真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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6-8 徐州動乱(2)

「はぁッ!!」

 

赤い閃光が、白装束の中で瞬く。

 

ばたりばたりと、その一撃を受けた敵が倒れ伏す前に、

閃光は、次の敵へと迫って行く。

 

「その程度では、この常山の趙子龍の相手にならんぞッ!!」

 

そう名乗りをあげ、

蠢く白装束に向かって一気呵成に切り込んで行く星の後に、

士郎と貂蝉が続いて行く。

 

「……凄い勢いだな。」

 

「大分鬱憤が溜まってたんじゃないのかしらん♪」

 

「鬱憤ってなにさ……」

 

「乙女の秘密よん♪」

 

「…………」

 

もはや突っ込む気にもならない士郎。

 

二人も話しながら剣と拳を振るい、白装束を倒して行く。

 

「にしても倒しても倒してもきりが無いな。」

 

白装束達は確かに剣や槍を振るって攻撃してくるのだが、

此方が切った感触では、まるで中に何も入って無いように感じる。

 

「それはそうなのねん。

こいつらは于吉の妖術で呼ばれてるだけだから。」

 

「ふむ……どう言う事ですかな?」

 

「もともと召還する事に長けていた于吉が、

太平要術の書でさらに力をつけて、

この幻影兵を呼び寄せているのよん♪」

 

「幻影兵……」

 

士郎が切った白装束の中からは、

黒い煙のようなものが漏れ出てきている。

 

「こいつらは倒しても、

時間が経つとまた襲い掛かってくるわ。

だから、ある程度はほっといて先に行った方がいいのねん。」

 

「確かに。

そんな奴らの相手をするのは時間の無駄ですな。」

 

そのまま進行上にいる敵を倒しながら進んで行くと、

少し開けた所に到着する。

 

「大体山の中ほどなのねん。」

 

「これは……」

 

士郎がぐるりと回りを見渡すと、

其処には幾つもの宝物が無造作に置かれている。

 

「騒がしいと思ったら……貴様達か。」

 

「お前はッ!」

 

声がした方に目を向けると、

其処には此方を睨みつけてくる左慈と、

相変わらず飄々としている小次郎がいた。

 

「…………」

 

小次郎の姿を見て、無意識に前に出ようとした星を止める士郎。

 

「あらん。于吉はいないのかしらん♪」

 

術の行使を行っているのは于吉。

太平要術の書も恐らく持っているだろう。

 

「ふん。貴様らに答える義務も義理もない。」

 

「まぁそうだろうな。」

 

そう言いながら、

士郎は剣を握りなおす。

 

「ふっ……語るは無粋。

もとより、そのような事を行いに来たのでは無かろう。」

 

小次郎が、刀を構える。

 

「………士郎殿。

あの男の相手は私に。」

 

「……危なくなったら間に入らせてもらうぞ。」

 

「ふふっ。頼りにしております。」

 

笑みを交わす士郎と星。

 

「さて……

俺達の邪魔をするのなら……死ねよッ!!」

 

跳躍し、飛び掛ってくる左慈

五人の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――小沛城 北門――――――

 

北門に攻め込んでいるのは、

楽進(凪)、李典(真桜)、于禁(沙和)の三羽烏。

 

三人は城門の突破を率いてきた五千の兵に任せ、

自分達は城壁を登り城内に進入し、

中から攻撃しようとしていた。

 

「よいしょ……っと……

ふう……何とか登れたか。」

 

城壁の上で軽く汗を拭う凪。

 

「凪ーーッ!助けてーな!」

 

「引っ張って欲しいのーー」

 

「……潜入してるのにあの二人は……」

 

助けを求める真桜と沙和を何とか引っ張り上げる。

 

「敵にばれないようにしてるのに、叫んでどうする!」

 

「だってウチらの武器重いんやもん。

ええなぁ凪は武器が軽そうで~」

 

「私もなの~

二本は持ちづらいの。」

 

「だったら二人とも手甲を使えばいいだろう。」

 

それを聞いた真桜は思いっきりため息を吐く。

 

「分かっとらんなーー

この回転するのがええんやんか。」

 

「手で殴ったりしたら折れちゃうの~」

 

「こいつらは……」

 

そんな二人に凪が呆れていると、

 

「進入者、」

「ですね。」

 

「お前は……?」

 

「北門を守備している魏越、」

「成廉です。」

 

そう言って、ペコリと頭を下げる二人。

 

「なんや敵将か?

やったら丁度ええ。

ウチは李典、勝負やぁっ!!」

 

ドリル槍「螺旋槍」を構え、突撃する真桜。

 

「くっ、」

「きゃっ……」

 

魏越、成廉の二人は手に持っている剣で防ごうとするが、

回転する槍の勢いに押され、左右に弾き飛ばされる。

 

「今やっ!」

 

「貰ったのっ!」

 

倒れた隙を狙い、沙和は双剣「二天」を振るい、

魏越に切りかかる。

 

ギィンと剣が交錯し、鍔競り合う。

 

「くぅううっ……」

 

上から振り下ろされる剣に、

魏越はジリジリと押されていく。

 

「魏越っ!」

 

「アンタの相手はウチやでっ!!」

 

ブオンと螺旋槍を薙ぎ払う真桜。

 

「わっ!」

 

まだ完全に立ち上がっていなかった成廉は、

ごろりと後ろに転がりそれを避ける。

 

「まだまだやでぇッ!」

 

そのまま、唸りを上げる槍で突きを放つ。

 

下手に受けると剣ごと巻き込まれてしまう為、

避けるしかない成廉。

 

しかし

いつまでも避けきれる事は出来ない。

 

「きゃぁっ!」

「くぅっ!」

 

隙を付かれ、螺旋槍に弾かれた成廉は

ちょうど沙和に押された魏越とぶつかり、

真桜たちから少し離れた位置まで飛ばされる。

 

「このままやったらウチらで何とかなりそうや。

……アンタ等も降参したらどうや?」

 

それを聞いてゆっくりと立ち上がり、

再び片手で剣を構える魏越と成廉。

 

「なんで両手で剣を持たないの~?」

 

当たり前の事だが、剣は片手で持つより両手で持ったほうが強い。

 

沙和のように二刀流ならまだしも、

二人とも片手剣を一本ずつしか持って居ない。

 

それなのに、剣を持ってない方の手は簡単な手甲があるだけだ。

 

「こっちの手は、」

「剣を握る為にあるんじゃないです。」

 

「……降参はせん。ちゅう事やな。

……行くで。沙和ッ!」

 

「了解なの!」

 

真桜を先頭に再び突撃する二人。

 

作戦は先程と同じ。

真桜が片方を弾き飛ばし、

沙和が残ったほうを仕留める。

 

さっきは沙和の攻撃が遅れた為防がれたが、

今回は真後ろにきちんと着いて来ている。

 

もし、避ける動作を見せたのなら、

突かずに薙ぎ払い、

二人一気に弾き飛ばす。

 

そう考えながら攻撃する真桜がみたのは、

剣を持って居ない方の手を繋ぐ、

魏越と成廉の姿。

 

避けないと判断した真桜は、

魏越に突きを放つ。

 

ギィン!と甲高い音を立てて、

弾き飛ばされる魏越。

 

「やーーーッ!!」

 

残った成廉に切りかかろうとする沙和。

 

しかし、その沙和の上から、

弾き飛ばされた筈の魏越が切りかかってきた。

 

「ええッ!!」

 

あわてて双剣を上に掲げ、

防御するが、想像以上に重い一撃に膝を着く。

 

弾き飛ばされた魏越の手を、

成廉が引っ張って遠心力で加速し、

急加速して切りかかってきたのだ。

 

呆気にとられている真桜を、

今度は成廉の突きが襲う。

 

「なんでやッ!!」

 

槍で捌くが、成廉を踏み台にした魏越が、

再度上から切りかかってくる。

 

「ふッ!!」

 

その一撃を、傍で警戒していた凪が手甲「閻王」で止める。

 

三人はその隙に下がり、魏越たちとの距離を開ける。

 

「……成る程。

互いに手を繋いで、一つになっているんだな。」

 

「ご名答、」

「です。」

 

動く時に、自分だけで動くより、

だれかに押したりされた方が動きは速い。

 

魏越と成廉は空いた方の手を繋ぎ、

互いに引っ張りあう事で急加速したり、

飛ばされても、円の形に動いてそのまま攻撃してきたりしているのだ。

 

「ちゅう事は二人を相手にしとるんやなく、

二刀流の相手一人を相手にしとるって考えた方がええんか。」

 

「厄介なの……」

 

しかもこの二刀は通常の二刀流と違いばらばらに動き、

体も変則的に加速する。

 

「気を引き締めないと……やられるな。」

 

そう言いながら、

手甲を硬く握り締める凪であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――小沛城 西門城外――――――

 

「っ……集結……守備っ……」

 

息も絶え絶えに、曹純が虎豹騎に指示を出す。

 

みな、武器の彼方此方に傷が入っており、

体にも、多数の切り傷を帯びている。

 

「…………そろそろ、終わり。」

 

対する恋は疲れた様子を見せているが、

大きな傷も負ってはおらず、まだまだ戦える。

 

「恋どの~こちらも大分優勢ですぞっ!!」

 

他の虎豹騎を相手していた音々音も、

恋と合流する。

 

このままでは、間違いなく虎豹騎は敗走するだろう。

 

戦の最初は、確かに恋と互角の勝負を繰り広げていた。

 

しかし、恋とまだ若すぎる曹純とでは、

圧倒的な体力の差があった。

 

疲れは体力を奪い、やがて思考能力も奪う。

そして指揮官の指示の遅れは味方の動揺を招く。

 

特に、虎豹騎のような連携を前提とした部隊にとって、

それは致命傷になる。

 

正にジリ貧。

 

「……そろそろ、行く。」

 

そう言って恋が体勢を沈めた時――

 

「れ、恋どのっ!!曹操の本陣が攻めて来るのですぞっ!!」

 

華琳が、動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たぁっ!!」

 

上段から勢い良く振り下ろされる蛇矛を、

大鉄球「岩打武反魔」で受け止める許緒(季衣)。

 

「くぅっ……やるなチビ助!!」

 

「鈴々はチビじゃないのだっ!!」

 

本人たちは大真面目だが、

傍から見ていると子供が喧嘩しているようにしか見えない。

 

まぁ、互いの武力の高さゆえか、

見ている分には迫力が物凄いが。

 

「ちっ……もう少しで藍を倒せたのに……」

 

それを見ながら思わず呟く詠。

 

あと少しと言う所で援軍に来た季衣の邪魔が入り、

藍を逃がしてしまった為、どうやら不機嫌のようだ。

 

「でも、どうして今本軍を動かしたのかしら。」

 

軍師としての本能か、相手の意図を探り始める。

 

現在城外の戦闘は恋、鈴々共に此方が優勢だった。

確かに味方がピンチなら援軍を差し向けるのは当然だが、

士気が高い相手に差し向けるのは得策ではない。

そうなる位なら、

最初から全軍で向かった方が士気が下がらない分まだマシである。

 

それに相手はあの華琳、

城外がこうなるのは予想出来ていただろう。

 

だとしたら、華琳の狙いは――

 

「……時間稼ぎ……」

 

ありえない。

只でさえ兵糧が少ない曹操軍が?

 

しかし、それ以外に何があると言うのだ。

 

「……雲行きが怪しいわね。

……ここはさっさと倒して、恋と一緒に曹操を挟撃した方が早いわね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――小沛城 南門――――――

 

「さて、そろそろいいだろう。」

 

南門からさらに南、

曹操軍の鎧を纏った一軍の姿が見える。

 

先頭に立っているのは夏侯淵(秋蘭)。

傍には、典韋(流琉)の姿も見える。

 

「なんとか此処まで来れたか……」

 

「上手く行って良かったです。」

 

小沛南の街道は、孫呉の領地である寿春にも繋がっている。

故に、下手に動くと孫呉から攻撃を受ける恐れがあるのだ。

 

その為に曹操軍一の進軍速度を誇る、秋蘭がこの任に選ばれたのだが。

 

率いるのは秋蘭、流琉がそれぞれ五千の歩兵。

しかし、それはただの歩兵ではない。

 

「剣を抜け『青州兵』。」

 

秋蘭の合図と共に剣を抜く青州兵。

 

目標は小沛南門。

此処は以前、袁術が寿春を統治していた際に幾度となく攻撃を受けているため、

他の門よりも『脆い』。

 

「今より、小沛を攻める!

遅れず着いて来いっ!」

 

『オオオオオオオッ!!』

 

鬨の声を上げ、一気に攻めかかる。

 

只でさえ兵糧が少ない曹操軍が、

孫呉との戦闘を起してしまうリスクもある

南からわざわざ迂回する訳が無い。

 

そんな桃香たちの隙を付く「奇襲」

 

攻めている兵も精強な『青州兵』である事も含め、

只の将が相手なら、これで戦は決まり。

 

しかし、相手はあの伏竜と鳳雛。

 

当然、それも予想済みであった。

 

「ッ!」

 

秋蘭の目の前に光が瞬く。

 

キィンッ!!

 

「大丈夫ですか秋蘭さまッ!!」

 

「ああ……すまない流琉。

しかし今のは……」

 

流琉が弾いたものを確認してみると、

其処にあったのは地面に落ちている一本の矢。

どうやら先程の光は、鏃に光が反射したようだ。

 

方向から推測すると、恐らく城壁の上から射って来たようだが、

ここから城壁までの距離は遠い。

 

それで狙いを定めるとなると、

恐らく秋蘭レベルの技量が必要になってくる。

 

ふと、射手に興味を持った秋蘭が城壁の上に向かって

目を凝らしてみると――

 

城壁の上に居並ぶ兵の中、

自身の背の低さのせいか、身の丈程の黒弓を構えた、

メイド服を着た儚げな少女の姿があった。




青州兵(せいしゅうへい)


青州にて暴れる黄巾党の残党で編成された歩兵部隊。
元賊の為、略奪等を多々行っていたが、
他の軍を圧倒する戦闘経験、団結力を有し、
曹操軍の主軸として活躍した。

なお、曹操死後は解散し、
故郷に帰っています。(曹操一代との契約の為)

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