真・恋姫無双〜正義の味方〜   作:山隼

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6-9 徐州動乱(3)

南門の危機。

 

最初からそれを予想していた朱里、雛里の両軍師は、

遊軍として待機していた五千の兵を差し向ける予定だったが、

月自身が、その軍を率いる将に立候補したのだ。

 

「皆戦ってるのに……私だけ見ているなんて……

嫌ですっ……!!」

 

そう言い放った時と同じ、決意を秘めた眼差しを城外に向け、

士郎から借り受けた黒の剛弓に矢を番え、

まるで、ぎりりと音が聞こえてくる程に強く弓を引き絞る。

 

弓を引く際に筋力は当然必要だが、

それ以上に必要なのは技量。

 

元々、西涼出身で弓の扱いに長けている月だからこそ引けているが、

恐らく愛紗や春蘭では、この弓は引けない。

 

敵は遠く、狙いは霞む。

 

しかし――――それでも外さない

 

「っ……いきますっ……!」

 

月の手から放たれた弓は、

敵将との最短距離を飛翔して襲い掛かるが――

 

同じく敵将から放たれた矢に撃ち落される。

 

「あ……敵も、弓使い……」

 

それも、飛んで来る矢を落とせるほどの腕の持ち主。

 

直ぐに、月は指令を下す。

 

「あの……矢盾を前にして、その隙間から矢を射って下さい……

できるだけ、守備重視でお願いします……」

 

なぜか兵たちに敬語でお願いしているが、

兵たちは妙にきびきび動く。

 

……保護欲的をそそられているのだろう。

 

あっという間に盾が並べて守備を固め、

万全の状態で迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう撃っては来ないか……」

 

そう言いながら弓から矢を下ろす秋蘭。

 

どうやらもう少し撃ち合いを楽しみたかったらしく、

少し残念そうな顔をしている。

 

「流琉っ!城門の方はどうなっている?」

 

呼ばれた流琉が近寄ってくる。

 

「はいっ。敵は守備に徹してますので、中々数が減りませんね。」

 

「挑発には乗らないか……」

 

人は、攻撃の前と後に大きな隙が出来る。

故に、攻撃をあまりして来ないと、

此方が倒される心配は減るが、倒す事も難しくなって来る。

 

そして、地形のアドバンテージはあちらが圧倒的に優勢の為、

余り良い状況ではない。

 

「城壁を登ろうとしても、上から熱湯が降ってきますし……

土嚢を積もうとしても、堀が近くて難しいです。」

 

「……あの軍師達がいるんだ。

そこら辺の対策はきちんと行っているんだろうな。」

 

 

細かい所まできちんと対策がなされており、

そう簡単にはいきそうにない。

 

「あと……此方の兵の動きが何故か悪いです。」

 

「青州兵たちがか?

……疲れでも出ているのか。」

 

何処か違和感を感じながらも、攻撃を続ける秋蘭。

 

時間はまだ、かかりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――泰山 中腹――――――

 

投影開始(トレースオン)

 

士郎の手に現れるのは、金に輝く金剛杵。

 

それを掲げ、白装束たちに向かって射出する。

 

神鳴りし金剛杵(ヴァジュラ)

 

真名解放と同時に、瞬く閃光――

 

小次郎と左慈は咄嗟に防御するが、

周辺の白装束たちはそうはいかない。

 

迸る、戦いの神(インドラ)の一撃に焼かれていく。

 

「っ……やってくれるな……」

 

幻影兵たる白装束は倒しても直ぐに復活する為、

士郎は劣化投影した神鳴りし金剛杵(ヴァジュラ)の雷撃にて焼く事で、

麻痺させ動きを封じたのだ。

 

当然、只の電撃では幻影兵を麻痺させる事はできない。

 

しかし、この宝具の一撃であれば、

流石の幻影兵達も当分は行動が出来なくなる。

 

「最初から奴等なぞ当てにして無いっ!!」

 

叫びつつ拳打を繰り出す左慈の相手を、

貂蝉が努める。

 

「私が相手よん♪」

 

そしてもう一組、

星と小次郎も既に戦いを始めていた。

 

煌く、数多もの剣閃を紙一重で避ける星。

 

「ふむ。やはり警戒されているか。」

 

「前回は手酷くやられたからな。

今回はそうはいかん。」

 

確かに小次郎の刀は長大だが、

それでも星の龍牙よりは短い。

 

前回のように無理に攻めず、

相手の射程外からの攻撃を基本に据えて戦いを展開している。

 

しかし、それでも星は小次郎の攻撃を見切れていない。

 

「ふぅっ……」

 

呼吸を整える為、攻撃の手が止まる。

 

当然、その隙を小次郎は逃さない。

 

「させるかッ!」

 

干将・莫耶を投影し直した士郎が、

横合いから飛び出し、刀を弾く。

 

「大丈夫か、星。」

 

「なんの。まだまだやれます。」

 

そう言って息を整える。

 

小次郎の保有スキル「宗和の心得」

 

相手に攻撃が見切られなくなるこのスキルのせいで、

終始劣勢に追い込まれる。

 

このスキルは経験を積んで強くなるタイプの人物からすれば、

非常に相性が悪い。

 

特に、士郎のような。

 

星と士郎とも、小次郎が「燕返し」の構えを取ると、

直ぐ様距離を開けるようにしているので、

その点の心配はないが、やはり防戦一方になる。

 

「はぁっ!!」

 

膠着した瞬間を、左慈の蹴りが襲う。

 

「くっ……」

 

左慈の足甲に剣を滑らせ、受け流す士郎。

 

「ちっ!」

 

着地した瞬間、直ぐさま飛び掛ってくる。

 

「っ……貂蝉は?」

 

士郎は攻撃を裁きながら周辺に目を向ける。

 

「いたたたた……少し飛ばされたのねん。」

 

どうやら左慈の攻撃を受け、少し飛ばされたようだ。

 

「左慈は俺が引き受ける。

小次郎は任せた!」

 

「了解なのねん。」

 

左慈の相手は士郎、小次郎の相手は星と貂蝉が努める。

 

「とっとと終わらせてやる!」

 

手甲をつけた拳打が、

まるで鞭のようにしなり、士郎に襲い掛かる。

 

「ちっ!!」

 

体格差も相俟り、

下から突き上げてくる攻撃は裁きにくい。

 

おそらく武術家としての力量は葛木宗一郎に匹敵する。

 

「ふん!その程度か。」

 

一旦、左慈から距離を開ける士郎。

 

(このままでは決着がつくまでに時間が掛かってしまう)

 

ギュッと、強く握り締めた干将・莫耶に目を向ける。

 

(ならば想像しろ。

……アイツに勝てる方法をッ――)

 

体に奔る、27本の魔力回路をフル稼働させる。

 

「―――鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎ、むけつにしてばんじゃく)

 

士郎が左右に投げた剣は、

敵上にて交差するように美しい弧を描いて、

左慈に襲い掛かる。

 

「くっ!!」

 

左慈は、左右から襲い来る剣を両手の手甲にて防ぎ、

双剣は左慈の後ろに弾かれる。

 

士郎は無手。

無論、この隙を逃すはずが無い。

 

「貰ったッ!!」

 

ここぞとばかりに急速に距離を詰めてくる左慈。

しかし――

 

投影(トレース)解除(アウト)

 

「なッ!!」

 

予め投影しておいた干将・莫耶を再度作り、交差させ、

左慈の一撃を受ける。

 

「……成る程。武器を作れるとは聞いていたが、そう言う事か。

しかし、貴様の剣技は既に見切ったッ!」

 

受けられた状態から、右腕を捻り、

交差させた干将・莫耶を強引に突破しようとするが――

 

「―――心技、泰山ニ至リ(ちから、やまをぬき)

 

「!?くッ……」

 

武術家の直感か、

後ろの死角から飛翔してきた干将を、

空いた左腕で咄嗟に弾く。

 

「小細工をッ!」

 

まだだ。

まだ、士郎の攻撃は終わっていない。

 

「―――心技、黄河ヲ渡ル(つるぎ、みずをわかつ)

 

今度は莫耶が、再度後方より襲い掛かる。

 

「またっ……ちィッ!!」

 

左手は干将を弾く際に振り切っており、

受けは間に合わない。

 

その為、捻じ込んでいた右手の手甲を外し、

後ろに向かって回避する。

 

「―――唯名、別天ニ納メ(せいめい、りきゅうにとどき)

 

右手には既に手甲が無く、

着地後、体勢が完全に崩れる左慈。

 

左慈の法衣を超えたダメージを与える為、

士郎は、両手に持つ干将・莫耶に魔力を集め――

 

「―――両雄、共ニ命ヲ別ツ(われら、ともにてんをいだかずッ)!」

 

踏み込むと共に、

振るわれた干将・莫耶は――

 

左慈の法衣を裂き、

肉体を、左右に切り裂いた。

 

「ぐッ……ふッ…………」

 

口から溢れ出す血。

 

法衣のお蔭か、

完全には切れなかったようだが、

十分な致命傷を負わせる事が出来た。

 

さらに追撃を仕掛けようと、

動き出す士郎。

 

「左慈殿ッ!」

 

その様子に反応する小次郎。

 

しかし、星と貂蝉に阻まれる。

 

「もらったッ――」

 

右手の莫耶で突きを放つ士郎。

 

しかし、

 

「疾ッ!!」

 

左慈との間に現れた、数枚の札に攻撃を阻まれる。

 

「っ……」

 

バチリと札と接した面が軽く爆ぜ、弾かれる。

 

「ここは一旦退かせて貰います。」

 

割って入ってきたのは于吉。

 

どうやら転移してきたようだ。

 

「させるかっ!!」

 

絶好の機会。

 

導師たる于吉を守る左慈は負傷しており、

小次郎は足止めされている。

 

再度札の結界を破るべく、

干将・莫耶の刀身を限界まで強化する。

 

「なっ……」

 

まるで鳥の羽のような形に変わり、

凄まじい魔力を放つ剣へと変貌する。

 

「オオオオオオッ!!」

 

結界ごと切り裂かんと、

咆哮を上げ、斬りかかる士郎。

 

その刃が届く瞬間、

于吉は何かを手元に呼び寄せる。

 

それは、ここに幾つも転がっていた宝物の一つ、

翡翠色に薄く輝く、真ん中に穴が開いた大きな宝玉。

 

結界は輝きを増し、

士郎の刃を再び阻む。

 

「それは……」

 

「和氏の璧ですよ。

……この時代からは幾つも『良い物』が手に入りますからね。」

 

再度弾かれる士郎。

 

手に持っている干将・莫耶オーバー・エッジの刀身が、

砕けて行く。

 

「まさか……此処にある物は……」

 

「ええ。洛陽の皇帝陵には色々良い物がありましたよ。」

 

結界の向こう側、

于吉の後ろには九錫,長信宮燈,呂氏鏡などの宝物が、

幾つも転がっている。

 

「くっ……油断した……」

 

ここに来た際、幾つも宝物らしきものがあったので

解析しようとしたが、

左慈に話しかけられ、その事を忘れていた。

 

完全に、士郎のミスである。

 

「これだけあれば、貴方たちの足止め位容易い。」

 

強力になって行く結界。

 

「ふむ。私も休ませて貰うとしよう。」

 

いつの間にか小次郎も結界の向こうに転移している。

 

「大丈夫なのねん、ご主人さま。」

 

「ああ。そっちは大丈夫か。」

 

「大きな傷はありませぬ。

しかし、これでは…………」

 

星がそう言いながら見た先には、

先程の結界が広がっている。

 

「何とも面妖な……

妖術とはこのような事も出来るのですな。」

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)

使用すれば突破は可能だが、

ここに来て幾つかの宝具の投影、身体強化を行っているせいで

残りの魔力が心もとない。

 

肝心の宝石は所持しておらず、そろそろ幻影兵も復帰するし、

左慈の傷も、目に見えて分かる速度で傷が治っていく。

 

このまま、時間が経てば経つ程、

状況が悪化して行く。

 

「それに……急がなくていいんのですか?」

 

「……何を……?」

 

思案していた士郎に于吉が話しかけてくる。

 

「いえ。どうやら貴方は目が良いのでしょう?

ならば、あれを見れば分かるはず。」

 

于吉が指差した方向に、

「強化」した目を向ける。

 

今士郎たちが居る泰山は、小沛と下邳の間に位置し、

二つの都市を繋ぐ街道の中ほどから少し北に位置する。

 

故に、強化した士郎の目には、

下邳の北にある、北海城から南下して来る兵の姿が確認出来た。


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