の人。
水蓮に才を見出だされ、若いながらも、将軍に抜擢される。

外見は腰まで届く紺色の髪をポニーテールにしている。

スタイルは恋姫の呂蒙が1番近い。

武器は変則二刀の雲雀(ひばり)

二本の剣と、一本の棒を組み合わせ、
双剣、短槍、上下両刃の槍と武器の形状を変更しながら戦う。

立場的には士郎より上なのだが、本人は士郎に頼りきっており、
実際は立場が逆転している。




徐庶(じょしょ) 元直(げんちょく)


真名 援理(えんり)



演義では劉備軍最初の軍師だが、曹操に母を人質にとられ、
魏に行った人。

しかし魏に行ってからは一度も献策を行わなかったという。

外見は桃色の髪でショート。ベレー帽を頭にのせている。
体型は恋姫の諸葛亮や鳳統と同じ。

一応武器はそれなりに使用出来るので、指揮をとる際にも使用する、
麒扇(きせん)と言う鉄扇を隠し持っている。

水鏡先生から朱理や雛理と一緒に学んでいたが、
自分でも戦乱の世で何かが出来ると思い、二人より先に士官した。

演義で魏の程イクが「自分では全く及ばない」
と評価する程の才能を見せる。

会話によく…が入る。
朱理や雛理程では無いが他人に怯える所がある。
(玖遠に対しては馴れている)

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