真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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6-2 江賊討伐(1)

――――――寿春 郊外――――――

 

「孫」の旗を掲げた軍勢が待機しており、

その先頭に、何人かの女性の姿が見える。

 

「蓮華さま。斥候によると、

賊の数は三千。此処より南の方で陣を築いているようです。」

 

「ありがとう思春。」

 

統治したばかりで、まだまだ賊や敗残兵に悩まされている寿春。

勉強がてらにこの街を任された蓮華は、

今から寿春南にある、江賊の拠点を叩きにいく所であった。

 

「え~~それだけしかいないの?

だったらシャオだけでも大丈夫だよ。」

 

「流石に小蓮さま一人だけと言うわけには……」

 

「そうよ。賊は何するか分からないから、

何かあった時困るのよ。」

 

「………は~~い。」

 

少し機嫌悪そうにする小蓮。

 

「………全く、姉さまは大事なときに居なくなるんだから………」

 

こういう事には率先して参加したがる、

姉の雪蓮の姿は此処にはなく、

冥琳や祭、穏といった孫呉の主要メンバーの姿は全く見えない。

 

「国が大きくなりましたから、

雪蓮さまは色々とする事が増えてるんですよ。」

 

地方豪族の代表である以上、

有力な豪族には今回の戦の説明や役人人事など、

いろいろな戦後処理が絡んでくる。

 

その事を直ぐ傍に居る、片眼鏡をかけた女性がフォローするが………

 

「い~え。絶対冥琳を振り回して遊んでるわ。

………亞莎くらいに真面目に働いてくれればいいんだけど。」

 

「そ、そんな私なんて………まだまだですよぉ………」

 

亞莎と呼ばれた少女は、全力で首を左右に振る。

 

「まぁ、それが姉さまの良い所にも繋がってるんだけどね……」

 

ため息を吐きながら、どこかしょうがないといった感じの蓮華。

 

「蓮華さま。軍の準備が整いました。」

 

「分かったわ。」

 

思春に促され、蓮華は整列する五千の兵の前に立つ。

 

「孫呉の勇者達よっ!!

我らの民を脅かす、賊どもを駆逐するっ!

進軍し、賊どもに我らの力を見せ付けろっ!!」

 

『オオオオオオオオオオオッ!!!!』

 

剣を高く掲げた、蓮華の激励に兵士達が咆哮にて答える。

 

賊掃討戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?あれは………」

 

遥か前方を見ていた士郎が、

おもむろに手綱を引いて馬車を止める。

 

「きゃっ!!」

 

「なにっ!?」

 

急に止まったせいか、後ろの荷台から姉妹達の悲鳴が聞こえてくる。

 

「士郎さん、どうかしたんですか?」

 

士郎の後ろにある荷台の幕が空き、

人和が顔を出してくる。

 

「前方に兵の姿が見えるんだ。」

 

「前方………って何も見えませんが………」

 

「ああ。視力はかなり良いほうだからな。」

 

勿論、士郎は視力を強化しているからみえている。

 

「まだぼんやりとしか見えないが………

此方を狙ってるわけじゃ無さそうだな。」

 

持っている物やぼんやりと見えている色の割合を見れば、

兵が此方を向いているかどうか位は判断できる。

南から進んで来ている士郎に対し、

兵の集団は北の方を向いている為、

恐らく其方からの相手を警戒しているのだろう。

 

「賊なのかしら………」

 

「そこまでは判断できないが、

もし賊なら確実に狙われるな。」

 

馬車に積んでいるのは食料や貴重な物ばかり。

しかもアイドルである張三姉妹もいるとなると、

賊からすれば格好の得物である。

 

「如何しましょうか?士郎さん。」

 

「………一旦近くの森に馬車を隠そう。」

 

そう言って西に見える森に向かって移動を開始する士郎たち。

 

森の中の安全を確認した後、

適当な水場の近くで様子を伺う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとおねえちゃん!!私の取らないでよ!!」

 

「あれ~余ってたんじゃないの?」

 

「姉さんたち。食事中は静かにして。」

 

夜、焚火の周りに集まって、

士郎が作った食事を食べている。

 

馬車には腐りにくい乾物が多く入っていた為、

今夜のメニューは鍋と近くの川で取れた焼き魚だ。

 

「………凄い勢いだな。」

 

姉二人はともかく、

その二人を抑えている人和も皿は決して手放さない。

 

「しろーくんに見つかるまで、

まともに食事できなかったんだよ~」

 

「乾物ばっかりで口が痛くなるし、味は濃いし………

散々だったんだから!」

 

「いや、それを俺に怒られても………」

 

完全に八つ当たりである。

 

「だから今のうちにしっかり食べるのっ!

ちぃ達は体力が無いと駄目なんだから。」

 

確かにあれだけ歌ったり、楽器を演奏していたら体力も直ぐになくなるだろう。

馬車での移動中も、新曲の作成に四苦八苦しているようだし。

 

「私たちの事より、これから如何するんですか士郎さん?」

 

いつの間にか食事を一足先に終え、

食後のお茶を飲んでいる人和に話しかけられる。

 

「ああ。その事なんだけど………

まずは、あの賊を如何にかしないと進めない。」

 

「そうですね……

もし見つかってしまったら、此方の馬車では逃げても追いつかれます。」

 

「昼間の様子を見たところ、奴らは北のほうを警戒していた。

北にあるのは寿春。

恐らく奴らは、寿春からくる討伐軍を警戒しているんだろう。」

 

「そうなの?」

 

会話に天和が参加してくる。

 

「ちょうど寿春は太守が変わったばかりだし、

まずは、その隙に暴れる賊や敗残兵を討伐してるだろう。

………そのままにしておくと、治安が悪化して町の運営が成り立たないからな。」

 

治安の低下は民の不安を招き、

不安は人々の心を揺るがし、やがて反乱を起こす。

そうなってしまったら、町の運営どころではない。

 

「とりあえず俺一人で近寄って、様子を伺ってくるよ。

最悪見つかっても、俺一人なら逃げ切れるからな。」

 

「そんな………危ないよう………」

 

「大丈夫。引き際は心得てるさ。」

 

心配そうな目を向けてくる天和の頭を軽く撫でながら答える士郎。

 

「気をつけて下さいね。」

 

「………無茶したら駄目だからね!」

 

「ああ。行ってくるよ。

………念のため、ここら周辺に罠を仕掛けておくから、

あまり動き回らないようにしてくれよ。」

 

そう言って馬に跨り、

賊が居るであろう方角に向かって駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

孫権の軍と賊が戦い始めたのは夜が明けてからだった。

 

バラバラと徒党を組み、群れている賊に向かって、

錐行陣で突撃しいて行く孫権の軍勢。

 

偽退誘敵等の策を使う様子は全く見えない。

 

兵力自体が賊の三千に対し、孫権軍が五千と上回っている事は大きな要因であるが、

そもそもこの戦は寿春の民に示威を見せ付ける意味もあった為、

策を弄するより、強引に攻め込む方が好ましいのだ。

 

それに、この方針を決定したのは他でもない、蓮華自身である。

 

軍師である亞莎兵力の優位を見せ付けながら、

降伏させる策を献上したのだが、

兵糧の消費や、相手が賊である事も考え、一気に攻めることにしたのだ。

 

まぁ、蓮華の性格が大分影響しているのもあるが――――

 

戦況は、将自体の力も相俟って、

賊は押され気味になっており、真っ二つに陣を割られていく。

 

「やぁああああーーーっ!!」

 

先頭を率いるのは小蓮。

小さい体を目一杯動かし、

両手に持った乾坤圏を振り回して進んで行く。

 

攻撃的な性格の小蓮。

まともな装備を満たない賊では、

小蓮と彼女が率いる兵士達を止める事は出来なかった。

 

どんどん息絶えていき、敗走を始める者もだんだん増えて行く。

 

「このまま一気にシャオが!」

 

もう直ぐで敵の本陣が見える―――

 

この突撃で決めてしまおうと、突撃して行く。

 

しかし、彼女達は失念していた。

 

賊の中には、「敗残兵」も混じっていたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雷薄。敵さんは突っ込んできたみたいだぜ。」

 

「そうか。やっぱり俺達を賊だと思って舐めてやがったな。」

 

賊の本陣で会話しているのは雷薄と陳蘭。

二人とも今は賊の頭だが、

元々は袁術軍で一軍を率いた将である。

 

「ああ。賊は賊なりの戦い方ってのを見せてやろうぜ。」

 

「そういうこった。

………おいってめえ等っ!!姫さんをお出迎えして差し上げろっ!!」

 

『へいっ!!!』

 

雷薄の言葉で動き出す賊軍。

どこか、不穏な空気が戦場に流れ始めていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなのよこいつら!!」

 

あと少しで本陣という所まで迫った小蓮の目の前に立ちふさがるのは、

大きな盾を構え、がっちりと鎧を着込んだ兵士たち。

重量がある装備を着ているせいか、小蓮の突撃にもびくともしない。

 

装備は充実していた袁術軍の残党が混じっていた為、

雷薄と陳蘭が選りすぐった兵士に持たせていたのだった。

 

「もうーーーっ!!シャオの邪魔しないでよっ!」

 

舞うように切り込む小蓮。

しかし、小蓮の攻撃は速さがあるが重さは無い。

 

守備のみに身を固めた兵士を倒すのには少々時間が掛かる。

 

たった数百の重装歩兵に、

軍全体の進軍が完全に止まってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかしい………軍の進軍速度が落ちている?」

 

陣の最後尾に居る蓮華が異変に気付く。

 

「ま、拙いです。蓮華さま!」

 

「亞莎。何があったの?」

 

慌てた様子の亞莎に理由を尋ねる蓮華。

 

「このままだと、小蓮さまが!」

 

錐行陣は△の形に陣を組む。

この陣は、進軍速度、突破力に優れており、

なだれ込むように後ろの兵が攻撃でき、連携しやすいメリットがある。

ただし、当然の如くデメリットも存在する。

 

槍のような錐行陣。

先端は薄く鋭利な故に強力な突破力を有するが、

非常に脆く、折れやすい。

今の孫権軍のように進軍を止められると、メリットが殆ど失われてしまうのだ。

 

「っ!早く援軍を!!」

 

「もう、中軍の思春さまが向かっています。」

 

この作戦を立案したのは蓮華だが、

亞莎も特には反対はしていない。

つまり、この事態を予想出来ていなかった。

 

孫家を継ぐ予定の蓮華と、軍師としてまだ新しい亞莎。

未熟な二人を成長させる為の戦だったが、

その未熟な隙を衝かれてしまった。

 

「そう………なら、私たちも急ぐわよっ!」

 

間に合わないかもしれないが、

大事な妹をここで失う訳には行かない。

 

しかし、急ぐ蓮華たちの前に賊が立ちふさがる。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

形振り構わず襲い掛かってくる賊の群れ。

まるで、命を捨てているかのように。

 

「くっ!邪魔よっ!!」

 

手に持つ剣を振るい、賊を切り伏せる。

しかし、倒れた賊は尚も、足にしがみ付いてくる。

 

「っ!!……………はぁっ!!」

 

紫電一閃。

今度こそ事切れ、ぱたりと地面に落ちる賊の手。

 

見渡せば似たような状況が繰り広げられている。

 

まるで亡者のよう。

 

「これは一体………」

 

小蓮が倒していった筈の賊も、まるでこの時を待っていたかの用に動き出す。

 

周りは、混戦と化していった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張るねぇ、嬢ちゃん。」

 

前線で戦う小蓮の元に、二人の男が近付いて来る。

 

共に血糊がべっとりとついた剣を持ち、

装備も軽装だが、まともな鎧を着ている。

 

「誰っ!?」

 

「俺が雷薄でこっちの奴が陳蘭。

あんた等にやられた元袁術軍さ。」

 

「袁術軍?………って事は重装歩兵

こいつら

はアンタたちのねっ!!」

 

「そうさ。敵が弱くて進み易かっただろう?

まんまと誘われやがった。」

 

大笑いする陳蘭。

 

雷薄と陳蘭が立てた作戦は、

まず、まともな装備が無い賊を戦わせ、

調子に乗って進んできた奴を、

数少ないまともな装備をしている兵士で囲むというものだった。

 

自分の味方である賊たちを犠牲にする作戦。

まさか数に劣る賊が、そんな事をしてくるとは簡単には見抜けなかった。

しかも、最初に進んできた将が大して有名じゃなければ、あまり意味が無い。

正にギャンブルのような作戦。

だが、雷薄と陳蘭はそれに勝った。

 

「くっ………けど、もうそっちは殆ど兵が残って無いじゃない!

直ぐに姉さま達が助けに来てくれるわよっ!」

 

小蓮が言うとおり、死傷者を除いたら賊の残りは千いるか居ないか。

対して、孫権軍はまだ四千以上は残っている。

 

「けっ!こっちハナから戦って勝つ気はないんだよぉ。」

 

「まんまと策に引っかかった奴を捕まえて、

孫家の奴らを苦しめるのが目的だしな!

今頃、てめえの姉は死体の振りしてる賊の連中に足止めくらってるぜ。」

 

賊は敗北したら、明日は無い。

仲間の死体に隠れている賊もいるが、

多少の傷はおろか、片腕を失っても戦い続けるように命令をしてある。

………あたかも、亡者の群れが襲い掛かってくるように見せかけ、

進軍を遅らせる為に。

 

「そ、それだけの為にこんな事したのっ!!」

 

「俺達は手前ら孫家の連中に滅ぼされたんだぜ!

恨みを持つのは当然だろうが。」

 

「そうそう。

大人しく死んでくれやっ!!」

 

言い終わるや否や、同時に切りかかってくる雷薄と陳蘭。

蓮華と亞莎は動けず、思春はあと少し。

 

小蓮は絶体絶命の危機に陥ってしまった………




江賊討伐は次で終わり。
それから徐州入りになります。

ちょっと説明文が多かったので、
読みにくかった所や、分かりにくい所があればお教え下さい。
勉強になりますのでm(_ _)m

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